模擬戦前
投稿遅れたー
訓練場の横にあるベンチで私ーーマギサはベル様から頂いた武器を拭いていた。
私の武器は10個で二セット、つまり両手分のアーマーリング。リング部分は黒い金属【デモンタイト】でできていて、関節部分は一つ一つ別属性の魔石が嵌め込まれている。爪の部分は鋭く、全体に細かな装飾が施されており、芸術品のようでもある。
この武器の名は【滅星】。ベル様の持つ【千転夜桜】のように、六道のために作られた《黒刀》の一つでもある。私のは刀であるかは疑問だけど。しかし込められた効果はすごい。
一つは私の魔法の補助。属性魔法の効果増強は当然として術式構築の補助や、消費魔力の削減までしてくれる、魔法使いにとっては最高の補助能力。
そしてもう一つは魔法の無効化。爪の部分で触れた魔法をかき消すことができる。大規模魔法陣や結界などを一突きで無効化できるが、高速で飛んでくる放射系の魔法は難しい。使い勝手は悪いかも。
だが、真に驚愕すべきはそこではない。この【滅星】の凄まじいところは、『魔法を補助する能力』と『魔法を無効化する能力』という、矛盾した二つの能力が一つに収まっているところだ。
これが並の魔導具師であれば反発する力を合わせることなどできないだろう。反動で自分が爆散する。人の手で作り出すのは不可能に近い。ダンジョンの深層にある魔導具レベルだ。
だがベル様はそれを成し遂げた。「役割分担?同時じゃなくて、魔法を使う時と魔法を無効化する時とで分けたんだよ」と言っていたし、これも転生者特有の考え方なのかもしれない。
そして、今からそんなすごい人と戦うわけか……緊張する……。
「はぁ〜緊張します……」
そんなこと考えてたらレイちゃんが来た。
「こんにちは。新装備ですかね?お似合いですね」
「ありがとうございます。昨日完成したとベル様がくださって。試運転も済んでるんですけど……正直ベル様に勝てるビジョンが浮かびません」
「同意しますね……」
それにしても……レイちゃん、綺麗になったなぁ。
身長は165cmほど。真珠のような輝きを持つ白い髪と、吸い込まれそうになる赤い瞳はベル様のそれとはまた違った美しさを持つ。お尻も高く足もすらっとして長い……おムネは残念だけど。
「ハッ!?どこ見てるんですか!マギサさんのえっち!」
「いやいや。可愛らしいおムネだなぁと思いましてね」
「むかー!マギサさん達ばっかりずるいです!不公平です!私にも分けてください!」
「できたらいいんですけどね〜」
「こんにちは〜」
モナカさんもやってきた。相変わらず深紅のシスター服がよく似合う。
「こんにちは。そろそろ時間ですかね?」
「でもアイリスさんとか来てませんよ」
「ん?アイリスさんはずっとあそこにいますよ」
「「!?」」
慌てて振り返ると、奥のベンチに座って武器の手入れをしているアイリスさんがいた。
「……はぁ」
しかしその表情は暗い。今も武器を2回布で拭く度にため息をついている。
「暗いですね、アイリスさん」
「大方、模擬とは言えベル様と戦うのが辛いのでしょうね。この間奴隷契約の名義を正式にベル様のものにしていただけたようですしね」
「なんとか励ましてあげられないでしょうか……」
表情は暗いし、身に纏うオーラも暗い。この様子では模擬戦などできないかもしれない。
ーーガチャリ
アイリスさんが新しい武器を取り出して、磨きだした。表情は暗いままだ。
「あれは……銃でしたっけ?ベル様が作った魔道具の」
「ですね。アイリスさんが一番うまく扱えるからと渡されたそうですね。魔法で金属の弾丸を飛ばすんですよね。試作段階の筈ですがね」
「みんなごめん!待った?」
「カタカタ」
『ピピピピ』
よかった、なんとかしてくれそうなベル様が来た!あとギロティナさんと鎧武さんも。
「待ってないですよ、ベル様」
アイリスさん!?いつの間にベル様の隣へ!?
さっきまで落ち込んでたのに……何この切り替えの速さ。
「ベル様、そのお召し物は?」
「新装備。似合う?」
「とてもお似合いです」
ベル様が今着ているのは、数年前に着ていた金属糸で編まれたコート【黒鉄】ではない。
一言で言うなら軍服。黒い軍服に大きい上着をマントのように羽織っており、ご丁寧に《魔桜》のエンブレムが刻まれた制帽を被っている。
「さてと……そろそろ準備はいいかな?もう始められそう?」
「えっと、その……」
「?」
「ベル様には申し訳ないのですが……例え訓練であろうとも私はベル様に刃を向けたくない……です」
「アイリス……」
「申し訳ありません……」
ベル様に深く頭を下げるアイリスさん。きっと断腸の思いで口にしたに違いない。ベル様の命令に背くことになってしまったのだから。
ダメだな……この調子ではアイリスさんは戦えない。棄権させるべきだろう。
ベル様がアイリスさんの肩に手を置いて言う。
「負けるのが怖いんだね。いいよ、やらなくても」
ベル様!言い方ぁ!!
「……言いますね、ベル様。あぁん?」
アイリスさん煽り耐性低すぎぃ!!
「お?やる気出た?でも戦う前から負ける気満々だったアイリスは外で見学してた方がいいと思うなぁ〜?」
「冗談はよしてください。元より自分の実力に自信はあります。そっちが負けた時は優しく介抱してあげましょう」
あぁ……二人の間に火花が散っている……やる気満々だ。
「じゃあ頑張って立ち直ったアイリスにはご褒美で作戦タイムをあげようかな〜。頑張って話し合っておいでね。どうせ僕が勝つけど」
「舐めるのも大概にしたほうがいいですよ、ベル様。でも作戦タイムはありがたいですありがとうございます」
受けるんだそこは!?
という訳で《六道》全員で作戦タイム。
「さて。ベル様に勝つために作戦を練り直しましょう」
「……アイリスさん。本当によかったんですか?ベル様と戦うの辛くないですか?」
「……辛いといえば辛いですが、それよりもベル様の言葉がカチンときました。一回、痛い目にあわせた方がいいかと思いまして。まったく、私はベル様が心配なだけなのに……」
確かこういうのをベル様の故郷の諺で『親の心子知らず』と言うんだったかな?まぁ親じゃないし子じゃないけど。
だけどベル様にはアイリスさんの言いたいこと、しっかりと伝わってると思うけどなぁ。アイリスさんもそのことは分かっているのだろう。ムカついたのは事実っぽいけど。
「しかし作戦って言っても先日立てた物以上の物は無理なんじゃないですかね?予想通りベル様装備変えてますしね」
私は鉄鬼の一体に勝負開始の合図用の銅鑼を持たせ、何かを指示しているベル様を見る。
視力強化の魔法を使って見る限り、表面は金属繊維。おそらく魔鉄だけでなく、複数の魔法金属を合成した特殊合金だ。
裏地は……なんかの魔物の革なのは分かるけど、詳細は不明。ただ表面が金属だから電気が通らないような素材かもしれない。雷の魔法は控えた方がいいかも。
私はこのことをみんなに伝える。
「となると……やはり作戦変更なしで行った方がいいかもです」
「と言っても作戦なんて言えるほど緻密なものでもないですよね?鎧武さんとギロティナさんが前衛でベル様を抑え、他の四人で後方支援するっていう」
「よく言えば臨機応変。悪く言えば行き当たりばったり、ですね」
「でもベル様の手札が分からない以上、これが最適解なのではないでしょうか?」
「ですね。あまり緻密な作戦を立てても、予想外のことが起こったら崩壊してしまいますしね」
「カタカタ」
『ピピー』
「では決まりです」
作戦会議が終わると私たちは隊列を組む。
前衛は鎧武さんとギロティナさん。後衛は残った私たち4人が担当し、基本的に2人一組になって動く。ベル様曰く、『幹部が一人で戦ったら負けフラグ』とのことだ。
「お?準備はできたのかな?」
「はい、いつでも大丈夫です。ベル様は?」
「ちょっと待ってね………よし」
仮面代わりだろうか。ベル様が布を一枚顔に貼り付けた。
「こっちもいつでもいいよ」
「では……勝ちます、ベル様」
「それはこっちのセリフだよ……おーい!お願い!」
ベル様が合図を送ると、銅鑼を持った鉄鬼が撥を振り下ろす。
――ジャァァァァンッッッ!!
銅鑼の音と共に鎧武さんとギロティナさんはベル様にまっすぐ向かっていく。
さて、勝利の女神はどちらに微笑むのやら。
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