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閑話・暗躍する者たち

タイトル変更しようかな……


 ヴァイツァー帝国 帝都 とある馬車工房


「ーーではこれで契約は成立とさせていただきます」

「あぁ……なぁ本当にいいのか?こちとら『ボールベアリング』とか『サスペンション』とかの新技術を提供してもらったあげく、材料費はそちら持ちで完成した馬車は一台につき金貨50枚での買取なんてよ。こっちに条件が良すぎやしねえか?」


 工房の会議室で話しているのは、工房長である髭面の職人とキリッとしたスーツを着込んだ金髪碧眼の美女。女性の後ろには狐人族の秘書の美女が控えている。


「えぇ。新技術なだけあって慣れるのには時間が必要でしょう。それなのに年末までに50台の納品という無茶な条件を出しているのです。報酬の増額は当然かと」

「だがよ、見本の馬車を見せてもらったがありゃ並の職人にはできないぜ。あれほどの物を作り上げられるのはそう居ないぜ。そっちで技術独占して作った方が儲かるんじゃねえか」

「あの馬車を作った技術者は優秀ですが、優秀なので他に任せてる仕事も多く、馬車作りにつきっきりにするには惜しい人材です。それに、馬車作りのノウハウでは皆様には劣りますしね。現に改良案はいくつかあるのでは?」

「まぁいくつかはあるけどよ……あんたが言う技術者ならすぐに気付いただろうよ。一度会ってみたいぜ」

「馬車作りで行き詰まることがあれば派遣するつもりですよ。現在、私どもの商会では王国に支店を置くことが計画されていますからね。そのための馬車作りは最重要事項ですから」

「さすがは帝都で急上昇の大商会【トーカ商会】様だぜ」


 【トーカ商会】。近年急激にその頭角を現した帝国のダークホース。どんな料理にも合う魔法の調味料『マヨネーズ』を始め、まるで“別世界から来た”ような見たことのない数々の商品を生み出し、帝国中に支店を持つ大商会である。

 

「まぁこの設計図が分かりやすいからな。作るのが難しい細かな部品は送ってくれるって言うし、試作を繰り返していけばいい物ができると思う。年内には問題なく間に合うと思うぞ」

「それは良いことを聞きました。では明日から材料をお運びいたしますので、制作の方よろしくお願いします」

「おう、任せてくれ」


 そう言って二人は握手を交わし、商人の女性と秘書の孤人族は表に待たせていた馬車に乗った。


 そうしてしばらく馬車を走らせると、商人の女性は馬車のカーテンを閉め、ネクタイを緩め脱力する。


 同時に女性の姿が一瞬ぼやけると、金色の髪は白い長髪に変わり、碧眼は紅眼へと変わった。幻影魔法を解除したのだ。


 同様に孤人族の美女もぼやけると、蒼い瞳は変わらないが金色だった髪は銀へと変わっていく。そしてもふもふの尻尾は1本から5本へと増えた。


「疲れた〜。やっぱり()にはあんなキッチリとした役似合ってないと思うのだけれどな〜」

「お疲れ様でありんす、“会長”」 

「君もね。僕の補佐をしながら幻影魔法を掛け続けてくれたんだからさ。まだ君ほど上手にはできないからね」

「まぁわっちの言葉は訛りが特徴的だからずっと黙ってやしたし、あのくらいお安い御用でありんすよ。むしろずっと難しい話をしてやした会長の方が大変ではありんせん?」

「まぁ『彼』のためだし、商人生活も楽しいから文句はないけどねぇ……演技というのは疲れるものだ」

「その演技すらわっちには難しゅうござりんすけどね……うっ」


 突然孤人族の美女が手を押さえて苦しみ始めた。息は荒くなり、汗が滝のように流れる。


 しかし目の前の“会長”はそれを見ても慌てることなく足を組んだ。


「あーもしかして例の?」

「そ、そうでありんす。すみんせんが少々……」

「あーうん。報告は僕がやっとくよ」

「かたじけありんせん……」


 美女は懐から取り出した物を素早く口に入れた。発汗と息切れがおさまっていく。


 そして商人の女性は鞄の中から折り畳まれた板のような魔導具を取り出す。開いた板の中にあるスイッチを押すと数秒間『プルプルプルプルプル』という独特な音が流れ、『ガチャッ』という何かが繋がったような音がする。


「もしもし。こちらコードネーム『ホワイト』……毎回思うのだけれど、このコードネーム本当に必要なのかい?確かこれって念話とは違う通信手段だから探知魔法には引っかからないんじゃなかったかな?」

『まぁこれって魔力の代わりに電波を飛ばす【魔導電話】だけどさ、まだまだ不安なところがある未完成品だから用心するに越したことはないよ。完成品ができるまでは固有名詞を避けておかないと。あとその方がカッコいい』

「充分な気もするけどね……」

『あれ?そういえば『ファンタジスタ』は?』

「あー彼女は例のやつ。今お楽しみ中でね」

「至福でありんす。至福でありんす。至福でありんす……」

「ね?」

『あーうん。察し』

「おっと報告だったね。今のところすべて順調さ、君の立てた計画通り。年末までには仕上がるだろうって。お土産の缶クッキーは好評だったよ」

『あぁ、あの普通のやつとナッツ入りとジャム入りの詰め合わせか。最近チョコの生成に成功してさ、チョコクッキーとか作ってるんだけど、なかなか美味しいよ』

「その『ちょこ』とやらが何かはわからないけれど、君が作ったからには美味しいんだろうね。僕も食べてみたいよ」

『なら一回帰ってくる?あれから色々作ってみたし、商品化できそうなのもいくつかあるから相談しておきたいしね』

「それはいい。明日は王国で店舗の土地を見に行く予定だから、それが終わったらそちらに向かわせてもらうよ」

『わかった。じゃあ準備しとくね。ばいばーい』

「あぁ。楽しみにしてるよ、“ボス”」


 もう一度『ガチャッ』という音がすると通話は終了した。


「次の休暇が楽しみになってきたな……やはり天下のトーカ商会の会長と言えど、休暇は必要だよね」

「わっちもあの方に会えるのが楽しみでありんす」


 “会長”は懐から金属製の缶ケースを取り出し、中に入っている飴を一つ口に放り込む。


「さーて、もうひと頑張りしますかね。魔王様の為に……なんてね」



       ――――――――――――――


 ヴァイツァー帝国 とある街の冒険者ギルド


「ーーはい、これでギリアム様の依頼達成の確認は以上です。ありがとうございました。こちら報酬になります」

「あぁ、ありがとう」

 

 【ケワッシーナ山脈】の(ふもと)にある街で、ギルドの受付嬢から報酬の入った袋を受けとる全身鎧を身に付けた男がいた。


 その厳つい鎧の腰に2本の魔剣が挿してあり、周囲の冒険者がその姿を見てざわつく。


「おいアイツって……」

「間違いない。帝都で活動してる金級冒険者【氷炎剣】のギリアムだ。確かアイアンタートルを討伐する為にわざわざ来たんだったな」

「アイツがあの……【帝国七剣】の候補だって言う……」

「マジか!それは初耳だな。あの帝国で一番強い剣士の……待て、六剣じゃなかったか?」

「いや四剣じゃね?」

「少なすぎだろ。十三剣だろ?」

「お前王国の【十三英雄】とごっちゃになってないか?八剣だろ確か」

 二剣だろ。五剣だ。二十二剣。多いわ!


 そんな会話が後ろで繰り返される。


「それで……ギリアム様は明日には帝都に戻られるのですよね?」

「あぁ。急ぎの依頼は入ってないから行きよりはゆっくり帰るつもりだがな」

「そうですか……もしよろしければ当ギルドの指名依頼を受けてはいただけませんか?」

「指名依頼?」


 受付嬢は一枚の革用紙を取り出す。それには見慣れない鎧を着込んだ一つ目のゴーレムのような絵が描かれていた。


「これはケワッシーナ山脈で目撃された、ゴーレムと思しき新種の魔物です。上層部は王国に現れた魔王もゴーレムの魔王ということで、関連を疑っています」

「……それで?」

「明日の早朝から目撃場所に向かい調査をして欲しいのです。三日ほど調査して何もなければ依頼は完了。目撃した冒険者パーティーともうひとパーティーと同行していただきたいのです」

「ふむ……帝都の冒険者ギルドへの報告は任せてもいいか?」

「と、言うことは……?」

「あぁ。その依頼、受けよう」

「ありがとうございます!では受注とさせていただきます」

「あぁ。では出発は明日の早朝のようだからな。消耗品を買い足して明日の準備をするとしよう」

「はい、お気をつけて」


 受付嬢に見送られ、ギリアムは冒険者ギルドを後にした。


 そしてその日の晩、ギリアムが宿泊する宿の一室で、


「ーー例の調査をしていた鉄鬼を目撃されたそうです。念のために『ミラージュ』と『ゼリー』を帰還させた方が良いかと。えっ、『ホワイト』殿と『ファンタジスタ』殿も一度帰還されるのですか?わかりました。私もこの依頼が終了したら折り合いを見て戻らせていただきます。はいーー」


 そのような話し声が聞こえたとか聞こえなかったとか。


      ―――――――――――――

 

 ヴァイツァー帝国 ケワッシーナ山脈


「ーーもう!ぜっんぜん見つからないじゃない!」

「ア、アリスちゃん落ち着いて〜……」


 岩だらけの山肌を歩いているのは、周囲の色に溶け込むような灰色のローブを着た二人の少女。


 一人はギャンギャン騒ぐ水色の髪のエルフ。もう一人はエルフの少女を(なだ)める半べそかいたツノの生えた青髪の少女。


 そして周囲には同じように灰色の装甲を付けた一つ目のゴーレム達が二人に付き従うように歩いている。


「私は落ち着いてるわよ、ドロテア!」

「で、でも騒ぎすぎだよ〜。あ、あの方が作った【カメレオンローブ】は音までは隠さないんだよ〜」

「うっ。わ、悪かったわよ……」

「ぼ、防音の魔導具付けたから大丈夫だとは思うけど……」

「それ先に言いなさいよ!?」

「ヒィ!?ごめんなさいごめんなさい……」


 その場で(うずくま)るツノの少女……ドロテア。


 そしてドロテアの腕を引っ張り立たせようとするエルフ…アリス。


「あーもう泣かないで!ていうか、あんた“アレ”がどこにあるか分からないの!?」

「わ、分からないよ〜。わ、私感知系の能力ないも〜ん〜」

「私だって無いわよ!あの方人選ミスしたんじゃ無いの!?」

『いや耳が痛い』

「「!?」」


 ゴーレムのうちの一体が放った、“あの方”の声。


 慌てて二人は頭を下げ跪く。


「ベ、ボス!申し訳ありません!私如きが舐めた口を!」

『いや、いいのいいの。元々あるか分からないもん探せって結構無茶なこと言ってた僕が悪い』

「で、ですけど私たちなんのお役にも立ててませんし……」

『だから向いてないことやらせた僕が悪いの。上司の仕事は適材適所を見極めることなのに、それに失敗した。君たちは何にも悪くない』

「は、はぁ……しかし……」

『それとね、さっき『コレクター』からの情報で鉄鬼を見られたらしい。それで冒険者がやってくるっぽいよ?』

「申し訳ありません!周囲への注意を怠ってしまいました!」

『君たちは見られてないっぽいから大丈夫だよ。隠密特化の鉄鬼を作る必要があると痛感したね。それでさ、探索は中断。一回戻っておいで』

「し、しかし手がかりはまだ何も掴んでないです……」

『じゃあ改めて近いうちにやり直そう。今度は探索にも強い子を同行させよう。それに『ホワイト』と『ファンタジスタ』も明後日くらいには戻るらしいからさ、みんなでおやつとか食べようよ』

「お、おやつ!」

「ボスの手作りおやつ……でも探索が……」

『こんだけ探しても見つからないんだから、最初からないかとても上手に隠してるかでしょ?今回の探索結果は『ミラージュ』と『ゼリー』はとてもよくがんばりました、でいいじゃない』

「「ボ、ボスぅ〜!」」


 感極まって涙目な二人。


『んじゃ戻っておいでね。『ミラージュ』の力ならすぐでしょ?』

「はい!直ちに帰還します!」

『そう、じゃあねー。あとでねー』


 『ガチャッ』という音がして鉄鬼が通常モードに戻る。


「……戻るわよドロテア!」

「う、うん!」


 次の瞬間、閃光が疾ると彼女達の姿は消えていた。


 その後、冒険者が行った調査は何も発見出来なかったらしい。


       ――――――――――――


 ラングル王国 王都 とある屋敷


「夜遅くに申し訳ありません、ペルシア様」

「画材の注文をしていたのは私ですし、構いませんよ」


 屋敷の入り口にて恰幅のいい商人の男が部下に画材が入った木箱を運ばせ、屋敷の主である顔を布で隠した女性と話している。


「今回のオークションでも大盛況でしたよ。流石は稀代の画家であるペルシア様ですな」

「私は描きたい物を描いているだけなんですけどね」


 画家ペルシアーー今王都の貴族で知らぬ者はいないと言われるほどの有名人。彼女の描く美人画は王都のオークションで出品されると毎回天文学的な値段がつくのだ。


 何人もの貴族がお控えにしようと声を掛けているが、それら全てをサクッと無視して絵を描き続けることから【孤高のペルシア】という二つ名が付いた。


「お金は王都銀行に振り込んでおきます。それにしても今回は『救済』という作品でしたな。何かモチーフがあるのですか?」

「あれは私がとある方に救われた際のことをイメージして描きました」

「とある方、ですか」

「今はこうして笑顔で絵を描くことができますが、昔は口に出すのも躊躇うほど酷い生活を送っていました。絵はおろか、食事も満足に摂ることもできず、体はだんだんと動かなくなり死を錯覚しました。しかし!あのお方が私を救ってくださったのです!あのお方は想像を絶する神業で私に光を与えてくださったのです!あぁ、我が主、我が救世主、我が愛しき人よ!私はこれからも貴方様の為だけにーー」

「ぺ、ペルシア様!落ち着いてくだされ!ほ、ほら!画材の搬入が終わりましたぞ!」

「え?あ、あぁそうですね。失礼しました」

「いえいえ。では次の作品が出来上がったらまた来ます。それ以外にも御用がありましたらご連絡下さい」

「わかりました。あぁそうでしたそうでした」


 ペルシアは玄関に置いてあった金属の缶を取り出す。


「よろしければこちらをどうぞ。帝国の友人が送ってくれたトーカ商会の缶クッキーです。贈り物として人気があるのですが、貰いすぎてしまって」

「ほう。トーカ商会の品ですか。噂は聞いていますが、まだかの商会の品は見たことがありませんね。ありがたくちょうだいいたします」


 商人の男は缶クッキーを受け取ると帰っていった。


 屋敷の中に戻るとペルシアは、


「全く、我が救世主語りはまだ半分も経ってないのに帰ってしまうだなんて……」

『それ、やめてほしいんだけどな』

「!我が救世主!」


 近くに置いてあった鳥の置物が喋り出し、ペルシアは速攻で跪く。


「申し訳ありません。つい貴方様への思いが(ほとばし)てしまって……我が命を持ってお詫びを!」

『せんでいいせんでいい!今後は控えてくれればそれでいいから!君が楽しそうならそれでいい』

「我が救世主……!」

『それと、今回連絡したのは帝国にいるみんなが一度帰還するから、一緒にどう?って話なんだけどさ』

「帝国にいる子たち全員が、ですか」

『まぁ久々にね、って事でさ。『ホワイト』とは王都寄ってから戻るっぽいよ』

「では『ホワイト』と合流して帰還します。表の仕事も画家というのは案外休暇が取りやすいので、大丈夫でしょう」

『そう、じゃあ待ってるねー。ばいばーい』

「ハッ!」


 鳥の置物から声がしなくなると、ペルシアは顔の布を取って黒い月を見つめた。


 彼女の目はガラス玉のようで、十字架が描かれている。


「志を同じとする彼女達とまた会える……楽しみですね」


 それから1ヶ月後、画家ペルシアが発表した作品『百花繚乱』は、大勢の美少女がお菓子を食べ合う大変華やかな絵だったと言う。



       ―――――――――――――


 ラングル王国 ダンジョン【ロストユートピア】最下層


「ん?なんじゃあれは?」


 乱立する巨大な塔の一つ。その屋上で黒猫は奇妙な物体を発見した。


 半球型の黒い金属塊。鋼の魔王が研究を重ねる『実験塔』の中では金属塊など珍しくもないのだが、屋上にあるのは流石におかしい。


「ベル坊が忘れていったのかの?デモンタイトじゃなさそうじゃが……」


 ツンツンと金属塊をつつく黒猫。すると……


(ジョキン!)

「うおっ!?」


 いきなり無数のトゲが生えてきた。黒猫は慌てて手を引っ込める。


(グニョングニョングニョン)


 金属塊は生やしたトゲを曲げ、足のように使い移動し、塔の上から落ちた。


「なっ!?」


 慌てて下を覗き込む黒猫。しかしあの金属塊は発見できなかった。


「ベル坊の作った新型ゴーレムかの……?」


 それ以来、あの金属塊を見ることはなかった。



       ――――――――――――


 ラングル王国 シュピンネ とある屋敷の一室


「アイリス見てみて〜。壁に垂直で立って歩いてるよ〜。やばい超楽しい!」

「………ベル様が楽しそうで何よりです」


 魔王の楽しげな声とメイドの呆れた声が聞こえてきたと言う。



暗躍する者たち(仲間)

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