依頼 5
俺が水藤さんの切った紙のもう半分を手に取ったところで、水藤さんが勝ち誇った口調で臥雲さんに問いかける。
「如何かしら?」
「どうせ手品か何かだろう」
臥雲さんは冷淡にそう言った。
どうやら、あくまで水藤さんを本物だと認めるつもりはないらしい。
余程言霊使いに対して偏見を持っているのか、そうでなければ恨みでもあるのではないかと思うくらいの頑なさだった。
頁を切ったのは俺で、水藤さんには俺がどの紙を切るかわからなかったし、仕掛けなんてあるとは思えないのだが。
俺が『刀』の紙を拾い上げた紙の間で滑らせると、ほとんど手応えを感じさせない程の切れ味で紙を切ることができた。
只の紙でこれ程よく切れるとは、本当に凄い。
これも是非書き留めておかなければ。
俺が再び手帖に鉛筆を滑らせ始めると、水藤さんが挑むように臥雲さんに言う。
「じゃあ、あなたに言霊をかけて操って見せれば、信用してもらえます? 言葉一つであなたを殺すこともできますけど」
臥雲さんの顔色が目に見えて変わった。
流石にこんな人目のある場所で、水藤さんが自殺を命じる言霊を使うことはないだろうが、よく知りもしない相手に自分の体を支配されるのはかなり抵抗があるだろうし、怖いだろう。
だが水藤さんを本物だと認めるのも癪なようで、臥雲さんは唇を引き結んだまま、ただ水藤さんを睨み付けていた。
見かねた加賀さんが二人の間に割って入る。
「もういいでしょう。壮さんに信じる気がなくても、私は水藤さんを信じます。依頼主は壮さんではなく、私ですから、これ以上はもう十分です」
加賀さんは鞄から白い封筒を取り出すと、水藤さんに差し出した。
「前金です。広告に書かれていた額を用意してきました」
加賀さんは一度言葉を切ると、先程の迷いの滲む口調とは打って変わった、はっきりした口調で続ける。
「どうか御力を貸して下さい。後で後悔することになるかも知れませんが、それでもやっぱり本当のことが知りたいんです。もしあの子を死なせたのが屋敷の者でなかったら、結局あの子が死んでしまった理由はわからないままですけど、あの子の死に家族や近しい人が関わっているのかどうかだけでも確かめたいんです。何もわからないままでは、そのことばかりに気を取られて、あの子がいなくなってしまったことをきちんと悲しんであげられない気がしますから」
「わかりました。拝見します」
水藤さんは封筒を受け取ると、中身を改めてから言った。
「確かに。残りのお金は、言霊を使った回数や必要経費に応じて請求させてもらいます」
「それで結構です。よろしくお願いします」
加賀さんは水藤さんに深く頭を下げた。




