表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母に恋人  作者: 玉城毬
8/10

翔太さんと私

「藍さん、行きたいとこある?」

「うーーん、……」

 いざ過ごすことになったものの、なんのプランもなく、はやくも返答に困った。

 翔太さんは手早く、場所を検索した。

「近くに森林公園があるけど、行ってみる?

 木陰と水辺があって、過ごしやすそうだよ」

 あ……!!

「はい、じゃあそこで。

 ジュース飲みながら、休みませんか?」

「うん、行こう」

 二人は、冷たい飲み物と涼やかな場所を得て、一定の間隔を空けて腰を下ろした。

 時々わずかに流れてくる風が、とても心地いい。

「ここ、久しぶり。

 前に一度、母と来たんですよ。

 父と母の思い出の場所なんだって」

「藍さんは本当に、家族思いだよね」

 翔太さんは、優しく微笑んだ。

「父とは写真と思い出話だけで、母とも10年冷戦でしたけどね……。

 でも、二人のことは、大好きです」

「美桜子さんにとっても、藍さんとお父さんは宝物なんじゃないかな」

「……」

 翔太さんにそう言ってもらえて、私はすごく誇らしかった。

「あのーー……。

 失礼じゃなかったら、翔太さんの奥さんがどんな人だったのか、聞かせてもらえませんか?」

「そういえば、夕夏のこと話してこなかったね。

 美桜子さんも、気遣ってくれてたのかな……」

 翔太さんは気まずそうな表情になって、でもすぐに笑顔で話し始めた。

「何人かで食べたり遊んだりするなかで、一緒になる機会が何度かあって。

 気づいたら仲良くなって、一緒になってた。

 5つ年下だけど、俺よりしっかりしてて」

「じゃあ、私と同い年だ!」

「同級生か!

 二人とも、しっかりしてんなぁ」

「私からしたら翔太さん大人だし、夕夏さんはもっとですよ」

「いつもは伊央がいて、それでお父さんに見えてるんじゃないかな」

 確かに、今日の翔太さんは、身近に感じられた。

「夕夏と一緒になって、伊央が産まれて、賑やかだったなぁーー」

「伊央くんの名前は、夕夏さんが?」

「そう。

 響きがいいってね。

 女の子だったら、いおりだったんだ」

 幸せそうに、翔太さんは遠くを見ていた。

「……今でも夕夏さんのこと、想ってるんですね」

「そうだねーー。

 病気がわかって急に逝っちゃった頃はしんどかったけど、3~4年経って、だいぶ落ち着いてきたかなぁ」

 翔太さんは両親と3人家族で育って、奥さんと子どもに恵まれて、けれど母親と奥さんを相次いで亡くして、私とはまた違う辛い思いをしてきたんだなぁ。

「あーーなんか、家族のことで胸がいっぱいになる。

 俺達しっかり、盆休みしてる!」

「……本当、家族想いですよね」

 風が優しく吹いて、静かな時間が過ぎた。

 翔太さんが、立ち上がった。

「ねぇ、藍さん。

 夕飯一緒に食べない?

 大人時間しようよ」

 急に言われて、ドキッとした。

「大人の時間って、なんですか!?」

「いや、変な意味じゃなくって、お酒飲むってこと!」

「そっちですか。

 あ、でも私、家のことあるんで、帰っていいですか?

 今日こんな出かけるつもりじゃなかったんで」

 翔太さんは、寂しそうな顔をした。

「夜ご飯だけ、一緒に食べない?」

 ……翔太さん、どんだけ寂しいんだ?

 まぁでも、少ししゃべっただけだし、夜ご飯の時間だけならーー。

 少し考えた後、私は「いいですよ」と返事をした。

「じゃあ、7時くらいにうちに来て!

 簡単なつまみ、用意しとくから」

 家飲みなら、お得だしゆっくり話せるかな。

「わかりました。

 じゃあ、お酒とデザート、買ってきますね。

 何、飲みます?」

「ビールと、シャンパン、安いので」

「承知しました!

 じゃ一旦、失礼しますね」

 私達は一時解散し、帰宅して用事を済ませ、買い物をしてから、約束の時間に田中家へ向かった。

「来てくれてありがとう!

 ピザ頼むんだけど、なにがいい?」

 お酒の友を待ちわびていた翔太さんは、かなり浮かれてみえた。

 早速大人の夜ご飯は始まり、テレビや音楽をかけながら、たわいない話が続いた。

 普段のお父さん感が抜けて、同年代の翔太さんと結構、トークが弾んだ。

 こんなに話して、よく笑うんだなぁ。

 普段は3世代だから、自然と中間の役割になってるのかな。

「伊央くん達、まだ起きてるかな?」

「多分ね。

 めちゃ楽しみにしてたから、まだまだ盛り上がってるんじゃないかな?」

 ふと家族の話を振るとお父さんの顔に戻るけど、今日は翔太さんの方も楽しんでいるようだった。

「あ、もう10時過ぎてる!!

 電車の時間があるから、私そろそろ……」

「え、もう!?

 買ってきてもらったアイスまだだったよね!

 俺タクシー代出すから、食べよう?」

「いいんですか??

 ありがとうございます」

 お言葉に甘えて、最後のデザートタイムになった。

 二人で、黙々とカップアイスを食べる。

 おいしそうに勢いよく食べきった翔太さん。

 冷たいのが苦手な私は、ゆっくりちびちびと食べていた。

「ストロベリーチョコ、おいしい?」

 翔太さんに聞かれて、私は食べながらこくんと頷いた。

 答えると同時に、翔太さんは私のアイスをひとさじ取り、「うん、あまい!」と味見していた。

 一瞬の出来事に固まり、私は恥ずかしさで熱くなった。

 それに気づいた翔太さんは、慌てて言った。

「ご、ごめん、伊央のアイスと同じ感覚でっっ!!

 あ、俺、タクシー呼んでおくね!」

 翔太さんは、その場を離れた。

 私は恥ずかしさでアイスの冷たさも味もよくわからなくなったけど、急いで残りを食べた。

 食べ終わって、はーーっと息をついて、落ち着いた。

 2、3分して、翔太さんが照れ臭そうに入って来た。

「もう少しで来ると思う。

 あの、今日は俺につきあってくれてありがとう」

「いえ、私も、翔太さんといっぱい話せて、楽しかったです」

 私からの言葉を聞いて、翔太さんは安心したように私の方を見た。

「俺、藍さんのこと好きだよ。

 家族としてもだし、今日二人でいて、やっぱり楽しかった。

 家族みんなの方が多いと思うけど、また時間ができたら、二人で会いたい」

 翔太さんにはっきり告白されて、一瞬背徳感を感じたものの、やっぱり今日の時間は素敵だったし、また会ってみたい興味が大きかった。

「急でちょっとびっくりしたけど、私もすごく楽しかった。

 ……また、誘って下さい」

 私達はソファに並んで座り、無言のままタクシーの到着を待った。

 程なくして高揚した二人は別れ、一人になって、幸福感に包まれていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ