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母に恋人  作者: 玉城毬
7/10

田中さんの息子さん

 それから、一年。

 田中さんの孫の伊央くんも、小学生になった。

 子どもの成長って早い、そして大人の私達も、もれなく加齢している。

 卒園の約一ヶ月前、伊央くんのお母さんの三回忌が行われた。

 母と私は田中さんと関係上他人であるため、遺族だけで行われた。

 後日聞いたところ、とても穏やかな時間だったらしい。

 時の流れは、心の傷を癒す力を持っている。

 伊央くんの成長もまた、奥さんのご両親にとって大変喜ばしかったに違いない。

 そして、小学校に入って大きくなった伊央くんは、盆休みを利用して、お母さんの実家にお泊りの旅行をすることになった。

 翔太さんはもちろんなのだが、なんと、田中さんと私の母まで行くらしい。

 というのも、母達はついでにその近辺を旅行することにしたらしく、ご挨拶に寄るらしかった。

 二人が内縁関係にある、ということも、話は行っているらしかった。

「理解あるんだね~~」

「田中家は友好的で助かるわーー。

 お母さんも初対面だからちょっと緊張するけど、伊央くんのお母さんのご両親に会ってくるわ!

 まぁ、主役は伊央くんだから、私は一番のおまけよ」

「みんな、楽しみなんだろうな」

「ごめんね、藍。

 でも二泊三日だから、あっという間よ!

 もし寂しかったら、あなたも合流していいのよ?」

「さすがに、そこまでは……。

 超久しぶりに、お父さんと心の中で対話してみるよ」

 母はハの字眉になって、私に詫びた。

「藍には、お父さんの思い出ほとんど残せなくって、辛い思いさせてごめんね」

「いやいや、私を誕生させてくれたから!!

 二人には本当、感謝してるっ」

「お父さんもきっと、藍が思ってくれてるの、喜んでると思うわ」

 数日前にこんなやりとりをしたのが、思い出される。

 盆に入って父のことを思い浮かべていた私は、久しぶりに父の墓地にやってきた。

 母と再開してから、母方の祖父母のお参りは復活したけど、こちらは……。

 場所だけは知っている父のお墓、少し離れたところから立って、心の中でお参りする。

 家族と折り合いの悪かった父、だけどお墓は一緒だった。

 母は実家に身を寄せる前に、一度だけひっそりとお参りしたらしい。

 迎えを過ぎた墓地を訪れる人はまばらで、父の家のお墓も花や供物があったが、誰もいなかった。 

 今でも、私の幻の親戚が、墓守をしているんだろうな。

 しばらく立って、ただ眺めていた。

 切り換えて戻ろうと見上げた先に、予想外の人が立っていた。

「お参り、済んだの?」

「え、なんで翔太さん、ここに……!!」

「俺も、奥さんのお参りしてきたからさ。

 藍さんのお父さんのお参りもしようと思って」

「まさか、お母さんに頼まれたの!?」

「違うよ。

 さすがに場所は聞いたけど。

 伊央が、向こうの祖父母とかいとこと盛り上がっちゃって、一人で泊まるって言い出しちゃって……。

 幸い、父さんと美桜子さんが旅行で向こうに行ってるから、帰りお願いして帰ってきた」

「伊央くん、すごい!

 じゃ、翔太さんも、お父さん役お休みなんだ」

「うん、突然のことだったから、持て余しちゃって……」

「それで、私のこと気にかけてくれたんですか?」

 翔太さんは、真顔になった。

「うん。

 伊央も父さん達も楽しくやってるから、藍さんどうしてるかなって思って。

 もしかしたら、ここに来てるかもって思って」

「……」

 まぁ、案の定だったわけですけど。

「一人の貴重な時間じゃないですか?」

「そうなんだよね、でも久々過ぎてよくわかんなくなっちゃって……。

 ほら、クリスマスや正月に人に会いたくなるような、あんな感じ」

「まぁ、お盆もご先祖様を親類縁者で思い出しますもんね」

「そういうこと!

 だから、家族で仲いい藍さんと、親睦を深めたいな~~、と思って。

 空いてたら、付き合ってくれないかな?」

 感傷から一転、急なお誘いに、ヒロインのような煌めきを感じた。

 どーーしよっ??

 20秒くらい迷ったようにしながら、私は翔太さんを見てくすぐったい気持ちになり、踏み出して横に立った。

「いいですよ?」

「じゃあっ、よろしく!」

 そうして、二人は歩き出した。 


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