田中さんの息子さん
それから、一年。
田中さんの孫の伊央くんも、小学生になった。
子どもの成長って早い、そして大人の私達も、もれなく加齢している。
卒園の約一ヶ月前、伊央くんのお母さんの三回忌が行われた。
母と私は田中さんと関係上他人であるため、遺族だけで行われた。
後日聞いたところ、とても穏やかな時間だったらしい。
時の流れは、心の傷を癒す力を持っている。
伊央くんの成長もまた、奥さんのご両親にとって大変喜ばしかったに違いない。
そして、小学校に入って大きくなった伊央くんは、盆休みを利用して、お母さんの実家にお泊りの旅行をすることになった。
翔太さんはもちろんなのだが、なんと、田中さんと私の母まで行くらしい。
というのも、母達はついでにその近辺を旅行することにしたらしく、ご挨拶に寄るらしかった。
二人が内縁関係にある、ということも、話は行っているらしかった。
「理解あるんだね~~」
「田中家は友好的で助かるわーー。
お母さんも初対面だからちょっと緊張するけど、伊央くんのお母さんのご両親に会ってくるわ!
まぁ、主役は伊央くんだから、私は一番のおまけよ」
「みんな、楽しみなんだろうな」
「ごめんね、藍。
でも二泊三日だから、あっという間よ!
もし寂しかったら、あなたも合流していいのよ?」
「さすがに、そこまでは……。
超久しぶりに、お父さんと心の中で対話してみるよ」
母はハの字眉になって、私に詫びた。
「藍には、お父さんの思い出ほとんど残せなくって、辛い思いさせてごめんね」
「いやいや、私を誕生させてくれたから!!
二人には本当、感謝してるっ」
「お父さんもきっと、藍が思ってくれてるの、喜んでると思うわ」
数日前にこんなやりとりをしたのが、思い出される。
盆に入って父のことを思い浮かべていた私は、久しぶりに父の墓地にやってきた。
母と再開してから、母方の祖父母のお参りは復活したけど、こちらは……。
場所だけは知っている父のお墓、少し離れたところから立って、心の中でお参りする。
家族と折り合いの悪かった父、だけどお墓は一緒だった。
母は実家に身を寄せる前に、一度だけひっそりとお参りしたらしい。
迎えを過ぎた墓地を訪れる人はまばらで、父の家のお墓も花や供物があったが、誰もいなかった。
今でも、私の幻の親戚が、墓守をしているんだろうな。
しばらく立って、ただ眺めていた。
切り換えて戻ろうと見上げた先に、予想外の人が立っていた。
「お参り、済んだの?」
「え、なんで翔太さん、ここに……!!」
「俺も、奥さんのお参りしてきたからさ。
藍さんのお父さんのお参りもしようと思って」
「まさか、お母さんに頼まれたの!?」
「違うよ。
さすがに場所は聞いたけど。
伊央が、向こうの祖父母とかいとこと盛り上がっちゃって、一人で泊まるって言い出しちゃって……。
幸い、父さんと美桜子さんが旅行で向こうに行ってるから、帰りお願いして帰ってきた」
「伊央くん、すごい!
じゃ、翔太さんも、お父さん役お休みなんだ」
「うん、突然のことだったから、持て余しちゃって……」
「それで、私のこと気にかけてくれたんですか?」
翔太さんは、真顔になった。
「うん。
伊央も父さん達も楽しくやってるから、藍さんどうしてるかなって思って。
もしかしたら、ここに来てるかもって思って」
「……」
まぁ、案の定だったわけですけど。
「一人の貴重な時間じゃないですか?」
「そうなんだよね、でも久々過ぎてよくわかんなくなっちゃって……。
ほら、クリスマスや正月に人に会いたくなるような、あんな感じ」
「まぁ、お盆もご先祖様を親類縁者で思い出しますもんね」
「そういうこと!
だから、家族で仲いい藍さんと、親睦を深めたいな~~、と思って。
空いてたら、付き合ってくれないかな?」
感傷から一転、急なお誘いに、ヒロインのような煌めきを感じた。
どーーしよっ??
20秒くらい迷ったようにしながら、私は翔太さんを見てくすぐったい気持ちになり、踏み出して横に立った。
「いいですよ?」
「じゃあっ、よろしく!」
そうして、二人は歩き出した。