母娘会
母の同居をきっかけに家族関係が復活した私は、田中さん一家も含めた交流をするようになった。
季節の行事、誕生日、お祝い、お出かけ、毎月のように会っていた。
10年の冬の時代を経て一気に雪解けが進んだように、私は、母達の賑やかな集いに交ぜてもらっていた。
25歳から私もより大人になったし、母も老いたし、丸くなったのかも。
人生も半分にさしかかってきて、満喫した自立生活から、家族と暮らす方への興味も強くなってきた。
現時点で私に家族を作るのは無理だけど、肉親である母との関係が通うようになって、その母にフレンドリーな恋人家族がいて、快く迎えてもらえていることがとても幸福だった。
あのお正月から半年、今日は母と二人だけで会うことになった。
「どこかいいお店で、ランチでもする?」
「あら、ランチならお友達としょっちゅう行ってるから、いいわ」
「じゃ、どこ行く?」
「藍のおうちで、女子会したいな!」
「えっ……」
「気持ちだけは、生涯女子よ?
ーー前から行きたかったのよ、あなたのおうち!
全然招待してくれないんだもん」
「今更……。
まぁでもそうだね、いつも田中さんち行ってばっかりだったし……」
そんなわけで今日は、私のおうちで大人過ぎる女子会をすることになった。
私がもてなす側だけど、急だし、ふるう腕もないので、スーパーで好きに食べ物や飲み物を買いこんできた。
「おじゃましまーーす。
あら~~」
家に入るなり母は荷物も置きっぱなしで散策を始め、ベランダを見つけて窓を開け放した。
「眺めがいいのねぇ!
広いし……。
そうねぇ、お母さんだったら、植物に囲まれながら、座ってお茶したいわぁ」
「……らしいねぇ」
相変わらずのおばちゃんぶりに、私は苦笑した。
「セキュリティも大丈夫そうね、家賃高いんじゃない?」
ちゃっかり探りを入れてくる母。
「うーーん、新しくないから、そこそこだよ」
ざっくりと、答える。
お母さん、10年でむしろパワーチャージしたくらい、生き生きしてるな。
「藍がしっかりやってて安心した。
お母さんも一人になった時はしばらく考えちゃったけど……。
こうして遊びに来られるようになったし、楽しみが増えたわ」
「なら、よかった。
私も、お母さんと田中さんのおかげで、家族体験させてもらってるよ!」
「そうね、お母さんもダブルハッピーだわ」
母のおばちゃんキャラも、私の中でアリになってきていた。
「田中さんちって本当、オープンだよね」
「そうなのよ、居心地がよくって。
お一人様の終活から、まさかこんなハッピーな老後になるなんてね」
母は本当に、幸せそうだ。
「お母さん達は、結婚しないの?」
「!!」
不意な質問だったようで、母は真っ赤になった。
一息ついて、穏やかに笑った。
「友達にも、よく言われるわ。
ラストチャンス……、なんてね。
確かに憧れるけど、今のままで十分だと思ってる。
お互いに子や孫もいるし、介護になったら今の関係は変わるし、お金が絡むとややこしくなるし……。
なにかの時は自分と家族、老後と終活が第一かしらね。
いろいろあって70で恋人になった私達だから、シンプルに生活できるのが一番幸せ」
おばちゃん生活を謳歌してると思った母も、実は結構考えながら生きてるんだ。
「藍は、婚活とかしてるの?」
「いやーー。
仕事と生活で手いっぱい。
今は余裕、ないわ」
逆に自分のターンになって、えぐられるような現実を突きつけられた。
母は目を細めて、言った。
「一人暮らしでお仕事もしてるから、生きてく心配はないじゃない。
25歳の頃の藍の目標はきっと、達成してると思う。
一応世間的にはいい歳になるから、思うところがあれば協力するわ。
まぁ、お母さんも独身だし、今の方が多様に生きやすいからね」
「……ありがとう。
親としても考えてくれて、認めてくれるんだね」
「最近、やっとよ。
まだまだ、だけどね」
マイペースながらも進化を続ける母に、私は感謝と尊敬を感じた。