改めて、田中さんち
田中さんちに着くまでの間、私は今日のいきさつを話した。
「藍さんも、美桜子さん並みに行動的ですねぇ」
「恥ずかしいんですけど、来ちゃいました……」
伊央くんは翔太さんと手をつないで、もう片方の手にお気に入りのキャラのマスコットを握りしめながら、いい子に歩いていた。
「お正月でも、伊央くんは元気いっぱいですね」
「子どもは休みが長いと、持て余しちゃいますからね。
毎日どこかにちょっとお出かけして、気分転換してますよ」
そうだよね、遊び行きたいよね……。
「母は、みなさんとうまく暮らせてますかね?」
「まだ住み始めて一週間くらいだし、家の中が落ち着いてないからなぁ……。
でもかなり馴染んでますよ。
家のことや伊央のことも助けてもらって、こちらこそお世話になってます」
「そうですかーー。
ありがとうございます」
そうこうするうちに、田中さんのお宅に着いた。
私は二人の後について、玄関に入った。
「ただいまーー。
美桜子さん、藍さん来たよ~~」
「えっ!?
藍も一緒だったの?
じゃあ紹介いらないわね」
「お母さんより先に、田中さん家族に会っちゃったよ!
あ、そうだ、伊央くんこれ、食べられる??」
「あっ、お菓子だ、やったーー!」
「伊央、手洗いうがいしてからね」
私は通された居間に立って、内装を見回した。
……、新しめで、居心地のいいところだなぁ。
伊央くんが産まれてから、建てたおうちなのかなぁ。
「ねぇ、お菓子、食べていーーい?」
「一日一つだからね、いっぱいあってみんな食べるんだから」
「じゃあ、今日の一つ、食べる」
「……、いいよ」
早速伊央くんは、チョコクッキーをほおばって、うれしそうにしていた。
子どもって単純に、おもしろいなぁ。
田中さんとだけじゃなくって、伊央くん達含めて、暮らしたいって思ったのかも。
私と二人きりの末期は、雰囲気もきつかった気がする。
「藍さん、よく来てくれたね」
「あ、田中さん、先程はありがとうございました!」
田中さんが居間にやってきた。
みんな田中さんだけど、和男さんは一応お母さんの恋人だから、下の名前より名字の方がいいかな。
翔太さんと伊央くんは、名前呼びで大丈夫そうだし。
そんなことを考えながら、私は田中さんにお願いした。
「あの、お線香あげさせてもらっても、いいですか?」
「え??
ああ、どうぞどうぞ。
こちらです」
私は田中さんに促されて、仏壇の部屋に通された。
先に亡くなった田中さんの奥さんに、ご挨拶しておきたかった。
そこには、田中さんくらいの年の女性の写真があり、その隣には30代くらいの女性の写真もあった。
二つとも、まだ新しい感じがした。
「奥さんと、娘さん……、ですか?」
田中さんは少し寂しそうな顔をして、うなずいた。
「翔太の奥さん、義理の娘だね。
私の妻が死んで、伊央が産まれて、一年くらいしてガンが見つかってね……。
二年前に、亡くなったよ」
!!
なんて、不運な……。
翔太さんは離婚じゃなくって、死別だったのか。
私は父が死んではじめからいなかったけど、幼くして母を亡くす伊央くんの方が、辛い気がするーー。
私がショックを受けているのに気付き、田中さんはあわてて切り換えた。
「大変だったけど、今はみんな元気だから、心配ないよ。
美桜子さんも加わって、さらに賑やかになったからね」
「……。
そう言って頂けて、うれしいです。
今日は、お招きありがとうございます」
「新しい家族が増えたようで、うれしいよ。
さあ、みんなのところに行こう」
居間に戻った私達は、田中さん家族3人と、私達家族二人が合わさって、団らんの時間を過ごした。
「お母さんのおせち期待してたのに、買ったやつにしたのね」
「作る人の身にもなってよ!
買った方のがおいしいし、合理的なのよ」
10年前には想像もできないくらい、難なく母と話せていた。
遅れてきた自立と、手紙のやりとり、そして母に新しく大切な人ができたことが、関係の再開を円滑にしてくれた。
和み過ぎて荷物の整理を忘れそうになり、とりあえずチェックだけして、必要なものを持ち帰り、処分できるものは後でお願いした。
あっという間に、夜もいい時間になってきたので、お暇することにした。
玄関まで、母が送ってくれた。
「駅まで行こうか?」
「そんな、いらないよ。
今日は、ごちそうさまでした。
これからは、メールとか電話、するね!
ーーまた、遊びに来てもいいかな?」
「もちろん!
お母さんも、元気なうちに藍と会えるようになってよかったわ。
年賀状作戦、成功!」
「それは言わないの!
せっかくいい感じだったのに……。
ま、お母さんらしいわ。
じゃあ、失礼しまーーす」
「気を付けて、またね!」
そうして、いろいろあった一日が終わった。