母と電話(10年ぶり)
「もしもし、藍?」
店を出て、長く待たせた電話に出ると、懐かしい声が聞こえてきた。
「……久しぶり」
第一声は、ちょっと照れくさい。
「よかった、元気そうで。
明けましておめでとう」
「今年もよろしく……。
元旦から、初売りでも行った?」
「ああ、お友達とカラオケ新年会だったのよ!
盛り上がったわ~~。
着信気づかなくってごめんなさいね」
マイペースな母は健在だった。
「年賀状見たよ。
田中さん、素敵な人だね」
「でしょう!?
うれしいわ~~」
「さっきまでお茶してて、二人の馴れ初め聞いちゃった」
「えっ、もう和男さんに会ったの??
驚かせたかったのにーー」
「年賀状で十分、衝撃だったよ。
ちょっとパニクったけど、うれしいサプライズだった。
ーーおめでとう、お母さん!」
「藍ーー。
ありがとう~~」
感激だったのか、少しの間、沈黙していた。
息を整えた母は、話し始めた。
「藍、今、田中さんちの近くなのよね?
この後、空いてる?」
「まぁ、お正月休みだからーー」
「よかったら夕飯に来て!
ああでも、和男さんに確認してみるから、一旦切るわね」
「ちょっと!!」
私の返事を待たずに、母は通話を切った。
人の話ちゃんと聞かないで突っ走っちゃうんだから。
……。
まあ、いっか。
これといって予定のないお正月、久しぶりに家族に会うのもね。
田中さんちには息子さんとお孫さんもいるから、家族が多くて気まずくないだろうし……。
おせち料理も食べられるしねっ。
すっかり気持ちはほぐれ、訪問がむしろ心待ちになっていた。
3分後、母からの電話。
「和男さん、了解してくれたわ!
どこかで2時間くらい時間つぶしてから、また来てくれる?
お母さんもこれから帰宅して準備するから」
「わかった!
お店でなにかお菓子買ってこうと思うんだけど、食べられないものある??」
「えーーと……。
なかったかな。
お任せするわ」
「了解、ところで、私の実家の荷物、処分しちゃった!?」
「大丈夫、まとめて引っ越して置いてあるわ!
ちょうどいいから、来たついでに整理してって」
「……。
わかった、じゃあまた後で」
通話を終え、最寄りのデパートで服や化粧品をチェックする。
お菓子はなににしよっかな~~。
あーー、冬だからチョコレートコーナーが充実!!
うーーん、けど虫歯とかやばいかなぁ……?
考えた結果、チョコクッキーにした。
そろそろ、約束の時間15分前になった。
買い物を終えて、私は再び田中さん宅へ向かった。
途中の小さな公園を通りかかると、子連れ家族が結構遊んでいた。
大人は寝正月万歳だけど、子どもは体動かしたいよね~~。
「伊央ーー、そろそろ帰るぞ!
お客さん来るから」
「お客さん、誰~~?」
「美桜子さんの娘さん」
えっ!!
聞こえた方を見ていると、父子が公園出口の自分の方に歩いてくるのが見えた。
急いで母の年賀状を取り出して、確認する。
やっぱり!!
私は年賀状を片手に、思い切って二人に声を掛けた。
「すいません、田中さん……ですか?
野村藍です」
「え、あっ!
美桜子さんのーー。
どうも初めまして、翔太です。
こっちは息子の伊央です。
伊央、美桜子さんの娘さんの、藍さんだよ。
ご挨拶して」
「こんにちは」
「こんにちは、伊央くん。
藍です、よろしくね」
近所で出くわした私達は、驚いて挨拶を交わしながら、田中さんのおうちに一緒に向かった。