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母に恋人  作者: 玉城毬
3/10

母の恋人とお茶

「いらっしゃいませ、2名様ですか?」

 若い女性店員さんが、席に案内してくれた。

 とりあえず私達は、ドリンクを注文した。

「なにか、食べますか?」

「いえ、お話するだけですから、飲み物で十分です」

 成り行きとはいえ、やっぱり緊張するなぁ。

 傍から見たら、親子か訳あり男女ってとこか……。

 飲み物も運ばれたところで、喉を潤し、本題に入ることにした。

 母と田中さん達家族の年賀状をテーブルに置き、まずは田中さんの家族について聞くことにした。

「ええ、一緒に写っているのは、息子の翔太と孫の伊央です。

 男所帯に美桜子さんが入ってくれて、華やかになりましたよ」

 田中さんはうれしそうに話した。

 お母さん、いい人見つけたなぁ。

 これで、田中さん家族の関係と名前が一致した。

 年齢からして、田中和男さんが恋人であろうことは予想できたけど、息子さんとお付き合いしてる可能性だって、なくはない。

 そしたらちょっと複雑な気持ちだったかもしれないけど、とりあえず心配は一つ減った。

「藍さん、もしかして年賀状で私達のことを知ったんですか?」

「えぇ、今日、数時間前にーー」

「そうですか。

 そりゃあ、びっくりだ」

 田中さんは少し寂しそうに視線を落とした。

 オープンにできてなかったこと、ショックだったかな?

「でも、去年、急なことだったし、いろいろ考えて年賀状になったのかもしれないね……」

「あの、二人はいつからお付き合いを?」

 田中さんは、ちょっと赤くなって言った。

「年老いたとはいえ、あなたにとってはお母さんだ、親の恋愛の話を聞いても大丈夫かい?」

「……」

 田中さんの言葉がわかるまで、数秒を要した。

 確かに、この年で母に恋人ができたなんて、驚きだ。

 でもお母さん、父と死に別れて35年も経つし、ずっと独身で浮いた話もなかったし、むしろ私にとってはうれしい話だ。

「いえ、逆にうれしいです!

 母は恋人や家族に恵まれていませんでしたから……」

 そんな私を見て、田中さんは目を細め、顔の緊張を緩めた。

「そうだね、美桜子さんの人生は、なかなかに大変だったね。

 じゃあ、ーー」

 それから田中さんの話し出した内容は、こんな感じだ。

 母と田中さんは、ちょうど一年前、おひとりさまの終活の会に参加した時に知り合ったらしい。

 田中さんも6年前、奥さんを亡くしていたそうだ。

 とりあえず、二人が不倫でなくてよかった……。

 数人のグループになって、自己紹介をして、自分の好きなものなどをまとめながら終活をシミュレーションしたそうだ。

 二人は同じグループになり、大切な人を亡くした者同士なにかと気が合ったのだろう、軽い交友から始まったそうだ。

 田中さん家族とも一緒に過ごすことが多くなり、親密になったこと、田中さんのおうちの部屋が余っていることから、年末から引っ越して共同生活が始まったそうだ。

 この一年、母の生活は劇的に変わっていたんだ!

 田中さんが素敵な人で、私もうれしいし安心した。

 そして、新しい恋人家族とも過ごせている母が、うらやましくもあった。

 その時、スマホに着信があった。

「お母さんっ!!」

 私は思わず田中さんの方を見た。

「お会計は僕がしますから、美桜子さんとお話を!」

 田中さんは私を促してくれた。

「ありがとうございます!

 失礼しますっ」

 手短に礼を言って、10年ぶりに母と話すべく店を出た。


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