母の新居
なんじゃ、こりゃ……!
にこやかに笑い合う母達の写真を見て、「結婚しました」「新しい家族が誕生しました」みたいな、年賀状幸せ家族アピールを感じた。
新年早々、頭が痛い。
去年、文がなかったのは、このためか!
「……」
遊びに行っていいなら、確かめさせてもらおう!!
一応年賀状の返事を手早く書いて、私は母からの年賀状と両方を持って出かけた。
母の新住所は30分ほどでわりと近く、すぐに着いた。
新しめの、きれいな戸建て。
人の気配はなかった。
呼び鈴を押して1分ほど待っていたが、案の定、留守だった。
お正月だからゆっくりしてるかと思ったけど、やっぱり突然の訪問じゃこうなるか……。
10年かけてない母の電話にコールする。
「留守番電話サービスに接続します」
即座に電話を切った。
……仕方がない、年賀状だけ投函して、帰ろう。
私が立ち去ろうとすると、少し離れたところで立っていた初老の男性が声をかけてきた。
「うちになにか、ご用ですか?」
振り向くと、その人は母の年賀状の写真のなかの一人だった。
接触できた、と喜ぶ一方で、母のパートナーかもしれない、と緊張が走った。
私は母からの年賀状を差し出し、切り出した。
「こちらを頂いた件で伺いました。
野村の娘の藍です」
ああっ、と男性はわかりやすく反応し、察したようだった。
「美桜子さんの娘さんですね?
初めまして、田中和男と申します。
家族みな、お世話になっております」
田中さんは丁寧にお辞儀した。
「こちらこそ、母が大変お世話になっているようで……。
突然来てしまってすいませんでした!
さっき母に電話したんですが、繋がらなくって。
また出直しますね」
私が帰ろうとすると、男性は慌てて引き留めた。
「せっかくいらしたんだから、少しお話でも……!
ああでも、恋人の娘さんと二人きりになるわけにはいかないしーー」
慌てふためく田中さんの姿に、私はくすっと笑ってしまった。
気にしませんよ、と言いかけながら、まぁそうだよね、と考え直した。
「じゃあ、どこかお店でお茶しながら、母のこと教えてくれませんか?」
田中さんもほっとして、笑顔になった。
「それがいいね。
じゃあ、一番近くのお店に案内するので、ついてきて下さい」
「よろしくお願いします!」
私は、田中さんの後についていった。