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004 ウジウジしているよりはずっといい。

 僕たちは渋谷駅の横に作られた外車の特設展示場に立っていた。誰もいないことが分かっていても、周りをキョロキョロと見回してしまう。


「誰もいませんね」


「そうね」


「近くで見ると更に高そうな車に見えるけど」


「フロントガラスに値段が貼ってあるよ」


「い、一億円!」


 体中から汗が噴き出す。夏の日差しのせいだけじゃないのは明白だった。これから僕たちは一億円の高級外車を強奪するんだから。も、もちろん。返せたら返すつもりだけど。


「学くん。汗がすごい。暑いの?」


 奈菜さんは青空を眩しそうに見上げる。


「やっぱり、外は夏だね。暑くなってきた。早くエンジンをかけてエアコン入れなきゃ」


 奈菜さん意外と冷静なんだ。でも、奈菜さんの首筋にも、ほんのりと汗がにじんでいる。艶っぽい。目を奪われるんじゃない、窪塚学くぼづか がく


 落ち着け、僕。何かやることがあるはずだ。行動すれば気がまぎれるって言うじゃないか。


「仮設テントの辺りにキーがないか探してくる」


 僕が走り出そうとするのを奈菜さんが制した。


「ちょっと待って」


 ガチャリ。


「ほら、ドアが開くからキーはあるみたい」


 なっ、なんてご都合主義な!不用心にもほどがある。一億円ですよ。一億円。


「私、お父さんと何度かこの車のディーラーに行ったことあるから。乗れると思う」


「奈菜さん、キミのお父さんって、その筋のラーメン屋さん?」


「違います。真面目なラーメン屋です。ただ、ちょっと繁盛しているだけ。ラーメン屋だって頑張れば儲かるんだから」


 奈菜さんの清楚な姿を見ていると、とてもラーメン店の娘とは思えなかったけど、お嬢様には違いない。ラーメン屋を職業としてバカにしていた自分が恥ずかしい。


「そ、そうですよね。ごめんなさい」


「ふふっ。学くんって素直だよね」


 これって褒められていると取るべきか。奈菜さんの方が年下なんだけど。完全に立場が逆転しているような・・・。


「乗って」


「うん」


 二人は車に乗り込んでドアを閉めた。


 バシャッ。


 バシャッ。


 高級車はドアの閉まる音から違う。バタン!じゃないんだ。驚いた。ってか内装も総革張り。革の香りがセレブ感ありありだ。


 バルルーン、バルルーン。ブルルルルーン。ンーン、ンーン。


 奈菜さんがエンジンをかけていきなり吹かした。奈菜さんは真面目なラーメン屋さんので、暴走族?


「行くわよ!」


「えっ?奈菜さん!落ち着いてください。まだ、行き先を決めてません」


 ビックリした。奈菜さん、キャラ、変わってませんか?


「あっ。ごめんなさい」


 奈菜さんは急に大人しくなって、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにうつむいた。恥ずかしがる奈菜さんって。美少女はどんな顔をしても美しい。


「私、車を運転すると、なんか、こうなっちゃうんです。恥ずかしいですよね」


 くっ。モジモジする奈菜さんもグッとくるけど、危険な香りがする。だけど、欠点のない人なんていない。大丈夫。僕は自分を無理やり納得させた。


「気にしていないから。頼もしくていいんじゃない。どうせ、誰もいないんだし、景気づけに思いっきりいきましょう。先ずは渋谷周辺を探索しよう!」


「はい。じゃあ、しゅっぱーっ!」


 バルルーン、バルルーン。ガキガキ、ドカ、ドカ。


 あうっ。展示台に思いっきり、下、擦ってんですけど・・・。


 ドガ、ガックン。ゴン、ゴ、ゴーッ。


 うおっ。フロント、縁石にぶつかりましたけど・・・。


「道路に出られたから、もう大丈夫!」


「奈菜さん。免許証は見ましたが取ってから運転したことあるんですか?」


「もちろん!ペーパードライバーです」


「・・・」


 タメを置いて答えられても。きっともう、この車は売り物ではなくなっている。降りて確かめるまでもない。こんな大惨事が起きていても、渋谷の街は静かなもんだ。


「奈菜さん。シートベルトをしようか」


「はい、学くん。安全運転だね!」


 こうして僕たちの渋谷探索は始まった。


 僕が考えていた、高級車で美少女とドライブデート。ってものとは違ったが、これで良いのかも知れない。変な世界に飛ばされて、ウジウジしているよりはずっといい。

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