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作者: ゆかた



    1



「おかえりー。

 今日はずいぶん早いんだね、父さん」


 仕事から帰ってきた父親に、娘は料理の支度を続けながら声をかける。

 父親はネクタイを緩めながら、


「まあ、な。ここ一週間、働きづめだったから、たまには早く帰れと気を遣われてしまった。それも若い連中に」

「父さんも結構ないい年だもんねー」

「ぬかせ」


 水を一杯あおってから、父親は自室に引き上げた。軽装に着替えて、またリビングへ戻ってくると、気になっていたことを娘に問う。


「そういえば、他の奴らはどうした? 家にはいないようだが」

「姉貴とおチビなら、ジジババのところに里帰り中だよん。たぶん明日の夕方ごろまでにはこっちに帰ってくるんじゃない?」

「そうか。そういえばそんな時期だったな」

「父さん、忙しそうだったしね。ウチらだけでも顔見せしとこうって、なって。

 ただ、全員帰って家を空けたままにするのもなんだから、二手に分かれて日をずらしたワケ。ウチと兄貴が先発組で、姉貴たちが第二陣」

「なるほど」


 そう言われてみれば、夕食の用意も三人分の皿しか出されていない。


「あと。みんなで母さんのお墓参りも済ましておいたから」

 娘はさらりと付け加えた。


 妻はずいぶん前にこの世を去っていた。四人の子供と、夫を残して。彼と結婚したころにはすでに妻の両親も鬼籍に入っていたため、娘が言うジジババとは――子供たちから見て――父方の、祖父母だけである。


「ところで。お年玉はいくらだった?」

「爺ちゃんが一万五千で、婆ちゃんが五千円。しめて総額二万円なり」

「ほう。ずいぶんと景気がいいことだな。つまり臨時収入、約八万円ということか」

「六万ちょっとじゃない? 婆ちゃんはともかく、爺ちゃんが兄貴に現ナマを渡すはずねーし。宝くじっぽいの、渡されてたわ」

「だが、去年はくじ付きの年賀はがきだった。それに比べれば夢が広がったといえる。うまくすれば億万長者だ」


 言いながら、すでに盛り付けられた今夜のおかず――から揚げだ!――に手を伸ばしたところで、エプロンを付けた娘に手をはたかれた。

 てっきり、無作法を咎められたと思ったのだが。


「それ、兄貴の分。食べちゃダメだよ」

「なんだ。ずいぶんと贔屓するではないか。どういう風の吹き回しだ?」

「そうじゃなく。一ヶ月くらい賞味期限の切れた鶏肉が冷蔵庫から発掘されたから、在庫処分しようと思って。兄貴の皿に固めといた」

「……俺の分は大丈夫なんだろうな?」

「安心して。ウチらの分は今日買ってきたやつだから」

「なら良し」


 よくできた娘ではないか。父親は深く感動した。経済的で、親思いで、地球環境にも優しく、害虫駆除にも明るい。将来はさぞや良い嫁となることだろう。

 一通りおかずを作り終えたようで、娘はエプロンを脱いで椅子に腰かけた。あとは炊飯器が米を炊いてくれるのを待つだけである。


 机に肘をかけて、頬付きしながら娘が尋ねた。

「やっぱ、仕事って、立て込んでんの?」


 父親は頷く。

「時期が時期だしな。こればかりはタイミングが悪かったとしか言いようがない。せめて、あと一週間ほど前に起こっていてくれたら、年末もゆっくり過ごせたかもしれないのだが」

「でも、さ。しょーがないよね。ドラマじゃないけど、事件は待ってくれないわけだし。不可抗力ってやつ?」


 事件。そう、事件なのだ。父親の手を焼かせているのは。それも、殺人事件といわれるものだ。

 父親はT県警捜査一課の警視であった。


「難事件なの?」

「というほどではない。すでに容疑者は数人にまで絞れている。

 が、現場の状況に奇妙なところがあってだな。それが少しばかり厄介というか――」


「奇妙ですって!?」


 勢いよくドアが開かれた。


 いつの間に帰ってきていたのか。

 興奮した様子の息子が乱入してきたのだ。父親は舌打ちした。娘も舌打ちした。


「去年の暮れに起きた事件のことですよね?

 いやだなあ、お父さん。水臭いじゃないですか。事件について悩んでいることがあったのなら、僕に相談してくれればいいのに。知恵ならいつでもお貸ししますよ、といつも言っているではありませんか」


「こっちも何度言ったか覚えてないがな、いらんといつも言っておるだろう。むしろ邪魔だ」

「いえいえ。煮詰まったのなら、別の角度からの意見も参考にするべきでしょう? それも専門家の言うことなら、なおさら」


「せん、もん……か?」

 娘が首を傾げた。


「とりあえず、ドアを閉めろ。

 話はそれからだ」



    2



 メシ時に不愉快な話はやめろ、という娘からの要望で事件の話は夕食後に持ち越しとなった。食事中、そわそわしながらも、息子は美味い美味いと呟きながら賞味期限の切れたから揚げをすべて平らげていた。今のところ、体調に変化はなさそうだ。腹痛でも起こしてくれたのならすっきりするのだが。


 後片付けを済ました後、家族三人はコタツのある和室へと移動した。各人が散らばって暖房器具を使うよりも、固まってコタツに入ったほうが電気代が浮くから、という判断による。エコというものは、どの家庭にも重くのしかかる問題なのだ。


「で。事件についてはどれほど知っている?」


 息子の対面に位置取った父親は、あぐらをかくなり問いかけた。


「十二月二十八日に起きた事件のことですよね? 一人暮らしのS大生がアパートの自室で殺されていたとかいう」

「うむ」

「確か、被害者の名前は黒井たかふみ、でしたっけ。ニュースで流れていたことくらいしか知りませんが、顔写真なら見ましたよ。角刈りの四角い顔で、かなり硬派そうな男性でしたね。

 それ以外のことといえば……死因は絞殺で……あとは、ボクシングサークルに所属していた、ということを聞いた覚えがありますが」


「他には?」

「うーん。それくらいですかね、僕が知っているのは。

 こう言っては不謹慎かもしれませんが、二十八日といえば、彼の事件よりも、もっとインパクトのある珍事があったじゃないですか。そっちのほうが印象に残ってますよ、僕には」

「あ、それ、ウチも知ってるー。メイド喫茶で起きたやつだよね? ネットで見た」


 一人、テレビを見ていた娘が会話に入ってくる。彼女は殺人事件になど興味がないのだ。現役女子中学生としては当たり前のことだが。


「ニートがゴキブリ百匹を店内に放流したんだっけ。お気に入りのメイドに彼氏がいたからむしゃくしゃしてやった、とかなんとか」


 もちろん、父親も報告は受けていた。T県唯一のコスプレ系喫茶店で起こった事件で、犯人の男は威力業務妨害の罪で逮捕されたのだが、店内をひしめき合う黒い大群を、客、店員が何十匹以上も踏み潰してしまい、まさに阿鼻叫喚の画だったそうな。男は三十歳を超えていたという。動機も娘が言った通りで、無職だったこともそうだが、こういった幼稚な行動の大人が増えていることを聞かされるたび、日本の将来についてため息を吐きたくなってくる。


「正月にも、初詣にロケット花火を打ち上げた若者集団が取り沙汰されていましたよね。

 まったく、嘆かわしい。我が国の未来を暗く塗りつぶすような真似だけはよしてほしいものです」


「兄貴が言うんだ、それ」

 娘がもっともなツッコミを入れる。


「そんなことより、事件の話です。

 現場に奇妙な点がある、とおっしゃっていましたよね。まずはその点から聞かせてもらっても?」

「まあ、そう急くな。物事には順序というものがある」


 口元がさみしくなってきたので、父親はポケットからタバコを取り出す。が、娘が一緒にいることを思い出してまたすぐに引っ込めた。


「被害者については、だいたいお前の言ったとおりだ。

 名前は黒井たかふみ。S大ボクシングサークル所属。アパートに一人暮らしで、そこが犯行現場。死因は絞殺」


 アパートの住所について尋ねられたので、それに答えてやると、息子はスマホを取り出した。どうやら、検索エンジンのストリートビュー機能などを使って外観と、その周辺を確認したらしい。「年季の入った家屋ですね」と息子はコメントした。


「だが、交通の便は大変良い。最寄り駅まで徒歩五分とかからないし、S大からも近い。おまけにアパートの駐車場を出たすぐ前は国道だ。といってもそのおかげで、住民らは騒音に悩まされていたそうだが」

「交通量の多い道路がすぐそばにあるせいで、ということですか?」

「それもある。加えて、壁が薄いために住民同士の生活音が丸聞こえなのだ。実際、黒井も過去に隣人とのトラブルを起こしたことがあった」


「優良そうに見えて、とんだ地雷物件じゃないですか。

 黒井さんは住居を移すことなどを考えなかったのでしょうか?」

「さてな。家賃だけは安かったからそこに魅力を感じていたのかもしれん。あまり裕福な暮らし――というより、まさに貧乏学生を地でいくような生活をしていたようだから、移るに移れなかったというのが本当のところだろう。部屋も簡素で、必要最小限の物しか置いてなかったほどだから。

 唯一、贅沢品といえば、姿見があったくらいか」


「姿見? 背丈ほどの鏡のことですよね? 一人暮らしの男性の持ち物としてはあまり聞かないな。もしかして、お父さんの言っていた奇妙な点とはそれですか?」

「いや。違う。そもそも、お前が言うほど不思議なことでもない。

 黒井はボクシングをしていた。ジャブの切れとか、フットワークの確認とか。そういった用途で使うために購入したと生前の彼は言っていたそうだぞ」


「なるほど。もっともな話ですね。珍しく、僕の考えが足りなかったようだ」

 息子は、珍しく、を強調した。


「珍しく? いつも、の間違いじゃないですのん?」

 テレビに視線を向けたまま、娘がこぼした。



    3



「ところで、下世話な話で恐縮なのですが」

 息子は娘を一瞥してそう切り出した。


「ポルノの類はありました?」


 座布団が飛んだ。ぼす、という良い音を立てて息子の顔に命中する。

 投げたのは娘だ。


「そーゆー話はよそでやってくんない? JCの前でする話題じゃないだろ。デリカシーってもんを考えろよな」


 にらみつける娘とは対照的に、息子は涼しげな顔で座布団を娘に返しながら、


「その意見は尊重しましょう。しかし、です。

 女性、しかもお年頃の娘である君には分からないかもしれませんが――男という生き物の人物像を把握するには性癖の趣味を調べるのが一番の早道なのです。どのジャンルのポルノを好むかを知ることは、その男の人格の七割を知ることと同義です」


 十割の間違いだろう、と父親は思った。


「それに、これは公の正義のためなのです。殺人という、人間が犯しうる罪の中でも、もっとも原始的、暴力的であり凄惨な行為を分析するためには、こちらも道徳や倫理観など、一般人が持ちうるべき常識といわれるバイアスをすべて捨てて臨まなければならない。狩人である僕、そしてお父さんも、彼らと同じフィールドに立つ必要性があるのです」


「……おい。さりげに俺を変態の仲間に入れないでくれ」

 無視される。


「つまり、仮に僕らがポルノの話やポルノ雑誌、ビデオを見て盛り上がっていたとしても、それは捜査上避けては通れぬ必要な手続きの一つであり、けっして君に不快感を与えようとか、嫌がらせをしようとか、ましてや、青春真っただ中な女子である君に無修正のポルノと接触させる機会を与えて己の昏い下卑た感情を満たそうなどとするセクシャルハラスメントめいた意図はこれっぽっちもないことをご理解いただきたい」

「出てけ」


 追い出された。


「なにがいけなかったのでしょうか?」

「あえていうなら、頭だな。今度病院でエキノコックスの検査でもしてもらえ」


 男二人はリビングへと戻ってきた。父親はとばっちりを受けた形だが、ちょうどニコチンの禁断症状が出ていたところだ。煙を肺の奥まで吸い込んで一服する。


「さっきの疑問の答えだが、黒井の部屋にはポルノの類は一切なかったよ。交際している女性がいた形跡もない。友人らの証言ではそういうのに疎かったとのことだが」

「ただ経験がなかっただけなんじゃありません?」

「そこは硬派と言ってやれよ。

 死亡推定時刻は二十八日の昼一時から五時までの間。死体発見者は同大学の友人である萩原ゆきひと、という男子学生。五時半過ぎに黒井のアパートに訪れたところ、呼び鈴を鳴らしても反応がなかった。しかし、玄関は施錠されていない。不審に思って一声かけてから部屋へ上がると、倒れている黒井の姿を発見した、というような経緯だ」


「何の要件だったんです? つまり萩原さんが黒井宅を訪れた理由についてですが」

「課題レポートが一段落ついたから、黒井宅で一杯しようとするのが目論見だったらしい。

 大学から近いからな。萩原だけじゃなく、他の友人らものぞきにくることはちょくちょくあったようだぞ」


「ふむ。死因は絞殺とのことですが、凶器の特定はできていますか?」

「荷造りなどの用途で使う紐、とでも言っておこうか。殺害に使った分だけをハサミで切り取っていて、さすがにそれは持ち去られていたが、未使用の分は現場から回収できた。そこらの量販店で売ってそうな代物で、出所を探られても痛くない、というよりそもそも黒井の持ち物であった公算が高い」

「というのは?」

「遺体のすぐ近くに折りたたまれた段ボールが散乱していたからだ。おそらくは黒井自身が紐でまとめようとしていたのだと思われる。補足しておくと、事件の翌日は黒井の地区で段ボール回収を行う日だった」


「つまり、黒井さんがゴミ捨てのため段ボールを紐でまとめようとしている最中に、何らかの原因で犯人といさかいになり、そのはずみで黒井さんの手から紐を奪った犯人が彼を手にかけてしまった、と。こういうようなストーリーを想定しているのですね?」

 父親は首肯した。


「捜査本部でも計画的な犯行ではなく、衝動に任せた殺人だろうとの見方をしている。ドアを施錠せず立ち去っていることもそうだが、現場には多少の格闘した跡が残っていたからな」

「おっと。それは重要な証拠ではないですか。

 黒井さんのアパートは壁が薄くて音が筒抜けだったんですよね? 住人の中でそのような音を聞いた方がいたとしたら、殺害時刻がずばり限定できますよ」

「そうは問屋が卸さんさ。年末が近いこともあって、アパートの住人たちは一人を除いて全員が帰省していたのだ。しかもその一人も、酒を飲んだ後眠っていたというから、異常な音などは聞いていないとのことだ」

「あらら。それは残念」


 息子は大げさに手を広げて見せた。かと思うと、今度は意識した様子で一つ一つゆっくりと指を組み、やぐらを作る。そして、そこに眉間を預けた。


「お父さん、そろそろいいんじゃありませんか?」

「なんのことだ?」

「とぼけないでください。あなたが言っていた、現場にあった奇妙な点というやつですよ。僕はまだ聞いていませんが」


 やはりきたか。父親は思案した。もちろん、本来なら迷うことはないのだ。捜査上の秘密を漏らすことはできないのだから。しかも、口と頭がヘリウムよりも軽い、この息子が相手とくればなおさら。

 だが、たまに、本当に極めてまれにだが、息子が事件を解決に導く妄想を行うこともある。そして今回も、その、宝くじの一等に当選するより低い確率に賭けてみてしまうのだ。好奇心により。


「……服だ」

 父親はぽつりと漏らした。


「服?」

「そう。死体から衣服がはぎ取られていた。ただし、下着はそのままだったが」

「パンツ一丁の死体、ということですか。確かにそうそうあることではないですが……。

 それだけでは奇妙というには大げさな気もしますね。前例もいくつかあるでしょう」


「それだけならな。

 しかし、靴も持ち去られていたとしたら、どうだ? それもすべてな。

 黒井の部屋の玄関には一足の靴も存在しなかったのだ」


「一足も、ですか?」

 息子は目を剥いた。


「一足も、だ」



    4



 休憩を入れるため、息子がコーヒーを淹れに立った。父親も勧められたが、手を振って断っておいた。代わりに冷蔵庫から缶ビールを取り出す。アルコールが欲しくなったのだ。

 カップを持って戻ってきた息子は、致死量ほどの砂糖とミルクを入れ、口をつける。一口すすってから満足そうに頷き、


「服と靴がない、と。ようやく面白くなってきましたね。ユニークな仮説ならいくつも思い浮かびますが……とりあえずやめておきましょうか。まずは、いくつか基本的なことを確認させてください」


 プルタブを引き、父親はビールを一気にのどへ押し込んだ。


「部屋には一足も靴がなかったとのことですが、生前の黒井さんがそのような生活を貫いていたという事実はありませんか? すなわち、外出する際も裸足で歩く習慣を持っていなかったか、ということなのですが」


 噴きそうになった。


「あるわけなかろう。そんなこと。

 黒井にそんなバカげた習慣はないし、彼の部屋には五、六足の靴があったと友人らも証言している。どこの原始人だ」

「なら服はどうです? 部屋の中ではパンツ一丁で暮らすようなことはしていませんでしたか?」

「確かに、そういう嗜好を持った人間が一定数いることは否定できんが――」


 父親は口元を拭った。

「黒井は貧乏だったと言ったよな? 彼の部屋にはまともな暖房器具が安物の湯たんぽくらいしかなかった。夏ならまだしも、冬にそんな生活をしていたら、とっくに凍死しているだろう。その可能性は低いといっていい」


「了解しました。ならば次に検討しておく必要がある事柄として、事件と関わりのない第三者が持ち去ったというのを潰しておきたいですね。

 たとえばですが、そこらの野良犬が靴を持って行ったとか、あるいは黒井さんの死後に空き巣が入って彼の服と靴を奪ったとか、そういう可能性がまったくなかったと言い切れますか?」

「ます。玄関のドアは施錠されていなかったとはいえ、半開きなどではなかったから犬が入ったとは考えられない。また、部屋の金目のもの――財布に入っていた数千円くらいだが――には一切手を付けられていなかった。念のため言っておくが、黒井の持っていた服や靴はブランドやプレミアがついていたというわけではない。そこらの服屋や靴屋などでたたき売りでもされてそうな安物だ。金銭目的で奪っていったというのはありえないだろう。おまけに賊が侵入した形跡はまったく見受けられなかった」


「結構。となれば、ひとまずは、服と靴は犯人が持ち去っていったと断定していいでしょう。さて」

 息子はカップを置いた。

「服と靴。どちらもそれなりにかさばるものですから、持ち去るには相応の理由がなくてはなりません。持ち去ることで何らかのメリットがあったのか、あるいは、現場に残しておくにはデメリットがすぎたのか。大別するとこのどちらかになりますが、このうち、今回のケースでは前者の可能性を否定して論を進めても差し支えないことでしょう」


 赤信号だ。父親は耳栓を持ってくるのを忘れたことを後悔した。


「なぜならば、黒井さんの服と靴には金銭的価値がまったく認められなかったからです。安物だったんですよね? なら、そういう代物を持ち去って犯人にメリットがあったというのは、もちろん、こじつけようと思えばいくつでも理由をでっちあげることができますよ? 犯人が靴フェチだったとか、服に徳川の埋蔵金の暗号が仕込まれていたとか。ですが、明らかに作為的だ。喜劇の話ではないのですから、もっと現実的な方向性で考えていくべきです。したがって――おや? どうしたんですか、お父さん?」


 息子がいぶかしげに顔をのぞき込む。おそらくは、百年漬けた梅干しを口の中いっぱいに頬張ったような顔でもしていたのだろう、父親は。


「いや。どうしてそう、お前は回りくどく、しかも本題が進まないような会話しかできないのだと思ってな。その過剰な説明口調はどうにかならんのか?」

「致し方ないでしょう、これは伝統なのですから。

 名探偵というのは、いつの時代も、どのメディアでも、回りくどい話し方しかできないものです。高IQゆえに」

「むしろ、それは低脳だからではないのか。

 抽象的な話はもうたくさんだ。具体的な解を出せ」

「やれやれ。せっかちな方ですね。ではご要望にお応えして。

 すぐ片付く方からまな板に上げましょうか。服について。といっても、それこそ今さら僕が言うまでもなく、お父さんだって察しがついていると思いますが」


 試しているつもりなのか、答えを引き出す腹なのか。どちらにせよ、息子の物言いは不快だ。父親は舌を鳴らした。


「鼻血、だろ?」


「イエス!

 現場には黒井さんと犯人とが格闘した痕跡があった。となればその最中に、犯人が不意の出血をしてしまったと見るのもそう無茶な話ではないはずです。そして犯人が出血したとするなら、もみ合いの際、黒井さんの衣服に犯人の血液が付着するというのは充分に考えられることでしょう。自分の血がついた服を現場に置いておくわけにはいきませんからね。それがために犯人は、死体の衣服を脱がし、現場から持ち去ったというわけです。

 ちなみに、出血した箇所がどこだったかというのは、まあどこでも良いのですが、蓋然性が高いのは鼻ですかね。黒井さんはボクサーだったそうですし、顔に一、二発いいのをもらえばすぐに出ますから」


「ふん。認識を共有することができてなによりだな。

 だが、問題は靴だ。なぜ犯人は現場から靴を持ち去ったのだ? しかも一足残らず」

「それについて一つお伺いしておきたいのですが。服と同じ推論を当てはめることは可能ですか?」

「無理だ。死体はリビングのど真ん中に倒れていたし、犯人との格闘もそこら付近で行われていた。玄関からは距離がありすぎる」


「では、黒井さん自身が一足を残してそれ以外をクリーニングか何かに預けていたということはありませんでしたか?」

「仮にあったとして、それがどうなる?」


「犯人が替え玉のアリバイ工作を企てた可能性があります。

 黒井さんの服と靴を身にまとって、黒井さんに成りすまし、わざと誰かに目撃させる。もちろん、黒井さんが殺害後も生きているかのように思わせることによって自身のアリバイを偽造するのが目的ですが、現実には工作を行うより早く死体が発見されることによって台無しとなった。靴はアリバイ工作が済んでから現場に戻す予定だったのでしょうが、想定より早く警察が到着したためできなくなった。一足しかない靴を持ち出していたがゆえに、現場からは一足も靴がなかった――。

 と。いうのはなさそうですか」


 父親の反応を見たせいか。後半には勢いがなかった。


「当たり前だ。黒井が靴を預けていた事実は確認されていないし、そもそも、そういうアリバイ工作を行うなら玄関を施錠してから行うのが筋だ。しかも、黒井に成りすましてわざと目撃させるなど、犯人の行動としてはリスクが高すぎる。ましてや、本件は計画的な殺人ではないのだから」


「うーん。となると、今までのデータからでは解けそうにないですね。意外に難問だ。とりあえず、解きづらい問題はいったん先送りしましょうか。

 先に容疑者について教えてくれません?」

「投げやがったな」



    5



「お風呂沸いたから、次誰か入って」


 頭にタオルを巻いた娘がドアを開けた。父親は話をいったん中止して、先に入浴することにする。ちなみに、息子は今日一日かけて県内の銭湯のスタンプラリーを制覇してきたらしいので、風呂はパスとのこと。高校二年生にもなって何をやっているのか。もはやため息すら出ない。なお、景品は入浴剤だったので、せっかくだからふんだんに使っておいた。


 風呂から上がると、本日二本目のビール缶を冷蔵庫から取り出し、目を閉じたまま天井を仰ぎ見ていた息子に一声かけた。


「あいつはどうした?」

「自分の部屋に引き上げていきましたよ。もうおやすみになるそうです」

「そうか。もうそんな時間か」


 時計を見ると二十三時を超えていた。


「それより、話の続きをお願いします。

 僕の考えが正しければ、この事件は解決の一歩手前まできているはずです。容疑者さえ聞かせてもらえば、犯人を指名できるかもしれません」

「ほう。大きくでたな」


 あまり期待せず、父親は冷えたビールに口をつけた。


「動機などの面から、今のところ容疑者は四人にまで絞れている。

 一人目の名前は萩原ゆきひと。さっきも触れたが、黒井と同期の友人で、彼が死体を発見した。かつて黒井と同じ女性を巡っての、さや当てめいたことを起こしたことから捜査本部に目をつけられている」

「あれ? 黒井さんは女性関係に疎かったのでは?」

「さや当てといっても、実際は萩原の一人相撲でね。件の女性――A子としようか――に萩原は好意を抱いていたのだが、A子の興味が黒井の方にあると勘違いしてしまった。とんだ誤解なのだが、むろん黒井側にはそんな自覚はない。話し合っても平行線で、最終的には殴る蹴るの大立ち回りとなったそうだ」


「さぞ良い試合だったのでしょうね。ですが、それだけ拳で語り合い、現在の関係が良好だったというなら、動機としては弱いんじゃありません?」

「そうでもない。喧嘩の後、萩原は晴れてA子を口説き落とすことに成功したのだが、最近になって破局した。それも、A子が別の男性に惚れてしまったからだという」

「おやまあ。それはまた。ご愁傷さまに」

「もっとも、それはA子の方便だったがね。しかし、萩原にその嘘は見抜けなかった。むしろ今度こそ本当に、A子が黒井に惚れてしまったと勘違いしていた節がある」

「となると、事件の日に黒井さん宅へ寄ったのも、本当は一服するためではなくて、その辺のことをはっきりさせようとしていたのかもしれませんね」

「かもな」


「萩原のアリバイに関してだが、一時から三時の間は、同じ学部の先輩らの助力を得ながら、厄介な課題レポートに取り組んでいたそうだ。これは裏付けも取れている。

 問題なのは三時以降の行動で、先輩らと別れた後、大学の図書館で一人残った部分を仕上げていたというが、その証明はされていない。そして五時半前に大学を出、そこから黒井宅へ向かったという。ちなみに、通報があった時間は五時四十六分だった」

「二時間も空白時間があれば、犯行には充分ですね。

 お次は?」


「菊池しんいち。ボクシングサークルに所属していて、黒井の後輩にあたる。彼は黒井からいわゆるしごきを日常的に受けていてな。表面上はともかく内心ではよく思っていなかったのではないか、というのが周囲の感想だ。現に、黒井に関する暴力的な愚痴を、普段からこぼしていたという証言も取れている」

「積もりに積もって、というパターンですか。

 菊池さんのアリバイは?」


「三時から飲食店のアルバイトがあったらしく、昼食をとった後、家を出てバイト先近くのゲームセンターをはしごしていたそうだ。時間はだいたい一時から三時前までのことだが、連れや彼を見たという人物はいない。それに、アルバイト先の飲食店というのがこれまた現場に近くてね。黒井を殺害する時間は存分にあった。

 バイト先には三時に出勤。それからはずっとバイトに勤しんでいたと、同僚などが証言している。長時間中座していたこともなし、とのことだ」


 飲み終わったビール缶を捨て、父親はうがいをする。口をゆすいだ後、再び席に着いた。

「三人目は如月かずき。黒井と同じアパートで、隣室の住人」


「おや? もしかして、彼が黒井さんと、騒音トラブルを起こしたことがあるとかという、お方?」

「うむ。

 黒井が越してきたのは二年前の三月半ばだったのだが、その約半年後に如月の怒りが爆発した。なんでも黒井の部屋から夜な夜な筋トレの音が聞こえてきて、ぐっすりと眠ることができなかったそうだ。それまでも遠回しに注意を入れていたらしいが、一向に改善されなかったと本人は言っている。

 如月が大家の方に直談判したため、騒音こそ収まったものの、それ以降、彼らの関係は最悪で、アパートですれ違ったときもにらみ合うほどだったとか」

「うーん。でもそれは黒井さんの方に非があるように思えますね」

「同感だ。しかし、動機としては充分だろう?」


「事件の日、如月は休日だったため、自宅――つまり現場の隣室で一人酒盛りをしていた。が、かわいそうに十二時を過ぎたころ、会社の方でトラブルがあったと急遽呼び出されてしまった。酒を抜くため、三時から出勤すると伝えてから、二時半まで仮眠をとり、起きてからすぐ会社へ向かったという。だから、三時以降のアリバイに関してはしっかりしている」


「なるほど。お父さんがさっき言っていた、一人アパートに残っていたという住人は如月さんだったのですね。異常な音などは聞いていないということですが」

「酒が入っていたし、途中から眠っていたからな。仮に如月が部屋にいた時間帯で犯行が行われていたとして、彼が気づかなかったのも無理ないだろう。

 といっても、その如月自身が犯人かもしれんが」

「もしくは如月さんが部屋を出てから犯行が行われたか。

 最後の一人は?」


「高木ジュン。黒井と幼馴染で、製紙工場に勤めている。黒井と同い年だ。

 彼は事件の翌日――つまり十二月二十九日から、旅行の予定があってな。事件の日はその準備で方々に飛び回っていたらしい。ゆえにほぼ一日、アリバイがない。せめて他の三人のように、事件当日か、あるいはその翌日にでも聴取ができればまた違ったんだろうが、旅行に出かけていたせいで、高木のみ、年が明けてからの対応となった。証人もそうだが、なにより本人が記憶に怪しいところがある、と前置きしていたよ」


「ふむ。ところで、高木さんはどうして容疑者に入れられているのです? 黒井さんとは昔なじみの友人だったのですよね。何か事情でも?」

「借金があったからだ。黒井は年中金欠だったそうで、高木から金を借りることはしょっちゅうだった。一回の金額はそれほどでもなかったろうが、それが積み重なって合計すると五十万ほどになると言っていた。人を殺す動機の額としては少ないように見えるが――」

「しかし、口論の種にはなった。五十万ごときの借金でまさか人殺ししようなどとは思わなかったでしょうが、言い合いがエスカレートして、ということは十二分にありえます。ちょうど現場の様相と一致しますし、彼を容疑者から外すことはできませんね。

 これで全員ですか?」


 答える代わりに、父親はライターの蓋をカチッと鳴らした。



    6



「容疑者たちのアリバイについては分かりましたよ。

 逆に、黒井さん――被害者の事件当日の行動についてはどの程度判明しているのですか?」


 父親はタバコをくわえた。


「正直なところ、ほとんど追えていないな。

 午前中の足取りはまったく不明。十二時半ごろに近所のスーパーで買い物をしたことから、午後からはおそらく自室にいたんだろうと推察できるのみだ」

「やれやれ。頼りになりませんね。

 しっかりしてくださいよ、国家権力様」


 息子は気取った仕草で肩をすくめてみせた。かっとなって殺ってしまった、というのは飽きるほど聞いてきたつもりだったが、心中を理解できる日が来るとは思わなかった。銃が手元にあれば危なかったかもしれない。


「血税を払っているのですから見合った成果は出してくれませんと」

「ふん。言ってろ」

「もちろん言いますよ。今度新聞のご意見板にでも投書してみましょうかね。

 それはそうと、あと一つだけ確認させてください」

「嫌だ」


 父親はタバコの煙を息子に吹きかけた。息子は顔をしかめて、


「へそを曲げないでください。子供じゃないんですから」

「曲げさせたのは誰だ?」

「重要なことなんです。それさえ確認できれば、事件はほぼ解決です。

 二十八日の天候は覚えていますか?」


「唐突に飛ぶな。確か雪が降っていたか。一日中」

 そして数センチほど積もったのだった。交通障害が出るほどではなかったにしろ、T県にしては珍しい気候だったので記憶に残っていた。


「ええ。ですが、一日中ではなく、ほぼ一日中、です」

 息子が訂正した。


「同じことではないか」

「全然違います。ここで注意してほしいのはたとえ一時的だったとはいえ、雪が止んだ時間帯が存在していたということです。

 さすがの僕も止んだ時間を正確には覚えていませんでしたが――」


 息子はスマホを掲げて振った。


「最近は便利なもので、こいつで調べれば一発です。

 実を言うと、お父さんがお風呂に入っている間、気象庁のサイトにアクセスして死亡推定時刻、つまり昼一時から五時の降雪記録を調べてみました。それによると、二時から三時までの間は雪が止んでいたみたいですね。それ以外はずっと降っていたようですが」


「で?」

「まだピンときませんか?

 では、くどいかもしれませんが、現場の位置状況を今一度おさらいしてみましょう」

「くどいならいい」

「そう仰らずに」


「現場、といっても目を向けてほしいのはアパートの中ではなく、外についてです。外観をストリートビューで見たときに気付いたのですが、黒井さんのアパートは三方を高いブロック塀で囲まれていますよね。そこから敷地の外に出ることは困難でしょう。ましてや雪が積もって足場が悪い中というなら、なおさらだ」

「そりゃそうだろうが……。する必要もないだろう。子供じゃあるまいし。普通に開けているところから出ればいいだけの話だ」

「そこですよ。ブロック塀が開けている唯一の出口を通るなら、アパートの前にある駐車場の上を必ず歩かなければならない。それだけではありません。敷地を出てすぐ前の道は幹線道路だったことを思い出してください。死亡推定時刻が昼の一時から五時だったことを考慮すると、人の行き交いはピークだったに違いない」

「……さっきから何を言っているのだ? 言いたいことがさっぱり分からんぞ」


 父親の疑問を息子は手で制した。


「後で説明しますから、辛抱して聞いてください。

 これらを踏まえて僕が聞きたいこととはただ一つです」


 息子は人差し指を鼻筋に当てる。


「被害者と、それから四人の容疑者の、靴のサイズを教えていただけますか?」

「は?」


 としか言いようがない。数瞬固まってしまった。タバコの灰がテーブルの上に落ちる。

 息子は反応が鈍い父親にやきもきした様子で、


「靴のサイズですよ、靴のサイズ。足の大きさと言ってもいい」

「いや、それは分かるが。どうしてそれが知りたいのだ?」

「ですから、理由は後で説明しますってば。とにかく、今は黙って靴のサイズを教えてください」

「黙ってたら教えられないが」

「揚げ足は取らずに」

「そうは言うが、靴のサイズなど知らないぞ。わざわざ調べることでもないし」


 息子は頭を落とした。


「いまいち決まらないですね……。

 なら身長でもいいですよ。靴のサイズと身長には相関があるはずですから」

「身長か」


 父親は関係者らの背丈を思い起こす。


「まず黒井だが、平均的な成人男性ほどだったな。一七○過ぎといったところか。萩原と菊池も同程度だ。高木はそれより高く、俺と同じか少し低い程度だったと思う」

「お父さんと同じということは、最低でも一八○センチ後半はありますね。

 如月さんはどうです?」

「平均より心持ち低い、といったところだな。たぶん、お前と同じくらい」

「となると、一六八センチ前後ですか。

 うん、これはいい。思った以上の収穫だ」


 言うと息子は目をつぶる。人差し指で額中央をリズミカルに叩きながら。

 暇になった父親は落としてしまった灰を片付けて、新しいタバコに火をつける。三、四本は吸えるかなと予想したが、二本目を吸い切る前に息子は目を開けた。


「――やはり僕の思った通りだ。

 お父さん、犯人が分かりましたよ」


「そうか。それは良かったな」

 父親は真顔で頷いた。


「古典ミステリならここで読者への挑戦状が入るところですね。

 では解決編といきましょうか」



    7



 時計の鐘が鳴った。日付が変わったようだ。今日は早めに休もうと思っていたのだが。

 できるかどうかは、この息子次第か。


「……夜も遅い。犯人が分かったというなら、さっさと言え」

 父親は息子に釘を打った。


「承知しました。なるべく簡潔に説明していくことにします。

 まずは靴が消えていたことから。犯人が持ち去ったのは確実ですが、なぜそのようなことをしたのか。

 理由は単純です。犯人は雪の上に自分の靴の下足痕を残したくなかったのです」


「下足痕……足跡のことか」

「はい。犯人が黒井さん殺害後、アパートから立ち去ろうとするならば、必ず駐車場の上を歩かなければなりません。必然、雪の上に足跡が残ってしまうことになります」


「だが、足跡など、ささいなことで消えるだろう? 別の人間が上から踏んだり、それこそ降雪で上書きされてしまう」

「いいところを突きますね、お父さんも。ですが、どちらもありえない。

 アパートの住人たちは如月さんを残して、全員が帰省していました。しかも、残った如月さんも一度会社に向かったのみで、それ以外は部屋にこもっていた。その状況下で別の誰かが犯人の残した足跡を踏み潰してしまうということはあまり考えられないでしょう? 人がいないのですから、人間はもちろん車の出入りすらありません。アパートの誰かを訪ねてくる人だっていなかったはずです。まあ、押し売りなど、数人ほどは出入りしたかもしれませんが、その程度では犯人の残した足跡をすべて消すことはない」


「だが、アパートに人がいないことなど、犯人は知りえなかったはずでは?」

「ええ。ですが、犯人側の視点に立つなら、もっと大きな理由から自分の靴で歩くわけがないことを推察できます。

 別の誰かが足跡を踏み潰してくれるか。これは賭けです。このような不確定要素に犯人が頼ったとは思えない。自ら消すか、あるいは最初から己の靴の足跡を残さないか。二つに一つです。そして前者を選択することはできなかった」


「なぜだ?」

「ここで思い出してほしいのは、死亡推定時刻が昼一時から五時であり、かつアパートのすぐ前は人通りの激しい幹線道路だったということです。一歩進むたびに足跡を消すなんて真似をしていたら、どうしたって人目についてしまいます。人の行き交いが激しい時間帯にそんなことをすれば、印象に残るどころか、下手をすればその場で通報されかねない。ゆえに目立つ行為は避けたかったはずです。犯人はごく自然にアパートから立ち去ることを強要されていたのですよ」


「しかし、降雪で上書きされることはあった」

「その通り。ですからそこは逆説的に考えてください。すなわち、犯行が行われたのは雪が一時的に止んだ時刻だと結論すべきであり、実際、事件当日の二時から三時は止んでいました。犯行がその間に行われたとするなら、アパートから立ち去ろうとした犯人は愕然としたはずです。どうあがいても足跡が残ってしまうのですから。もっとも、現実には三時過ぎから再び降り始めたわけですが、その時の犯人には予測しえなかった。まさしく神のみぞ知ることであるがゆえに。こうなった場合、最悪のケースを想定して動かなければならないことは誰の目からも明白でしょう?」


「なるほどな。つまりお前は、犯人が黒井の靴を履いて、現場から立ち去ったと考えているわけだ」

「イエス。自分の靴の足跡を残さずに現場から立ち去るにはそうするより他ありませんし、仮に自分の靴で立ち去ったとして、その後に靴を処分するといったこともはばかられたはずです。警察の耳に入ってしまえば、現場に足跡が残っていた事実と結び付けられて、決定的な疑念を招くことにもなりかねませんから」


「ふむ。昨今の科学力を持ってすれば、靴のメーカーはもちろん、犯人の体格や体重、あげくの果てには、靴底から転写された細かい傷痕などから誰の靴かを特定することすら難しくはない。俺らだって、きれいな足跡サンプルさえ手に入っていれば、容疑者の靴をしらみつぶしに調べるくらいはしただろうさ。だから、犯人がそれを嫌って自分の靴の足跡を残したくなかったというのは、良く分かる。

 と、してもだ。一足ならまだしも、すべての靴を持っていく理由にはならない。その必要はないはずだ」

「そう思えるのは、お父さんが近視眼的な目しか持っていないからですよ」

「ほっとけ」


「雪が止んだままなら、そうでしょうね。履き替えた一足だけを持ち去れば良かった。ですが、現実にそうなったように、再び雪が降り始めて、足跡が降雪により消えたのならまた別の問題が浮上します」

「別の問題?」


「逆にお尋ねしますが、現場から無くなったのがすべての靴でなく、一足だけだったとしたらどうですか? お父さんたちだって、犯人が黒井さんの靴を履いて立ち去ったということがすぐに分かったんじゃありません?」

「そうか」

 ハッと気づく。


「今度は殺害時刻が限定されてしまう恐れがあったのだな?」

「イエスリピート。一足だけ持ち去ったのでは、自分の靴の足跡を残したくなかったのだということを宣伝しているに等しい。それさえ分かれば、敷衍して、犯行が行われたのは雪が一時的に止んでいる時間帯だったということがたちどころにバレてしまいます。泥縄式にアリバイ工作を行う余裕すらない犯人にとって、このハンデはあまりに大きい。

 そういう諸々を勘案し、身バレの危険性を少しでも軽減するため、犯人は実際に使った一足だけでなく、それ以外のすべての靴も持ち去ったのです」


「ようやく追いついた。

 いろいろ怪しげな個所はあるが、ひとまずはお前の仮定を受け入れてやってもいい。

 が、肝心の、犯人についての目星はついているのか?」


 父親の問いに息子は口角を上げた。


「目星どころか名指しできますよ。

 ここまで来れたのならあとは一直線です。消去法でいきましょう。


 一人目。萩原ゆきひとは犯人ではない。なぜならば、先ほどの議論から殺害時刻は雪が一時的に止んでいた二時から三時の間であるということが判明し、かつ彼には該当時間のアリバイがあるからです。ゆえに彼は犯人ではない。


 二人目。如月かずきは犯人ではない。なぜならば、己の靴の下足痕が残ることを避ける人物に、彼は当てはまらないからです。彼は被害者と同じアパートの住人です。彼の下足痕が敷地内に残っていたとしても当然のことですし、そもそも隣室に移動するだけなら足跡が残ることさえなかったでしょう。庇のおかげでアパートの通路には雪が積もりづらいはずですからね。ゆえに彼も犯人ではない。


 三人目。高木ジュンも犯人ではない。なぜならば、彼は被害者よりもずっと大きな靴のサイズをしていたと推察できるからです。彼と被害者との身長差は少なく見積もっても十五センチ以上。これだけ身長が違えば、靴のサイズも二、三センチは違ったことでしょう。一センチ程度の違いならまだ何とかなるかもしれませんが、二、三センチも違ってしまえば、仮に履くことができたとしても歩行に問題が生じます。まして雪が積もっていたのです。足場が悪く、衆人環視という重圧の中、それだけのアクロバティックを成し遂げたとは、とても思えません。ゆえに彼も犯人ではない。


 これで三人が消え、残るは一人となりました。その人物の名は――」


「菊池しんいち」

 父親が呟いた。


「そう。彼こそが、黒井たかふみを殺害した犯人だったのです。

 以上QED」

「かっこつけめ」



 かっこつけだった。


 不覚にも息子の妄想を参考にしてしまった父親は、菊池しんいちに狙いを定めて捜査を行った。しかし、空白だった彼のアリバイは、ゲームセンターに設置された監視カメラから証明されることとなってしまったのだ。ちなみにこれは余談だが、菊池の靴のサイズは被害者よりもはるかに大きいということが後ほど判明した。

 息子の推理は間違っていた。むろん、割とよくあることだったが、それを信用してしまったことこそが間違いだったのだ。父親は己を戒めた。


 これで事件は振り出しに戻る。



    8



 事件が急展開を見せたのはそれから数日後だった。


 町内ゲートボール大会を終えた息子が帰宅して自室へ入ろうとすると、中から人の気配がすることに気付いた。悟られないようにゆっくりとドアを開き、中を見る。どうやら妹――真ん中の――がパソコンを使っているようだ。足音を殺し、背後まで忍び寄って画面をのぞき込む。


「コスプレ写真、ですか」


 小さな悲鳴が上がった。


「ちょ、勝手に見んな! ノックくらいしろし!」

 妹が慌てて画面を両手で隠す。


「不法入国者にそのような配慮は必要ありませんね。だいたいここは僕の部屋です。

 ――去年のコミケの写真ですか。とうとう君もオタクの道に足を踏み入れてしまったんですね」


 息子がしみじみと感想を述べると、妹は観念したかのように両手をだらんとぶら下げた。


「ちげーし。友達がコミケでコスプレしてたらしいから、どんなのか見ようと思っただけ」

「本当に?」

「ホントだよ!」

「ならそういうことにしておいてあげましょう。

 ところでその友人というのは、胸部装甲がぶ厚いお方だったりします?」


 足を小突かれた。


 それからしばらくは妹と一緒にコスプレ写真を鑑賞した。冬に開催された分を見終わったので、夏の写真がまとめられたページへ移動する。四、五枚ほど流した後、豊満なバストを持つ女性が際どい衣装でポーズをとっている写真に行きつく。それを見た瞬間、息子の目は一点に釘付けとなった。飛び出すほどに目を見開く。

 次の写真をクリックしようとする妹の手を抑えた。変態、と罵られながら腕をはたかれたが、息子は気にしない。やがて手を放し、額を人差し指で叩きつけながら部屋中をうろついた。


「どした? 頭にロイコクロリディウムでも湧いちゃったん?」

「それはカタツムリの話でしょう。人間に寄生したという例は寡聞にして聞きませんね」


 言い返しながら息子はスマホを取り出し、父親へ電話をかけた。数コール後につながったが、ご機嫌斜めの様子だ。忙しいという。しかし、息子はまったく意に介さず、一方的に用件を伝える。


「一つ、調べてほしいことがあります。

 黒井さんの部屋には姿見がありましたよね。それがいつ頃購入されたのか分かりますか?」



 その夜。

 父親と息子はリビングのテーブルで向かい合っていた。


「お前のおかげで無駄な労力を費やされた。にもかかわらず、いまだ事件は未解決だ。どう落とし前をつけてくれる?」

「女々しいですよ、お父さん。過去のことは水に流しましょう。

 それに、僕の仮説を最終的に採用したのはお父さん自身じゃないですか。僕にあたるのはお門違いというものです」


「ふん。口だけは達者だな」

 父親は鼻を鳴らした。


「そんなことよりこれを見てください。どう思います?」


 息子は一枚の写真を取り出し、テーブルの上に置く。パソコンから印刷したものだ、と息子は補足した。ポルノだ。薄着の女性が胸の谷間を惜しげもなく晒して妙なポーズを決めている。


「ふむ。ほどよい肉付きだな。しかし、俺の目は誤魔化されない。この胸には嘘がある。おそらくはパッドを使い、かつ、寄せて上げるとかいう技術を使っているのだろう。交際している最中は、お前の母も似たような詐欺をよく使っていたよ」

「そこじゃありません。というか、さりげにお母さんについての重大な秘密を暴露しないでくれますか。一応、聞かなかったことにしておきます。ですが、言われてみれば確かに、うちの女どものほとんどは、年齢の割に平らなような気がしますね。まあ、それはいい。

 注目してほしいのは中央の女性ではなく、端に写っている男性です」


 息子は写真の左上を指さす。ペイントなのか、地肌を青に染め、金色のかつらを被った男性が軍隊式の敬礼をしている。


「コスプレか。このキャラクターなら俺でも知っているぞ。ナメック星人だろう?」

「違います。それは緑ですし、触角はありますが髪はないでしょう。これはガミラス星人ですよ。

 いえ、そんなことはどうでもよいのです。この男性について見覚えはありませんか?」


 目を凝らしてよく見る。こいつは――。


「まさか、黒井か!」

「気づきましたか。僕にもそう見えます。被写体が小さいですし、恰好が妙ですから分かりづらいですが、十中八九、黒井さんで間違いないでしょう」


「これはいつの写真だ? それにこの催しは何だ」

「コミックマーケットといって、簡単に言ってしまうと、オタクたちの聖典のことです。略せばコミケ。夏と冬に一度ずつ、つまり年二回ほど開催されるのですが、これは去年の夏の写真ですね」


「ほう。よもや黒井がこのような祭りに参加していたとはな。意外だ。

 しかしそれがどうしたのだ?」

「後述します。

 それより、僕がお頼みさせていただいたことについては調べがつきましたか?」

「ん? 黒井が姿見を購入した時期だったか。去年の四月か五月ごろだったと、友人らは言っていたが」

「そんなことだろうと思っていましたよ。それを先に聞いていればとっくに真相が分かっていたかもしれない」

「どういうことだ?」


「思い出してください。黒井さんが如月さんと騒音トラブルを起こしたのは二年前の九月でした。筋トレの音で如月さんが寝付けなかったのが原因とのことですが、おかしいと思いませんか? そのトラブルの後、黒井さんは姿見を購入しています。それもジャブやらフットワークの練習に使うためだと言って。そんなことを部屋の中でしていたら、また如月さんから怒鳴られてしまいますよ。筋トレの音ですら丸聞こえだったのですから。


 つまり、姿見を購入したのはボクシングに関係することではなく、もっと別のことで使っていたに違いありません。その別のこととはなにか。それは嘘を吐いてまで周囲に知られたくないことであり、かつ姿見を用いて音を立てずに部屋の中でできること。決定的なのは写真でしたが、姿見の手掛かりがありながらも、今の今まで思い至らなかったのは情けないというより他ない。


 結論を言いましょう。黒井さんにはコスプレの趣味があったのです。姿見はそれのために使っていたのだと思います。つまり、部屋の中でコスプレを楽しんだり、衣装のチェックをしたり、といったところですかね」


 息子は人差し指を立てた。


「ここで一つ、注釈を入れておきます。黒井さんはコスプレ趣味を隠しておきたかったのだということを了解しておいてください。それは姿見の用途について嘘を吐いていたことや、黒井さんにこのような趣味があったことを誰も知らなかったことから容易に想像できると思いますが」


「ふむ。隠れオタクというやつか。理解できなくはない。黒井は角刈りボクサーで、しかも後輩を日常的にしごいたりする男だ。周囲にも硬派で通っている。そんな奴がコスプレなどという、カースト最底辺の趣味を持っているなんてことがバレたら、手の平返されること間違いなしだ。後輩との立場も逆転するかもしれん。

 だが、それがどう事件に関係する?」


「服ですよ」

「まさか――」


「そう。犯人が死体の服をはいで持ち去ったのは、服に犯人の血痕が付いていたということではなく、黒井さんがコスプレ衣装を着ていたからなのです。おそらくは着ている分のみならず、黒井さんの部屋にあった他のコスプレ衣装も持って行ったのでしょう」



    9



「どうもよく飲み込めんな」


 父親は身を乗り出した。


「黒井がオタク趣味を隠したがっていたのは、良しとしよう。だが、どうして犯人までもが黒井の秘密を守ってやらねばならんのだ? わざわざ死体からコスプレ衣装をはがし、現場から持ち去るまでしてだ。理由がない」


「それがあるんですよ。

 注意してほしいのは現場の状況です。殺害された時、黒井さんは段ボールのゴミを紐でまとめようとしている最中でした。しかもその際、黒井さんは犯人の前であるにも関わらずコスプレ衣装を着ていたのです。つまり犯人は、オタクを隠していた黒井さんがその趣味をさらけ出せる数少ない人間の一人であったに違いなく、それすなわち、黒井さんのオタク趣味を知っている人物は犯人である可能性が非常に高い、という等式が成立するということです。そして犯人が黒井さんのオタ趣味を知っていたというのを証明するのは非常にたやすい」

「かなりの率で犯人も隠れオタだったであろうから、オタクイベントの時は黒井と一緒に参加していた公算が高い。そこに聞き込みをかければ、すぐにたどり着けるだろう、と?」


 息子はゆっくりと頷き、

「少なくとも、去年の夏コミには参加していたでしょうからね。もし犯人も隠れコスプレイヤーだったとするなら、聞き込みどころかネットで写真をあされば見つけられるかもしれませんよ。ちょうどこの、黒井さんの写真のように」


「と、してもだ」

 父親は息子の注意を引くように、テーブルを指でコンコン叩いた。


「忘れていないか? 靴のことだ。服はそれで説明がつくが、靴についての説明にはなっていないぞ。黒井と犯人が隠れオタだったということを考慮しても、靴を現場から持ち去っていく理由にはならない」

「なります。お父さんこそお忘れになっているようだ。

 事件と同日、二十八日に起こった別の珍事について覚えていますか?」

「メイド喫茶で起こったあれか? ゴキブリを店内に流したとかいう……」


 父親の指が不意に空中で止まった。


「お気づきになられたようですね。まさしく、その出来事のためなのです。

 黒井さんの午前中の行動には空白がある。その時間帯、たぶん、黒井さんは犯人と一緒にメイド喫茶に出かけていたのでしょうが、不幸にもちょうどゴキブリテロと出くわしてしまった。だけでなく、黒井さんはゴキブリを靴で踏み潰してしまったのだと思います。さすがにふき取ったでしょうが、わずかな微物でも残っていれば鑑識の技術でそれがゴキブリであったことを特定するのは難しくない。そして冬に野生のゴキブリはほとんどいないということを鑑みれば、例の珍事の最中、黒井さんがメイド喫茶にいたとみなすのは当然の帰結です。


 あとはさっきの議論の延長で、黒井さんはメイド好き=黒井さんは隠れオタである=犯人は黒井さんのコスプレ衣装を持ち去った=犯人は黒井さんのオタク趣味を知っていた=黒井さんとメイド喫茶に行っていた人物が犯人である、てな具合にバレてしまうわけですよ」


「待て。一見よくできた推測だが、それでは現場からすべての靴を持ち去ることに説明がつかない。持ち去るのは黒井がメイド喫茶で履いていた一足だけで事足りたはずだ。なぜすべてを持ち去ったのだ?」

「なに。簡単なことですよ。非常にね。

 犯人は黒井さんがメイド喫茶で履いていた靴を覚えていなかったのです。ゆえに現場からすべての靴を持ち去る必要にかられてしまった、というわけです」


 沈黙が流れた。やがて、主張を受け入れた父親が口を開く。


「なるほど。なかなか筋の通った推理であるようだ。もしそれが正しいとしたら、黒井の周辺で隠れオタの趣味を持つ人間を探し出せば良い、ということだな?」

「もちろん。ですが、そこで終わる僕ではありません。犯人である見込みが非常に高い、ただ一人の名前をこの場で指摘することだってできてしまいます。親孝行な息子ですね」

「ほざけ。

 そいつの名は?」


「お父さんだって知識があれば分かったと思いますよ。

 去年の夏コミに黒井さんと犯人は行っていたのですから、冬コミにも参加する予定だったのだと思います。事件の日に黒井さんがコスプレ衣装を着ていたのも、あるいはその最終チェックのためだったのかもしれませんね。

 コミケは通年東京で開催され、冬コミの開催時期は十二月二十九日から三十一日にかけて。容疑者の中でその間、T県から離れて旅行に行っていたのは――?」


「高木ジュン、か」


「彼には事件の日のアリバイがほとんどありません。黒井さんと一緒にメイド喫茶を訪れることも可能でした。加えて、黒井さんの幼馴染ということで、隠れオタの趣味を共有するほどに仲が良いという条件にも当てはまります。

 今度こそ、QEDで間違いなしです」

「フラグはやめろ」



 息子のアドバイス通り、翌日から警察はメイド喫茶に証人を求めた。粘り強い捜査の末、事件当日の二十八日午前中、黒井たかふみと高木ジュンが店にいたという目撃者に行き当たった。幸いなことに、今度は息子の妄想が的中したのである。


 後日、高木ジュンは黒井たかふみ殺害の犯人として逮捕された。決め手となったのは、なんと、ポルノであった。黒井はネット通販でアダルト向け同人誌を購入していたのだが、そのコレクションが高木の家からも発見されたのである。


「つまり、高木さんは服と靴に飽き足らず、十八禁同人までもを黒井さんの部屋から持ち出して、被害者のオタク趣味を隠そうとした、ということですかね。おそろしい執念です。が、恋人のいない一人暮らしの男性の部屋からポルノが検出できなかった、ということに気づかなかった僕も僕です。完全な見落としだ。

 ということで、今後の参考のために、押収した同人誌のコピーなどを閲覧したいのですが、どうでしょう?」


「自重しろ。十七歳」

 居合わせた娘が息子にハイキックを食らわせた。



 事件解決からしばらくして。一枚の写真がネット上で話題となった。

 それは、コスプレした二人の男性が、肩を組んで満面の笑みを浮かべている写真だった。目ざといネットイナゴの一匹が探し出したのだという。


 一人は殺され、彼を殺したもう一人が、二人して笑いあっている、この親友たちの写真を。



        ――了――


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすく滑らかな語り口で、手慣れた感じがしました。 [一言] 都筑道夫さんの退職刑事に雰囲気が瓜二つで集中できませんでした。
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