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声文~koebumi~  作者: mimori
第4章 こくはく
7/13

~7~

 *****




 あれ以来、彼からの連絡は一切無いままに、次の金曜日がやってきた。


 今日はお昼の約束もしていない。

 昼を過ぎても、彼が現れる気配は無く、そのまま図書館は閉館の時間を迎えた。



「彼、来なかったね……」


「はい……嫌われちゃったのかな私。やっぱり重過ぎたのかもしれません、あの手紙」



 佑香は今日何度目かも分からない溜息をついた。



「確かに結構分厚かったみたいだけど、便箋何枚分書いたのよ一体」


「十枚分です……て、そういう意味の重いじゃないですよ、先輩」


「いやアンタねえ、それはいろんな意味で重いわ! ラブレターに十枚って」


「やっぱり……そうですよねー……」



 失敗した……自分は小説を書くような気分で書いてしまっていたかもしれない。

 実際に言いたい事は、せいぜい二行程でしかないのに。



「でも、何日かかっても読むって言ってたよね、あの人」


「え、いくらなんでも一週間も掛かるほどの量は書いてないですよ」


「うーん。にしても、気になったんだよねえ、あの一言が」



 確かに佑香も気にはなっていた。あの彼がそんな冗談を言うようには思えない。




「あれ?」



 何気に見た携帯に、着信通知がある事に初めて気が付いた。



「あ……中山さん? 電話くれてたんだ!」



 佑香が慌てて折り返しの電話をかけると、彼はすぐ出てくれた。



『もしもし、天羽さん? 今日はそちらへ顔を出せずにすみません』


「いえ、そんな! あの……えーと、その……」



 勢いで電話をしたはいいが、何をどう話せばいいのか分からない。

 佑香は頭が真っ白になってしまっていた。



『天羽さん、お仕事はもう終わったんですか?』


「あ、はい。もう、今から帰る所です」


『あの、突然で申し訳ないんですが、もし良ければ今からお会い出来ませんか』


「え? 今から……ですか? は、はい、大丈夫ですよ」


『良かった……ありがとうございます』



 心底ほっとしたような声が、電話の向こうから聞こえて来る。

 ほっとしたのは佑香も同じだった。



『じゃあ今からそちらへ迎えに行きますから、そこで待っていてもらえますか』


「はい、分かりました。それじゃあ……待ってます」



 携帯を切ると同時に緊張の糸も切れたのか、佑香はへなへなと床に座り込んでしまった。



「ちょっとちょっと、大丈夫なのアンタ? なんだったらアタシが一緒に居てあげようか?」


「い、いいです。それはさすがに中山さんに悪いし、私もちょっと……」


「まあ、普通はそうだよねえ。じゃあ彼が来るまで付いててあげるよ」


「うう、先輩ありがとうございますぅ~!」

 


 杏子の存在は本当に心強かった。




 佑香たちは帰り支度を整えると、図書館の勝手口から外へ出た。



「あ、こんばんは、天羽さん、安積さん」



 突然、予測していなかった声が聞こえた。

 そこにはすでに彼が立っていた。



「えっ、中山さん? もう来てたんですか?」


「びっくりした! ええっ、来るの早くない?」


「あ、いや、すぐそこのコンビニに居たもので」

 


 全員が一通り台詞を言い終えると、辺りに静寂の糸がぴんと張り詰めた。

 その空気に居たたまれなくなった杏子が「んん!」と、咳払いをした。



「じゃあ、アタシは帰るわ」


「は、はい、お疲れ様でした」



 杏子は佑香の肩をぽんと叩きながら、耳元で「事後報告よろしく」と言い置いて、そそくさと去って行った。



(あ~、先輩、行っちゃった……)



 どうしよう、二人きりになると何となく気まずい。

 そんな中、彼の方が先に口を開いた。



「ちょっと冷えますね。どこかに入りましょうか」


「あ、はい。じゃあ、いつものファミレスとか」


「いや……できれば、あんまり人のいない所の方がいいかな」



 彼の声には覇気が感じられなかった。



(ああ、やっぱり……)



 もう答えは出ているようなものだ。

 佑香は、このまま何も聞かずに帰ってしまいたいような気分だった。

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E★エブリスタ
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