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声文~koebumi~  作者: mimori
第2章 つながり
4/13

~4~

 *****




 足早に図書館を出ると、佑香はそのままダッシュで彼との待ち合わせの店へと急いだ。


 目的地のファミレスが見えて来ると、ウインドウ越しに座る彼の姿が目に入った。

 彼もこちらにすぐ気が付いたようで、にこりと笑いながら佑香に向かって右手をひらひらと振って見せた。

 佑香も笑って手を振り返す。


 店に入る前に、佑香は何度か深呼吸をして息を整えた。

 乱れた髪と服を手短に直すと、店内にいる彼の元へと急いだ。



「すみません、お待たせしてしまいました」


「いいえ、こちらこそ急に誘ったりして。もしかしたらご迷惑だったんじゃないですか」


「め、迷惑だなんて! 嬉しかったです、本当!」


「そうだったらいいんですけど。図書館内だと、渡すタイミングが掴めないなと思ったもので……本当にすみません」



 彼は鞄から封筒を取り出すと、すっと佑香に差し出した。



「わあ……ありがとうございます。大切にしますね」



 佑香は大事そうにその封筒を抱きかかえると、そっと中を覗き込んで嬉しそうに微笑んだ。

 その反応を見て、彼も満足そうな顔をした。



「あ、何か頼んでください。今日は僕が奢りますから」


「え、いいですよ、割勘にしましょう」  


「でも、僕が誘ったんですから。まあ、ファミレスでこんな事を言うのも何ですけど」



 男の人相手に、これ以上断ると逆に失礼かもしれない。



「はい、じゃあ……お言葉に甘えて」


「良かった」



 彼はにっこりと笑った。



「僕、いつもはこの辺りで簡単に昼食を取って、それから図書館に寄っているんです」


「ああ、だからいつもあの時間なんですね」


「フリーのイラストレーターなんて不定期な仕事だし、収入も少ないから毎日バイト漬けですよ。まあ一人暮らしだから気楽にやってますけど」



 その言葉に佑香は思わず食いついた。 



「一人暮らしって事は、独身でいらっしゃるんですか?」


「あれ、僕って結婚してるように見えますか」


「あ、いえ……いつも絵本をお借りになるので、もしかしたらお子さんがいるのかなと」



 おずおずと答える佑香の言葉に、彼は一瞬呆気に取られたようだったが、すぐにプッと噴き出した。



「あはは! あーそうか、なるほどね。そんな風にとられてるとは思ってもみませんでした」


「ご、ごめんなさい。失礼でしたよね、そんな事考えたりして」


「全然謝るような事じゃないですよ。でも、僕は子供どころか結婚もしていないし、残念ながら彼女すらいません」


「え、いないんですか……彼女」


 


 彼女:現在はナシ




(子供どころか彼女もいなかったなんて……これって喜んでもいいのよね?)



 思わぬ情報と、僅かな希望をまたゲット出来た。



 昼休みは短すぎる。

 彼との楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまった。


 佑香は携帯を見ながら、残念そうに溜息をついた。



「もうこんな時間。私そろそろ戻らないと」


「そうですか、今日は付き合って頂いて本当にありがとうございました」


「こちらこそ、絵本を頂いた上に奢ってもらっちゃって」


「僕の自己満足ですから、気にしないで。ほら、遅れるといけないからもう先に出て戻って下さい」



 彼は流れるような動作で伝票を取ると、そのままレジへ向かおうと立ち上がった。 



「あっ、あの、中山さん!」


「え?」



 立ち止まった彼に、佑香は勇気を出してこう切り出した。



「もし良かったら、またお昼をご一緒したいんです。それでその、だから……」



 手にしていた携帯を彼の方へと差し出して言った。



「メアド、交換してもらえませんか?」


「あ……えーと」

 


 彼は少し困ったような顔をした。



「……すみません。携帯は持ってるんですけど……僕、メールはしないんです」



 ずん、と気持ちが重く沈む。落胆の色を隠せない。

 遠まわしに断られているんだと佑香は思った。



「そう……なんですね。あ、ホントごめんなさい、私ったら調子に乗ってしまって」


「そ、そうじゃなくて……あの、ちょっと待って下さい!」



 そのまま携帯を鞄に戻そうとした佑香を、彼は慌てて制止した。



「電話なら……携帯番号ならお教えします。それでも構いませんか?」


「……え?」

 


 一瞬、どういう事なのか分からなかった。

 メールはダメでだけど、電話はOK……そういう事?


 そんな疑問を察してか、彼が心配そうに聞いてきた。



「やっぱりダメですか。今時メールが出来ないとかって」


「あ、いえ! そんな事ありません! よろしくお願いします!」



 何だかよく分からないが、断られている訳ではないようだった。


 メールの方が敷居が低くて楽なのだが、電話ともなるとそう安易には掛けにくい。

 この分ならLINEもやっていないだろう。

 番号が分かるならSMSも送れるが、どうやらそれも迷惑になりそうだ。


 けれど、これで彼との繋がりは出来た。



「すみません。本当はメールの方が良いんでしょうけど」


「いえ、そんな事ありません! どうもありがとうございます」



 自分の携帯に彼の名前と番号が記されている。

 それだけで、小さな幸せを手に入れたような気分になれた。

 


「じゃあ、早く戻った方が良いですよ。僕もこれからバイトです。今日はシフトを代わってもらっているので」


「もしかして、この時間の為にですか? す、すみませんでした」


「いやだな、何で謝るんですか。誘ったのは僕なのに」


「でも……」



 なんだかんだで、案の定佑香は戻るのが遅れてしまい、先輩からくどくどと文句を言われる羽目になった。


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E★エブリスタ
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