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佑香が待ちに待った、次の金曜日がやって来た。
彼はいつも昼過ぎにやって来る。
まだ時計は午前十時を示していた。
(あーあ、早くお昼過ぎにならないかなあ)
そんな事を考えながら、佑香はふと自動ドアの方へ目をやった。
「え!?」
思わず声を出してしまい、慌てて手で口を押さえた。
自動ドアが開いて、彼が入って来るのが見える。
佑香の驚く様子を見たのか、少し笑いを堪えたような顔でいつものようにぺこりと小さく会釈をしてきた。
「あの、すみません、席を外してもいいですか? ちょっとお手洗いに……」
先輩にそう断って、佑香はそそくさと貸し出しカウンターから出て行った。
「あ、天羽さん、おはようございます」
「お、おはようございます。今日は早いんですね。てっきりいつも通り、お昼過ぎに来ると思っていたので」
「それであんなに驚いてたんですか」
やっぱり見られていた……佑香は無性に恥ずかしい気持ちになった。
「天羽さん、今日のお昼休みって空いてますか?」
唐突に彼がそんな事を聞いてきた。
「え? あ、はい?」
佑香は何だか間抜けな返事をしてしまった。
けれど彼は気にする風もなく、そのまま話を続ける。
「せっかくだし、良かったら外でお昼をご一緒させてもらえませんか。本もその時にお渡ししたいので」
「は……はい、喜んで。え? その為に今日はこんな時間に来て下さったんですか」
「そうですよ。お昼過ぎちゃったら意味がないですから」
まさかそんな事になるとは夢にも思わなかった。
嬉しすぎて気絶しそうだ。
時間と場所を示し合わせると、佑香はそそくさと持ち場に戻った。
そのすぐ後に、彼はいつものように絵本を持って貸し出しカウンターへとやってきた。
「○月○日までにご返却ください」
いつもと同じように佑香は言った。
「ありがとう。じゃあ、また」
「はい、また」
その台詞はいつもと少しだけ違っていた。