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そんな中、そっと彼の腕が伸びてきて、佑香の身体がグイと引き寄せられた。
(え……?)
佑香は何が起こったのか一瞬分からなかった。
彼の大きな腕が佑香を包み込むと、息が詰まる程に強く抱き締めてきた。
「すみません、天羽さん……僕はあなたにそんな答えを期待していませんでした。何が何だか分からない……どうしようもなく……嬉しくて――」
彼の心音とその言葉が重なって聞こえる。
何が何だか分からないのは、佑香も同じだった。
「それって……信用してもらえたんですか、私……?」
「こんなに真剣に怒ってくれる人を、疑ったりなんてできません。本当に……ありがとう」
「じゃあ、いいんですか? 私があなたの傍にいても?」
「もちろんです。お願いします、どうか僕の傍にいて下さい」
佑香の涙は止まらない。
そのまま彼の胸に顔を埋めて泣き続けている。
「あの、天羽さん、まだ許してもらえませんか? 僕は本当にあなたの事――」
「ち、違うんです……これは……嬉し泣き、なんです」
ほっとした彼の顔が優しく緩む。
「良かった……」
彼はもう一度佑香を抱きしめ直そうとした。
そこでふと何かに気付くと、佑香から少し体を離した。
「そういえば天羽さん、上着はどうしたんですか?」
「え、あ……持って出たつもりだったんですけど、慌ててたから……どこかに落としたのかも」
「一旦来た道を戻りましょう。もしかしたらさっきの喫茶店にあるかも」
彼は自分のコートをふわりと佑香に掛けてくれた。
「とりあえず今はこれで我慢してくださいね」
「が、我慢なんて! でも、これじゃ中山さんが……」
「大丈夫ですよ。あの喫茶店からそんなに離れていないし、こうすれば僕も温かいから」
そう言って佑香の肩を抱くと、ゆっくりと歩き出した。
当たり前のように接してくる彼の行動に、佑香はいちいちドキドキとした。
(でも、本当に温かい――)
夢なら覚めないでほしい……そう思わずにはいられなかった。




