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呪術師とチョコレート。  作者: 雪麻呂
四人坊主は祈らない
32/46

なにも心配はいらない

24.






 想像してみてほしい。

 たとえば直径二メートルの砲丸が、がばっと鈍角にまで口を開けて、自分を呑み込もうとしてきたら。あなたなら、どうするだろうか。

 わたしだったら、動けない。頭を庇うか悲鳴を上げるか、それぐらいはするかもしれないけど、次のシーンには、あっさり相手の腹に収まっていると思う。普通、そうだよね。映画じゃあるまいし、丸腰の一般人なんだから。

 だけど、紫音さんの取った行動は、驚くべきものだった。

 掌底である。

 飛び掛かった眠り蛇の下に滑り込み、掌底で腹を突き上げたのだ。

 ドン、という物凄い音がした。どんな威力だったのか、眠り蛇の身体がバウンドする。間髪入れず、膝蹴りと共に両の手刀が叩き込まれた。


『が……ッ!?』


 「へ」の字に曲がった眠り蛇が、呻き声を上げた。奴に骨があったら、ヘシ折れる音も聞こえただろう。

 紫音さんは、まだ解放を許さない。両手で奴の頭の付け根を抱き込み、衣の袖を使って、締め上げる。びたんびたんと、粘液を撒き散らしながら、太い尻尾が地面を打った。


「あ」


 手が滑った。

 すかさず眠り蛇が、ぬるりと抜け出す。


『何者だ、貴様!?』


 たっぷり三メートルは離れて、眠り蛇が叫んだ。


「だから一介の僧なのだよ」


 今度は、紫音さんが飛び掛かる。

 というか、飛んだ。

 跳んだ、のではない。本当に飛んだ。

 助走もなく、ふわり舞い上がった長身。虚を突かれて、眠り蛇が硬直する。紫音さんは、その一瞬を逃さなかった。くるりと転身、急降下して、眠り蛇の脳天に、綺麗な踵落としを食らわせる。

 ドン。と、また衝撃音が響いた。花火か太鼓のような、重量を感じさせる音だ。併せて、奴の喉からも苦痛の声が漏れる。もしかして直接、呪力をブチ込んでるっていうのか。先輩みたいに、物理で?

 反動を利用して、今一度、紫音さんは宙に舞った。より高く。

 僧衣が捲れ、夜目にも真っ白な太腿が露わとなる。


 ――ちょっと。

 さっきから、重力、仕事してない。

 なにこれ。なんなの? 紫音さんの動き、おかしいんだけど。まるでCG。速度も跳躍力も、対応力も、ありえない。合気道の有段者とは聞いていたが、もうそんな次元じゃないだろ。最初の超反応からして、人間離れもいいとこだ。

 紫音さん、あんな化物と、肉弾戦してる!


「訊かれなかったから、言わなかったけれどね」


 長い黒髪と紫の衣が、ふわりと月にシルエットを描いた。


「なにも他者を操るだけが言霊の使い方ではないのだよ」


 再び、急転直下。ぶにゅっと嫌な形に凹んだのは、また頭だった。弱点と判断したのだろうか。執拗に狙ってる。そりゃまぁ、攻略法としては正しいけどさ。ちと無慈悲が過ぎやしませんか、紫音さん。

 と、半分相手に同情しかけたわたしだったが、そこは敵だ。やはり情けは掛けるべきではなかった。

 どんな構造をしているのか、頭を踏み潰されたままの状態で、眠り蛇が太い尻尾を振るったのだ。

 紫音さんは、グリコポーズそっくりの不安定な姿勢。

 それでなくとも背後からの反撃、避けきれなかった。


「ぐっ」


 脇腹に尻尾の直撃を受け、紫音さんが、初めて唸った。長身が傾ぐ。吹っ飛ばされはしなかったものの、あれは相当に重いはずだ。踏ん張った足が、ざざっと砂煙を上げる。まずい。倒れたら、奴がマウントを取りに来る。

 あわや横倒しか、と息を呑んだ、そのときだ。

 紫音さんの白い腕が、尻尾を抱えた。

 防御――ではない。なんと紫音さんは、奴の体重と勢いを生かし、ここでまさかの一本背負い。気合いの声と共に、眠り蛇の巨体をブン投げてしまった。


「はぁっ!」


 引っ繰り返った腹を目掛けて、更に容赦のない踏み蹴りが放たれる。

 しかし、眠り蛇もしぶとい。ぐにゃりと身体を捩って、これを躱した。紫音さんの足が、ほぼ同時に、地面へと足形を残す。惜しい。あぁもう、ぐにゃぐにゃ鬱陶しいな。ウナギか、こいつ。


『これは……貴様……よもや』


 学習能力を発揮して、眠り蛇は、さっきよりも長い間合いを確保した。

 頭は、何事もなかったかのように元通りになっている。

 こいつも人間じゃ……なかったな、最初っから。

 つーか、今更だけど、蛇だったのか。てっきりオタマジャクシだとばっかり。


『よもや、己の身に言霊を』

「正解」


 乱れた長い黒髪を掻き上げ、紫音さんは短く答えた。


「相手に通じぬのならば、己に命じるまで。この身よ天狗となれ、とでもね」


 自分に言霊!?

 そ、そんなことできたの……?

 初耳だが、一見に如かずである。ご覧の有様である。こいつ人間じゃねぇという感想は、そのものズバリ当たっていたのだ。今の紫音さんは、身体こそ生身の青年でありながら、内部データ的には人外、それも明らかなチート。

 本当に《天狗》ってわけだ。

 だけど、それって自分自身を呪うってことだよね?

 いろんな意味でゾッとした。


「肉体を得たのは不運だったね。物理干渉を許すことになるのだから」


 合気道の構え(先の自供によれば、これは詐欺罪に相当するのでは?)を取った紫音さんの全身から、黒い煙のようなものが立ち上る。

 呪力だ。物凄く強い。素人のわたしにも見えるほど具現化してる。


「このままじわじわ嬲り殺されるのが望みかね? それとも、大人しく調伏されるかね? 好きな方を選びたまえ」

『ほざけ! 人間風情が、いい気になりおって!』


 ぐわり、眠り蛇が鎌首を擡げ、奴もまた邪念を纏った。

 両者の周囲に満ちた憎悪は、月下の薄闇にあって、尚暗い。或いは巨大な鎌か、或いは牙を剥く猛獣か。互いに互いの生命を刈り取らんと、相手を威嚇し、自身を誇示し、二つの力が、有りっ丈の気迫で睨み合う。

 なんという殺意の応酬。

 ごく、と渇いた喉が鳴る。実は飲み込む唾なんて、とっくの昔に枯れていた。

 おんおんと不吉な声を絡ませて、強く風が吹き抜ける。紫音さんの長い黒髪は、生き物のように乱れて踊り、波打つ海藻めいて、邪念の海に漂うのだった。


「ならば仕方あるまい」


 紫音さんが、これみよがしに溜息を吐いた。


「私の大切な者達を傷付けた罪は重い。死して償ってもらおう!」

『死ぬるのは貴様だ! 阿呆が!』


 両者、同時に地を蹴った。

 図らずも、タイミングは完璧に一致。真っ正面からいった。ガチのガチンコ対決だ。テレビで見た相撲の立会いが、頭を過ぎる。力士相手なら四つにでも組む流れだが、こちとら巨大な頭を持つ蛇との大一番。この角度は鬼門ではないのか。

 前傾姿勢の紫音さんに対して、案の定、奴は大口を開けて待ち構える。

 だが甘いぞ。仮にも仇志乃の長兄が、考えなしに特攻するわけないだろ。

 果たして紫音さんは、微妙に進路をずらして、難なくこれを躱し――


 ――ドン。


 奴の喉元に、かの有名な西部式ラリアットを見舞った。

 そりゃあもう本家不沈艦もウィーと喜びそうな、美しくも猛然たる一撃である。双方、全力前進のすれ違いざまに、この反動だ。さすがの巨体も、衝撃で宙に浮き上がった。首がもげないのが不思議なくらい、ヤバい音がした。

 相手が人外で良かった。人間なら、通り魔殺人事件として明日の朝刊一面を飾っただろう。

 けれども、紫音さんの狙いは、その無防備に晒された腹ではない。

 喉だ。

 急所と思しき場所は、もれなく潰していく意向か。実に紫音さんらしい。

 もうどっちが人外やら、格ゲー顔負けのモーションで、しゃがみジャンプに絡めた跳ね上がりアッパーが、眠り蛇の喉を突き上げる。


 ――ドドドドドドン!


 なっ、七連撃!?

 打ち上げられるみたいに、眠り蛇が夜空へ運ばれてゆく。

 そろそろ慣れ始めていたわたしも、これにはビビった。だって、全然見えなかったんだもん。音だけが、少し遅れて聞こえた。速い。今までも人間じゃなかったけど、これは卒業しちゃってる。あっちの世界の住人だ。

 だがしかし、眠り蛇も化物なのだ。やられっぱなしではなかった。すぐさま体勢を整え、反撃に出る。

 体勢といっても、巨大オタマジャクシのことだ。手も足もない。単に大口を開けて噛み付く、という極めてシンプルな攻撃(口撃?)である。

 けれど、一点特化とは、他の欠点に目を瞑りさえすれば「最強」の意味。

 結果として、足場のない空中で、その効果は絶大だった。


「危ない!」


 声を上げたのは、わたし。

 直径二メートルを超す巨頭がほぼ真っ二つに割れ、ワニのような機敏さで、紫音さんを狙った。

 ばくん!

 初撃を躱した紫音さんに、ホッと息を吐く。しかし、それで終わるわけもない。上体を傾けたそこへ、腰を捻った傍から。四撃、五撃と、次々に連続する猛攻が、紫音さんを襲う。

 ばくん、ばくん、ばくん!

 守るにせよ攻めるにせよ、先述の通り、空中戦。足場が不安定すぎる。どうにか避けてはいるものの、かなり際どい回避だった。ハラハラする。あんなの、一撃でも食らったら即死エンド待ったなしだ。

 その威力たるや、想像に難くない。あまりの重さと素早さに、己の身体すら振り回されているのではないか。裂けた口が開閉する度、妙なリズムで引っ張られる後半身は、さながら高速尺取虫。

 ビチャビチャと撒き散らされる粘液が、遠目にも吐き気を催す。


 ドン。


 上手い。ちょうど口を閉じる瞬間を読んで、奴の脳天に肘打ちだ。

 反動を利用して、紫音さんが背後を取った。白い脚は僧衣を翻して弧を描き、無防備に伸びきった奴の背中を真上から、ベストショットで蹴り落とした。

 黒い巨体が衝突し、僅かながらも地面が揺れる。

 そこへ、最早お約束の追撃。紫音さんの爪先が、眠り蛇の頭を踏み潰した。




 ――ジュッ。




 予想と大きく異なる音に、わたしの肩がビクッと跳ねた。

 え、なに? 今の音?

 なんで急に音が変わったの?

 脊髄反射でビビった。考えるよりも先に、身体が反応した。さっきまでの、太鼓みたいな重低音じゃない。もっと身近で一般的な。なんなら、わたしにも聞き覚えがあるくらいの。誰もが知っている音、だった。

 でも、だからこそ、おかしい。

 それなら、こんなシチュエーションで鳴るはずがない。


「紫音さん……?」


 無論、返事などしている余裕はなさそうだ。頭を潰された眠り蛇が、長い胴体をのたうち、激しく暴れる。振り落とされる前に、自ら跳躍した紫音さんは、しかし距離を取ろうとしたのではなかった。

 眠り蛇のすぐ脇に着地して、その後頭部へと回し蹴りを打ち込んだのだ。


 じゅっ。


 今度は、はっきりと見えた。

 紫音さんの脚と眠り蛇が接触した、その部分。

 一瞬だが、火花が散って、蒸気が爆ぜた。

 やっぱりだ。


 これ、熱したフライパンに水を入れたときの音……!


 的中してしまった不安が、たちまち冷や汗に変わって、額を伝った。はだけた衣から覗く紫音さんの脚。滑らかで真っ白で、傷一つなかったはずの、美脚。遠くて確認できないのは、却って良かったのかもしれない。

 だって、もう何度、紫音さんは眠り蛇に触れただろう?

 いくらチート覚醒したといっても、紫音さんは人間だ。身体は生身なのだ。素手で「熱したフライパン」に触ればどうなるか。それこそ、火を見るよりも明らかではないか。

 紫音さん――!









 尻尾の反撃を警戒してか、紫音さんが、後方に跳び退る。着地の瞬間を狙って、巨体が大口を開けて突進する。いなす。

 ジュッ。

 滑り込ませた脚が眠り蛇の腹を掬い、シャチホコの形に浮き上がった下腹部へ、裏拳が叩き込まれる。

ジュッ。

 聞くに堪えない音と、人間の焦げる臭いが、二度三度と火花を散らす。あまりの痛々しさに、わたしは両手で顔を覆った。

 眠り蛇の纏う呪詛の作用か、奴自身が高温を発しているのか。どちらにしても、結果は同じ。炎属性のボスに近接攻撃を仕掛ければ、火傷のダメージが跳ね返ってくるのは道理だ。どんなゲームだって、そうだ。

 ゲームなら、初見で負けても、対策を練って再戦が可能だ。仲間にヒーラーでもいれば、回復しながらゴリ押しという方法もある。でも、紫音さんは、ひとり。言うに及ばず、コンテニューなんて存在しない。敗北は即、死を意味する。

 それでも紫音さんは、決して、攻めの手を緩めようとはしなかった。

 どうして。


 ザワザワと、不安がうなじを駆け上る。


 どうして。

 どうして紫音さん、防御しないの?

 呪力は、使用者の意思次第で、武器にも防具にもなる。彼ほどの呪術師ともなれば、たとえば半分を攻撃に。もう半分を防御に。効率的に割り振って、ダメージを抑えることだってできるのに。防御無視で攻め続けているのは、どうして?

 どうして、そんなに急ぐの?

 ううん。違う。そうさせているのは、なに?

 そもそも、紫音さんが、これだけ全力の攻撃を叩き込んでるっていうのよ。

 どうしてアイツ……倒れないの?

 全然平気でピンピンしてるの?


 抱いてしまった違和感。じわり汗ばむ首筋に、一筋の懸念が混じる。

 それは唐突に濃度を増した腐臭を含み、ある種の負の予感へと進行して、胸騒ぎに輪を掛けた。

 駄目よ。

 焦っちゃ駄目、紫音さん。

 だってあなたの眼は。

 紫音さんには、地形や障害物は見えない。見えていない。わかるのは、眠り蛇の動きと位置だけだ。歩幅などで計算はしていたのだろうけれど、それだって正確ではない。言ってしまえば、勘の領域。少しでも狂ったら。

 一撃でも食らったら、取り返しが付かない!

 瞬きも忘れて、わたしは、紫音さんの挙動を凝視した。


 眠り蛇の攻撃を躱すべく、横飛びに踏み切ろうとした脚が、縺れた。らしくないミスだった。集中力を欠いた直後、ぶるんと振るわれた尻尾が、丸太のように紫音さんの腰を薙ぎ払う。

 じゅうっ。

 長身が吹っ飛んで、地面に叩き付けられる。

 転がりながらも受け身を取った紫音さんは、脇腹を押さえて半身を起こす。

 あろうことか、そのときだった。

 わたしの懸念が現実となってしまったのは。

 すぐ傍まで迫る眠り蛇に、紫音さんは、一歩を踏み込んで間合いを計った。だが其処には、運悪く、大きな亀裂が走っていたのだ。躓いた長身が前につんのめるのと、眠り蛇が口を開けたのは、ほぼ同時だったと思う。


『阿呆が!』


 次の瞬間、奴は、紫音さん目掛けて、真っ黒な粘液を吐き出した。


 ――じゅぅううううぅっ!


 全身に粘液を浴びた紫音さんの身体から、悲痛な音と煙が爆ぜた。

 高い呪詛的防御力を誇る鎧である衣が、みるみるうちに溶けて焦げ、穴だらけになってゆく。髪の毛と皮膚の焼ける、強烈な臭い。

 溶解液。ふと浮かんだ単語に、血の気が引いた。


「くっ………」


 紫音さんが、片膝を着いた。初めて。

 間一髪、両腕を盾としたことで、顔面への直撃は免れている。けれど、代わりに僧衣から露出した脚は、腕は、あんなに綺麗だった黒髪は、ブスブスと焼け爛れて燻り、火災現場のマネキンのような絶望感を以て、静止したままだった。


『ははははは! 死ぬるのは貴様だ! 阿呆が!』


 割れ鐘のような哄笑が鳴り響く。

 ずるり。黒い大蛇は頭を擡げた。

 仰々しい影が、舌なめずりで獲物を見下す。

 眠り蛇。

 なんと厄介な相手であることか。この期に及んで、ようやく腑に落ちた。奴は、タフなのだ。化物なのだ。スピードや手数で紫音さんに劣るものの、それを補って余りある体力、呪力、防御力。耐久力を持っている。

 長引けば不利。

 紫音さんは、知っていたの?

 あぁ、疲弊しているのは、むしろ――


『その傷では動けまい。遊戯は終いだ。刻限ぞ』

「そうだね。時間が……来たようだ」


 構えを解いた紫音さんが、深く息を吐いて、頭を垂れた。

 ……え?

 ちょっと、うそ。

 なに言ってるの紫音さん。

 諦めちゃうの?

 ううん、そんなわけない。嘘よ、嘘。

 わたしは待った。紫音さんの次の行動を。油断させて隙を突くか、裏を掻くか。なにか考えがあるはずだ。いつだって二手も三手も先を読む彼のこと、これは作戦だ、そうであるべきだ。どうにか自分に言い聞かせようとした。

 けれど、その一方でまた、理解していた。

 無理だ。

 だらりと力なく下ろされた両腕。小刻みに震える脚。

 溶けて破れた衣は、全身に負った大火傷を隠せないほどにズタズタで。

 あんな身体の、何処に余力があるっていうの。


「にっ……に、逃げて! 逃げてください!」


 ようやっと絞り出した声は、届いたのだろうか。

 紫音さんが、此方を振り返る。

 その唇が、たぶん、静かに綻んだ。


 心配ない。


 毅然として立ち上がり、紫音さんは夜空を仰いだ。

 折しも向かい風。長い黒髪が、月光に鷹揚と靡く。

 その横顔は、強く、優しく、しなやかで。妖艶なまでに美しい。

 きっと、微笑んでいるのだ。

 あの不敵な表情で。

 眼を逸らすことも叶わず、わたしは、一部始終を見守った。恐怖と不安。焦燥と諦念が、定めしチリチリと頭の片隅を焼いている。だけど、この人なら。打破してくれるかもしれない。そんなものは、ブッ壊してくれるかもしれない。

 ずっと仇志乃の家を守ってきた、この人なら。

 心配ない。

 この人が、言うのなら。


「さぁ、ここでもう一押し。図に乗らせてもらおう」







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