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山菜取りの話し

作者: ドングリ

山菜取りの話し。


Aさんは早期退社して憧れの田舎暮らしを始め、近所のBさんと良く山菜取りに出かけていた。

Aさんはその日もBさんと行く約束をしていたが、Bさん宅に行くと急に葬儀が入ってしまい行けなくなったとの事。

トレッキングも兼ねた山菜取りは田舎暮らしならではの楽しみでこの時期しか出来ない。Aさんは、一人で行ってみたいとBさんにお願いしてみると、もう何度も行っているし、一人でも大丈夫だろうとBさんは了承し、いつもの「山の掟」を必ず守って安全に行って来いと言ってくれた。

「山の掟」とは

「山の物は神様の物だから欲張らない」

「墓を見ても拝んではいけない」

「傘雲は神様が降りて来ている合図、直ぐに山から立ち去る」

の三つだ。

一つ目は、資源を取りすぎて山を荒らさないために神の名を使っているのだろう。二つ目は、信仰の違いが有るから無闇に拝んでも失礼になるからだろう。三つ目は、山頂で雨が降ると危険だから下山を促すためだろう。

Aさんはこの「掟」が大好きだった。他所者は知らない、土地に住む者だけが知る「掟」は、仲間として迎えたられた証に感じるからだ。

Bさんはあたふたと準備を終えると葬儀に出かけて行き、Aさんは熊と猪対策の番犬を借りて早速山へ出た。

山へ来たAさんは、Bさんに言われた条件を守りながら無事もなく収穫やトレッキングを一通り楽しんだ。時計を見ると時刻はまだ少し早かったが、一人だし無理は禁物なので下山する事にした。

しかし、車へ向かう途中、犬が急にしゃがみこみ、うずくまってしまった。さすっても撫でても「ク~ン」と弱々しく鳴くだけで動く様子もなく、Aさんは仕方なく犬を抱えて山を降り始めた。しかし、収穫物や荷物を背負いながら犬を抱えての下山はとても大変で、時間に余裕も有るのでAさんは暫く休んで犬の回復を待つことにした。


新芽の香りと小鳥のさえずりがそよ風から伝わり、新しい季節への移り変りを清々しく迎える。Aさんは心地良い疲れと達成感から気が緩み、うとうとしてしまった。

気がつくと時計のアラームが鳴っている。犬はまだうずくまっており歩けそうになく、仕方なく再び犬を抱えて下山した。

Aさんは焦っていた。さっきのアラームはBさんへ連絡を入れる時間の合図だった。しかし、携帯電話の電波が繋がらず連絡が出来なかったのだ。うたた寝しなければ既に電波の繋がる車を停めた場所に居たはずなのに…。このままではBさんに心配を掛けてしまう。急ぐ気持ちと、犬を抱えてなかなか進めない苛立ち…、Aさんは焦るあまり、つづら折りの山道を直線的に降りたり、無理な近道を繰り返し、いつの間にか道を間違えていた。

知らない場所に来てしまったAさんでしたが、こんな場合もBさんからきちんとレクチャーされていた。一旦冷静に落ち着き、「Bさんには心配を掛けてしまうが、後から謝罪すれば良い」と、現状を確認し、辺りを見回し現在地を地図で確認し始めた。

その時、携帯電話の着信音が鳴った。

A「電波が繋がっている!かなり下まで来ているぞ!」

Aさんは喜び勇んで電話に出てみる。

A「もしもし!Aですが!」

C「××村消防団のCですが、Aさんですね」

心配したBさんが消防団に連絡してくれたのだろう。Cと名乗る電話の相手に現状とあやふやな現在地を伝えると、CはAさんの居る場所はおおよそ見当がつくとの事。下山は大変なので指示する先で待っている様に言われた。Aさんはそれにに従い、一旦道を戻り再び山を登り、指示された場所に着いた。

そこには古びた廃屋が建っていた。恐らく昭和初期に建てられた寺だと思われる。Aさんは寺の前に座り今日の反省をしながら犬を撫でていた。

A「そういえばCは××村の消防団と名乗っていたが、××村はかなり前に合併して無くなっているはずだけど聞き間違えたかな?、しかし山奥のこんな場所に何で寺が?」

そう思っていた矢先、再び携帯電話が鳴った。

C「指示した場所に着きましたか?、こちらも向かっているがもう少しかかるので、良かったら寺の裏に墓地があるので手でも合わせていて下さい。」との事。

日が暮れ始めいつの間にか風が強くなっている、夜になれば山の気温は10℃前後になり、今の装備では低体温症になる恐れがある。生い茂った雑草と絡み付いた蔦が廃寺をより不気味に演出し、焦りがぶり返してきたAさんは、携帯電話のバッテリー量を確認してみたら 、ふとおかしな事に気づいた。携帯電話は 「圏外」のままだったのだ…。


AさんはBさんに電話してみたが当然繋がらない。Cに連絡してみようにも何故か着信履歴が載っていない。

A「圏外なのになぜCは電話してこられるんだ?こんな状況なのに墓へ手を合わせてろだと呑気だし、そもそもこんな日暮れ時に山へ登る捜索をしてくれるのか?Cは何かおかしい…。」

不安と焦りがAさんの苛立ちを掻き立て初めていたが、それを紛らわすには手持ち無沙汰だ。


再び着信音が鳴った。

C「まだ墓地に来ていませんねえ、もう少しで迎えに行きますから手を合わせて下さい。」

A「こんな時にあんた何言ってるんだ‼、墓地なんか拝んでる場合じゃないだろ…!?。」

Aさんは「はっ」とした。

Bさんから今朝言われたあの「掟」を思い出したのだ。

「墓を見ても拝んではいけない」

A「あの「掟」の意味はこの事だったのか!」

Aさんは、Cに感じる異様な雰囲気が恐怖に代わり、ゆっくり電話を下ろし通話を切った。


が、Cの声はまだ聞こえている!

C「手を合わせて下さいよお、すぐ近くまで来てますからあ。」

遠くから何かが近づいてくる気配がする!

C「手を合わせてよおおお。迎えに来たからあああ。」

Aさんは蒼白になりながら携帯電話を投げ捨て犬を強く抱きかかえて身構えた。Cの声以外にも何人かの声が雑じりだした。「手を合わせてろおおお…。てを おおお…。」

バキバキと小枝を踏む音と共に茂みをかき分け何人も近づいてくる!Aさんは声に成らない声を発して逃げ出した。



後日談


二日後、Aさんと番犬は地元民が結成した捜索隊に発見された。衰弱が激しく立つ事は出来なかったが、お互いの体温で寒さを凌ぎ低体温症は免れ、奇跡的に打撲やかすり傷程度の怪我で済んでいた。

あの廃寺はBさん達や猟師の間で有名な話しで、昔、罪人やはみ出し者の無縁仏を可哀想に思った僧侶が山の麓に寺を建てて供養していたが、僧侶の死後、寺は朽ちて忘れ去られ地図からも消え去っていったのだとか。しかし、罪人の魂はなかなか成仏できないため、念仏を唱えてくれる者を欲して幻の寺と墓地は山中に現れるらしい、そして拝んでしまった者は生きて山を降りられないと言う噂だった。

ちなみに捜索隊はものすごい力が加わって、ひしゃげたAさんの携帯電話も発見していた。


終わり

お読み頂き有り難う御座います。

始めて投稿したので色々と読みにくい部分が有ろうかと思いますが、愛着もある作品です。

「つまらない」「ダメ」でもかまいませんので感想を頂けたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わかりやすく、ハッキリと怖さを感じれるのでいいと思います。 [気になる点] 読解力がないからなのか、なぜ携帯がひしゃげていたのかわかりませんでした。 [一言] 楽しみにしてますので、がんば…
[良い点] 初読の感想ですが、ぞっとする怖さを感じました。 「オマジナイの話」を読ませていただいた時も感じましたが、 話の構成をしっかりされている印象を受けました。 なるべく短い文章で端的に表現される…
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