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その142 どいつもこいつも、吊るすしかありませんわね!

 

 

 

 シャリエ邸でエミールと一緒に朝食を済ませ、そのままハナコに乗って王宮までお散歩。

 ゆっさゆっさとゾウの上で揺られながら王都を歩くのは大変気持ちが良く、パレードでもしている気分だった。

 うん。ゾウ、いい。最高だ! ライオン教から改宗しようかと迷うほどである。


 あまりにも目立つので、王都の人々も避けて歩いてくれるのが良い。

 それどころか、ゾウに乗ったエミールを見て、

「勇敢なる獅子王子様だ!」

「今日はユーグ様と一緒ではないのかしらぁ!」

「すごい! 新刊が楽しみだ!」

 と、市民からも讃えられていた。

 ヴァネッサの小説効果は、もはや宗教レベルである。


「不思議能力だけではなく、珍獣使いだなんて……羨ましいチートですわ」

「ちーと?」

「素晴らしい才能をお持ちだということですわ。羨ましい限りです」

「そ、そうかな……僕、強い?」

 強いかどうか問われて、ルイーゼは口をすぼめる。

「まあまあですわ。エミール様自身は軟弱ですから」

「そ、そっか……僕、もっとがんばるね!」

 なにをがんばるのだろう。意気込むエミールに、ルイーゼは息をついた。

「お嬢さま、よろしゅうございますっ! 出来れば、引き摺ってくださったら最高でございますッッ!」

 ゾウの上から縄で吊るしておいたジャンが微妙にうるさい。


 そんな話をしている間に、王宮へ着く。

 エミールはハナコから降りて、鼻をなでなで。ハナコが嬉しそうに、「ぱぉぉおおおおん!」と鳴いた。

 エミールの帰りを待っていたのか、ユーグが出てきて「もうっ! 私も一緒に連れて行ってよね。殿下の専属騎士なんだからっ!」と、ぷりぷり怒っている。


「ルイーゼ。今日はなにする? お勉強? それとも、う、馬?」

 馬? と聞きながら、エミールは目に涙を溜めていた。

「馬も悪くありませんが……その前に、わたくし、気になっていることがございますの」

 エミールが首を傾げていた。

 ルイーゼは少しだけ笑って、エミールの頭に手を伸ばす。


「心配しないでくださいな」

 柔らかいブルネットの髪を撫でる。なんとなく、こうしたくなってしまったのだ。

 エミールの背丈が伸びたせいか、つま先立ちになってしまったが、まあいいだろう。

「ちょっと確認したいだけです。一緒に来ますか?」

「うん!」

 二人を見て、ユーグが腕を組んでニヤリと笑っていた。その様子が若干癪だったので、ルイーゼは唇を尖らせる。


「なんですか?」

「ううん。姐さんが、ちょっとだけ進歩しているかもしれないと思っただけよ」

 意味深である。ルイーゼがブスッとした表情を浮かべると、ユーグはますますクスクス笑う。解せない。

「とりあえず、参りましょう」

 コホンと咳払いして話を区切る。

 あまり大人数で行くような場所ではないかもしれないが、まあいいだろう。門番(・・)を説き伏せるのは容易である。



「ということで、陛下。わたくし、宝物庫を見たいので通してください」


 満面の笑みで単刀直入に言うと、アンリがポカンとしていた。


「聞き間違いかな、公爵令嬢?」

「ちょっと見学したいだけですわ」

 エミールがいたお陰で、アポなしでも楽に国王の執務室に入ることが出来た。

 エミールに「父上、遊びに来ました!」と言わせると、二つ返事で「では、亀甲縛りだ!」と返ってくるチョロインっぷりである。


「私は忙しいのだ。また今度にしなさい」

「あら。エミール様とは遊ぶつもり満々でしたのに、お忙しいのですか?」

「ぐ……!」

 アンリがエミールと遊ぶために用意した縄を指差して笑う。


「ちょっと行って帰ってくるだけですわ」

 ルイーゼは気にせずに部屋の奥まで歩き、本棚に触れる。

 前世の記憶通りの場所に扉の仕掛けを見つけて、一気に本棚を横にずらした。少し力を加えるだけで棚が左右に開き、暗い階段が現れる。

「いいではありませんか。今は、なにもないのでしょう?」

「…………」

 この先にあるのは、宝物庫。今は空っぽになった人魚の宝珠マーメイドロイワイヤルが安置してあるはずだ。


「そんなところに、なんの用が……そもそも、宝物庫へ入るには鍵が要る」

「ええ、わかっておりますとも。ですから、こっそり侵入せず、陛下に頼んでいるのですわ」

 サラサラと言葉を述べて、片手をアンリの前に出した。

「あんな事件があったんですもの。またこっそりと、自分の預かり知らないところで宝珠に触れようとする者がいないように、鍵はご自身で持っているのではありませんか?」

 鍵の保管場所はある。

 しかし、ルイーゼの前世であるセシリアは、そこから鍵を持ち出して宝珠を盗んでしまった。

 妙なところで頑なで責任感の強いアンリは、きっと、その後は鍵を自分で所持するようになっただろう。と、前世の知識から、ルイーゼは予測した。


「そなたの推察通りだ、公爵令嬢。流石だな」

 アンリは存外、あっさりと白状した。そして、胸元から鎖につないでペンダントにした鍵を取り出す。

「だが、容易に渡すわけにはいかぬよ」

 ルイーゼが受け取ろうとすると、アンリは鍵をヒョイと引っ込めてしまった。


 こうなれば、部屋の入り口でボーッと見ているエミールに「パパ、ちょうだいっ!」とおねだりさせるしかないか。

 息子に対してゾウをも買い与えるスーパー甘い親馬鹿チョロイン状態であるアンリには、そちらの方が効果的かもしれない。


「これが欲しいと言うのなら」


 アンリの目は真剣そのもの。為政者らしい威圧感に満ち、拒否などさせない言い方であった。

 ルイーゼは思わず息を呑む。


「私を縛ってからにするが良い。吊るして鞭打ってくれたら、尚更良い」

「……あ、はい」


 ルイーゼは心の全く籠らない声で即答し、心の全く籠っていない顔でニッコリと笑った。


「お嬢さま、ジャンにもっっ!」

 横から湧いてきたジャンを自然な動作で鞭打ってやると、アンリが実に物欲しそうな表情でルイーゼを見る。さっきの威厳的なオーラっぽいものは、どこへ行った。


「執事ばかり、羨ましいではないかっ! 早く私も鞭打つがいい!」

「よろしゅうございますっ! お嬢さま! ジャンは幸せにございます!」

「二人纏めて吊るし上げて差し上げますから、さっさと鍵をお寄越しくださいませ!?」

 

 

 

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