その9.5 フランセール王国史『或る騎士の末路』
今から十五年ほど昔の話です。
クロード・オーバンという騎士がおりました。
漆黒の髪に、漆黒の瞳。闇の中から這い出たような黒い甲冑を好んでつける、少々風変わりな騎士でした。
その剣技は奇怪にして鮮やか。
見たことのない片刃の剣を振りかざし、見事な武勇と死体の山を築きあげていきました。
戦争が続いていたフランセール軍に幾多もの勝利をもたらした英雄です。今の平和な王国を築いた功労者とも言えるでしょう。
フランセール最強の騎士として君臨したクロード・オーバンは、史上最年少で王族の守護騎士≪黒竜の剣≫に任命されました。
対となる≪天馬の剣≫には、親友であり戦友エリック・ド・カゾーランが着任しました。
彼ら≪双剣≫はフランセールの強さの象徴。玉座に御座す国王陛下の左右に並ぶことが出来る、とても栄誉ある地位なのです。
クロード・オーバンがひとたび戦場に出れば、フランセールの勝利が約束されます。
一方で、人々は彼のことを敵の首を狩って笑う「首狩り騎士」として恐れていました。
きっと、あれは悪魔の騎士なのだと。
人の生き血を浴びて悦ぶ悪魔であると。
いつか内なる魔が目覚めて、国を滅ぼすのではないかと……。
そして、人々の杞憂は現実となりました。
首狩り騎士クロード・オーバン。裏切りの騎士クロード・オーバン。きっと、このフランセールで、その名を知らぬ者はいないでしょう。
クロード・オーバンは王国の秘宝である「人魚の宝珠」を盗みました。
嗚呼。そして、改心を訴えた王妃様の首を落としてしまったのです。
なんと恐ろしい所業!
けれども、クロード・オーバンは報いを受け、エリック・ド・カゾーランの槍によって串刺しになって死にました。
それ以来、不吉な≪黒竜の剣≫の座は空席となっています。
彼に罰を与えたエリック・ド・カゾーランは伝説の英雄となり、今も≪天馬の剣≫に君臨し続けております。
フランセールでは、悪の道を進めば、どんな強者であっても必ず報いを受けるのです。
それは運命であり、必然。抗うことの出来ない神罰。
だから、良い子のみなさんは、悪いことをしてはいけませんよ?
次回、正統派イケメンの登場に、ルイーゼが心揺さぶられます。