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もしも全然タイプじゃないのに相性は抜群だとしたら







「千智さーん、これってぇーー」

「……神崎くん。 ここは仕事場、あなたは私の後輩。 た、ち、ば。 そういうの、気にしようねぇ?」




へーい、やる気のない返事が返ってくる。 どこか生意気、どこか不真面目、そんな彼の教育係を担当して4ヶ月程になる。 正直疲れる、覚えは早い方だけれど、やっぱり態度がいくら言っても直らない。 年齢もキャリアも私が上、当たり前だけれど。なのにこの舐めた態度と言うか、上下関係を気にしていないと言うか。 それが私が『女』だからな気がして、なんだか嫌なんだ。




変えてください、なんて上司に言ってもどうせ通らないだろう。むしろ、やっぱり女は…… なーんて言われるに違いない。 もう八方塞がり、どうしろってのよ!







§



「千智は真面目だもんねぇ。 不真面目くんは合わないよねぇ」

「そう! あのガキんちょ、私のこと甘く見てるのよ! 絶対!」




定期的な愚痴り会。 私の唯一のオアシスだ。 同期の晴子には申し訳ない気持ちもあるけれど、何処かで吐き出さなきゃやってられないっての!



「でもぉ。 コンビとしては良くない? 実際二人が担当すると仕上がり早いし的確だし」

「まぁ仕事早い方だよ? でもね、あの仕上がりの裏にどれだけ私の入念なチェックがあると思ってんの⁉︎ 神崎くん、終わりましたぁの一言でスタスタ帰っちゃうし! ほんっと、ありえないんだから!」



晴子の言うとおり、確かに効率はいい。 言わなくても動くし、私が望む行動を先読みしてやっといてくれるし、まぁ…… ビジネスパートナーとしては良いのだろうか? しかしね……




「無理だよぉ。人間的に苦手だもん」

「あはは…… まぁがんばれ。私もそれなりにフォローはするし」

「うん…… ありがと、晴子」




晴子がパートナーならいいのに…… などと叶いもしないこと願ってみる。








帰り道、たまたま通りかかった本屋。 何の気なしに入ってみる。 店内をウロウロして、ふとあるコーナーで立ち止まった。




(相性占い、ですか)



一つ手に取り、パラパラとページをめくる。



相手の血液型、星座からあなたとの相性をチェックしよう! 太字で書かれた文字。 神崎くんは確か……





『俺ですか? 山羊座のB型ですよ! なんすか、心理テストすか?』




入社したての歓迎会か何かで、そんなこと言ってたような気がする。 山羊、B型…… 私は乙女の、A型…… ふむふむ、238ページね。



指示に従って、またパラパラとページをめくる。 あった。




相性は、星三つ! お互いに高め合うことが出来る理想のパートナー! 仕事はもちろん、恋人としてもーー




そこまで読んで、勢いよく本を閉じた。いやいやないない、これは無いよ。 百歩譲って仕事仲間としての相性は認めてあげよう。 でもね、恋人って。 私今年27よ? 神崎くんなんて大学出たての20過ぎたばかりのまだまだ子供でしょ? 無いわぁ、ごめん、この本の著者には悪いけれど、無いわぁ。


だって 私のタイプ年上だし。こう、ダンディな感じだし。 頼りがいあって優しくて、エスコートしてくれるような紳士だからね。 第一年下とか……




「えー! 高校生に言い寄られてるぅ⁉︎ あんた、保健室を私的利用してなにしてんのよ!」

「ちょ、華ちゃん! こ、声大きいよ! それに別に私からじゃないし……てか、何にもしてないから!」



たまたま、聞こえただけですよ。 そりゃね、真後ろでそんな大声出されたらね、聞こえてしまうのも仕方ないよね。 てか…… 高校生? 高校生って、あれだよね。 高等学校に進学し、現在在学中のピチピチ10代のことだよね? え、えぇぇ……



ちらっと横目に確認する。 20代……前半くらいか? 嘘ぉ、さ、流石に10代はダメでしょ? いや、まぁ法的には16と18超えたらOKだけどさ。それでも、えぇぇ… 有り、なのかぁ?



「年下、かぁ……」



そう呟いて、思い浮かんだ神崎くんの顔。 なんだか顔が熱くなり、ブンブンと頭を振った。 ち、違うから。 有り、じゃないって! 私は年上のダンディな紳士なんだって! 神崎くんは、全然全くタイプじゃないんだって!




§





チラッ。 今日も変わらず、神崎くんはいる。 若いから代謝がいいのか、机の横にはお菓子が並んでる。 お腹空くのかな、お昼足りてるのかな、作ってあげたら喜んでーー



そんな時、目が合った。とっさに下をむく。い、いけないいけない。 な、何かおかしいよ私。 平常心、平常心。 意識してはいけない、彼はただのビジネスパートナー!



「千智さぁーん。 調子、悪いすか?」

「……ううん、悪くないから。安心して」

「本当すかぁ?」



そう言って、神崎くんは私のおでこに手を当てる。 瞬間、湯沸かし器のように私の顔は熱々になった。こ、これはまずいから!


勢いよく立ち上がる。 驚いたのか、神崎くんの手も離れた。




「きゅ、給湯室とか、行こう、かな。あ、熱いお茶でも、い、淹れようか!」

「え、こんなクソ暑い日にーー」

「の、飲みたいんだー!!」



私はそう言って、その場から消え去った。








「あー、もう、最悪だ……」



言った以上は来ましたよ、給湯室。 あっついお茶なんて飲みたくないけど、言った以上はお湯を沸かしますよ。 はぁー…… あの相性占いのせいで今日はダメダメだ。 私も自分がここまで落ち着き無くすなんて思わなかったけど。変に意識しすぎなだけだ、周りからすれば私今日一日変な人に見えてるはずだ。だって、今日全然仕事にてをつけれてないしね! ……午後から頑張ろう。




「……本当にいたし」


入り口から聞こえた声。 神崎くん…… ってなんでいるの。 そうか、私がここに行こうと宣言したんだしな、当然か。 てか、なんで今の状態で来るかなぁ……



「どうしたの?」

「どうしたって…… 千智さん、今日変だから。心配して来たんですけど」

「そっか。 ふふっ、ありがと。でも大丈夫よ、心配いらないわ」





そう言って、神崎くんの横を通り過ぎようとした。 ーー 瞬間、後ろから強く、抱きしめられた。




「心配、しますよ」

「……え、神崎、くん?」

「俺…… 千智さんのこと。 ……すーー」



私はなんだか怖くて、目を閉じた。






「……おい。何してんの、お前ら」



その言葉に、二人は前を向く。 あ、前原課長…… てか、これはマズイ。



「か、肩幅を!」


焦るように、頭の上から神崎くんの声。


「さ、最近千智さんが太ったみたいなので、かか、肩幅を図ろうかなぁ、と。 べ、別に邪な気持ちは全くありませんから! そ、そうです、す、スキンシップです!」



苦しいなぁ…… まぁこれでばれないならいいけど。まぁ絶対バレるけど。 神崎くんも、騙せるとは思ってないんだよね?

背中に響く、心臓の音。 すごいドキドキしてる、これは一体何に対してなのかな? とりあえず、私のドキドキは神崎くんに対してなんだけど……




「ふーん。 てか、ヤカン大丈夫か?」


「え…… わぁぁ! 」



見れば、モクモクと煙を上げてキーっと金切り音のようなものを鳴らしていた。 忘れてた、そんな思いで急いで火を消す。



「あ、危なかったぁ」

「ですねぇ。千智さん、なんかごめんなさい」

「いえいえ、大事にならなかったから大丈夫よ」





「まぁ、気をつけろよ。火事とか本当に笑えないからなぁ」



前原課長はそう言って、歩いて行った。 あ、あれ? もしかして、うまくごまかせてーー



「あと。 職場恋愛は自由だが、社内では程々にな。 それこそこんな風な現場は何度も見逃せはしないからなぁ」



……いなかった。 見事に不意打ちで釘を刺された。 だ、だよね。 ばれてないわけ、ないよねぇ。


沈黙、それを破ったのは神崎くんだった。



「行きましょ。 もうすぐお昼だし、お腹空きました」

「そ、そだね。 戻ろうか」



そう言って、並んで歩き出す。




年下の、タイプじゃない男の子。 でも、相性はいい、らしい。 でも今すぐそんな気持ちに切り替えろって言われても、無理なわけで。 とりあえず、職場に戻ったら聞いてみよう。



『お昼、足りてるの?』って。




今は、大事なビジネスパートナーに。









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