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もしも君が雑音だとしたら

新作です、よろしくお願いします。




イヤホンから聞こえてくるのは、大好きな歌。 綺麗なメロディに、澄んだ声が心地いい。この時が一生続けばいい、そう思える。 このままこの音に溶け込んでしまいたい、だってこの世界はーー





「たーどこーろくん! なーに聞いてんの⁉︎」




……こういう『雑音ノイズ』でいっぱいだから。






§





イヤホンを外すと聞こえてくる。 たわいも無い会話、どうでもいい会話。 同年代の奴らはみんなうるさいんだよ。 くだらない話題で盛り上がって、ゲラゲラと笑って。 黙れよ。僕の高校生活を、いや僕の人生に雑音を入れるな。 僕は静かな世界で、綺麗な音があればそれで良いんだ。 それを君たちは妨害してるんだってことにいい加減気づけよ。




「田所くんさぁ、若い時からこんなんばっかりだと、将来難聴になっちゃうよ?」




僕の片方のイヤホンを掴みながら、雑音が話しかけてくる。 うるさいな、僕の勝手だろ。早くイヤホンを返せ。



「別に。 僕がどう生きようが君には関係無いだろ」

「いやいやぁ、私これでもクラス委員だからさぁ。 ほっとけないのよ!」

「そう。 責任感強いんだね、意外と」



そう言って、素早くイヤホンを取り上げた。



「あ! もー、女の子にそれはひどいよぉ? 」



不機嫌な表情になったけど、気にせずイヤホンで両耳を塞ぐ。 ふう、ようやく落ち着いてーー



「たーどーこーろーくーーん!!」



僕の耳元で、綺麗な音をかき消す大きな雑音。 くっ、この女…… イライラして、僕はイヤホンを取って怒鳴った。




「なんなんだよ! あんたさ、頭おかしいのか!」

「そんな怒らなくても……」

「怒るだろ! なんだ、あんたはそんなに人の邪魔したいのか! ほっとけよ! 」



そう言って、僕は教室から飛び出した。 なんなんだよ、あいつは! ほっといてくれよ、僕から干渉することなんてないんだから。 好きで一人なんだから、心配とかされるだけ迷惑なんだよ!











行く当てもなく階段を上がった。 屋上の扉、来たのは初めてだ。 ドアノブに手をかけるとすんなり開いた。 出入り自由なのか? なんて警戒心の薄い学校なんだ。 そんなこと思いつつも、開いたドアの向こうへ出た。





空は青い。 少し風は冷たいけれど、日差しがちょうどいい温もりに感じる。 落ち着くな、雲一つない空を見てると気分も良くなる。 さっきまでのイライラした気持ちが、嘘のように消えていくみたいだ。



フェンスに背を預けて座り込む。 イヤホンから聞こえてくるのは、大好きな音。 最高だ、ようやく僕だけの場所を見つけた気がする。 教室は息がしづらい、人と話すのは好きじゃない。 合わせる、ってことがそもそも苦手なんだ。 だから僕は、これでいい。


そもそも僕には無理なんだよ。 あの女みたいに、人に踏み込むことが。 だってさ、本心なんて見えないじゃないか。 たとえ笑っていても、それが本当かどうかなんて分からないじゃないか。 そしたらさ、もう全てを疑うしかないじゃないか。 腹の中でなに考えてるか分かるはずもないのに必死に探ってさ、そんなの疲れちゃうよ。 だから僕は一人でいい。 一人だったら、そんなこと考えなくても……




綺麗な音と日差しの温もりに、思わず僕のまぶたは下がってしまった。






§







「んん……」




ゆっくりと目を開ける。 ……どうやら、寝てしまったようだ。 夕日が眩しいな。 ……午後の授業、サボってしまったことになるのか。 まぁいいか、一日くらい。 それほど影響もーー



「田所くん、おはよ」

「ああ、おはよ……」





そう答え、隣を見る。 ……な、なんでいるんだよ、あんたが。




「いいね、この曲」



咄嗟に出かかった言葉は、その言葉とーー 泣いてる顔で奥へと戻る。



「なんで…… 泣いてるの」

「あ、あは。 ご、ごめんね。 どんな曲、聞いてるのかなぁと思って。 来たのはさっきだからさ! その、別にずっと隣にいたわけじゃないから! その、ね、寝顔とか撮りたいなぁ、とか邪な考えは必死に抑えたから‼︎」




盗撮しようとしてたのか。 怖いな、女ってのは。 まぁでも…… この曲の良さが分かるってのは、悪い気はしなかった。




「これ、なんて曲?」

「……儚い気持ち、って曲。 ボーカルの人が実体験をもとにして書いたんだって」

「ふーん。 ……凄い、好きだったんだろうなぁ」




そう言って、遠い目をしてる。 僕にはまだそういう感覚は分からない。 誰かを切なくなるくらい好きだ、とか大切だ、なんて。 僕には縁もなさそうな話だし。 でも、この人が悲しい気持ちになった、と言うのは曲を通して伝わる。









「あ、終わったね」

「ああ、そうだね」

「……あの」

「なに?」



「た、田所くんは。 その、この曲みたいに、ものすごーく好きな人とか、いるのかな?」




は? なにいってんのこの人。 好きな人…… とか出来たこともそもそも考えたこともないけれど。 だって僕には無縁だし。



「いないよ」

「これからも?」

「未来のことなんて分かるわけないじゃん。まぁでも、このままじゃ出来ないだろうね。 好きだなんだとか、よく分からないし」

「……そう言う気持ち、知らないの?」

「経験がないからね。 それに教えてもらうにしてもなかなか難しいーー」
















言い切る前に、僕の唇に柔らかいものが触れた。






ガチッ!



……いって。 え、なに今の。 歯が、当たったのか? え、てか……







「……これが、好きって、気持ち。 つ、伝わりました、かね? な、なにぶん私も初めてなんで……」




そう言って、顔を真っ赤にする。 は、いや、い、今のって…… き、キスーー





考えて、顔が熱くなる。 この場にいるのが、この人の前にいるのが急に恥ずかしくなってきた。 僕は勢い良く立ち上がりーー




「ば、バカなんじゃないか⁉︎」




そう言って、その場から逃げ出した。







§







落ち着け、落ち着け、落ち着け。 変に意識するな、変に意識するな。 な、何かの間違いだ。 こ、こんなこと普通あり得ないだろ。





『君が好きなんだ』





狙ったかのように、イヤホンから流れたフレーズ。 また僕の顔は熱くなった。




「おい、だいじょぶか?」




すれ違った男に声をかけられた。 ……誰だっけ、この人。 確か同じクラスだったと思うんだけど。




「……大丈夫」

「そう? 具合悪いなら保健室…… は、今の時間はちょっとやめとけ」




心配してるのか? でも保健室はやめとけって言うのは少しおかしくないか?




そのまま歩いていく。 そこでふと気になることを思い出して、聞いてみた。




「……あのさ」

「ん? やっぱ具合悪いか?」

「いや、その…… う、うちのクラス委員って、なんて言う名前?」




僕の問いかけに「はぁ?」 と言った表情でこちらを見つめる。 し、仕方ないだろ。 僕にとっては周りは基本雑音なんだから!




「田所さぁ…… まぁお前、あんまり他人に興味なさそうだしな。 それでもクラスのやつくらい覚えろよな」

「……ご、ごめん」

「まぁいいや。 クラス委員の名前な。 野村 未来だよ。 の、む、ら、み、ら、い」




野村、未来。 野村って言うのか、あの人は。 初めて知ったな。




「……好きなん?」

「は⁉︎ そ、そんなんじゃないし!」

「ふーん、ウブだねぇ。 おもしろっ」




……くそ。 なんか腹立つ顔だな。 悪い顔したまま、そいつは何処かへ歩いて行った。







「野村、未来……さん」




口に出して、思い出すのは。泣いてた顔と、赤くなった顔と…… 唇のーー





「あー、もう!」





音量を最大にする。 やっぱり雑音だ、雑音なんだよ! 野村さんは特に!







僕の一番の雑音に『野村 未来』 って名前がついた。 そしてその音は、どうやら簡単には消えてくれそうにはないと、なんとなく感じてしまった。











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