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自由への一歩

何番煎じかはわからないけど思いついたから仕方ない。


 

 目を開けると薄暗い部屋にいた。辺りを見回しても窓や扉は見当たらない。立方体の部屋のようだ。

「初めまして、リーベルタース・オンラインへようこそいらっしゃいました」

 さて、どうすればいいのかと青年が思案していると突然声をかけられた。いつの間にか目の前に女性が立っていた。

「私、案内係のリースと申します。ここではあなたの名前と外見の決定、その後、任意で簡単なチュートリアルを行っていただきます」

「あ、はい。ご丁寧にどうも」

 ぺこり、とそんな効果音をつけながらリースはお辞儀をした。

「ではまず、リーベルタース・オンラインでのお名前と性別を決定してください。現実リアルと同じ名前にしてしまうと余計なトラブルの元になることがありますので、ご注意ください」

 青年は一足先にこのゲームに現実とほぼ同じ名前で登録した友人を思い浮かべたが、野暮なことだと頭から振り払った。

「じゃあ、名前はカタカナでシラウミ――いや、やっぱり『シロウ』で、性別は男にしてくれ」

「はい、プレイヤーネームを『シロウ』とし、性別を男で固定します。次に外見の設定を行います」

 キラキラと光るエフェクトを出しながら2メートルほどの姿見が現れた。そこにはダイブ――ネットを海に例えて意識を現実からネットへ落とすこととして使われる用語である――する前の格好と全く同じ姿のシロウ自身が映っている。

「では、この状態からどのように変更しますか? 名前と同じようにそのままの姿だと現実でトラブルの元になることがありますのでご注意ください」

「……なにか、カタログみたいなものはないのか?」

 これは失礼しました、とリースは宙から光のエフェクトとともに冊子を作り出しシロウに手渡した。適当に何ページかめくってみると、髪型以外にも顔のパーツ、果ては骨格まで色々と描かれていた。

「じゃあ、このちょっと目付きが悪い感じの奴と、あとは髪の毛伸ばして纏めてるこれで」

「了解しました」

 カタログの図を指差しながらリースに注文する。リースが腕を振るうとシロウの体がパッと光り輝き次には鏡に映る姿が変わっていた。

「お、おー。現実じゃ髪は伸ばさないから新鮮だなあ」

「服も変えておきましたが、中々お似合いですよ」

 お世辞なのか判別できないが、似合っていると言われたならこのままでも大丈夫だろうとシロウは判断した。服装は先ほどまでの部屋着から黒のインナーとズボンになっていた。希望があれば色や形状も変えられるとのことだが、シロウ的にはなにも問題がないのでそのままにしておいた。

「決まりましたね? この後はチュートリアル、という名の簡単な機能説明をさせていただきますが、よろしいでしょうか」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 それでは、とリースがパチンと指を鳴らすとシロウの視界に3つのウィンドウが現れた。

「【ステータス】【スキル】【アイテム】【マップ】【コール】などの呼びかけに応じて視界にウィンドウが現れます」

 今、目の前に出ているのはステータス、スキル、アイテムのウィンドウだ。

 ステータスは5種類の要素から成っていて、STR、VIT、INT、DEX、AGIである。それぞれ物理攻撃力、体力、魔法攻撃力/防御力、命中、回避に関係する。

 スキルはツリー習得型で、メインを1つとサブを5つまで選択、装備が出来る。装備したスキルに該当する行動をするとそのスキルに経験地が溜まり、規定値に達するとスキルのレベルが上がる。スキルレベルがある一定まで上がればツリーにそのスキルの上位スキルが表示されるようになる。

 アイテムウィンドウにはフラスコに赤い液体が入っているようなアイコンが1つある。シロウがそれを指で触るとアイコンと同じような瓶が手のひらに納まった。まじまじとフラスコを角度を変えて注視しているとフラスコの前にウィンドウが出てくる。

 ――チュートリアル専用HP回復薬。チュートリアル中にのみ使えるHP回復薬。飲む、もしくは体に振り掛けることで効果が発揮される。回復量は100。リンゴ味。

「リンゴ味かよ!?」

「もっと薬っぽくした方が良いかと思ったのですが、どんな年齢のプレイヤーでも楽しめるよう配慮した結果がこれですね」

 他にもブドウやオレンジなどの味があるとリースは補足する。その補足は必要なのか、そんなに俗っぽくてよいのかとシロウは考えるが、取っ付きやすくするという点では良いことしかないのだろうと、そう結論付けた。

「その他の機能についてはゲーム中にヘルプを行うか、Tipsとして表示されるものをご覧ください」

「あ、そこまとめちゃうんだ」

「あまり長く説明していると、みなさまめんどくさそうな顔になっていきますので」

 確かに、とシロウは頷いた。必要最低限だけチュートリアルを聞いてすぐにでもゲームを始めたい人も多い。シロウはそれほど苦にはしていないが、過去にチュートリアルを受けたプレイヤー達からチュートリアルが長いという意見が多く公式へと寄せられていたようだ。

「私ってこことヘルプくらいしか出番がないんですけどね」

 リースが静かに涙を流していた。不憫である。こほん、と咳払い。

「それでは、自由の扉を開きましょう」

 部屋の四隅、角から光が溢れ出す。光は徐々に部屋を埋め尽くして、耐え切れずにシロウが目を瞑り、恐る恐る瞼を開いたときには青空の下にいた。





 ザァ、と街路樹の葉が風に揺れ、現実ではもうほとんど嗅ぐことのない土の臭いが微かに漂った。シロウが立っているのは中央に大きな噴水がある広場だった。中世を思わせる街並みと、活気に満ちた人々。ふと、シロウは空を見上げた。雲一つなく、遮るものがない陽光がシロウの目に入ってくる。

「すごいな……」

 ぽつりと呟くが人々のざわめきにかき消された。いつの間にかリースもいなくなっていた。もうゲームは始まっているのだろう。シロウはゲームを始める前に友人に言われたことを思い出し、チュートリアルでも名前だけ出ていたシステムを使う。

「【コール】・『トール』」

 ――トールという音の名前のプレイヤーは9人。そのうちログインしているのは3人です。他に検索条件を付け足しますか?

「む……、『俺のレベルプラス2レベル以内で、この付近にいるプレイヤー』ってのは?」

 ――再検索。該当者1人。【コール】を行います。

 メッセージウィンドウに通信中の文字が出るのと同時にジリリリリ、と古風なアラーム音が鳴り始めた。2回目のアラーム音が鳴り終わる前に音が途切れ、目の前に新たなウィンドウが表示された。ウィンドウには短い茶髪の面長な男が映っている。

「はいはい、こちらトール。目付きの悪いお前さんは今日から始めた俺の友人君かな?」

「おそらくそうだよ、この馬鹿野郎。トールって名前だけで九人もいたわ」

 このゲームは昔からあるような名前被りの制限がなく、やろうと思えばすべてのプレイヤーが同じ名前、なんてこともできるようになっている。シロウの友人は自身のプレイヤーネームがトールである、ということしか伝えていなかったため少しだけ面倒が起きたということである。

「悪い悪い。だけど【コール】の練習になっただろ?」

「チッ、面倒かけさせやがって。で? お前はどこにいるんだよ。俺は噴水の真ん前にいるぞ」

 シロウは右手を上げてぷらぷらと力無く振った。噴水がある広場には多くのプレイヤーがいたので何事かとシロウを見るが、シロウの頭の上に表示されている『通話中』の文字を見て待ち合わせか何かだろうとあたりをつけて視線を外していった。

「ああ、見つけた。今そっちに行くから待ってろ」

 シロウがその言葉を聞き、辺りを見回すとちょうど近づいてくる男を見つけた。男の身長はシロウよりも高く190ほどで、頭ひとつ分大きい。その上、体も厚みがあり身長も相まって圧迫感と威圧感が出ていた。

「よう、現実と比べると随分目付きが悪くなってるじゃねえか」

「はっ、そういうお前は相変わらずでけえなりしやがって。もうちょい慎ましくなれんのか」

 シロウはトールが皮製の防具一式と背中に大きなハンマーを背負っていることに気付いた。

「背負ってるそれを見るに、前衛職なのか」

「おおよ。ダメージディーラーにも壁にもなれる重戦士ヘヴィストライカー。メインスキルは槌術にしてる」

 ――重戦士。槌や斧、槍斧などを扱う前衛職。高いHPと攻撃力、物理防御力が長所のパワーストライカーである。その反面、命中や回避にはあまり補正がかからず、また装備で補えるとはいえ魔法にとことん弱い。

「じゃあ俺は後衛職だなあ」

「何にするんだ? オーソドックスに魔法使いマジシャン僧侶ヒーラーか? 付与術師エンチャンターとかの少し捻った感じでもいいな」

 トールがつらつらと思いついた職を片っ端から挙げていく。だがシロウはそれらには首を振り、挙げられていないひとつの職を答えた。

精霊術師エレメンタラー

「……お前はドMか」

 ――精霊術師。後衛職のひとつでメインスキルに精霊術をセットしていると自動的になる職である。その名の通り、魔法ではなく精霊を呼び出して協力、使役して戦う職業なのだが。

「他人とあまり被らないやつがいいんだよ」

「いや、わかる。確かにそういったオンリーワンを目指したい気持ちは俺もある。だが掲示板に書き込んでいる連中すら投げるほどの序盤も中盤もキツイ職業1位で、現在のトップランカー達に「他の魔法で十分じゃね?」とか言われるほどだぞ!?」

 精霊術は確かに強い。効果範囲も広く、そこらのザコ敵なら一撃で倒せる。一撃どころか序盤のザコ敵のHPを2倍してもまだ足りないくらいのダメージだ。が、MPの消費が激しすぎて序盤は全MPを使って、さらにそこからペナルティとして術師のHPを最大値の約五分の四消費してでもないと使えないという燃費の悪さである。狩りを続けようとするなら当然HP回復薬とMP回復薬を使わなければまともに戦えない。しかし薬も無料タダではないので、といった状態である。

「知ってる。だからこそだよな!」

 だがシロウはそういうことに魅力を感じる男であった。

「OK。もう何も言わねえ。そういうのに付き合うのも友人の役目だしな」

 そして、そういうことも理解して友人付き合いをしているトールだった。

「いや、まあ、絶対何かしらあると思うんだよ」

 少し真面目な声音でシロウが言う。

「何かっていうと?」

「このゲーム、結構な頻度で小さなアップデートされてるじゃねーか。修正内容をざっと見て、色々な職業のスキルのダメージやらコストやらが変更されてたのはわかったけど精霊術師の修正がひとつも無かったんだよな」

 ゲームを始める前、シロウが現実でこのゲームをダウンロードしている間に彼は公式サイトや情報サイトを確認していた。そこで精霊術師のことを知り調べてみるが公式のほうには簡単な説明しかなく、情報サイトにも選ばないほうが良い職業としか書かれていなかったのだ。これはおかしいと再度公式サイトのアップデート履歴ページを見るも、正式稼動してから2ヶ月たった今でも精霊術師に関してはノータッチだった。

「……つまり、現状でもなんとか出来るがそれを俺たちが見つけられてないってことか?」

「たぶん。みんなが言うくらいにクソみたいな性能でどうしようもないなら要望が出されてるはずだし、それを修正してないっていうのはおかしい」

 だから、

「きっとなにかあるんだろうさ」

「まあ、そこまで考えてるならいいさ。だけど本当にダメだったとしても腐るなよ?」

 シロウは【スキル】メニューを開き、メインスキル枠に『精霊術』をセットする。ガチリと何かが組み変わるような音を立てて肉体ステータスが再構成される。

 ――職業が変更されました。ステータスを修正します。

 ――クエストが発生しました。

 システムメッセージが表示され、【ステータス】メニューを開くと確かに魔術師系統の職業らしく、INTが高く、STRとVITが低くなっていた。

 発生したクエストは精霊術で最初に信仰する精霊の属性を何にするかというものだ。

「後衛職でサブスキルのおすすめはまずなんと言っても『魔力運用効率化』と『魔力回復効果上昇』だな。他には『盾術』や『杖術』、各属性魔術、『調合』や『錬金』なんかも相性がいいな」

「そうだな……。流石に効率化と効果上昇は入れるとして、あと三つか……」

「盾は微妙だろうな。序盤じゃオーバーキルすぎて盾なんて使わないだろうから育たないだろうし」

「精霊術だけ使うなら『杖術』も同じ理由で除外、と。面白みが無いからネタスキル詰め込むか」

「精霊術って時点でネタの塊みたいなのにな」

 余談ではあるが、リーベルタース・オンこのゲームラインには完全に使えない、所謂いわゆる死にスキルというものはまず無い。というのもβテストの時代にあまりにも使われていなかったスキルは削除されるか、大幅な修正が加えられているからとそれだけの理由だが。

「『調合』入れて自分で回復薬作るか……。それでも火の車だろうなあ。ひとつ近接系のスキル入れておいて精霊術以外で稼ぐことも視野に入れないとダメか」

「ま、無難にそんなところだろうな。ちなみに俺はこんな感じだ」

 目の前にウィンドウが現れる。トールのステータスだ。前衛職らしく素のステータスからしてHPと物理攻撃力、防御力が高い。肝心のスキルはメインに『槌術』。サブに『雷魔術』、『体術』、『体力上昇』、『魔法抵抗上昇』、『鍛冶技術』だ。

「長所を伸ばして短所を補って、なんとも普通なスキル構成……」

「普通でいいんだよ、最初は。ある程度育ってから他のサブスキル育てる予定だし」

「ふーん、じゃあ俺はこんなもんか」

 『魔力運用効率化』、『魔力回復効果上昇』、『調合技術』、『杖術』、『精霊信仰』をサブスキルにセットする。

「ああ、『精霊信仰』な。それ効果はいいよな。まじで祈りを捧げないと経験値上がらないのがネックだけど」

 『精霊信仰』。MP、魔法攻撃力、魔法防御力がそれぞれスキルレベルに応じて上がるお得なスキルのひとつである。ただし教会や、簡易祭壇に祈りもしくは供物を捧げないと経験値が一切入らないという仕様で使っているプレイヤーは少ない。

「よし、セットしたな? そこの店に初心者用装備一式が売られてるから買うぞ」

「はいよ」






「で、だ。とりあえず一回精霊術ぶっ放してみようぜ」

 初回のゲームスタート時に自動的に支給される金で初心者用装備とポーションを買い、街から一歩外に出た地点でトールが言った。というのも二人には精霊術に関する情報が全く無いのでどういう挙動をするのかもわからないからだ。

「このフィールド、始まりの丘にはこっちが近づいたり攻撃しなければ攻撃してこない敵しかいないから不意打ちくらうこともないはずだ」

「……遠距離攻撃持ちはレベリング簡単そうだな」

「ところがどっこい、弓使いなら最初はDEXが低いからあんまり命中補正かからないし攻撃力も足らない、魔法使いの最初の魔法はある程度距離を近づけないと当たらないから結構ギリギリらしい」

「よく出来てるな」

「というよりもβテストで遠距離攻撃持ちがヌルゲーすぎたからちゃんと調整されたと言うべきか」

 運営がちゃんと仕事をしたという証である。VRMMOゲームなど世に溢れかえっているので誠実に対応しなければ未来などないという世知辛い時代なのだ。

 さて街から歩いて5分程、小高い丘にはあちらこちらに敵性MOBが見られるようになっていた。とりあえずこの辺りで一度やってみようかと精霊術のスキルを使おうとするシロウだったが。

「待って、なにこれめっちゃ恥ずかしい」

「我慢しろ。スキルレベルが上がれば詠唱破棄もできるようになるらしいから」

 このゲーム、魔法や精霊術などは全て詠唱つきである。効果が弱めの術は詠唱も短いものが多いが、強くなるにつれてどんどんと長くなっていくのが通例である。

 精霊術は序盤から使える術も強力なので詠唱もそこそこに長く、それが現実世界で大学生のシロウの精神に大きなダメージを与えた。

『風の精霊よ我に従え 春の風 逆巻く刃 我が行く手を阻む者たちに熾烈しれつなる風を……!』

 シロウが色々と諦めて詠唱を始めると視界に術の効果範囲を表すマーカーが大きく広がってゆく。マーカーが視界いっぱいに広がりきると術名が視界の片隅に表示される。

 大きく息を吸って、一言。

『旋嵐』

 シロウの視界に見える自身のMPメーターが一瞬で最大から0を指し示し、それに加えてHPメーターも削りだした。ごう、と不可視の力が吹き荒れる。マーカー内にいた数体の敵性モンスターが逆巻く風に巻き込まれて上空へと打ちあがり、落ちる前に風の刃にHPを全て削られて光の粒子となって消えていった。

「たーまやー」

「いや、確かに花火っぽいけどよ。ってそうじゃねえ、こりゃダメだわ」

「なにがだ」

「範囲がでかすぎて前衛巻き込む上、味方へのダメージは半減されるんだが威力が高すぎるし、なにより落下ダメージは仲間からの攻撃に含まれないからオーバーキルだ。範囲縮小とか出来なければひたすら一人で周りを巻き込まないように気をつけながら狩るしかないな」

 まさしく修羅の道である。初心者用ポーションでHPとMPを回復して再度詠唱。意識すると少しだけ範囲を表すマーカーが小さくなり、先ほど発動させた術の半分の範囲になったところでそれ以上狭まることはなくなった。術の発動に必要な使用MPの半分を消費して術をキャンセルする。

「半分くらいにはなったけどそれ以上は無理っぽいな」

「半分ならギリギリいけるか……? 俺が適当にモンスター釣ってくるから合図したらぶっ放してくれ」

 そう言ってトールは走っていってしまった。シロウはとりあえずMPを回復させてトールが戻ってくるのを待つことにした。スキル説明を見ながら待つこと数分、声をあげながらシロウが後ろに3体のモンスターを連れて帰ってきた。

 シロウが詠唱を終わらせ、発動せずにそのままキープする。

「どっせい!」

 トールが背から大きなハンマーを手に取り体を捻って横からウサギ型のモンスターへと叩きつける。次いで飛び掛ってきたウサギ型モンスターをハンマーの柄で受け止め押し返してそのまま掬い上げるように打ち上げた。

「撃て!」

「【旋嵐】!」

 半分の範囲に圧縮された風の魔法がはっきりと竜巻を形作る。範囲からギリギリ逃れたトールは呼吸を荒げながら現れた竜巻を呆然と見上げている。

「……いや、これ絶対そのうち逃げるのミスってお前に殺されるって」

「だよなあ」

 3匹のウサギ型モンスターがオーバーキルによってドロップアイテムすら落とさずに光の粒子となって消えるのを見届けて2人はセーフティエリアとなっている街の入り口へと戻った。




「どうするよ」

「お前と一緒に狩りをするときは杖術メインで、一人でやるときは精霊術メインかな……」

「術師の火力を当てに出来ないパーティとはいったい」

「そら、精霊術師なんて選んだらそうなるよ」

「てめえ、自分で選んでおいて……」

「まあどうにかこうにか使えるようにならないか試してみるわ」

「そしてボッチへ」

「やめろぉ!」

 カラカラとトールが笑う。

「精霊術の不遇具合が分かったところで。俺はまだ狩ろうかと思うがお前はどうする?」

「信仰スキルは一人のときにやればいいし、お前に引っ付いて行ってついでに調合用のアイテム探すか」

「よしきた」

 トールは立ち上がり、それほど損耗もしていない装備の付け心地を確かめて2つの方向を指差した。

「ここから見て左手の山のほうに行けば森みたいになってるからそこの入り口でポーションの材料が取れる、らしい。逆に右手側の木々がまばらに生えてる方に行けばモンスターのドロップ品が薬の材料になるとか」

「よく知ってるな」

「攻略サイト見るのってそれだけでも楽しいよな」

 リーベルタース・オンラインの攻略サイトは中々に中身が充実している。自由度が高く、スキルなどのやりこみ要素もあるため一部の廃人たちがこぞって検証を始めているからである。

「ああ、言いたいことはわかるが手探りもいいんじゃねえの?」

「モンスターの倒し方とかは流石に見てねえよ。最初のエリアにどんなアイテムがあるかとか自分のスキル関係とかそれくらいだ」

 シロウは攻略サイトでは基本操作とどの職業が一番人気か不人気かというページしか見ていない。勿論不人気一位は精霊術師である。

「で、どっちに行くよ」

「森じゃない方だな。採取っていう形を取らずについでで素材集めが出来る」

 シロウは鼻歌を歌いながら歩き始め、トールはそれに付いて行く。

 どんな未知の世界が待っているかと期待に胸を躍らせながら。



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