初登校!!
短編で、ストックがいくつもあるので3日1話投稿にします。
我が家の横にある白樺の木は、もうすでに多くの葉を付けていた。
今日から新学期、いや、初めての高校生活の始まりだ。
わくわくの止まらない俺は、自然と小走りになり、急いでいる訳でも無いのに学校まで走って行った。
一般入試以来の学校は、なんだか新鮮な気分、中学校とは比べ物にならない程の広さの高校は、まさに新生活の始まりの代名詞のような物。
クラスメイト、担任の先生、教科ごとの先生、部活の先輩、顧問の先生。
ほとんど知らない人で埋め尽くされた学校は、楽しみで仕方ない。
走り抜けた学校の校門付近では、既に桜の花びらが、散らばっていた。
俺こと白鳥灼は、廊下に張り出されたクラス表の、クラスと出席番号を確認していた。
ほとんど知り合いはいなかったが、幼馴染の野田智英、通称トモヒデと同じクラスであったため、暇にはならなさそうだ。
最も、新しい友達を作らないと言う訳ではない。
言い方が悪いが、あくまで保険のような存在だった。
俺もトモヒデも1年D組、だが俺は18番でトモヒデは24番、席が近い訳もないだろうと思いつつ、教室へと向かい、自分の席に座った。一番窓側の3列目の席だった。
しかし、黒板に書かれてあった席順は、出席番号順ではなく、バラバラの物だった。
「よっ、灼。同じクラスなんて運が良かったな。」
俺が席についた途端、斜め前から声が聞こえる。聞き慣れたトモヒデの声だ。
「トモヒデ!本当だよ、話し相手がいなかったらどうしようかと思ってたんだ。」
「俺も、知り合いいないしお前と一緒のクラスでよかったよ。」
「ところで、入学式って何時からだっけ?」
「入学式?なんだ灼忘れたのかよ、この学校は入学説明会と入学式が一緒になっていて、今日は学活やって終わりだってプリントに書いてあっただろ?」
一瞬戸惑いを隠せなかったが、俺はすぐに思い出す。
入学式じゃない限り行かないと豪語していた母を入学説明会に引っ張り出せたのも、それが原因だと言うのに。俺はどうやらわくわくし過ぎて、頭がおかしくなっていたらしい。
「あーやっべえ忘れてた。そうだった入学式終わったんだった。でもなんかパッとしないなぁ。」
「そうだよなぁ、パッとしなくてつまんないよな。席順がバラバラなのもどうかと思うけど、ここの高校ってかなり変わってるよな。」
「入った後言っても、何も変わらないけどな。」
話しに花を咲かせていると、周りの席にも生徒が座り始める。
そろそろ朝の学活が始まる頃で、あと10分もしてしまえば当日遅刻で目立ってしまう。
そんな生徒見たこと無いけど、おそらく当日から遅刻するような人はいないだろう。
真後ろの席に、チャラついた髪の生徒が座った。だが、制服はキッチリ着ている。
だが、トモヒデと話している途中、迂闊にも目を合わせてしまった。
「俺は雨田徳郎、よろしく。」
「し、白鳥灼、よろしく。」
「俺は野田智英だよーん、仲良くしてねー。」
予想以上に優しそうな人だった。不良っぽくても、いい人はいるんだな。
茶髪も地毛なのかもしれないし、ワックスで決めたような髪も実は寝癖なのかもしれない。そう勝手に信じつつも、新たな話し相手が見つかりそうだと胸を膨らませた。
するとその紹介を聞いていたのか、俺の前の席の子が、自己紹介を始めてきた。
「ぼ、僕は空風緩よろしく…」
「よろしく〜。」
「よろしく。」
女の子かな?と思ったが、履いているのはスカートではなくスラックス、それに僕と言っていた。可愛らしい顔立ちではあったが、女子ではない雰囲気だったので、おそらく男子だろう。なんだか中性的な感じだが、子供っぽい顔立ちとでも言っておこう。
俺たち4人が意気投合するのはとても早く、きっかけはトモヒデのふざけたネーミングセンスから始まった。
トモヒデは勝手に人の呼び方を考え、勝手に呼んでみせる。初対面で失礼ではないかとも思ったけど、思いのほか2人もノリノリだった。
そして雨田には徳さん、風緩にはふゆるんと名付けられた。
俺は相変わらずの灼だったが、今更あだ名なんてバカらしくて呼ばれたくない。
そして少しふざけ合った後、チャイムがなり、担任の先生が入って来た。とても美人だった。
「きりーつ、きょうつけー、れーい。」
誰かが号令をかけ、それに従い朝の学活が始まった。
だが、隣の席の人と、斜め後ろの人が来ていないのが疑問だった。
「えーっと、来ていないのは火神さんと、あとはー…」
先生がブツブツ何かを言っている時、勢いよく教室の扉が開かれた。
ドンッ!!という大きな音は、唖然として静まり返った教室に響き渡る。
そして教室に入って来たのは一人の女子生徒、スカートの丈も、女子では珍しいチェーンも校則違反、その前に言いたいことがあるような顔をしている。
「火神葉香…ただいま参上!!」
何この子イタい。それがみんなの反応だろう。
「えっ?遅刻してここまでの芸もやったのにだんまり!?」
一人芝居が続くほど、イタさは伝わってくる。
ネタでやってるのか、大真面目にやってるのか、それはわからないけど、間違いなく滑っている。
「火神さん、遅刻1ですね。」
担任の先生がそう言ったおかげで、クラスに笑いが戻った。
小言をいくつかいわれ、火神さんは自分の席へと座る。隣の席だった。
そして先生は出席を取り始め、みんなは先生の方を向き真面目ぶっている。
だが、俺は隣の不思議な女の子、火神さんの様子をぼーっと見ていたらしく、バックの中身がチラッと見えてしまった時に我に帰る。
女の子のバックを見るなんて失礼だな、そのつもりだったのだが、なにか違和感があったので、もう一度だけチラ見をする。
するとそこには、革製のカバーで挟んだ、古臭い本が幾つも入っている事に気付く。
その時俺は確信した。
この子は絶対、厨二病なのだろうと。
灼のフクロウは2話目から出てきますので、それまでイタい火神をディスっててください。