小さな話
「ねぇ、何をしているの?」
尋ねてきた彼女に僕は思わず「食事」と、端的かつ無愛想に答えてしまった。
上手く口を動かせなかったようだし、緊張しているのがバレたかな。
「今ある分で足りるの?」
身体の大きさが違うからね。大丈夫だよ。
そう言うと、彼女は文字通り手の平で踊れそうな大きさの僕を見つめる。
綺麗というよりは可愛らしい顔つきの彼女は、袖に隠れた僕に小声で話す。
「私のでいいならもっとあるよ?」
それは丁重にお断りする。この後の事を考えると、胃には何もない方が良さそうだ。
「勿体無いのに」
そう言うなら貴女が食べればいいじゃないか。
特に何も考えず口を開く。
「あまり食べられないの、私は。いいじゃない小食で。時代は『省えね』よ」
拗ねた彼女は口を尖らす。
別に咎めたつもりは無かったのだが、未だに彼女と付き合うのは難しい。
「女の子は複雑なの」
いつの間にか心まで読まれていた。
いや、普通に会話の流れで喋ったのか。
どっちにしろ、君が特別面倒なんじゃないのか、という言葉は飲み込んでおく。
「そうそう、それで正解」
本当に読まれていた。
よくよく思い返すと、さっきから会話で口を開きはするが、声を出した記憶がない。
彼女は『覚』だったのか…………
「私を毛むくじゃらで性格の悪い妖怪と一緒にしないで頂戴」
違ったのかい?
他に心を読む妖怪は知らないんだけど。
「違うわい。というか妖怪から離れろ。私は人間だ」
違ったらしい。
口調がちょっとおかしくなるくらい否定された。
「ところで、じいさんや」
なんだい、ばあさんや。
「アレに勝つ秘策なんてもの、教えて貰えませんかね?」
何故手を揉みながら?
多分その場のノリなんだろうなぁ……。そもそも揉んでる姿が良く見えないし。
あぁ、うん、倒す方法だよね。口から中に入って、毒ぬった針振り回す。
…………我ながら中々に外道だ。英雄らしさなんて欠片も無い。
「あれ?思ったより普通に卑怯だった」
君は僕を何だと思ってるんだ。
思わず口から飛び出る。今度は声が出た。
「種族不明、住所不定、無職の妖精の様な男でしょ。それより、見えてきたわよ」
君ね…………もういいけど。
喋らず考えるだけに留めた。
疲れ気味にこっそりと彼女の白無垢から外を覗く。
隣の男より二周りも大きく、その額から二本の角が生えた異形。
「怖じ気づいた?」
まさか、そんな感情はどっかに忘れちゃったよ…………ぐぁ……
「あ、知ってる。そーゆーの『ちゅうにびょう』って言うんでしょ」
分かってるなら聞かないで貰えないかな。
結構ダメージが酷いんだよ?
「これはこれは、大変失礼致しました」
謝罪してる割には、えらく楽しそうだね。
「分かってるくせに」
分かってるから聞くんだよ。あぁ、でも分かってるけど聞くんだろうか。多分どうでもいいんだろうけど。
さて、それじゃそろそろ行ってこようか。
異形はすぐそこまで来ている。
「はいはい、行ってらっしゃい。ちゃんと勝ってきてよぅ、だ・ん・な・さ・ま♪」
気が早い、とも思ったが柄にもなく嬉しかったので何も言わない。
この見合いをぶち壊すだけじゃまだ『嫁』となんて呼べないが、それ以上話すのは野暮だろう。
ちょっとだけ頬が緩んだまま、僕は白無垢の袖から飛び出した。
さあさあ皆さんお立会い、
一寸法師の大立ち回り特とご覧あれ。