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4話

早朝からメールがうるさかった。なんだよ5時って。4時間しか寝てない。内海からメールの山が。あいつ、ツイッター感覚でメールうってやがる。うざ。

しかし、奴は寝てないようだった。それほど、事態は悪化していた。


救助用無水クレイドルは本日10台に増えるはずだったが、そのすべてがアカウントを剥奪されて無効化されていた。さすが管理源権者。アメを与え、奪い、模造アメを作られると、すかさずそれを潰す。救助活動は再び頓挫した。


いつになったら、日本政府及び警察が電子戦で優位に立つのか。まだ2日目早朝とはいえ、ログアウト待ちを強いられている人々の体感時間は4日以上。現実世界で6時間たつと、さらに1日分増える。ストレスも限界だろう。


寝る前に浴びなかったので、朝シャン。焦ってもどうにもならないし~。


その間にもメール着信が続く。二度寝する余裕はないな。諦めて電話をかけた。

「すまない、オーガ君!至急打ち合わせに来てもらえないか!」


何も言わないうちに内海が頭を下げてきた。電話の向こうでお辞儀を感じる。メールのやり取り中に本名出しをしないように言い含めておいたので、オーガ君と呼ばれたが、ちょっと痛いな。


「嫌な予感しかしませんが、早めに伺いますよ」


 親は説明が面倒なので、妹だけ起こしに行く。よだれを垂らして寝ていた。

 うぐ、エロい。

 いたずらしたくなったが、リアルでは最後までいいお兄ちゃんでいたいという意識が上回り、かろうじて普通に起こした。が、途中で気が付いた。よだれの臭いと少し違う。


 こいつ、脳内麻薬垂れ流しながら寝てやがった!つまりなんだ、加速寝か。4時間睡眠で8時間分の休息になる・・・わけないな。夢は8時間分見れたとしても。

 元祖の俺でさえやらないことを、妹はどんどんやり始めた。どこ行くつもりなんだ。頼むから旧人類にモルモットにされない方向に進化してください。


 「うぷっ」


 起きるや否や、妹は枕元のコップに口内一杯の麻薬をたらーりと移しとって何やら作業に入った。唾液と少し違う白濁液が下の方に沈殿しており、妹はストローでダマになった部分をほんのわずか吸い上げると、あらかじめ用意していたカプセル糖衣にまた移しとって蓋をした。パジャマなのにエロいマッドサイエンティストを見た気分だ。


 「このカプセル糖衣は、中身の風邪薬を捨てて用意したものだから、安全だよ。4錠できたから、ちょっと実験してみて」


 即席加速麻薬サプリか。我が妹ながら、恐ろしい物を作る。


 「お前、絶対にこれを他人にバラすなよ!実験動物にされるぞ!」

 「私、お兄ちゃんのためにできることを考えただけだよ!」


 ケンカになりそうなので、黙った。そっと頭を抱いた。


 「お前が心配なだけだよ。もう無茶をしないでくれ」

 「・・・うん」


 せっかく作ってくれた糖衣だ。効果の程を試す。まず、何分で糖衣が溶けるのか、口の中に入れ続けた。プラスチックみたいだが、5分で溶けて効果が出た。加速度は低いが、ゲーム内では4.3*2*1.5=12.9倍に達するだろう。持続時間はたとえ一瞬でも、無敵の時間停止技に等しい。問題は、3錠咥えても一度に溶けることだ。開始5分(ゲーム内20分)で、都合よく会敵しているとは限らない。


 妹は、俺が試験加速する様子を観察するのを中断したくなかったのか、目の前で生着替えを敢行した。眼をそらそうとすると、両手で顔を挟まれて向き直させられた。

 「もっとスーパーサイヤ人みたく、光ればカッコいいのにね」

 スカートも履く前なのに、そんな堂々としているお前がカッコいいです。


 「ダイブ中、どれだけ口の中動かせた?」

 いや、ろくに。呼吸器をつけるわけだから、舌しか動かせないし、それも1割以下の感覚だ。だが、時間調節をするには、糖衣を包むプラケースか何かの蓋を、口の中で開けなければならないのか。


 「これに包んでみようか。ガムに~、キャラメルに~、梅こんぶ~」

 梅昆布はなかろう!こいつ、バッグにお菓子ばかり詰め込んでやがった。兄の口になんでもかんでも突っ込もうとするな。普通逆じゃないのか。俺の好きなエロ漫画が「普通」かどうかはさておき。


 「もういい、行くぞ!」


 バイクで警視庁に乗り付けた。約午前6時。話が通っているので、手早く案内された。

 会議室では、首相の他、捜査本部の面々がずらりと待っていた。


 「よく来てくれた。状況は逐一内海君から伝えてあると思う。我々も全力を尽くしているのだが、好転の見込みは立っていない。現在残された手段はオーガ君のアカウントと、専用接続機デーモンクレイドルだけとなっている」


 「デモンクレイドルですか・・・そりゃまた好き物な名称ですね。奴らしいや」


 そこに鎮座するクレイドルは、吸血鬼の棺を意匠した、贅をこらした造りだった。たくわえられた液体が、赤みを帯びている。葛谷はこれに一体、いくらかけたのか。そこまでして敵に塩を、逆シャアの真似事がしたいのか。


 捜査本部では、他に多数の間接MAKURA接続機がおかれ、慌ただしくダイブが繰り返されていた。MAKURAに別の接続機をかまし、その接続機でダイブすることによって、正規にログアウトできないながらも、警視庁の特設チームが葛谷の妨害行為を敢行しているという。モニター画面が複数用意され、4倍映像と、遅速映像が流されていた。


 俺と妹は加速して、4倍映像に魅入った。はじめて、今現在ゲーム世界で何が起きているのかをダイレクトに知ることができた。


 大型モンスター討伐を行いながら、群がる警視庁妨害班をクズヤ・ロウが一方的に蹴散らす姿が、そこに映し出されていた。ゲーム内時間進行は現世の4倍に固定されている。その中で、デモンクレイドルのハードウェアアクセラレート4.3倍以外に、独自のソフトウェアアクセラレートを複数かます奴の姿は、単純に8倍を超え、8.6倍に迫っていた。4倍程度のゲーム内通常速度しか出せない妨害班6名は、死角を取られ、先を取られ、必中遠距離魔法しか当てられず、回復も間に合わず、徐々に追い詰められていく。バフもデバフもなっちゃいない。


 首相他は、遅延映像で頑張れとかしっかりしろとか応援していたが、もう俺には先が見えた。均等に体力を減らしていって、大型モンスターの大跳躍ボディプレスに誘い込んで一気に全滅させる気なのだ。


 「いいなあ。やりたいなあ。でも、もうすぐこのゲームなくなっちゃうんだよね」

 妹は、この後に及んでもそんな感想だった。もはや犯罪者が作った処刑場だ。存続が許されると思うのは、甘いのではないか。


 「お兄ちゃんが勝ったら、葛谷さんが捕まったら、このゲーム世界をください!」

 近くにいるからって、臆面も無く妹は首相に言い放った。


 「権利関係は開発会社の物でね。犯罪に使われたからと言って、そう簡単に接収して、功労者にあげますというわけにはいかないんだよ~」


 あわてて内海が割って入った。


 「それよりも、正午からログインする決戦班の説明をしよう。こちらへどうぞ」


 広い会議室の一画にブースが設けられていた。そこでは、様々な制服に身を包んだいかつい4人と、所在無げな婦人警官1人が待っていた。


 「オーガ君をサポートする、最強の5人を集めた。まずは警視庁きってのゲーム・パソコン通、旧知の通り栗原婦警」


 おお、生栗原。色々想像はしていたが、やっぱり美人だ。でも病んでる。ゲーム空間でのあっけらかんとした豊満さとはうって変って、姫カットの黒髪ロング、顔色は病弱なるも頬に赤みが差し、体つきはスレンダーなのに胸は大きく、股のところで細い指をもじもじしていて、言っちゃ悪いが人前でいじっているみたいだ。ある意味逆方向のエロお姉さんでうれしい限りだが、栗原さん、しっかりしてくれ!


 後は、陸自、空自、消防レスキュー、最後に捜査本部の課長。おやおや、変なの紛れ込んでるぞ。この後に及んで面子主義ですか。

 「隊の指揮は私が取る。君は敵を倒すことに専念してくれればいい」


 「とりあえず、偽MAKURAでログインして演習でもしましょうか。俺を相手に何もできないなら、クズヤにも対抗はできないでしょうから」


 俺がさっさと立つと、陸自、空自、レスキューもそれに倣った。アイコンタクト上は、課長が邪魔だと言う意識を共有したと思う。海自がいないのは、長期に出航する関係上、熟練ゲーマーがいないからかな。空自は、高速戦闘対応シミュレーターの記事を見たことがある。加速世界への関心は深いと思われる。他は知らない。


 「オーガ君、課長を怒らせないでね・・・」


 栗原さんが、俺の手を取った。つ、つめたい手が、温かくほのかにしめっています。あんた本当に理性のある社会人なんですか?性少年を惑わさないで!


 一番早くログインしたのは、慣れている栗原さんだった。MAKURAに接続した偽MAKURAをかぶるや、だらしなく口と股をおっぴろげつつ、寝台に倒れ込んだ。内海が手早く股を閉じ、口元にタオルをかぶせた。そのエロさ、ハンパネェ。


 「全く、栗原は!こんな問題児に頼らねばならんとは!」


 課長はモタモタ、コード類を前にしようか後ろにしようかやっていた。いじめ殺し確定。


 ゲームに入った。練習場に向かう。リリスKが待っていた。豊満な小悪魔系のエロオネェさんだ。これまでスーパーエロいと思っていたが、生栗原の方がさらにエロいことを今日知った。結婚してんのかな。


 「心臓シャッター、開けるんだよね」


 この世界でプレイヤー同士がガチバトルするためには、アバターの心臓部分にあるシャッターを互いに開くのが合図である。赤く光る宝玉のような心臓が見えるようになる。リリスの心臓が怪しく光った。


 俺に用意されたのは、とりたてて変哲もない男銀龍ポン刀キャラだったので、頭装備だけ売店で買って変えてきた。オーガには角が無いとね。


 5人はすぐそろったが、課長がまだだ。ゲーム内の基礎知識自体、奴にはあるのだろうか。適正は?まさかチュートリアル今やってんじゃねーだろな。


 陸自は、装甲槍兵だ。適正S。0.1倍加算の指輪×2装備により4.2倍。自己アカウントでβから300時間はやってるそうなので足手まといにはなるまい。少なくとも囮にはなる。こいつにダメージを与えるにはどうしたって後ろに回り込まねばならないので、クズヤがそれを狙うなら、俺がクズヤの後ろを取れる。


空自は、装備は俺と同じ。適正SS。指輪装備で4.3倍。盾なし前衛だから瞬殺されかねない。だけど、逃げ回って時々俺を回復してくれれば、役には立てる。彼は、高速シミュレーターのおかげか、現実世界で4倍放送を生のままおよそ認識できるんだそうな。動けなくても、見えている。頭は高速回転しないが、ずっと攻撃を待ち受けていれば、緊急回避はできる。そんなところ。


レスキューは、後衛系。適正A。4倍。他ゲームでキュア、デバフは慣れている。現実でも、いつ何をすべきか常に問われるシビアな職場にいる。ここがゲーム世界じゃなければ、一番有能かも。自主錬とかで余暇も少ないだろうに、ゲームまでこなすとは。


リリスK。適正SS指輪付4.3倍。悪魔の鎌を装備。俺がクズヤをコンボに捕えることができれば、駆け寄って追加ダメージソースになれるし、パラライズ効果が効けば、クズヤに逃げる隙を与えず、俺の次のコンボに引きずり込める。


俺は適正SSSだが、標準での上限が高いだけで装備が無く、素で4倍。また、麻薬加速では装備の+効果が無視される。というか、装備などのソフトウェアアクセルと、麻薬=バイオアクセルは競合して、複合しないのだ。ゆえに、加速中の俺にデバフは効果が無い。


 彼らは、偽MAKURA接続だし、仕事で参加している。最悪見捨てても死にはしない。気楽な仲間たちだ。葛谷に本気で勝つなら、全員トップランカーをそろえ、クレイドルの他改造プログラムで8~8.6倍を実現したいところだが。


 「課長、遅いですね~」

 「心臓シャッターを開けさせたら、すぐにタコ殴りで現実送りだな」


 空自、陸自もうなずいた。彼らは足手まといを極端に嫌う。レスキューは、知らないふりをした。


 「すまない、待たせたな!」


 ガシャガシャと重装備の戦士が入ってきた。すでに心臓シャッターを開けている。エリートらしく、知識は詰め込んだか。やれやれ。俺は、けだるげに心臓シャッターを開けた。


 その途端。


 課長が高速で俺の眼前に迫っていた。一撃で浮かされる。なんだと?一連の空中コンボを無防備にくらって、追撃まで受けて、体力が一気に半分になる。この速度は!


 「ものども、オーガを包囲せよ!」


 空自、陸自、リリスが壁際に追い詰められた俺の3方向を塞いだ。このログインは元々、俺対全員の戦いのはずだった。抵抗感なく即座にレスキューがデバフをかけてくる。こうなれば俺は加速を限界まで引き上げざるを得ない。


 陸自とリリスの間を抜けようと走る。陸自は盾側に槍を突きだせない。リリスの横なぎは飛べばいい。だが、そこでまたしても課長の迎撃をくらった。


 ショートジャンプした俺の落ちる軌道と姿勢は決まってしまった。攻撃可能範囲を擦り抜けて、鈍重そうな体躯の課長が、俺の背後を取った。空中キャッチジャーマンスープレックスを決められて、バウンドした俺に空自が切りかかって来た。逃げられるのは壁方向のみ。


 俺は、さっきどさくさに置きざりにしたポーションに体当たりして辛くも回復したが、再び追い詰められた。体力は半分に戻っただけだ。


 課長の姿が無い。あくまでも、3人の前衛に対する俺のアクションの裏を取る気だ。レスキューが必中遠距離魔法を打ってくる。地味に削られる。


 かくなる上は、くも膜下出血を覚悟して、脳圧を上げて麻薬分泌を限界を超えて行って、極限加速を行うしかない。課長、いやさアーザート!奇襲見事なり。


 「負けだ、負け、降参」

 「やったー、お兄ちゃんから一本取った~」


 おっさんアバターの中身が喜んでいる。かわいくないぞ。

 陸自の背後から現れた課長アーザートが心臓シャッターを閉じたので、全員それにならった。PKいじめを防止するため、いつでも任意に閉じることができる。体力優勢の方が先に閉じれば、引き分けとなる。負けている方は、死を免れる。葛谷との決戦では、心もとない機能だが。


 「課長はどうしたんだ」

 「チュートリアルの谷に突き落としました。一発で死にました!」


 妹は、敬礼した。こわいことを、さらっと言います。重装アバターは内海のアカウントの改造物だという。


 俺たちは、全員でメールを統括指揮管理用アバターに送信することにした。いくら時間があっても、今さらチュートリアルやってるような奴を隊長にはできないと。モニターはされているが、文章で残った方がいい。そして、ログアウトせず、戦闘訓練に精を出した。妹だけはアバターを替えて出直してきた。警視庁が用意した女アバターのアカウントを、アーザートっぽく調整して。でも、身長が180じゃないし、金髪だ。知らないぞ、リーチ負けしても。


 まだ、ゲーム内時間で丸一日ある。フィールドの捜索も行うべきか。だが、クズヤと遭遇し全滅でもしたら、俺のオーガを使用する前に負け意識が確定的となってしまう。そんな状態で、再び決戦に挑むことはできないだろう。


 ここにモニターを持って来れれば、時間を無駄にすることなく、捜索班の映像が見れるのだが、やはり一度強制ログアウトするしかないか。妹に聞いた。


 「偽MAKURAを脱がされた時の気持ちはどうだ。体調不良はあるか」

 「別に。唐突にゲームが終わって遅い世界が始まる感じ」


 栗原さんが聞いた。

 「MAKURAから強制切断されると、意識を分断されるような、自分の一部をゲームに残してきたような嫌な感じがするんだけど、偽MAKURAではそれはなかった?」

 「私は平気だったよ」


 統括指揮管理用アバターに強制ログアウト要求のメールを送ると、それをモニターしている現実世界の担当が偽MAKURAを脱がしてくれる。とりあえず飯と便所には12時前に一度行かねばならない。


 10時に演習を打ち切った。運動部で早朝から夜までやり切ったような疲れがある。連携は非常に深まった。俺と妹が4人を早期に脱落させないように立ち回れば、自然と勝利は見えてくるはずだが。何せ、クズヤ・ロウは屑野郎を公言している。いざとなったらどんな卑怯な手段でも使うだろう。


 そして俺たちは、偵察班が撮ったフィールドの映像確認に入ったが、席に着くや否や、後ろの席で誰かが倒れた。


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