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2話

200アクセスありがとうございます。望外のアクセス数です。


筆が乗ったので、9P分をUPします。

 家に送られた。父親は家にいた。もう夜だった。母さんと妹は。

 「入れ違いか。お前の手伝いに、警察に行ったぞ。おべんともって」

 なんだそのほのぼの展開!

 ぐ。やはり俺のメモを本気にしなかった!妹はどこにも逃げられなかった!馬鹿親父め、危機感が無いのか!俺と妹は、重大な秘密をかかえているんだ!

 必ず盗聴器があるだろう。憤りを言葉にすることはできなかった。

 隠したことで、かえって探られたか。悪いのは俺か。

 危機感も無く、あんな通信機器に繋がり続けたのが不覚なのか!

 俺と妹は、脳内麻薬の生成者だ。もともと加速式VRMMOの世界に適性があり、その世界に慣熟した俺は、低速世界でも自力で加速できないかを試した。イメージは中二病的に脳内麻薬の生成。だが、簡単に成功してしまった。そして、加速世界でもさらに加速することが可能だった。俺は有頂天になってランキング入りを目指した。そして、お前にもできるはずだと妹を引き込んだ。その先を深く考えることも無く。

 俺たちはあっさり新人類になってしまった。まずい。旧人類にモルモットにされる。俺たちには自分を守り抜く力が無い。脳が4倍速以上で動いても、実体はゲーム三昧で鍛えていない。電子データの体はリミッタさえなければ高速で動く。恐竜進化だ。滅びるしかないのか。


 ああ、この思いが被害妄想だったらいいのに!

 今から警視庁に押しかけても、どうせ門前払いだ!

内海の名刺、ここに書いてある電話にかけてもどうせ!

「妹はあずかった。帰してほしければブルマとスク水を持ってこい」

 変態野郎!


 その時、携帯が鳴った。内海!あのやろう!(変態は俺だ)

 「家族に手を出さないって約束でしょう!」

 「まった!緊急事態なんだ!妹さんが危ない!今すぐログインできないか!」

 今うちには妹の古いPCしかない。スペックが不足気味の奴だが、βで妹アカウントのキャラを育ててあるのでログインは容易い。この遅さがかえって妹の脳の覚醒を刺激した。

電話で事情を説明させつつ、速攻で準備に入った。妹が人質なんだ。四の五の言ってる暇は無い。俺が警視庁に取って返す時間も無い。

 妹は母に無理矢理連れ出されたようだ。母の車で押し掛けたので警察は関与していない。なんでそれを会議室に通すのか知らんが、クレイドルの接続溶液が丁度届いたこともあり、妹に救助活動を手伝ってもらうことになったそうだ。なんでも、救出順番待ちに飽きた被害者が待ち時間にクエストに出かけ戻れなくなったそうだ。

 見捨てればいいのに、そんな奴。

 俺のではなく、妹のMAKURAを被る。ログインできない端末で、無理に外した場合の影響は軽微とは思われるが不明。せめて残り香が欲しかった。

 俺のアカウントは使用中。馬鹿内海、気の回らない奴。やむなく妹のアカウントでログイン。アバターは、俺が入念に妹の容姿を美化して作りこんだ一品だ。リーチの不利を嫌い、実物よりかなり大きいが。

 クレイドルと違い、身体感覚の完全一致感覚は薄い。男の実体がベッドに寝つつ、女体のアバターを立って操る。慣れないとアバターが走れない、振りかぶれないので、初心者が逃げる仕様となっている。。

 変態玄人は、女体アバターを駆使して形だけなら騎乗位セルフセックスが楽しめる。もっとも、アバターに女性器が無く、接触もしないし、実体感覚がおぼろげにしか残っていないので、あまり快感は感じない。

 妹のアバター、黒髪パッツン美大女、アーザート・イーデスは、ゲーム内ベッドから立ち上がった。インナー表示状態から登録装備が装着されていく。β上級モンスター定番装備、ズィルバードラッヘ。前から見るとガチガチの銀色鎧だが、ななめカットのミニスカ腰アーマー、背中スリット、もも裏スリットという背面肌色が満載の装備となっている。

 ちなみに対となるゴルトドラッヘ装備は前空き。なんと下乳及びローライズ、局部は常時ハイライトエフェクトで隠すという野心的装備で男性人気が高いが、女性人気は低い。

 武器は大盾剣しか作っていない。盾から柄と大剣の刃が生えており、先端しか切れないがガードができる。最強グレードではないがとりあえず上級装備である。

 だが、このキャラは正規版クエストをなんらクリアしていないので、β引き継ぎ装備のままではクエストが受けられない。

 ゲーム内メール着信。内海の指示が来た。SEのセカンドキャラ(ログアウト不可端末からINした婦警)と組んでクエストを受託、妹の操るくぷりん、要救助者と合流してくれという。

 ギルドでは痴女が待っていた。ゴルトドラッヘ装備、名前くぱりん。上の局部から下の局部までの間が肌色で、それ鎧かよ、全然守れてないよと突っ込まれている例のアレ。SEの奴、マジ変態。

 「私、アーザートちゃんとも、そのお兄さんのオーガ・スターさんともパーティ組んだことあるんですよ~」

 4倍速適応者の婦警か。ダメ社会人っぽいが、今は使える。

 「その時のアバター名は?色々な人と組んだので覚えてないかも」

 「えっと、リリスKだよ」

 覚えている。他の仲間からKって何と聞かれ、栗原ですと本名バレしていた女性の女アバター使いだ。平日昼間にエロ装備でログインしてくるダメっぽい人だ。婦警だったのか!

 「栗原さん、今日はまたエロいです。高校生誘惑するなんて、条例怖くないんですか」

 「つかまらないよ。喜ぶ人はいても、訴える人がいないもん」

 ダメだこの人。はやくなんとか・・・されたい。

 「いいから出発しましょう」

 「ペアルックだね~」

 緊張感が無いなあ、もう。

 「なんで戻れないんですか。妹だってゲームはうまい」

 「橋のせいよ!」

 砂漠マップに来ていた。

βでは橋があったところが、無い。落ちている。動きそうな背景だったので合点。

「ダメージで落ちるみたいなの。こっちにいるキャラが丸木橋を渡さないと、奥にいる人が戻れない。さらに丸木を渡すと、両側からボスが襲ってくるの!」

栗原さんだけではどうにもならない理由がそれか。詳細を打ち合わせした。2人で木を切って丸木を渡す。俺が奥に進んで妹と要救助者を呼んでくる。栗原くぱりんはこっち側で丸木橋を守る。俺は2人が渡っている間、むこうでボスを迎撃し、最後に渡る。

「妹は奥で何を」

「ここのボスは、一定時間でどんどん湧く中ボス。回廊で倒しては逃げを繰り返しているわ。そうしないと要救助者を守れないの」

「俺が、丸木橋を離れている間に、橋を落とされたら」

「どうにもならないわ~。人手があと一人足りないわね~」

「まだログアウトしてない戦える奴、探しといてくれればいいのに」

「ベッドとクレイドルの人優先でログアウトしていたら、強い人はいなくなっちゃったの」

 議論はもういいや、行こう。残り少ない木を切って、橋を渡す。途端に、こっち側ボス出現。くぱりんが突っ込んでいく。俺が橋を渡ると、そこにもボスがいた。まず一匹倒さねば。敵は砂漠シャチだ。頼むから潜るなよ!

 スタン効果のあるシールドバッシュ。運良く脳震盪を起こしたので、刃を突き刺して大盾剣のタメ技、グリグルエグリを行う。タメ解放と共に、突き刺した刃が開かれ、砂漠シャチは両断された死体となった。これが消えるまでは、橋は無事のはず。

 奥の回廊に入った。4部屋の最初には不在。出入り口が近い右には不在。やむなく戻る。シャチの死体にシャチがよりついていた。本物のシャチは、仲間の死体食ったりするかな。

 シールドバッシュは潜ってよけられた。何度も幸運はついてこない。地面を観測する。動いている。こんな細かい流砂で、俺らがその上を走れるわけがないのだが、それはゲームのお約束で。

 出てくる兆候が見えた。砂が盛り上がるところに切り上げを合わせた。シャチが釣り上げられたかのように飛び上がった。落ちて来てピチピチはねた。グリグルエグリで大ダメージを与え屠る。

 回廊を覗く。不在、左も不在。どうしよう、一番奥まで行って戻ったら、橋が落ちるのではないだろうか。左から戻ると、右の部屋から入ってくるくぷりんに出くわした。ラッキ。

「アーザートの中身は俺だ、オーガ・スターだ!くぷりん!」

「お兄ちゃん、私のアバター使わないでよ!へ、変態なんだから!」

「なんだと、くぷりんとくぱりんのSEの方が変態だ!」

そこへ、要救助者がやってきた。カワイイ猫耳装備だが、俺たちの会話をきょとんと聞いている。

「あれ、救助の救助の人?助かった~。ここもう飽きちゃいましたよ~」

「早く戻ろう!橋がヤバイ」

猫耳の中身の性別はどうでもいいな。素直でありさえすれば。

戻ると、シャチが意地悪そうな顔して丸木を谷に落とそうとしていた。蹴散らす。切り上げでシャチも谷に落ちればスカッとするのにな。

「くぷりん、先に行け!」

「わかった!」

今度は向うが危機だった。前進守備をしていた栗原くぱりんが抜かれたのだ。

妹が操るくぷりんが加速して行く。明らかに4.2倍以上、どぴゅどぴゅ脳内麻薬分泌中だ。シャチが潜る暇も無く滅多切りされた。モニターされてんのに~。

「さ、猫耳さんどうぞ」

「きりとりたいニャー」

思い出したように猫語尾を使い始めたが、突っ込んだら負けだ。

「稼いだって無駄ですよ。このデスゲーム、保守できませんて」

「え~せっかく、くぷりんのおかげで高級素材集められたのにニャー」

回廊でゲーム中一度だけ取れるアレか。デスゲーム世界で遊んでいやがったよ、こいつら。俺だって欲しいけど。

猫耳はしょげつつも渡って行った。俺も渡る。

で、引き返す。こっそり近寄って俺ごと橋を落とそうとしていたシャチを叩き殺す。

ようやく戻れら。

しかし、TR1が逮捕されたら、この世界は無くなってしまうのか。節操無く色々パクっている所が好きだった。元ゲーは制約を楽しむ世界。こっちは制限を徐々に振り払っていく世界。ゲーマーの俺にしてみれば、住み分けてもいい。中華式デッドコピーではないんだよな、日本人の二次創作というものは。

たとえ、人格最低開発者のクズヤの作品と言えども。

中級までは、クエスト毎のフィールドなのでどこがMMOなのよという感じなのだが、上級になると、街や城などを除いて、世界はひと続きのワンフィールド、何人でも同時戦闘可となる。巨大モンスターも闊歩しているし、魔法も解禁になる。タイムアップも無い。ハイエンドPCでも処理落ち発生する危険な野放図空間。フィールドでボスに遭遇したら、「狩場」に誘導するのがプレイヤーテクニックとして確立していた。谷間とか、広場とかが、こっそり単独サーバーになっているので、そこに入った人数次第で処理落ちを免れるのだ。

遊びたいよな~。救助とかやってないで。

便所に行かずにデスゲに囚われていた方が、今頃楽しかったのではないだろうか。

だが、MAKURA接続状態でのデッドが、どの程度生身にダメージを与えるのかは、実はきちんと伝えられていない。今渡っている丸木橋から落ちたらどうなるかは、内海情報によれば体調不良程度だが、本当かどうかそれもあやしい。ずっと続く体調不良もあるだろう。さっさと戻ってくぷりんの権限でログアウトするのが賢明だ。

橋を渡り、とりあえず4人で集まってパーティを組んだ。

妹のアカウント、美大女アーザートIN俺。ログアウト不可MAKURA。

SEアカウント1、銀髪幼女くぶりんIN妹。ログアウト可能クレイドル。

SEアカウント2、金鎧痴女くぱりんIN栗原婦警。ログアウト不能ベッド。

要救助者アカウント、猫耳少女アビシニアIN知らない人。機器不明。聞かんでもよかろう。

丸木橋のような新たな姑息な罠さえなければ、中級クエストの砂漠など、単独でも問題ない連中だ。キャンプまですぐ帰れるのに、みんな遊びたそうな顔をしている。

「ちょっとくらいいいよね~」

「栗原さん、あんた仕事でしょ!」

「倒したと言ってもシャチじゃニャー。ザコみたいなもんだしニャー」

「待ってれば出ますよね、キャンプ前にも例のボスが。回廊の奥から宝奪って来たので」

「お兄ちゃんは、お前が心配で助けに来たんですけど!」

大体、例のボスって、霊のボス、悪霊じゃねーか!通常武器では1割しかダメージが通らず、地面に落ちないのでグリグルエグリでの大ダメージが与えられない相性の悪い相手だ。魔法解禁になってから戻って倒すのが定番!

「ログアウトしちゃったら、もうこのゲームにログインすることは無いかも知れないんだよ、お兄ちゃん。最後に思いっ切り全力で切りまくったら?」

妹は、ブッタギレイヤーをまだ振り足りないらしい。目付きが怪しい。1割しか通らないなら、中級クエストのボスでもそれなりに多段コンボが楽しめるとか思ってるんだろう。

切りまくるったって大盾剣の手数じゃ。・・・ってお前はこれで延々とスタンを取るまでシールドバッシュする人でしたね。ダブルアクセルまでして。

「ねぇねぇ」

かがみつつ接近した栗原さんが、いきなりのけぞった。エフェクト発光!

「面白いでしょコレ!」

それ、モロ見えを画像処理して誤魔化してるってことなんですけど!

「悪霊に効かないかな?」

「確かにエロじじいの霊なら、ありがたやナンマンダブって昇天しますよ」

「猫は霊が見えるんニャよ!」

「猫耳だけどネコ目じゃないよね・・・」

「なんて残酷な図星ニャ!」

「というわけで、速攻で帰ります!」

「ええー!!」×3

俺は走り始めた。悪霊に合う前にキャンプに駆け込む気である。妹がくぷりんの短い脚で追いかけてきた。俺は低速マシンなので4倍に満たないが、妹は4.2倍のクレイドルで、さらに追いつくまで脳内麻薬加速してくるのを抑えられない性格。並んだ。

アビシニアが置いてかないでとそれに続き、しんがりは婦警のくぱりん。

「悪霊がいたら、ヘイトだけ取れ!ダブアク禁止!」

妹に指示した。俺たち兄妹の脳内麻薬による加速を、ダブルアクセルと称しているが、今はモニターされているので、はっきり言いたくない。

「えー、つまんないなあ。お兄ちゃんも、クレイドルの4.2倍体験したんでしょ。すごいいねこの一体感。で、限界まで上げたんでしょ?お兄ちゃんなら、ひょっとして10倍に届くんじゃない?」

睨み返した。お前は、危機感が無いのか!そんなに、兄と一緒に旧人類のモルモットにされたいのか!全裸でホルマリン漬けの妹を連想してしまった。

麻薬加速は、あれこれ条件により、効き方が異なる。俺は現実世界では、少し分泌すればいきなり4倍になる。4倍という状態になれているからと思われる。MAKURA接続では、4倍スタートだが、そこで分泌しても4×4=16倍とはならない。4.1、4.2と徐々にしか上がらない。10倍なんて買いかぶり過ぎている。クレイドルの4.2スタートで、限界は8.4くらいだろう。それだけ出しても、技モーションに必要な時間の制限を受けるので、8.4倍攻撃できるわけではない。8.4倍に伸びた時間の中で、都合のいいタイミングで攻撃できるというだけである。

ただ、このゲーム、走る速度はキャップが無いので、接近離脱回り込みは圧倒的となる。それと、当たったらバックモーションキャンセルとなる技が多数あるので、それを駆使すれば、シールドバッシュ加速多段とかができるというわけだ。

「いたよ、悪霊!」

妹は加速せず、ロングレンジから切りかかった。

ちゃーんす。

俺は途端に加速して、妹に襲いかかった。そのモーション中は、我が妹と言えども、当たるまで、何も、できないのだ!うははっ。

妹得意のシールドバッシュ連打!速度3.8スタートで7.6のマックス加速。妹の速度4.2を引いて3.4。たぶん6回くらいあたる!スタン確率は対人5%。賭けは成功するか?

1回目当たった。俺と妹のバックモーションがキャンセルになる。スタンせず!

2回目当たった。妹はすでに加速開始したようだ。やばい、計算が狂う。スタンせず!

3回目当たった。妹向き直る。スタンせず!

4回目当たった。同時に妹の突きも俺にヒット!俺のけぞりモーション!計画は破綻か?

間隔が離れてしまったが、後続の攻撃は来なかった。妹の頭上でヒヨコが舞っている。

うし、成功!

ロープを取り出して、くぷりんをM字開脚にしばりあげた。退廃的だが仕方ない。妹にこんなことはしたくないのに。アバターがくぷりんで残念とか思っていない。

だが、本当に仕方がないのだ。ひとたび攻撃した以上、倒すまでこいつは戦い続けるに違いないのだ。絶対夢中になる。人の話を聞かないに決まっている。

霊の攻撃を回避しつつ、妹を切り上げてふっとばした。もう俺は7.6加速していない。

ログアウト直後とは違い、分泌し続けなければ急速に速度はダウンして行く。

 5.6くらいの速度で、妹の落下点に行き、例のごめんねチョップ!

 空中コンボが成立したので、切り上げてごめんねの連続で運んで行き、キャンプに消えてもらった。そうするとロープははじけたかな。怒ってまた入って来たりして。

 後ろを振り返って、アビシニアとくぱりんが悪霊を回避してこっちに来るのを確認した。2人だけじゃ絶対に倒せないから、来るしかないはずだ。妹が戦いはじめたら、こいつらはそれに乗っかって収拾がつかなくなるに違いなかった。

 3人でキャンプに入った。妹は怒っていた。こっちを見ないで座り込んでいる。

 「ずっるい。ずっるいんだからもー。お兄ちゃんは~」

 「それはそーと、本当にオーガ・スターが今はアーザートの中身なのかニャ?」

 アビシニアが聞いてきた。

 「そうだけど、以前に面識あったっけ?」

 「ん~。確か上位ランクで見た名前だニャと。さ、ギルドに戻るニャ!」

 俺はTR20までは無茶加速で追い上げた。その後TR10入りしたのは、TR1はどんな奴なのか偵察接近し、β終盤で一緒に奴とプレイしていた結果である。最終盤のいがみあいを知らない人間にとっては、いいように取り入って最終クエストにいい武器を設定させ、おいしく手に入れた奴に見えるだろう。猫に嫌われるのは悲しい。

 「今日は本当にありがとう、アーザートINオーガ君とくぷりんINアーザートちゃん。本官もこれにて本日は任務完了となります!」

 「生身の栗原さんの婦警姿を、今度是非拝見させてください」

 「うぐ。くぱりんとかリリスKを期待しないでね」

 とりあえずギルドに戻った。討伐クエストはパーティで砂漠シャチ20匹だから余裕。個人で入って中でパーティを組んでも加算なのは、βと同じ。デスゲームなのに、その辺はゆるい。

 ギルドを出て、くぷりん家のセーブポイントでログアウトする。

 今さら邪魔が入るとも思えないが、あたりをうかがってしまう。

 「お兄ちゃんは、被害妄想が過ぎるんですよ~」

 「へー妹さんは、アーザートちゃんそっくりなんですか」

 「お兄ちゃんに作ってもらったアバターなんですけど、実物は、身長2mもありませんからね!」

 いつの間にか妹と婦警が仲良くなっていた。その婦警個人がいい人でも、組織は怖いんだぞ。お前の幼児時代の写真を持っているだけで、この兄は逮捕されかねんのだ!

 大体、女性アバターの設定限界は身長180だ。2mじゃない。大林素子はどうしたらいいんだ。2cm足りないぞ。実物大アバターが作れない。それこそ差別だ。偏見だ。

 最後に、お手手つないでお別れすることになった。またどこか別のゲームで。WEBでは二度と会えないことも多いが。

 「それでは、いいログアウトを!」「友達からのメールを転送したニャ!」

 消える間際、アビシニアがそう言い放った。


 自宅。MAKURAを外した。長時間横になっても頭が痛くならないように、低反発枕がクッションになっているのでMAKURA。

ログアウト後も、ゲームのHPからゲーム内メールは確認できる。フレンドと、パーティ仲間にしか送れないが、フレンドから来たメールをパーティ仲間にコピペ転送ということは任意にできる。アビシニアからアーザートへ。

嫌な被害妄想がする。開きたくない。どうせロクなことは書いてない。

「以下コピペだニャ。

 親愛なるオーガの諸君。私はクズヤ。クズヤ・ロウである。このゲームの開発者にして、支配者。加速する世界の頂点に立つものである。」

 どうしても、~の諸君って言いたかったらしい。あーあ。開いちゃった。

「オーガ・スター君。君ならば、私の世界を堪能してくれると思っていたが、残念だ。オーガたる君ならば私と闘う術は、いくらでもあるはず。ブッタギレイヤーで私をぶった切るという誓いはどこに行ってしまったのかな?漢と漢の約束を果たされんことを切に願う。」

 何が漢か。犯罪者と約束を交わした覚えはない。

 「君だけに教えてやろう。離反SEなどいない!首相と議員達をクールジャパンを名目にハメたのは、初動を遅らせるための作戦だ。警察のクレイドルは、救出作戦用に与えた狂言装置だ。君があのタイミングでログアウトしてしまったのは、想定外だ。首相の秘書内海と警察が、君を即時に確保したのも想定外だ。救出作戦に君が狩り出され、私を追いかけて来ないのは、実に悲しい誤算だった。」

 ざまーみろ。

 「そこで、計画を修正することにした。

 【オーガ・スターはログアウト権限を手に入れた!】

 【警察はクレイドルを手に入れた!】

 明日の月曜祝日正午、私は全クエストを制覇し、加速の神となる。

 ログインしたまえ!

 私と闘いたまえ!

 無様に負けて逃げ出したまえ!

 仲間を捨ててログアウトしたまえ!

 【クズヤ・ロウはアーザート・イーデスを手に入れた!】

 なお、このメールは自動的にアカウントごと奪われて読めなくなります」

 ばばば、馬鹿野郎!カウント始めんな!

 5.4.3.2.1.ブー。

 HPがホームに戻された。案の上、アーザートのアカウントは使用できなくなった。メール確認できねー。ということは警察になんて説明すりゃいいんだ?

 大体なんでアーザートなんだ。妹自体をログアウトさせなきゃ人質になるだろが。三次元に興味ないってか。またはそれができないか。

 なんて残念な奴なんだ。

 「内海さん。妹はログアウトしてますか」

 電話じゃなく携帯でメールした。ログアウト直後の会話じゃ速度差があるからな。

 「はい。すごく・・・美少女がクレイドルからログアウトする姿っていいですね」

 「見てんじゃねーよ!はっ、まさか録画したのか!頼むコピーさせて・・・」

 「僕の脳内メモリーは永遠に僕だけの物です」

 んがー。

 しばらくして、母と妹は自宅に戻って来た。その間も内海と情報交換は怠らなかったが、俺は、バカの誘いに乗って、アーザートを取り戻しに明日ログインする気はさらさらない。

 サラッサラ無い!


 だが、妹は大泣きした。

 「絶対取り戻してよお兄ちゃん!アーザートは私の分身で、オーガの妹なんだよ!妹を見捨てるのがお兄ちゃんなの!うわあああああん!」

 嘘だろ。失敗したら、俺、死ぬかも知れないんですけど。


次回更新は、予定としては来週です。


挿絵も描きたいですが、どうなるやら。

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