13話 最終回
急ぎ、上り階段を駆け上がった。命綱が切れた。普通こういうとき老人は、若者の話を聞き終わるまでは死なないはずなのに。冗談きついぜ。
黒服SP等が要所にいたが、誰も邪魔しなかった。俺たちを不憫に思ってのことかも知れない。病室に案内された。政治家のような連中と何組かすれ違った。ここのお館様に最後のお願いをしようとして、叶わなかった人々だろう。病室の前で呆然として崩れ落ちている男が一人、切り替えて足早に去っていく女が一人。
俺たちは、中に通された。ド真ん中にあるクレイドル3基を始めとして、最新鋭の医療機器、電子機器、モニター類が並び、大御所の棲家とは思えないギャップがあった。普通、和室っぽいのを好むのではと思っていると、大型モニターに、和服を着た老人が茶室でたたずむ様子が投影された。
「ようこそ、自称新人類のオーガ・スター君。色々やっているうちに余命が尽きてしもうた。生きているうちに会いたかった。今の私は、故人を模倣した、魂持たぬ単なるAIだ。政治力も何もない。それでも良ければ、話を聞こう」
くう。お館様・・・。女中とメイドとSPがハンカチを咥えて泣いていた。SPもか!
「遅かった。中央のクレイドルだ。冥福を祈ってやってくれ」
安原先生が、合唱していた。画面の中の老人がかくしゃくとした70才なら、クレイドルの中の老人は120才にも見えた。そんなにサバ読まなくてもいいのに。
「先生、すぐにここを離れよう」
「うむ。隣に栗原君が入っている。ログアウトさせるから」
画面のAI老とその隣で茶器を3回回していた和服美人が慌てた。
「おい!無視するな!」
「ちょっと待って~、私ログアウトこまりまあうあう~」
「だって政治力ないんでしょ」
「言葉のあやだ。多少は残っておる!・・・たぶんな。死んだ途端無視されるのは、AI転生を果たした身としては切ない。もうすこし、話をしていけ」
「私もうログアウトしないって決めたんです。脳機能短絡が激しくって、もう、ゲームの中でしか満足に行動できなくて・・・」
「それでAI老のお世話係に雇われたんですか」
俺は、AI老に人払いを頼んだ。女中とメイドたちは素直に従った。少なくとも部下はAIに従うことに抵抗感が無いらしい。元気なお館様が戻って来たような感覚なのだろう。しかし、女中かメイドか統一しろよ。
俺は、クレイドルの中の栗原さんにカテーテルを挿入した。・・・どこにって、ノーズトゥノーズさ。さて、脳機能修復に努めようか。なんかこの分だと、カテーテルを一生つけっぱなしになる気がするな。
「オーガ君、ありがとう!お礼におねぇさんが卒業させたげる!」
「だめぇ!いくら栗原さんでもだめぇ!」
クレイドルから起き上がって来た栗原さんは、全裸のまま抱きついてきた。エッチなとこは治ってないと言うか、治しませんでした!!妹よ、反対は禁止だ。お、おまえが責任もってくれるなら反対でもいいが。
「あーあ、せっかくわしの栗原になったと思ったのに・・・。もっと早く来れば、わしだって助かったのかも知れんのにな」
AIになって健康の不安がなくなり、老人の言動が軽い。白い犬の中の人みたいだ。
「さすがに老衰は治せませんよ」
「お兄ちゃんは不老不死だって手に入れて見せます!」
最終回だからって無駄にハードルあげやがるッ!
「さて、なけなしの政治力でもできることがある。ワシは、円谷幸吉の悲劇はもう見たくない。君の能力は優れているとは言え、イチロー程の実績をあげたわけでもない。医師会が君をモルモットにするのは阻止しよう。自衛隊幕僚本部でも、いわば日本人エースを使い潰したり他国に引き渡すのは反対だ。自衛隊加速戦闘研究班が設立される。隊長は別の男だが、高崎が副官だ。彼らは自分たちも修練と根性で加速できると考えている。高校を卒業したら防衛大学に入れ。将来の尖閣で出番があるかも知れんぞ」
「国家機関に狙われるなら、別の国家機関に属してしまえということですか」
「そういうことだ。単なるプログラムであるワシの政治力は今後壊滅的となろうが、安原が治せなかった、政治力のある連中の脳を、数人治療してまわってやればいい。あとはそいつらが君を守ってくれるだろう」
「自衛官で医師ですか。相当勉強しなきゃいけませんね。俺の成績はちょっとズルしているので、自信が無いですが」
「いっそ鴎外のように、文化人も目指すかね」
「やめてください。奴は脚気研究を妨害したビタミンの敵です。自分の面子で科学を葬る卑劣漢じゃないですか」
「ようゆうた。そこまで言うからには上回れ」
おかげさまで人権は戻りそうですが、ハードル高いなあ。
「希望としては、休暇の多い公務員で、ゲーマーな人生を目指したいんですがねぇ」
「ワシは、間もなく葛谷から接収した技術で、『よんバイくうかん』というコミュニティサイト、ビジネスサイトを開始する。VRMMOなんか作らんが、ゲームサービスも展開する予定だ。それのスタッフにしてやってもいいが、国家の庇護が無い分、ログイン中に拉致されて製薬プラントにされる危険は高いぞ」
覚悟を決めるしかないか。
「わかりました、ダメ元でやるだけやってみます!」
「よくわからないけど、お兄ちゃんならできるよ!」
でも、妹が超人化して、世界を征服する方がきっと早いと思う兄であった。
ご愛読ありがとうございました。
他の作品も読んでいただけるように頑張ります。




