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「タカト、あんたモデルのタカトだろ?」
「――……そうだけど」
背後から声をかけられて、振り向きざまに返事をした時だった。
かなりの力で腕を引かれ、すぐに暗くなったかと思うと、視界を目の前の大男が支配した。
「あんたがスキだ!」
「は?」
そびえ立つビルの隙間。薄暗い路地で向日内高徒は学ランを身にまとった、名前も知らない男に告白された。
硬直するタカトに、告白してきた男はまるで拍子抜けしたかのようにキョトンとした表情にかわる。
「あ、えと、“キモイ”って突き飛ばして逃げないんですか?」
「いや、びっくりして」
頭が整理されてきたタカトはゆっくり硬直を解きふっと笑う。
「キミ、名前は?」
タカトが微笑を浮かべたことに驚いたらしく、大男はタカトから視線を逸らしながら小さな声でぽそぽそと名乗る。
「水富……海」
「海くんか」
「………」
名前を呼ばれた瞬間、大男もとい水富海はブワッと真っ赤にそまった。
どうやら、純情な彼は相当タカトの事が好きらしい。
海は片手で顔を覆いながらよろよろとタカトから離れた。
するとタカトはするりとその隙間から抜け出し、路地の入り口へ歩きだす。
「あ、タカト……さん」
「海くん、ごめんね。俺はキミの期待に応えてあげらんないよ」
静かにそういったタカトは、小走りで路地から出た。