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存在理由

「…終業式を終了とします。」

かた通りのセリフと共に、ブツッと音を立てて、教室に備え付けられたスピーカーは沈黙する。この学校の始業式と終業式は勉強重視の校風の下、簡単に校内放送で終わらせられる。生徒を一ヶ所に集めるというてまを省き、校長の用意された原稿を読むだけのスピーチの間に生徒に自習させるためだ。

「では、皆さん、休みだからといって遊びほうけず、実りのある夏休みにしてください。」

担任教師のそんな声が聞こえたが、ほとんどの生徒は話を聞かず、さっさと帰り支度をはじめていた。言われなくてもわかっていると、その背中がありありと語っていた。そんな中、一人だけウキウキした様子で一人の少女が教室から飛び出す。真だった。

「さってとー。早く弁当届けないとー♪」

鼻歌混じりに、階段を駆け登ろうとした真の耳に耳障りな嘲笑が聞こえた。

「よく顔が出せるもんだな?墜ちた英雄!」

「どんな神経してるんだろうな。特別な推薦もらっておいて、怪我でもう走れない奴なんて、学校の迷惑にしかならないってまだ気付いていないんだぜ。」

「きっと、今までスポーツしかやってこなかったから、脳ミソまで筋肉になってるんだよ。」

真が後ろを振り向くと、そこには気持ち悪い、嫌な笑みを貼りつけた男子生徒達がたっていた。 こいつら…陸上部の二年じゃない!

かつての仲間から受けた、攻撃に真の頭に血がのぼる。昨日までの真なら実際迷惑をかけてしまっている負い目から、そのまま走り去っていたが、昨日少年に思いっきり泣き付いて憂さを晴らしたことによって、真の生来の性格が顔を出していた。つまり、負けず嫌い

真はゆっくりと二年生三人に近づいてこれ以上ないほどの笑みを浮かべ、少年達に話掛けた。

「あれれ、こんなところに入部早々一年に鼻っ柱叩きおられて、知恵の輪みたいに性格のひねくれたゴミがいるわね?怪我した傷心の後輩苛めるなんてどこまでクズなのよ!」

「っつ!」

真が今までしたことがない、強い反撃したことに二年生は一瞬怒りで顔を真っ赤に染めたが、

「なに!」

「あ、いや。なんでもない。」

真が更に強く睨み付けると今度は顔を蒼白にしてすごすごとどこかへ行ってしまった。

「え?あれ…?」

初めて反撃を加えた相手が、あっさり引き下がったことに、真は思わず固まってしまう。

そして、数分後周りの冷たい視線に気付いた。

『おい、今の見たかよ!』『みたみた、こわかったー。』『自分が走れなくなったからって、上級生に八つ当りしていたぞアイツ…。』『ザ女王様気取り?』『特待生だから何してもいいと思っているるのよきっと…。』

「な、違う!そうじゃない!」

慌てて真は事情を説明しようとするが、もはや後の祭りだった。真が声をかけようとする人間は、蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、いつの間にか誰も居なくなっていた。そこで真は先ほど先輩があっさり逃げ出した理由を理解した。

別に特別ななにかがあったわけではない。ただ、真が怖かったから逃げ出したのだ。

前にも言ったように、ここは進学校だ。それも、頭にステレオタイプなという言葉がつくような、詰め込み教育を至上とする、勉強量がものをいう、進学校だ。

当然そこに入ってくるのは、今までに勉強しかやってきていない、よく言えば勉強のエキスパート。悪く言えばガリベンバカ達だ。

そういった子供たちは、当然のように喧嘩をしたことがない。他人に真剣な怒りをぶつけられることがないのだ。しかし、嫉妬心やプライドだけはやたらと発達しているため、気に入らないものを弾劾することに抵抗もない。

つまり、他人の悪口を言いたいだけいって、都合が悪くなると、謝ることもせずさっさと逃げ出す人間がここでは普通なのだ。

遠巻きに自分を見つめてまだ自分の悪口を言っている生徒を見つめて、真は体を小刻みに震わせる。しかし、心を占めているのは先程までの煮えたぎるような怒りではない。圧倒的な恐怖と嫌悪感だ。

ここの人達の心は小学生で止まっている。なに、これ…。なに、これ…?なに、これ!ナニ、コレ………!!

怖い怖い怖い怖い怖い!

恐怖が心を侵食していくなか、真は必死に足を動かし、あの少年を探す。自分を癒してくれた、あの優しい笑みの少年を…。

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