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宇宙の運び屋-石川マコト-外伝「デブリの向こうに、約束のステージ」

作者: パンダまん
掲載日:2026/04/18

この作品は、本来R-18要素を含むダークなストーリーとして構想されていましたが、

「春のチャレンジ企画」に合わせて、完全に健全版として書き直した短編です。

運び屋の少女・石川マコトが、ただ「仕事だから」という一心で、危険な歓楽惑星マハーラジャへ舞台装置を届ける物語。

華やかで危うい星の雰囲気を背景に、

マコトの責任感とプロとしての誇り、そして少しの勇気を描きました。R-18版では真の運命が大きく変わってしまうため、

健全版では「仕事の大切さ」と「約束を守るということ」を純粋に焦点に当てています。春の陽気を感じながら、

軽快なユーロビートと共にデブリを駆け抜けるマコトの姿を、

どうぞお楽しみください。

 宇宙暦2287年、辺境コロニー「ニュー・ハーバー」の運輸組合事務所。


 石川マコト(18歳)は、自分の小型運搬船《マコト号》の整備記録をタブレットで確認しながら、いつものようにコーヒーを飲んでいた。

 短い黒髪にボーイッシュな可愛らしい顔立ち。身長160cm、体重47kg。

 スレンダーな体型だけど、腰回りには少しだけ女らしい丸みがある。

 彼女は個人運び屋として、この辺境宙域で細々と仕事を続けていた。危険な仕事も多いが、マコトはいつも「仕事だから」と淡々とこなす。


 事務所のドアが勢いよく開いた。


「マコトちゃん! 大ピンチだ!」


 入ってきたのは、馴染みの依頼主である老舗劇場「星影座」の支配人・星野さんだった。

 いつも穏やかな彼が、今日は顔面蒼白で息を切らしている。

 マコトはタブレットを置いて、軽く首を傾げた。


「どうしたんですか? いつもより慌ててるみたいだけど」


 星野さんはテーブルに両手をつき、早口でまくしたてた。


「実は……アグヴァルトシアターに納品する特注の舞台装置を、すでに別の運び屋に頼んで出発させていたんだ。 大型の回転ステージと照明システムのセットで、公演の目玉なんだよ。

でも、途中で大規模デブリ帯に巻き込まれて大破……航行不能になってしまった。

納品に間に合わない! 予備の装置はあるんだけど、24時間以内にマハーラジャまで届けないと、公演全部がストップするんだ……」


 マコトは眉を寄せた。


「……マハーラジャですか。あの欲望の星……」


 星野さんは深々と頭を下げた。


「悪い話は聞いているだろう。

  マハーラジャは銀河連邦が認めた『歓楽特区』だ。

  人工惑星全体が巨大なエンターテイメント施設で、カジノ、24時間営業のシアター、

  高級ホテル、人工ビーチ……  欲望の赴くままに楽しめる『欲望の星』と呼ばれている。

  表向きは合法的な観光地だけど、裏ではいろいろと危ない噂も絶えない。

  でも、物流は星の生命だ。公演に使えなければ、シアター全体が大打撃を受ける。

  報酬は通常の三倍出す。マコトちゃん、頼む!」


 マコトは少し沈黙した。マハーラジャは確かに華やかで危険な星だ。

 入域時には厳しい生体検査があり、バイタルデータが提出される。

 一度入ると最低100時間の滞在義務もあると聞く。

 しかし、彼女は静かに頷いた。


「わかりました。受けます。 仕事ですから。」


 星野さんの顔がぱっと明るくなった。


「ありがとう! 本当に助かる!

  予備装置の座標と納品先の詳細をすぐ送るよ。公演は明後日の夜だから、なんとか……!」


 マコトはコーヒーカップを置き、軽く笑った。


「了解です。

  無事に届けてきます。」


 マコト号はすぐにニュー・ハーバーを出港した。

 コックピットでマコトは航路を設定しながら、独り言を呟いた。


「マハーラジャ…… 欲望の星か。

  華やかなショーと、危ない噂が一緒に聞こえてくる星。

  入るだけで生体検査が厳しいって聞くけど、

  今回は荷物だけ届けて、すぐに帰る。

  変なことに巻き込まれないように、気をつけよう。」


 彼女はサイドボードに置いた透明の水ボトルを軽く叩いた。

 水面は静かだ。


「よし……18時間で到着予定。

  急がないと間に合わないな。」


 マコト号は軽快に加速し、辺境宙域を抜けた。

 マハーラジャ外縁宙域、到着まで残り2時間10分。管制塔からの緊急通信が入った。


『こちらマハーラジャ管制。石川マコト号、バイタルデータを受信しました。

  警告します。現在、大規模デブリ群が急接近中です。

  即時避難を推奨します。危険区域への進入は自粛してください。』


 マコトはモニターを確認した。確かに、巨大なデブリ帯が迫っている。

 通常なら大幅に迂回するのが正解だ。

 しかし、残り時間はあと2時間10分。

 迂回すれば確実に遅れる。マコトは通信機に向かって、はっきりと言った。


「こちら石川マコト。 了解しました。

 ですが、指定時間はあと2時間です。 デブリをやり過ごしている余裕はありません。

  これより入港します。直近の荷下ろしドックを指定してください。」


 管制官の声が慌てふためいた。


『待ってください! あのデブリ群は小型船でも危険です!

  引き返しなさい! 命にかかわります!』


 マコトは静かに微笑んだ。


「仕事ですから。 行くよ、石川マコト!!。」


 パンッと両手で頬を叩く、彼女は音楽プレイヤーを操作した。


「トラックNo.18……再生。」


 コックピットに、力強いユーロビートが響き渡った。

 テンポの速いビートが、マコトの胸を高鳴らせる。


「さーて、やりますか!」


 マコト号はデブリ群に真正面から突入した。

 無数の岩塊と金属片が迫る中、マコトは操縦桿を細かく動かした。

 左へ、右へ、時には船体を軽く回転させながら、まるで針の穴を通すような精密なマニューバを繰り返す。

 サイドボードの水ボトルは、ほとんど揺れていない。

 マコトの操縦は、それほど正確で、繊細だった。管制室では複数の管制官が息を飲んでモニターを見つめていた。


「なんてマニューバだ……! あんなデブリ帯を、あの速度で……

  まるでデブリが道を開けているみたいじゃないか!」一人のベテラン管制官が思わず声を上げた。「信じられない…… あの娘、プロの運び屋だな……」


 マコトは音楽に合わせてリズムを取りながら、

 デブリの隙間を縫うように船を進めた。


「よし……この角度で…… 次は右に0.8……」


 最後の巨大なデブリを紙一重でかわした瞬間、

 マコト号はマハーラジャの指定ドックに滑り込んだ。管制官が思わず拍手した。


「……入港、完了……! 信じられない……無傷だ……」


 荷下ろしはわずか15分で終了した。

 アグヴァルトシアターのスタッフが、汗だくで駆け寄ってきた。

 若い女性スタッフは、目に涙を浮かべてマコトの手を握った。


「ありがとう……本当にありがとう! 公演に、間に合ったよ……!

  これがなかったら、今日のショー全部キャンセルだった……!

  観客が何千人も待ってるんだ……」


 マコトは少し照れくさそうに笑った。


「いいえ、仕事ですから。 無事に届いてよかったです。」


 スタッフたちは次々と頭を下げた。


「君みたいな運び屋がいてくれて、本当に助かった…… また何かあったら、絶対に君に頼むよ!」


 マコトはマコト号に戻りながら、軽く手を振った。


「その時は、またよろしくお願いします。」彼女はコックピットに戻り、シートに深く腰を下ろした。水ボトルを手に取り、一口飲む。水はまだ冷たかった。


「……ふう。 やっぱり、仕事は無事に終わらないとね。」


 マコト号はゆっくりと離陸し、

 マハーラジャの華やかなネオンを背に、静かに宇宙へと戻っていった。

 マコトは操縦席で小さく微笑んだ。


「次は……もう少し余裕のある仕事がいいな。」


 ユーロビートの余韻が、まだコックピットに残っていた。

 彼女は星影座の支配人に通信を入れた。


「星野さん、届きました。 公演、できるそうですよ。」


 星野さんの嬉しそうな声が返ってきた。


『マコトちゃん……本当にありがとう! 君のおかげで、ステージが輝くよ!』


 マコトは笑って答えた。


「いいえ、仕事ですから。」


 マコト号は静かに加速し、次の仕事へと向かった。


 デブリの向こうに、約束のステージがあった。

 マコトはただ、それを届けただけだ。



「石川マコトさん、マハラージャには100時間滞在義務があります。

ドックに引き返してください!!」


「あああーーーーっ!!」


 マコトは忘れていたのだ100時間の滞在義務を……。


(完)

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

本来、この物語はマハーラジャの闇に飲み込まれるダークなR-18展開を想定していました。

しかし、春のチャレンジ企画ということで、

「仕事に真っ直ぐ向き合う少女の爽快さ」を前面に出した健全版に全面的に書き直しました。

マコトがデブリ帯を音楽と共に突破するシーンは、

私自身が一番書きながらワクワクした部分です。

「仕事ですから」という彼女の言葉に、

責任感と少しの頑固さ、そして優しさが詰まっていると感じていただけたら嬉しいです。


また次の作品でお会いできる日を楽しみにしています。



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