#3 変わりたいから
痛い。暗い。視界は一面真っ暗闇だ。自分が今どこにいるのか、どんな状態なのかすら把握できない。あの後、神は討伐されたのだろうか。コアは貫いたが完全に消滅するところは見ていない。
不安だ…。
だけど……この状況から考えるに、私は死んでいるのか?断神者は死なないと聞いてはいたが今の状態からは生きてるという感じがしない。真っ暗だし。
「……やれることって言ってもこんな場所じゃなぁ…」
うーんと唸りながら腕を組む。
肉体の修復ではなく精神の修復をしている可能性もある。蘇生するまで大人しく待っていた方がいいのかも。
しばらく唸っていると、背後から気配を感じる。
この空間には私一人というわけではないのか?人の気配と呼ぶには圧があまりにも大きすぎる。
私の身体は『逃げろ』と危険信号を出す。先ほどの『神』と戦っていた時のように心臓が早鐘を打つ。
—————神と戦っていた時のように?
背後に鋭い視線を感じ、ぱっと振り返る。
そこには不気味な雰囲気を前面に出し、それでいて綺麗なサファイアのような色の瞳をしたナニカが近距離で真っ直ぐ私を覗き込んでいた。
そのナニカは大きな手で私の顔を掴む。
痛い。とんでもない握力。
「——見つけた」
そう、確かに聞こえた気がした。
・・
「———ッ!!」
目を覚ますと、目の前には薄緑の小さな小窓があった。それになんだか身体が自由に動かない。なんだこれ……狭い箱の中?
体に目を落とすと、任務で身に着けていたα 装備は見当たらず、それ以前に服すら着用していなかった。
え?私今素っ裸???
何故…?
おまけに口には少し太い管が伸びてるし……栄養剤かな。
[起きたようだね、第Ⅰ断神者さん。気分はどうかな?]
私の入っている箱の中から、若い男の声が聞こえてくる。おそらく組織の医療班長の声だ。
というか管咥えてるから喋ろうにも喋れないじゃん…。返事どうしよう。
[あ、そうだったよ~。修復モジュールを咥えさせたままだったねぇ~。うっかりしてたよ]
箱の中に陽気な笑い声が響く。いつも身体で直接無線通信していたものだから久々に体外の機器で通信すると……、なんか変な感覚だ。
慣れとは少し恐ろしいなと思う。
ピピッと音がしたと同時に管と拘束具が解け、箱が上に開く。
断神者になってからあまり大怪我してこなかったから分からなかったが、私が入っていたのは「断神者修復ボックス」という断神者専用の治療装置だ。
人とは治し方が根本的に違うんだなぁとどうでもいいことを思う。
[改めておはよう第Ⅰ断神者:カノン君。あぁ私からは見えてないよ?Sound Onlyってやつさ。君が目覚めたのは体に組み込まれてるチップのおかげだよ]
「えっと……ヨム医療長…ですよね?」
[いかにも。ヨム・ダハーカ医療長だよ]
通信相手を確認したところで、私は早速質問する。
「あの……任務は遂行完了しましたか?コアを貫いたところまでは記憶があるのですが…」
[心配いらないよ、ちゃんと完了済みさ。戦の神:イベルタの反応はあの後消失している。身体も跡形もなく消し飛んでいたよ。]
おそらくコアを破壊した時に起きた大爆発が原因の一つだろう。あの規模の爆発なら身体が消し飛んでいてもおかしくはないからね。
でも私は爆心地のド真ん中に居たはずだよな…?そうなると私も同じく消し炭になっているはずなんだけど……。
なんでピンピンしてるんだろう。
[いやーでもびっくりしたよ。君も無茶するね~、ダメ押しの単騎突撃なんてさ]
「あはは………あの状況じゃトドメ刺すにはそれしかないと思って…。SANも底を尽きそうだったので判断力が著しく低下してたので…」
[ほんとにSANギリギリだったんだよ~?カノン君。ほぼ死体みたいな感じだったし、身体損傷も激しくてさぁ。涙腺から脳汁が止まらなかったよね~]
久々にドン引きというモノを身をもって体感する。相当キショいこと言ってくるなぁヨム医療長……。あまり関わりたくないタイプだけど、あの人がいないと私達断神者はいろいろと危ないから仕方ない。
我慢しよう。うん。
控え室に置いてあった私の私服に着替え、医務室を後にする。
しばらく廊下を進み、エレベーターに乗って屋上に足を運ぶ。
とても痛くて、辛くて、怖くて。そんな戦場で、私は逃げ出さないで戦いきることができた。クロトさんやロードさんの助けがなかったら、私はもうとっくに戦線離脱していただろう。
あの任務において二人は必要不可欠な存在だった。最後の方は意識がなかったし、あったらちゃんとお礼言わないと。
屋上の手すりに腰かけ、遠くの方へ視線を向ける。
風が吹き、土埃をあげる大地。この任務で形成された大きなクレーターが顔を覗かせる。
地面は抉れている。私達と、神が壊した場所。私も共犯者の一端に過ぎない。
もっと迅速に対応できていれば、被害はもっと小さく収めることができたのかもしれない。そんなことは、すべてが終わった後の綺麗事なんだって私が一番よく知っているのに。
「よぉ、カノン」
背後から聞き覚えのある声が聞こえる。冷静で、それでいてどこか自信に満ちたような、そんな声。
私は振り向き、彼に目を向ける。
「ひ、久しぶり、カリルさん……」
カリル・ベレンスタ。前衛の純粋な火力アタッカーで、生前は傭兵をやっていたという、私の次に断神者として蘇った人物。
「こっちに来てたんだ……。近くで任務に当たってたのは聞いてたけど…」
「まぁな。援護任務が来ていたのは分かってたんだがスラスターの燃料が底をついちゃってな、なんとか辿り着いたころには全部終わってたし、カノンが瀕死だったしでもうびっくりしたぜ」
「あぁ………それはごめんなさい…。私が捨て身特攻みたいなことしちゃったから…」
私は俯いてズボンをぎゅっと握りしめる。
やっぱりまだ面と向かって人と話すのは慣れない。任務中の時はアドレナリンかなんかがドバドバ出ててなんとか喋れてたけど……こうやって対面で話すのはやっぱり怖い。
また、いつもみたいに悪口を言われるのが、お前は役立たずだって言われるのが、たまらなく怖い。
「お前、気弱でなんの戦力にもならなかったのに、今回お前は神を殺した。いつものお前からは想像できなかったんだよ、兵装の出力も、威力もへなちょこだったお前が神殺しを成し遂げたことが」
私は確かに弱いしへなちょこだ。でも、それは今のままで居ていい理由にはならないと思う。
いつまでも足を引っ張るお荷物になるのが、一番堪えられない。
だから……私は
「確かに、私はへなちょこで落ちこぼれだけど……。神殺しができる……そう言ってもらえるくらい強くなりたい……」
彼は少し驚いたような表情を見せた後、やれやれと言ったように苦笑する。
「言ったからにはそれ相応の努力は欠かすなよ。………少しは期待してるからよ」
何か言っていたのかな?最後の方の声が小さくて聞き取れなかった。
でも、悪いことは言われてなさそうだったな…。
外の景色に視線を戻す。
殺風景で、穴ぼこだらけの渓谷。
私たちが壊し、そして守った場所。
次は被害が出ないように、私が頑張る時だ。
私のせいで誰かが死なないように。
死なせないように。
――――――――――私は、変わらなくちゃいけない。




