#2 撃つ、そして貫く
「ロード……さん…!」
彼女は這って私の下に来ると、修復が終わった右腕でパックを漁り始める。数秒が経つと、その手には携帯型精神剤が握られていた。ロードさんはそれを私の足に刺し、薬液を注入する。
「…………ッ”!!」
精神剤を注入されたため、私の身体がドクンと跳ねる。
「くっ……!だぁぁぁぁ!!」
精神がわずかに回復し、スラスターを吹かして槍を引き抜く。
痛い
苦しい
吐き気がする
動きたくない……でも…動かなきゃ。
「ロードさん…!今精神剤を…!」
私のパックから同じ精神剤を取り出し、ロードさんの腕に打つ。ショック反応の後、少し悶えていたがすぐ私に向き直る。
「感謝するカノン。丁度いいところに来てくれた」
身体から槍を引き抜きながら彼女は私にお礼の言葉をかける。なんて律儀な方なんだろう……そんなどうでもいい感想が私の頭をよぎった。
「来てくれて早々こんな状況に巻き込んでしまってすまない。私の力不足だ……」
「あ、あまり自分を責めないでください……これは私の油断が招いた結果でもあります…」
神との戦闘が初めてとはいえ、自分の警戒の緩さに腹が立つ。この件に関してはロードさんに非はない。私の失態だ。
「状況は芳しくない。今こそクロトが持ち堪えていてくれているが、そう長くはもたないはずだ。我々断神者は特殊な身体だが体力の消耗はある」
「彼もその気になればここに退避することはできるはずです…。一度集合をかけましょう!」
クロトさんの方に視線を向けると、彼の死角から数本の槍が伸びているのが見えた。
このままじゃ彼を貫いてしまう。
気が付けば、私は考えるよりも先に動いていた。彼を抱えながら飛び、腹には槍が二本刺さっている。
痛みに顔を歪ませながら、私はロードさんの待つ退避先へと飛び抜ける。
「グッ……!」
ボロボロなクロトさんを庇うように抱きながら退避場所の岩壁に激突する。
勢いで身体から槍が貫通し、激痛が走る。ボタボタと血が垂れているが、すぐに傷口が塞がる頑丈な身体が憎い。
「援護射撃はどうしたんだよ!助かったからいいものの!」
「す、すみません……!力に及ばず…」
本当にこの低出力兵装をどうにかしたいんだけど……根本的な要因が自分だから改善方法がわからない…。
「責めるのは目標を討伐してからにしろ。今はアイツをどう倒すかだ。」
真剣な表情でクロトさんを制止するロードさん。
とはいえ、これに関しては私の力不足だし仕方ない…。
「あ、あの……私は討伐対象を確認できていないのですが…。一体何の神なんですか?」
私が質問すると、クロトさんは険しい表情で私に告げる。
「あれは戦の神イベルタだ。ヤツの物理攻撃を仕掛けてくる……それはまぁいいんだが、問題はその威力にある。」
イベルタの方向を見ながら、彼は続ける。
「アイツの攻撃はとにかく重いし痛い。被弾すれば激痛で精神力が多く削れちまう。」
私が被弾した時、信じられないほど痛かったのはそれが原因だったのか…。いやまぁどんな攻撃も痛いものは痛いんだけど。
痛覚が増幅したことで精神にも大きなストレスがかかるというわけか……厄介だなぁ…。もうすでに帰りたい。
「ただ、アイツに弱点はある。神と言っても、弱点の位置は分かりやすかったぞ?」
「弱点の位置……ですか?」
正直神に弱点などないと思っていたのだけど……案外そうでもないのか?
「人類も元をたどれば神に作られたものだ。私の槍が奴の胸部を貫いた時、若干動きが鈍ったように見えた。推測するに……心臓部に奴のコアがある。」
「そこを叩けば、アイツを殺せる…ってことか」
「確定ではないけどね。だが現状、心臓部以外に弱点らしき場所は見当たらない。」
神にも心臓があるとすれば……倒せる。
殺す方法はある。
「コアを正確に叩くには、奴の動きを封じる必要がある。」
「私達の兵装は対人戦闘を得意とするものだ。私とクロトは奴の動きを封じる役に回らなければならない」
ロードさんは私の目を真っ直ぐ見て告げる。
もう逃げ場なんて無いような、そんな視線で。
「カノン、お前がコアを射抜くんだ」
・・・
「私…ですか?」
失敗の許されない重大な任務。そんな役目を私ができるのだろうか。表現のしようのない大きな不安と重圧が私の身体を蝕んでいく。
元より後方支援なのだ。コアを撃ち抜くという仕事は、後方が成していい任務ではない。ましてや落ちこぼれの私なんかに務まるものではないのだ。
だというのに……なぜ私に、そんな任務を任せるのだろう。
「なぜ、私なんですか」
「私達よりも、コアを貫ける確率が高いと私が判断したからだ」
「私なんかに務まるわけないじゃないですか……。外したら終わりなんですよ?私達皆壊滅する可能性だってあるんですよ?……ロードさんの方が遥かに確率は高いはずです。だから…」
「私には、もうそんなことできないよ」
その言葉に、私は顔を上げる。
ロードさんはどこか悔しそうな表情で私を見ていた。
「SANの残量がもうギリギリなんだ。これ以上はもう、正確に対象を捉えることすら難しい」
彼女は私よりも早く戦場に投下されている。それに加えあのダメージだ、こうなることは少し考えればわかったはずなのに。
――――――私はまだ、逃げる言い訳を探している。
「わかりました……。私がやります。」
二人が私に託してくれたんだ。ここで逃げたら、本当に信用を失ってしまう。
ならば、ここでやらないわけにはいかない。
「今回ばかりはお前に期待するよ、カノン。俺たちの代わりに倒してくれ。」
「はい…!」
拳をぎゅっと握り、覚悟を決める。
私達で、これから神を殺すんだ。
・・・
スラスターで遥か上空まで飛ぶ。高度を上げるに連れ気温が下がり、吐き出す空気は白く煙る。
上昇を止め、見下ろせば標的『戦の神』の頭が見える。初めて視界に捉えたが、髪の毛がすべて武器で出来ており、図体もデカい。
クロトさんとロードさんがボロボロになりながらも対象を抑え、留めていてくれている。
この機を逃す手はない。
体勢を変え、スラスターの推進力で身体の正面を目指す。
心臓部分にコアがあるならば、側面、背面、正面。いずれかからコアを貫く必要がある。側面では大まかな幅と深さがわからず、背面からでは失敗した時に髪の武器に身体がズタズタにされるだろう。
ならば、残されるは正面から貫く。リスクはデカいが、これが一番確実な手法だ。
「兵装再構築。特殊弾ローディング開始」
手に持っていたライフルが精神力を取り込み新たな形へと姿を変える。
到底人が扱えないであろう超特大対物ライフル。私の精神力を使った最大級の銃、最期の切り札。
特殊弾に改造したロードさんの槍を弾奏に込める。コッキングの重く鈍い鉄の音が響く。
空間計測を起動し、照準を視覚と共有する。視覚スコープ越しに標的のシグナルをロックする。
外せば死ぬ。
みんな死ぬ。
それでも――――――
撃つしかない。
「…………今!!!」
トリガーを押し込み、特殊弾が亜音速で発射される。音よりも速く進み、コアに到達するかに思えた。
神が武器の層を作り、コアに刺さる直前で受け止める。
「……ッ!」
防がれた。
弾は未だに回転し、速度と威力を保ったまま層にぶつかり続けている。まだ、勝機はある。
スラスターを全開で吹かし、対物ライフルと共にコアを目掛けて突進する。弾はもう作れない。残された手段はこれ以外にない。
自分自身の身体も使い、コアまで辿り着かせるしかない。
ライフルの先端を銃剣に形状を変える。打撃ではなく刺突に特化させればコアを貫ける。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
武器の層を貫通し、コアに先端が突き刺さる。
硬い。
もうそんなの関係ない
全てを使ってでも貫く!
スラスターの最大出力で上乗せされた推進力で、深く、さらに深く、突き刺す。
コアの亀裂が大きくなっていく。
次の瞬間、コアは光を失い、大規模な爆発が起こる。辺りに轟音が鳴り響き、眩しい光が辺りを包み込む。
私の記憶はそこで途切れ、やがて意識を手放した。




