3 悪役幽霊令嬢の新しい仲間
「リィィィィィっ!」
話がまとまった頃、猛特急で走ってきたのはアレンだった。
「持ってきたぞ!」
「おい、アレン、なんだその箱は」
「ちょっと待って、なんか気配を感じるんだけど。生きてない!?」
クリスのその言葉に公爵がギョッとする
「アレン君、ちょっと待って。まさかと思うけど動物を生捕りにとかしてないよね!? それをリィちゃんの前で調理とか言わないよね!?」
一旦リィちゃんの目を塞ぐ準備を! といって侍女を呼び集め始める公爵。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 俺だってそんな非常識なことはしません、父上! はい、リィ。誕生日プレゼントだ!」
ずいっとそのまま布を被せた四角いものを渡す。
「あ、ありがとう……アレンにぃ」
「リィ、僕が開けよう、不安すぎる。すこし離れて」
そういうとクリスは呟く。
「セ・フィル」
簡単な風魔法だった。布が宙に浮き中が見える。檻の中には一匹の動物が入っていた。
「……ウサギ?」
額にガーネットのようなもののついた可愛らしいリスのようなウサギのような猫のような動物だった。もふもふの毛並みはいかにも気持ちよさそうである。きゅい? とラミィも同じ動物としての波動を感じたのかこちらを興味津々に見ていた。
「おや、カーバンクルじゃないか」
「か、カーバンクル……!?」
「おい、アレン。これは一体どういう……」
わあ……可愛い……と平和に眺めているリリアベルを尻目に兄達は騒ぎ始めた。
「なにって……可愛いだろ? なんか少し森に散歩に行ってたんだけどさ、その時に見つけたんだ」
すげーだろ! といって鼻を高くするアレン。それをみたダリアが鋭く視線を飛ばす。
「また勝手に勉強中に部屋を抜け出したのね?」
「ぎくっ」
「はあ……全く、先生困っていたわよ。まあいいわ。後でじっくりお話ししましょう、アレン。今は……この子をどうにかしないとね。ほら……ここ怪我しているわ。それに急に慣れないところに来たのだから落ち着かないでしょう。毛が立っているわ」
ダリアの言う通りだった。カーバンクルの特徴的な額のガーネットにはヒビが入っており、足にも血が滲んでいた。こちらをみる目は怯えたような、警戒したようなものだった。
「あ、ラミィっ!」
誰よりも先に動いたのはラミィだった。流石は竜といった速さでカーバンクルの元へと飛んでいくときゅいっと一声あげる。それに対してぴいっ! と鳴き、一層毛を逆立ててカーバンクルは威嚇する。驚いたラミィはいそいそとリリアベルの手元へと戻った。よしよしと頭を撫でてやりながらもう一度カーバンクルをみる。
「あ、もしかして……俺、割とやらかしちゃった?」
「……アレン、お前もしかしてカーバンクルが何かわからないまま連れてきたの?」
「ああ、なんかリィ可愛いの好きだったな……と思って」
「はあ……やっぱり馬鹿だね、アレスは。」
「はああっ!? お前言ったな!?」
そう言って小競り合いが始まった。呆れながらカイルが話しかけてくる。
「リリア、カーバンクルはねあまり人里には寄らない動物なんだ。気に入った人のことは守ってくれるけれど、それ以外の人には警戒をとかず、魔法で攻撃もしてくる。弱ってなければ攻撃されてた可能性もあるね」
「そうなの?」
「ああ、だから実物を見るのは俺も初めてだよ。アレンも……よく見つけてきたな」
感嘆しているのか呆れているのかよくわからない顔で続けた。その会話を聞いていたのかニコニコと笑いながらルドルフがやってくる。
「まあアレン君は運と体力はあるからね。よしっと。ここはお父様がいいとこ見せるチャンスだね。リィちゃん、カイル君、見ててね?」
ルドルフは手をかざすと檻を一瞬で解錠した。ごめんね、ちょっと失礼するよと言いながら、同時に魔法を展開する。
「ミア・レヌ」
粘着性のある水を紐状にしたものでカーバンクルを固定し、次の魔法を発動した。
「エル・ミア・ノル」
「……光魔法と水魔法の合成魔法だ」
地味に見えるが、かなりの魔法制御能力がなければなせない技だ。どちらの能力も維持したままのバランスを取るのは難しく、練度が必要なのだ。
光魔法を染み込ませた水がカーバンクルの体に染み込んでいく。拘束され抵抗できないカーバンクルはされるがままになっていた。
「よし、これでいいんじゃないかな。ただあくまで一時的な処理だから、今度皇宮お茶会の時に皇宮魔導士に見てもらおうね」
ルドルフに抱えられたカーバンクルは、彼が拘束魔法を解いた瞬間に腕から逃げ出し走り出す。
「あっ、こら! もう……アレン君、クリス君捕まえて!」
「了解、父上! うおっ!? すばしっこ!? 俺の時はこんなんじゃなかったって!」
「だから弱ってたんだって。ほら、追い込むよ!」
ぴいっぴいっと鳴きながら走り回るカーバンクルとそれを追いかけるアレンとクリス。穏やかな誕生会どころではなくなってきた。
「よしっ、このままいけるぞ!」
アレンがカーバンクルを部屋の角に追い詰め、クリスが魔法を発動しようとしたその時、
「ぴいっ! ぴぴぴいっ!」
カーバンクルが一際大きく鳴き、額についていたガーネットが赤く強く発光し出す。
アレンとクリスが思わず目をつぶった隙に飛び跳ね、リリアベルの腕の中に飛び込んだ。
「わっ!」
「きゅいっ?」
慌てて腕から抜け出すラミィと抱き抱えるリリアベル。カーバンクルは怯えるようにその腕の中で丸まった。
「あらあら、2人が追いかけまわすから怖がってしまったじゃない」
「だって父上が……」
「そうですよ、父上が追いかけろって言ったから……」
「ごめん……ダリアちゃん。」
ダリアの声を受けてしゅんとする3人。それを見て苦笑いしながらカイルがリリアベルの方へ近寄ってくる。
「……確かにこの中だったらリリアの腕の中が一番安全だな。母上、茶会まではまだ時間があります。せっかくアレンがリリアに持ってきたカーバンクルですし、それまではリリアに預けてはどうでしょうか? 緊急時とはいえ、人に近づかないはずのカーバンクルが彼女の腕の中に自ら入ったのです、このまま野生に離すわけにもいかないと思います。」
「そうね、それはもっともだわ。ねえリリア、あなたはどうしたいの?」
「わ、私……」
腕の中にいるカーバンクルを改めてしっかりと見る。フルフルと怯えから体を小刻みに動かす姿は、まるで生きた饅頭のようだと思った。確か前世でこんな感じのアイスがあったはずだ。
……美味しそう。
その感情を読み取ったのか、カーバンクルはより一層体をびくっと震わせた。ついでにラミィも離れた。
「大丈夫、食べないわよ……」
小声で呟く。
「わかりました。皇宮に行くまでの間は責任を持ってお世話するわ」
「僕も手伝うよ、リィ。カーバンクルは僕も気になるしね。」
追いかけ回した時に出来たシワを丁寧に伸ばしながらクリスがやってくる。きっと魔法に詳しい彼ならいいアドバイスをくれるだろう。
「俺も! 動物なんだから運動も必要だろ? クリスみたいなへにゃちょこには動物の相手なんて無理だって」
「ねえアレン、さっきやり損ねた拘束魔法、お前にかけてやろうか?」
やれるもんならやってみなー、さっきのお返しだよ! と言い争う2人を見て平和だなと思いながら腕の中を見る。視線を感じたのかモゾモゾと動いてカーバンクルはリリアベルを見る。
「ねえ、あなたもお名前がないと不便よね?」
「ぴい?」
「大丈夫、食べようとなんて思ってないってば……うーん……宝石がルージュだからルーでどう?」
「ぴいっ」
「じゃあ決まりね、ルー!」
「ぴいっ!」
「ああ……リィちゃんがどんどん成長して……お父様は、おとうさまはもう……っ」
ひーっくひーっくおいおいおいと再び泣き出すルドルフをチラリと見てダリアは言う。
「じゃあルーのことをしばらくお願いね、アレン、クリスもしっかりとサポートしてあげるのよ? 困ったらお母様とお父様のところへ来なさいね。いつでも助けてあげるわ。さあ、ひと段落したところで今日はもうお開きにしましょう。カイル、あなたは明日からまたアカデミーの寮に戻るのでしょう?」
「はい、次の茶会は俺も出席するつもりでいるのでその時には戻ってきますが……」
弟と妹との別れを少し寂しがるように、そしてルーについてもっと知りたかったという風にリリアベルの方を見る。
「カイルお兄様、またお茶会の前にルーも一緒に遊びましょう? また帰ってくるのを楽しみにしているわ!」
「ああ、ありがとう。リリアは優しいな」
そう言ってリリアベルを抱き上げるようにして椅子から下ろす。
「じゃあ俺はアカデミーの土産話を持ってくるよ。楽しみにしていて、リリア。俺は先に部屋に戻ります、お父様、お母様。おやすみなさい。アレン、クリス、リリア、行ってくるよ」
「うん! いってらっしゃい!」
「気をつけてね、兄さん」
「またな! 兄貴!」
おやすみ〜とルドルフの言葉を後にし、カイルは執事と侍女に連れられ部屋へと戻っていった。
それを最後まで見届けてからダリアは再び言う。
「今日は疲れたでしょうから早く寝ましょうか。みんなおやすみなさい。リリア、改めてお誕生日おめでとう。いい夢を」
「はい、お母様にお父様も。おやすみなさい」
「おやすみなさい、母様、父様」
「おやすみなさいっ! お、俺眠いからもう部屋に行くよ!」
「あらアレン? あなたは少し残りなさい、さっきのことでお話があるの」
ぎくっ……げ……っとうめき声をあげるアレンを横目にクリスが勝ち誇ったような笑みを向ける。ぐぬぬぬぬ……まじでおわった……っ許してよ母様……っと一人でジタバタしているアレンを取り残して二人は扉へと向かった。
「二人ともおやすみなさい。さっきダリアちゃんも言っていたけど、困ったらいつでも僕たちに言うんだよ」
ルドルフが去り際に声をかける。
「はい、お父様」
「もちろんです父様、おやすみなさい」
2人は侍女に連れられて自分の部屋へと向かう。腕の中という居場所をルーに取られたラミィはリリアベルの頭の上に居座っていた。
「ねえリィ、明日リィのお部屋に行っていい? ルーのこと色々知りたいんだ」
本当は今すぐにでもリリアベルの部屋に行きルーを見たいのだろう。平然を装ってはいるが、目の中の輝きまでは消せていなかった。
「もちろん! 待っているわ、お兄様」
そういうとクリスは嬉しそうに顔を輝かせる。
「ありがとう、楽しみだよ。じゃあね、リィ。おやすみ、いい夢を」
「うん、お兄様もね!」
こうしてリリアベルの誕生会は幕を閉じたのだった。




