2 悪役幽霊令嬢の誕生会
「「リリアベル、お誕生日おめでとう!」」
「ありがとうございます、お父様、お母様、お兄様方」
「きゅいっ」
「ラミィも。ありがとね」
もう一度きゅいっと鳴いたラミィは彼女の腕からおり、専用の食事が用意された席で黙々と料理を食べ始める。
リリアベルが脱・幽霊を掲げた日の夜。ルーブランシェ公爵家では盛大な誕生日パーティーが開かれていた。
「あああ……っ、こんなーに小さかったリィちゃんがもう6歳なんて……っ! お父様はリィちゃんがお父様から離れていかないか心配だよぉ……っ」
「貴方、子供たちが困っているわ。それにその小ささではリリアがラミィに食べられてしまうでしょう?」
ひーっくひーっくぐすんぐすんと声を上げる、茶髪に赤眼を持つこの男性はこの国の宰相でありリリアベルの父でもあるルドルフ・ルーブランシェ公爵である。今は公爵にあるまじき姿をしているものの、ちょーっと親バカがすぎるだけで、魔法の腕前も宰相としての手腕も皇帝をはじめとする貴族に認められている。
そしてそんな公爵の隣で優雅にワインを嗜んでいるのはその妻、ダリア・ルーブランシェ公爵夫人である。社交界の花と言われるほどの気品と美しさを持ってして、剣技の達人としても名を馳せる彼女にルーブランシェ家の者は誰も逆らえない。クリスとリリアベルの銀髪碧眼という見た目は彼女から譲り受けたものである。
「そうですよ、父上。リリアがこんなに大きくなったことに感動されるのは良いのですが、リリアが困るようなことは避けるべきです」
「そう言って兄貴も本当は感動で泣きそうなんだろ?」
ルドルフを軽く宥めながらも美しい所作で食事をとる茶髪に碧眼の彼はカイル・ルーブランシェである。彼はルーブランシェ家次期当主にして長男だ。まだ13歳という若さゆえ幼さが残っているが、いずれどんな時も冷静で芯の強い、立派な青年になるらしい。リリアベルの妹の推しであったためよく話は聞いていた。現時点で唯一、ルーブランシェ家でアカデミーに通っている。
そしてそれを茶化すように言ったのはアレン・ルーブランシェ。クリスの双子の兄だが、性格は真反対だ。茶髪赤眼の容姿はルドルフの血を、性格や剣技の腕はダリアの血を深く継いでおり、魔法よりも剣技を好む少年である。よくリリアベルを外に連れ出してははしゃぎ回り、執事や侍女に怒られている。
リリアベルはムニエルを口にしながら思う。
……こうしてみるとみんなかなりの美貌……。しかもまだ子供……妹が見たらもう死んでもいいとかいうんでしょうね。私はまだ死ぬつもりはないけれど……。確か3人ともメインキャラクターだったわね。攻略対象のうち3名がうちにいて、しかもその妹が悪役令嬢とか……他の貴族の苗字を考えるのがめんどくさかったのかしら。
非常にメタい話である。彼女の思考は続く。
……まあいいわ。メインの攻略対象が集中しているのはこちらとしてもありがたい……はず。……元々体が弱かったクリスお兄様は流行病によって死亡するのよね。……体を強くしてもらう……? もしくはどうにか魔法で流行病自体を無くせないかしら……
うーん……と唸っていると隣に座っていたクリスが声をかける
「リィ? 大丈夫? もしかして、ムニエルが口に合わなかった?」
「う、ううん! そんなことない! む、むしろ美味しすぎてシェフの方がすごいなって!」
「そう、ならよかった。僕のもいる?」
「大丈夫! お兄様も食べないと! こんなに美味しいものを食べないなんて勿体無いわ!」
そうリリアベルがいうと家族は一斉に口を揃えて「なんて優しい子なんだ」「さっすがリィだな」「うう……っりぃちゃんがぁ……っあんなにいい子に……っ」と言い始める。内心で苦笑しながらリリアベルは思った。
……薄々気づいていたけど、過保護というかリリアベルバカね……。
「じゃあお言葉に甘えて……本当だ、美味しいね!」
「あ! クリス! 抜け駆けはダメだぞ!?」
「へっへー! アレンも普段からリィに優しくすればいいのに」
「はあ!? してるし!」
アレンとクリスが争っている横でリリアベルは悶絶していた。
……くっ! 天使!? 顔がいい!?
クリスの美少年っぷりを間近で食らったリリアベルは死にそうになった。
……成仏の仕方、思い出せるかも……
そう、リリアベルは乙女ゲームが流行っているのを逆張りでやらなかっただけであり、別に乙女ゲームが苦手なわけではないのだ。
慌てて意識を戻しつつ食事に戻る。
……そうだ、まだ死ねないんだった。こんな天使が死ぬなんて許せない……っ!
「ねえリリア、実は俺からプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかい?」
そう言ってカイルから渡されたのは小さな箱だった。
「……プレゼント?」
「ああ、誕生日プレゼントだよ。開けてみてくれない?」
リボンをほどき箱を開ける。すると中からは美しい緑がかかった青い石を加工したペンダントが現れた。
「わあ……っ! 綺麗……!」
「よかった。実はアカデミーで森を探索するイベントがあって、そこで見つけた魔法石でね。リリアの瞳に似ていたから加工してペンダントにしてもらったんだ。」
「へえ……っ! 大事にするね、ありがとう!」
「ありがとう、嬉しいよ」
そう言ってリリアベルの頭をポンポンと撫でる。
「あっ、兄貴だけずるい! まて、リィ! 俺からもあるんだ! ちょっと待っててくれよ」
そういうとドタバタと部屋の外へ出ていってしまう。
「はあ……アレンは落ち着きがないんだから。先に僕が渡してもいいよね? はい、これ」
そう言ってクリスから渡されたのは1冊の本だった。
「ごめんね、僕が使ってたやつだけど。昼間見せた魔法があるでしょ? あれが乗ってた本だよ。色々他にも面白い魔法があるから、一緒にやりたいなと思って」
中身をぱらぱらと眺めてみる。よくわからない魔法や魔法式、魔道具について書かれている。あまりに難しそうな本に少し顔を顰めた。それをみてか、クリスは続ける。
「大丈夫、きっとできるよ。一緒にやってみよ?」
「うん、わかった。ありがとう」
リリアベルがそういうとクリスは穏やかに微笑んだ。
「ああ……もう2人がこんなに……っ! お父様は感動でいっぱいだよ……っ」と侍女にハンカチを差し出されながらおいおいと泣いているルドルフの隣で、ダリアが微笑みながら言う。
「覚えたらぜひお母様にも見せて頂戴ね? 私達からはドレスとこれを贈るわ。ドレスは後でお部屋に届けておくから楽しみにしていて頂戴」
そう言ってリリアベルに1通の封筒を手渡しした。裏面を見てみると皇家の紋章が押してあった。
「お母様、これは……?」
す…っと隣からペーパーナイフが渡される。
「開けてみて?」
……つ、使い方わかんない…っと思いながら四苦八苦の上に手紙を開ける。
「……皇家からのお茶会への招待状……!?」
「ふふ、そうよ。例年公爵家といくつかの侯爵家のご令嬢やご令息が呼ばれているの。貴方も6歳だから参加しないかと思ってね。主催はリオール皇太子殿下。貴方と年齢も近いエドワード殿下も参加されるわ」
「エドワード殿下……」
確かきみじょのメインヒーローだった気がする。リリアベルは必死に妹の語りを思い出していた。
ーエドワード皇太子殿下はね、ヒロインの2個上なの。本当は第二皇子なんだけど、兄のリオール様が皇宮魔導士として生きていくことを決めて、皇位継承権を破棄したから皇太子になったんだよ! なんで皇宮魔導士になるって決めたかは忘れちゃったけど……それでね、リオール様はカイル様と同い年でねっ! そこの友情がめちゃくちゃよくてぇ……ほんっとうによー
回想終了である。
……今お母様はリオール皇太子殿下と言っていたわ。攻略対象であるエドワード殿下とリオール殿下についても少し知っておきたいし……この際、私の生死がかかっているのよ、きっかけとかそんなのを見落とすはずがないでしょう!?
「お母様、行きますわ!」
「よかった」
「母上、俺たちも同行します。お茶会へは毎年参加していますし問題ないでしょう?」
「ええ、もちろん。3人がいてくれるなら心強いわ。ね、リリア?」
「はい!」
こうしてリリアベルの視察という名のお茶会への参加が決まった。




