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脱・悪役幽霊令嬢〜どうやら私は幽霊になる様なのでフラグをへし折りに行きます!〜  作者: よもす


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1/3

1 悪役幽霊令嬢の決意

 リリアベル・ルーブランシェはルーブランシェ家の宝だった。公爵家という何不自由のない家に魔力の才能を持って生まれ、両親と3人の兄から十分すぎるほどの愛情を注がれ育ってきた。

 そんな彼女は今鏡の前で絶句し、令嬢にあるべからず姿で床でのたうちまわりながら絶叫していた。


「嘘でしょ!? ねぇ、いやいやいやあああああっ!」


 ペットである幼竜のラミィがこちらを凝視しているのにも構わず、無駄に精度の高い防音魔法を展開して、彼女は発狂した。

 現状を軽くまとめよう。今日はリリアベルの6歳の誕生日である。誕生日に鏡に自分の姿を見た彼女は発狂している。自身の美しさに?いや違う。違くないのかもしれない。とにかく彼女は銀髪碧眼とかいう自分の見た目に発狂している。


 リリアベルは生まれながら前世の記憶を持っていた。よくある転生である。だが自分が「乙女ゲームの悪役令嬢」であることに気づくには時間がかかった。それも仕方ない。彼女はその肝心な乙女ゲームをプレイしたことがなかったのである。もちろん二次創作でキャラの幼い頃の姿を見ることもなかったのだ。6歳というようやく大人の面影……行動がそうとは限らないが……が見え始めた頃、ようやく彼女は自分が誰なのか気がついたのである。


「ちょっと待って……ねえ……何でリリアベルなのよぉ……っ! ストーリーも全然知らないし……ああ……妹よ……もっと私に布教しなさいよ……」


 彼女が転生したのは「愛の溢れるこの世界で、君と除霊」通称きみじょという異世界ファンタジーものの乙女ゲームである。

 ぱっと見なかなか売れなさそうなタイトルのこの乙女ゲームだがこれが予想に反して……売れた。まず豪華すぎるフルボイスに、ツンデレヤンデレデレデレ全ており幅広い性癖や年代にブッ刺さったのである。何よりビジュアルの最高さだった。こちらも幅広い世代を意識して作られている。そのためモブがモブでないのだ。すれ違いざまにとりあえず話しかけてみたら、攻略対象だったということはきみじょの世界ではザラにある。攻略対象を全員放っておいて、ヒロインが実家に帰ったタイミングで幼馴染と駆け落ちする……とかいうルートもあるらしい。

 問題はストーリーだ。これがあまりにとち狂いすぎていて有名だった。まず攻略対象の1人……リリアベルの兄のうちの1人、クリスのことだが……が何と幽霊なのだ。そして悪役令嬢のリリアベルも幽霊である。2人はストーリーが始まる前に死んでいるのだ。どういうことかと聞かれてもプレイヤーすら詳しく説明できないため割愛するが、とにかく病弱なクリスは流行り病で死に、リリアベルは事故で死んだことになっている。

 物語がクリスルートに行った場合、ヒロインは死者蘇生魔法を学ぶ。好感度が足りない場合、自身も幽霊になり他の攻略対象者に除霊される。

 リリアベルは全ルートで邪魔をする悪役令嬢である。幽霊の特権を最大限利用し、文字通り影で意地悪や悪事を働きヒロインと攻略対象の仲を引き裂くのだ。そして最終的に2人に除霊される。リリアベルが前世で妹に何でリリアベルはこの世にとどまっているのかと聞いた時「それが公開されてないんだよね〜、ま、考察のしがいがあるってことでしょ!」と答えられた時はふーんで終わったが、今はそれがとてつもなく知りたい。


「ああああああ……死ぬのも嫌だし除霊も嫌よぉ……どうせ除霊されるならもう自分で成仏したいわ……っ!

 というか私もう1度死んでるのだから幽霊経験あるはずよね!? もおお……っ何でその時の記憶がないの!? 成仏する感覚とか覚えててもいいんじゃない!?」


 妹も熱心なこのゲームの信者だった。前世のリリアベルも彼女から嫌というほど布教された。病気でベットの上から動くことができなかったリリアベルは彼女の話から物理的に逃れることができなかったのだ。


「ぐぬぬぬぬ……ストーリーも知らないのに……何をしろっていうの神様……」


 一度死んだのに天国を見ることができなかったせいで無神論者となった彼女の喚き声は虚しく空へ消える。

 ラミィがきゅい?っと首を傾げた。リリアベルは手を広げて彼女を胸に抱く。


「ああ……私この子と一緒にいたいわ……せっかく転生したのにまた12歳には死んでて、16歳には除霊させられちゃうなんて……」


 このゲームは12歳で皇立アカデミーに入学するところから始まる。4年かけて攻略し、16歳の卒業式とこの世界の成人式が被るタイミングでストーリーが終わるのだ。


「魔法とかあるって聞いて嬉しかったんだけどな……何で死んじゃうの私。事故なんて未然に防いじゃえばいいのに……はあ……。クリスお兄様も死んじゃうのか……」


 色々と絶望していたその時。

 コンコンコン


「リィ? 入ってもいい?」


「く、クリスお兄様!?」


 急な来訪者に驚き、床から身を起こしドアへ急ぐ。ドアを開けると、少女とも見間違えそうなくらいの美貌の少年がそこに立っていた。噂をすれば、リリアベルの3人の兄のうちの三男、幽霊攻略者のクリスである。リリアベルと同じサラッサラの銀髪をショートにし、長いまつ毛に隠れた碧眼はもはや芸術作品である。


「どうぞ、お兄様!」


「ありがとう、こんな高度な防音魔法なんて張って何してるのかと思ったけど……大丈夫そうだね」


「少しラミィとお歌の練習をしていただけよ。ね、ラミィ!」


 急に振られたらラミィは困惑しながらもこちらを見る。これはまずいと思った彼女は話を変えようとクリスを見る。


「と、とにかく何でもないの! お兄様こそどうしたの?」


「ああ、ちょっとね。今日はリィの誕生日でしょ? また夜パーティーがあるけれどもその前におめでとうが言いたくて」


 そういうと彼は得意の水魔法を展開する。


「ミア・スーシャス」


 そう呟くと部屋の中央に綺麗な水が集まり、それが一斉に凍る。クリスが手を軽く下ろすと氷の塊は目に見えないくらいの光の粒となって部屋中に散った。氷の幼竜であるラミィが嬉しそうに飛び回る。


「きれい……」


「でしょ? リィなら気に入ってくれると思って。リィ、happy birthday!」


「ありがとう! お兄様」


「また今度、リィにもこの魔法教えてあげるね! じゃあ僕は帰るよ。歌の練習中にごめんね、リィ」


「ううん、夜、楽しみにしているね!」


 そう言って見送ると一息つく。


「びっくりしたぁ……。流石の魔力量ね……将来有望と言われているだけあるわ……というかそうだった……お兄様生きてるんだ……。……ん? 生きてる? 待って、お兄様今何歳だっけ!?」


 ひーふーみーよ……と手を折って数える。


「私と3歳差だから……9歳!? ってことはアカデミーに通っていない……」


 彼はアカデミーで流行病にかかり、本人の希望により家族にうつさないためと患者が隔離された寮で死に、そして幽霊になるのだと妹から聞いていた。ヒロインが入学した時にその寮は廃寮になっていて、たまたまそこを通りかかった彼女はクリスに出会い、自分のことがなぜか見えるヒロインに惹かれるのだ。


「まって、じゃあまだ救いようあるんじゃないかしら。流行病を未然に防げばお兄様は死なない……!? ねえラミィ! 私とんでも無いことに気づいてしまったわ! もしこれで私がお兄様の死を防げたら、未来は変えられるってことよね!? 私の死からももしかしたら遠ざかるかも!」


 幸いにしてリリアベルの事故死とは違い、クリスの死はいつどこで起きるのかわかっている。圧倒的な魔力量とそれをコントロールする才能を持ち、次世代の魔塔の当主になるだろうと言われるクリスが生きていることによって変わる未来は大きいはずだ。


「私が死ななくなる確率はかなり低いかもだけれど……やってみる価値はあるわね。お兄様にも生きていてほしいし……どうせ悪役令嬢に生まれ変わったなら幽霊なんてこざかしいことしないで正々堂々とイタズラして、悪役令嬢ライフを謳歌してやるわ!」


 そう言って拳を高く突き上げる。氷でできた光の粒のうち1つが彼女の手に舞い降りた。

 彼女の決意と挑戦の始まりを合図するかのようにラミィが一声きゅいっと鳴いた。

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