好感度MAXのコンピューターウイルスちゃんがゲームを押し付けてくるので課題が終わらない
自宅のデスクトップパソコンで大学講義のレポートを作成中。
正直講義を真面目に受けていた訳では無かったので、一文目から何を書けばいいか分からず手が止まっていた。
が、手は止まっているにも関わらず、ひとりでに動き回るカーソル。
パソコンの画面の端から端まで縦横無尽に動いたかと思えば、そのカーソルは少女の口の中に入り込み、食べられはむはむされている。
そう、俺のパソコンにはコンピューターウイルスなるもの、ウイルス少女が住み着いているのだ!
カーソルをパソコンの画面に居る少女が無言で投げては拾って投げては拾ってを繰り返し、挙句の果てにカーソルを頬張り始めたのだ。
課題に追われる俺にお構い無しに邪魔をしてくるのは勘弁して欲しいものだ。
カーソル食べても美味しくないだろうし、やめよ?
そんなはむはむウイルスちゃんの出会いは災難だった。
かつて大学の課題提出日当日、夏休みの宿題を三日どころか、前日深夜から真っ白のページを捲ってはどうしようもなく高笑いするタイプの俺は、ギリギリまで課題に追い込まれていた。
ディスプレイパソコンと睨めっこの俺。
そんな日に限って送られてくる迷惑メール。一分ごとに送られて来るメールが百を超えた時、興味本位で開いてみた。
瞬間、画面いっぱいに広がるエラーの文字。慌てて削除にかかるも既におすし。
ウイルスちゃんが突然現れ、そこからずっとこの調子なのだ。
ちなみに課題は未提出になりゲームオーバーした。
「ねえ、レポートを書くのに必要だからさ、カーソル返してくれない?」
『……ひや』
カーソルを無理に入れた小さな口は、頬をぷっくり膨らませながら言う。嫌と言ったのだろう。
この無駄にハイテクなウイルスは、最新ゲームの綺麗なグラフィックに相当……いや、それ以上の質感な上、今流行りのAI搭載なのか、普通に会話が成り立つ。
しかも見た目が黒髪ボブ黒セーラー、さらには黒ニーソまで来たもので、作成者の趣味がダダ漏れ注意警報なのだ。
あ、口からカーソルを出して蹴りだした。サッカーボールを転がすようにカーソルをドリブルしながら、器用にゴミ箱ツールへ無言シュートを決める黒JK。
無言ドヤ顔するウイルスちゃんにため息が止まらない。
『カーソル……消すよ……』
ゴミ箱に手をついてカーソル消去脅しをしだすウイルスちゃん。
カーソル脅しタイム開催!
毎日三回は行われるゲリライベントだ。しかも今日は珍しく四回目、アンラッキーだなあ。
「消さないで、カーソル消去されたら復元方法分からないし困るって」
『……これ……プレイして……』
と突如画面に現れるアプリゲーム。
《黒咲まるん☆遊んで触って育成ゲーム☆》
黒咲まるんとは、このアプリゲームを両手でペカーと掲げながら無言で、プレイしろの念を送ってくる、厄介少女ウイルスちゃんの名前だ。
謎アプリゲームをプレイしないとカーソルを取り戻せないという事らしい。
「にしても凄いねウイルスちゃん、アプリゲーム作ったの?」
無言でこくこく頷くウイルスちゃん。
AIでアプリを作れる時代が来るとは聞いてたけど……流石ハイテクちゃんだ。
ただ広告バナーで出てきそうな、ウザイエロゲに見えなくもないゲームなのが頭を悩ませる。
『クロちゃんって……呼べ……』
「それは別の人が脳裏を過ぎるから嫌だな、ウイルスちゃんで十分十分」
別の方のクロちゃんの所為で、世の中のペットに名前を付ける時、クロと名付け辛くなったに違いない。生まれ持って業をせよってしまったのだ。
アプリをバシバシ叩きながら頬を膨らますウイルスちゃん。その衝撃でアプリが開き、パソコンの画面いっぱいにゲーム画面が広がる。
タイトルロゴの、黒咲まるん☆遊んで触って育成ゲーム☆がデカデカと表示される。
全体的にピンク色なのが嫌だなあ。やっぱりただのエロゲじゃん。
『よし……解放……』
カーソルをゴミ箱から取り出したウイルスちゃんはそう呟いた後、左上方向に無言でカーソルをぶんっと投げる。
わざわざカーソルを投げないと気が済まないようだ。
「閉じていい?」
『またカーソル……食べるよ?』
謎の脅しに渋々俺はカーソルをNEXTの文字に持っていきポチッとする。
NEXTの先の画面、中央にはライトスポットが照らされたステージがあるものの、特に何もないページが表示された。
「なんもないよ?」
『ちょい待ち……』
よじよじと画面中央に進むウイルスちゃん。
ライトスポットで照らされる中央に仁王立ちして、腕を組んでふんすする。
『……さあ……触れ』
「ええ……」
期待するウイルスちゃんに断りの言葉を言っても意味ないだろうし、仕方ないか。
カーソルをウイルスちゃんの頭に持ってくると、カーソルが手のマークのやつに変わる。
ウイルスちゃんの頭をカーソルでよしよしすると、とても嬉しそうな顔をしながらハートマークが二つ出現。
出てきたハートが、右サイドにある帯グラフな好感度ゲージに溜まる。
しかし残念、好感度ゲージは既にMAXだ!
これ以上ハートを溜めても意味が無い!
『へへ……もっと撫でて……』
「よしよしー」
ウイルスちゃんが嬉しそうだし良いのだけれども、レポートの課題提出期限が三十分切っちゃったんだよなあ。早くレポート終わらせたい。
「撫でたし好感度MAXだったし終わろうかな」
カーソルをバツ印に持ってこうとするも、微動だにしない。
ウイルスちゃんがカーソルを両手で押さえつけている!
『……頭じゃないところも……撫でろ……』
「ええ……」
『撫で……ろ……!』
念に念を押しまくるウイルスちゃんは睨みつけながらゆっくりとカーソルを離す。
頭をとりあえず撫でてみる。
『それは……頭……へへ……』
ぽよよっとハートが二つ出現。
頭は頭で嬉しそうだ。けどさ、頭以外ってもうダメじゃん。
いくらウイルスちゃんだったとしても、アバターをさわさわするのは虚しくなるって。
……俺は虚しいとしても、ウイルスちゃんが喜ぶのであれば問題無いのか?
半分そう思考し、半分無心で頭をよしよししていると、嬉しそうにニヘニヘしていたウイルスちゃんはカーソルを握る。
『……ここ、も……』
手カーソルをグイッと自身に寄せるウイルスちゃん。徐に胸に押し付けた!
しかし残念、小さな胸をカーソルで触ろうとも絶壁すぎるのが問題か、カーソルが普通の矢印カーソルに戻る!
これ以上撫でようとも撫でれなければ意味が無い!
『うえ……? なん……で……?』
分かりやすく頭に怒りマークを頭に出現させるウイルスちゃん。
カーソルを胸に食い込むように押し付けても手カーソルになることは無い。
もうやめよウイルスちゃん、ただ悲しくなるだけだから。
見えない怒りゲージがMAXになったのか、押し当てていたカーソルを無言でほん投げる。
ああほら、画面の端っこで体育座りして落ち込んじゃったよ。紫色のどよっとしたエフェクト出さなくていいから。構ってあげるから。
落ち込む少女の頭をカーソルで撫でる。
ハートがぽよよっと三度目の出現、嬉しそうにしながら中央に戻ってきた。
『よし……リベンジ……』
と言いながらカーソルを再び胸に押し当てる。頭に怒りマークを付け……あれ、ループしてないかこれ?
もう一度頭を撫でようとした俺は、偶然かそれとも必然か、なんとなくクリックしてしまった。
胸に押し当てられた矢印カーソルがクリティカルヒットする!
これに少女は身震いし。
『ひぁ……それ……もっとして……』
……もうただのエロゲじゃん。
クリックした胸からぽよよっと黄色いハートがぽよ。
それと同時、好感度ゲージとは別のゲージが現れ、黄色いハートがゲージに溜まる。
感度ゲージが2/100溜まった!
……やっぱりただのエロゲじゃん。
…………。
普段課題提出を邪魔してくる厄介者に、たまには分からせてやろうと、痛い目をみろと、そんな邪悪な心が粘えた俺は。
「もうカーソル奪わないでよ?」
『……え?』
クリッククリッククリッククリック!
クッキークリッカーの如く高速連打でクリックした。
マウスパッドのカチカチ音と黒咲まるん音が部屋に鳴り響き、俺は深夜に一体何してるんだろうなと思いにふける。
途中で、フィーバータイム突入!
とか出てたけど何のフィーバーなのか。
ひたすら黒咲まるんクリッカーでクリティカルヒットし続けること十分。
うつ伏せに倒れ込み身震いする少女。
少女のクリックする場所を失ったカーソルで、ツムジが見える後頭部を撫で撫でした。
クリックしてた時も出まくったピンクと黄色のハートは既にMAXを超えており、頭を撫でた拍子に出たハートが意味もなく蓄積……
ピロンッと鳴ったかと思えば、左上にトロフィーマークと文字が二つずつにゅっと出てきた。
《好感度1000アチーブメント獲得!》
《感度1000アチーブメント獲得!》
漏れてたハートは意味が無い訳では無かったんだな。感度千って……ウイルスちゃんは無事だろうか?
「おいー聞こえるー?」
『……クリック……スキ……』
ダメだ、無意識にカーソルを胸に再び押し当てて擬似クリックしだしてるわ。
俺は少女に変な扉を開かせてしまったのかもしれない。ごめんよ。
ピロンッ
え……またなんかアチーブメント獲得しちゃった?
こうしてアチーブメントがどんどん溜まってくのって癖になるよね。
さて、どんなアチーブメントが……
《一件のメール:課題レポート提出期限切れのお知らせ~追加課題のレポートと共に明日までに提出をお願いします》
…………。
右上の時計を見ると、0:01。
ふう。
俺は気晴らしにYouTubeの実況動画を見だした。




