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【終わりと始まりの創星神話 0巻 第一章2話】

 帰路についてから数時間ほど、少し小高い丘の上から、町の様子が見えてくる。

 辺境故の安全を図る為、そこまで大きくないが町の周囲は壁に覆われており、町への出入り口は東西にある二つだけだ。

 その周囲は近くの川から引いてきた堀になっており、そこから更に周囲の農村へと水路が引かれている。

 町の入り口に着くと、夜間や有事以外では開けっ放し扉の前で衛士の一人に声に呼び止められた。

 彼は肩に担ぐ槍を僕の行方を遮るように差し出し、大袈裟な口調で叫ぶ。

「町に入るには町民証か通行許可証が必要である!」

 はあ、と。溜息を吐きながら、いかにも気怠そうな動作で腰嚢から町民証を取り出して衛兵に差し出す。

 そこには、この国の公用語で『ゼロ・アーベント』と書かれていた。

 しかし、衛兵はそれを受け取りもせず、ニヤリと口元を歪めて笑う。

「なんてな。暇だからからかっただけだ」

 衛兵はがははと笑うと、槍を肩に担ぎ直す。

 僕は目を眇めて睨むが、衛兵は意にも介してない様子である。何なら今朝、町を出る時にも挨拶は交わしているし、その目的も行き先地も伝えている。

 それほど親しい間柄という訳でもないが、全くの他人というほどでもない。

「ところで、今日はやけに早くに町を出ていたがーーどうした、収穫は無しか?」

「いやいや、ちゃんとお目当ての物は採って来たさ。まあ、そのお陰でデミヴォルフに襲われたけどね。激しい戦闘の末、命からがら町に帰ってきた訳さ」

「ほお、何匹ほど居たんだ?」

「んー一匹だけだね……!」

「何だよ、大袈裟に言うから群れで出たかと思ったじゃないか」

「うん、群れで現れたら今頃僕はあいつらの胃の中だね。僕はきっと栄養満点だから、大層美味しくめしあげるだろうさ」

「はっはっはっ、俺のカミさんより細いゼロに栄養あるわけないだろ? ーーそうだ、最近うちの鍋に穴が空いてな。今度、お前の所の親父さんに暇だったら直してくれと頼んでくれよ」

「あーうん、いいよ。ーー何だったら、僕が直してあげるけど?」

「ははっ、こりゃ空いた穴が増やされちまいそうだ」

「む……良いのかなあそんなこと言って。先週、飲み屋で奥様じゃない女性と楽しげに話してたのは誰だったかなあ」

「おいっ⁉︎ 何で知ってるんだよ……! ーーうおっほん、将官は町の安全を守る任がある為、これにて失礼する……!」

わざとらしく咳払いをすると、姿勢を良くして明後日の方を向く。

「あー直して欲しい鍋は玄関に名札付けて置いといてね」

 ひらひらと手を振る衛兵を後目にそう言って僕は町に入った。


 ーーここは、【魔導帝国ビブリオライヒ】と【聖宗救国セヴィアンティス】との国境近くに在る辺境の町ーー【グレンツシュタット】だ。

 辺境故に、大した発展もせず、だからと言って寂れてもいないーー所謂田舎町である。

 そこでの僕らの主な収入源は、町人からの依頼で薬草などを町の外へ出て採取し、それを納めて収入を得ている。

 しかし、薬草があるのは主に町の外ーー時折魔物が出没する森か、その先にある高く聳える【魔導帝国】と【聖宗救国】を別つ危険な山脈である。

 だが、僕は朝から街道を歩き、森を抜けたその先にある山脈の一つ、他の山々と比べても比較的に安全で町から最も近い山へ薬草採取に赴いていたのだ。

 それも、依頼にあった薬草の群生地があの山の麓に在ったからである。

 山の麓までならばまだ比較的に安全な方ではあるが、先程のように魔物は出る。僕一人では到底対応出来ないような魔物も出没する。

 危険を冒してまで薬草を採取しに行かなければならないのも、単にお金が無いからだ。生活する為の、生きていくだけのお金が常に無い。

 偶に纏まったお金が入る事もあるにはあるのだが、それも数日の内にある理由で無くなってしまう。


 ーーそして、ある程度整備された石畳の街道を進むと、目的の場所に辿り着いた。

 町に到着して先ず向かったのが薬草採取の依頼主である薬師ミュラーの家である。自宅兼薬屋でもあるその建物の中は、店内に入ると医薬品や薬草の様々な匂いで溢れていた。

 店内では初老の男性が店棚の奥で腰掛けて座っており、僕に気付くと軽く手を上げて挨拶する。

「こんにちは、ミュラーさん。はいこれ、依頼にあった癒蘭の新芽。ちゃんと五本分あるからね」

 僕は腰嚢から癒蘭の新芽が入った瓶を取り出してミュラーの前に置いていく。

「おお、昨日依頼を出してから今日採ってくるとは、相変わらずゼロは仕事が早いな」

「まあね。伊達に山暮らしは長くないよ。ーーまあ、その代わり魔物には襲われるけどね」

「ふーむ、帝都から薬の配送がもう少し早ければ、組合ギルドに依頼する事もないのだがなあ……」

 店主の言う帝都とは、【魔導帝国】の中枢ーー首都【魔導学院】がある都市だ。

 僕は行った事が無いが、独自の技術ーー【魔導】なるもので他国とは隔絶した技術力を誇るらしい。

 店主は過去に帝都で薬学を学んでいたらしく、その伝手で帝都から医薬品などを仕入れていた。

 勿論、それだけでは薬が足らなくなる場合が多いので、こうやって薬を作る為の薬草を採取する依頼をよく出している。

「まあ、そのお陰で僕はお金を稼げるから良いんだけどね。義父さんの稼ぎだけじゃ、足りない事も多くてさ。僕としては、お金になるからどんどん依頼を出して欲しいぐらいだけどね」

「ははは、お主はまだ若いのだからあまり無茶はしないようにな」

「うん、そうだね。薬草を採取しに行って、怪我をしてここで薬を買ってちゃ本末転倒だからね」

「それでは軽い怪我をするぐらい働いて貰わなくてはな。ーーほら、報酬の2ジルバだ」

 差し出された銀色の光沢を放つ硬貨は、『共通貨幣ジルバ』だ。

 しかし、言われたその数に首を捻る。

「うんーー? 依頼では五瓶で1ジルバじゃなかったっけ?」

「いつも頑張っているゼロに色を付けたよ。ほら、帰りに妹御にも何か買ってあげなさい」

「うわあ、ありがとう……! クロネもきっと喜ぶよ!」

「本当に無茶はしないようにな。この時期の魔物はまだ大人しいが、何が起きるか分からんのだからなあ。前途ある若人が、気を逸らせて死んでいったのを何人も見ているのだ……」

「あー……分かったよ」

 受け取った【共通貨幣ジルバ】を大事に小銭入れに仕舞い、僕は薬屋を後にする。

 ミュラーから言われた言葉を頭の中で反芻する。

 当たり前の話だが、僕だって死にたくない。今まで何度も危険な目に遭って来たが、何とか生き延びて来た。

 それも、この世で最も大事なモノを守りたいと思うが故に。


 帰り道に、町の中心を横断する主街道ーーそこに並列するように並ぶ市場で、僕は買い物をする。

 主に食料系を買い、特に肉を大量に買い込む。しかしこれも、数日もしない内に無くなってしまうのだろう。

 本当は野菜や果物も欲しいのだが、日持ちしない上にある事情から買うのを躊躇われる。

 後は穀物系ーー麦や豆類を買っていく。他にもパンが目に入るが、日持ちしそうなパンが目に入らず、今日買うのは躊躇われた。

 この町には有名なパン屋が存在するがーー昼過ぎの中途半端な今の時間では仕込み中だろう。

 それはまたの機会にするとして、いったん買い物はこれぐらいだ。

 ーーというのも、購入した肉や穀物だけでも、それぞれの両手で抱えて運ばなくてはならない。

 【空間魔法】を用いた、格納空間に物体を収納して運ぶ魔法があるが、そんなものは僕には使えない。使えたらーーこんな苦労はしないのだ。

 ひいふうと汗を流しながら、自宅に辿り着く。

 自宅の煙突からは煙がもくもくと立ち昇っている。恐らく義父さんが何かしら作っているのだろう。

「ただいまー」

 一回荷物を下ろして、錆びかけた金属の鍵を錠前に差し込んで回し、鍵を開けると自宅の扉を開ける。

 部屋の中は薄暗く、それは全ての窓が閉め、更に 窓帷カーテンで閉め切られていたからだ。

 そこまで徹底して外界と自宅内を隔てているのには、勿論理由がある。外から覗かれでもして、見られてはいけないものがそこにはあるからだ。

 部屋の奥からは、何か硬質な物を叩く金属音が響いている。薄暗い室内で足下に気を配りながら、ボロボロの木机に買ってきた物を降ろすと、ふうと息を吐きながら奥へ進む。

 ーーそこには、槌を振る者が居た。僕に気付いていないのか、何かの鉱石に一心不乱に槌を振り下ろし、また持ち上げて振り下ろす。単純な作業のように見えるが、槌で打つ部分を所々変える事で、打たれる鉱石は形を変えていく。

 しかし、その姿は異形だった。

 そこに居たのは、白骨化した人骨ーー俗に言う【骸骨人スケルトン】と呼ばれている魔物である。

 死者の遺体に何らかの理由で擬似的な魂が宿った動く死体である。かつて大きな戦いがあった古戦場跡や、集団墓地などに偶に現れ、旅人や住民を襲う事もある周知度の高い魔物だ。

 それは、生前の動きを真似るか、宿ったモノに依ってはその動きを模倣するだけの、知性が大凡在るべきものではない。

 だが、その槌を振る骸骨人は極めて理性的である。その証拠に、叩かれていた鉱石を持ち上げ、虚な眼窩に近付けて品定めをしているかのように凝視している。

 その動作は緩慢でもなく、生前の模倣を惰性で行なっているようにも見えない。明らかに知性ある動きを見せていた。

 そんな、魔物としても人としても異形であるソレに僕は話しかける。

「ただいまーー『義父さん』」

 義父ーーと、呼ばれたソレはゆっくりと緩慢な動作で鉱石を鉄床に置き、首だけを動かしてこちらを見る。

 見ると言っても眼窩の奥は暗く、しかしその奥には鬼火の如き瞳のような何かが在った。

「なんじゃあ、今頃帰って来おうてからに」

 僕が義父と呼ぶ骸骨人は無愛想にそう吐き捨てると、再び手に持つ槌を振り下ろす。

 金属音と共に火花が散った。そして何事も無かったかのように槌を振り続ける。

 相も変わらず無愛想な態度である。それに対して僕は特に不快感はない。何故なら、それがいつもの姿なのだから、慣れたものだ。

 ーーそう、もう慣れ切ってしまったのである。

 わざわざ義父と呼ぶからには、当たり前だがこの骸骨人は実の父親ではない。

 もう一年も前になるだろうか。とある廃墟になった館の奥でこの骸骨人と出会い、そしてとある契約をした。

 その内容と言うのが、骸の姿と成り果て人の世に出れなくなってしまった義父さんの代わりに、僕が義父さんが必要とするものを集めるというものだ。

 その対価として、義父さんが作り出す様々な物を売るなどしてお金にし、それよって僕らは生計を立てている。

 一種の共生生活である。そして、流れ着いたこの町で便宜上の擬似家族を構成しての義父呼びである。

「ーーほれ、出来たぞ」

 唐突に槌を打つ音が止むと、無造作に水の入った桶に延棒状になった鉱石を突っ込む。

 じゃわっと、水が蒸発する音が鳴ると、赤化していた鉱石が急速に冷やされた。数度濯いでから水から上げるとそこらにあった布で乱暴に拭く。

 すると、そこには金属の光沢を持った鋳塊インゴットがあった。

 それを、今度はこちらーー僕に向かって放り投げる。

 ついそれを受け取ると、まだ熱が抜け切っていないのか、手に持つにはまだ熱く、わたわたとしながら取り落とす。

「熱ッ……⁉︎ ーーちょっと、義父さん⁉︎」

 思わず抗議の声を上げると、義父は顎をカタカタと鳴らして笑っている。

「かかか。すまんな、骨の身体だと熱を感じ辛くてのお」

「いや、絶対にわざとでしょ。ーーはぁ、一応これでも売り物なんだから粗雑に扱わないでよね」

 落とした鋳塊を今度は布で包んで持ち上げる。

 見れば、同じような鋳塊が木箱の中に幾つか入っていた。僕はそこにそっと入れる。

「朝には空だったけど、今日だけでこれだけ作ったの? 凄いね」

「応よ。かか、儂にかかればこれぐらい朝飯前じゃわい」

「うん、まあ今はお昼過ぎだけどね」

「喧しいわい。全く、お前さんは少しはこの偉大なる黄金の錬金術師ーーギルバート・テオフラス様を敬わんかい」

「あーその黄金の錬金術師が今や鍛治師の真似事だからねえ」

「ぐぬぬ……! 冶金も錬金術の応用だと言うのに、口の減らん餓鬼じゃわい。ーーそれとじゃ、儂の二つ名は『偉大なる』! 黄金の! 錬金術師だと何度も言っておるじゃろう!」

「うーん。それさあ、長いんだよねー。もっと短くならない?」

「なる訳ないじゃろうてからに!」

 義父さんが意地になって主張する二つ名ーー『偉大なる黄金の錬金術師』。

 それは、かつてこの国でその名を知らない者は居ないと言われていた、伝説の錬金術師の二つ名である。

 今いるこの国ーー【魔導帝国】の建国に携わり、初代帝王を支えたと言われている錬金術師の名だ。

 因みに僕は半信半疑ーーというか、詐称じゃないかと疑っている。

 何故なら、その錬金術師は百年も前の人物なのだから。

 そんな伝説に謳われる錬金術師が骸骨人になってこの世に未だ居るなんて、誰が信じるだろうか。


 ーーそんな普段から交わしている他愛もないやり取りをしていると、背後から誰かが僕の背に乗る衝撃を受ける。

 しかし、僕は対して驚かない。これもまた、慣れたものだからだ。

 「……にゅ。うるさい……」

 僕の背から、眠たげな少女の声が聞こえた。僕は振り向いてその声の主を見る。

 そこには、小柄な少女が気怠げな様子で居た。長い黒色の前髪の奥には、うつらうつらとした半目を携えており、焦点の合わない目線は僕の胸辺りで彷徨っている。

「おはようーークロネ。起こしちゃってごめんね? 義父さんが煩くってさ」

 背後で「おい」という声が聞こえて来たが無視する。

 僕はクロネの頭を撫でた後、両脇に手を入れ持ち上げ、そのまま抱き寄せて抱える。

 クロネを抱きながら、頭を撫でて髪を梳く。

「……にゅ、お兄ちゃん……おなかすいた……」

 とろんとした声が、僕を兄と呼ぶ。

 ーーそう、彼女こそ僕がこの世で最も大事にしている最愛の妹だ。

「じゃあ、遅くなったけどお昼ご飯ーーいや、クロネからしてみれば朝ご飯になるのかな?」

「にゅ、どっちでもいい……」

「はいはい。じゃあ、ご飯作るから椅子に座って待っててね」

 抱えたクロネを椅子に下ろすと、木机に糸が切れた人形のようにだらんとしてうつ伏せになる。

 そのまま寝そうかなと思っていると、横目で僕を見ていたので、ご飯を食べるまで寝るつもりはなさそうだった。

「おい、ゼロや。儂の分はないのかのう」

「義父さんは先週、食べたでしょ? ほら、今日取れたて魔石があるよ」

 思い出したかのように僕は腰嚢から魔石を取り出して義父さんに向けて放り投げる。

 それを、器用に骨だけの指で掴み取ると、繁々と眺めてから口の中に放り込む。

 ガリゴリと魔石が噛み砕かれた音を鳴らして嚥下する。

 普通、魔石を人体に取り込むのは毒になる。ーーだが、実質魔物と大差がない義父さんの主な食料は魔力ーーつまり、魔力の結晶体とも言える魔石となる。

 換金すれば僅かながらのお金にもなるのだが、義父さんの機嫌を損ねるよりかは良いだろう。

「ーーむう小さいのぅ……。儂が骨の身となっておらんかったら飢え死にしてるわい」

「にゅー……お兄ちゃん、ボクのは……?」

「残念だけどクロネの分は無いよ。ーーあーでも、今日薬屋の店主にオマケして貰ったからね。明日にでも何か美味しいものでも買いに行こうか?」

「にゅ……ん、めんどくさいなぁ……」

「そう言わず、偶には日中も出歩こうね? 出不精が過ぎると町の人に怪しまれるし」

「おう、儂が歩き回ると自警団がまたぞろ出てくるぞ」

「はぁ……義父さんには言ってないよ。折角ミュラーさんに身許引受人になってもらっているんだから、頼むから義父さんは勝手に外に出ないでよ?」

「かかか、安心せい。儂にも考えがあるわい。ーーほれ、見ろこの全身鎧フルプレート・アーマーを。これなら怪しまれずに外に出れるわい!」

 そう言うと、義父さんは木箱からぼろぼろになった鎧を取り出す。

「こんな片田舎の何処にそんな全身鎧を着て町中を歩く人がいるのさ。本当にお願いだからそんなの着て外に出ないでよね」

 過去に夜中出歩いて、偶々遭遇した住民に見つかり騒ぎになった事がある。

 あの時、薬師のミュラーさんが庇ってくれなければ今頃どうなっていたことやら。

「ぬぅ……そこまで言わんでもいいじゃろうて。ーーまあええわい、それならゼロや。この手紙を明日ミュラーの所へ持ってけ」

「えー……またお使いの手紙? 僕、もうあの国に忍び込むのは嫌だよ?」

 あの国と言うのは、【魔導帝国】と隣り合う【聖宗救国】の事である。

 過去に一時期滞在していた事もあるが、一言で言うなら巨大な宗教国家だ。

 錬金術で使うある鉱石ーー【魂石】の原産地でもあり、それを採りにこっそり密入国した際に、現地の騎士団に見つかって酷い目に遭った記憶が真新しい。

「今回は違うのう。ちと、入用の物があってな。この町では彼奴しか仕入れ出来んから、その催促じゃ」

「まあ、遠くまで行かされなければ別に良いよ。それで、欲しい物って?」

「ーー【溶解液】じゃ。錬金術で特殊な鉱石を溶かす【万能溶解液アルカヘスト】の錬成に使うんじゃがーーこの辺じゃ扱う者も少ないからのう」

「あー……アレかあ。前に買いに行った時は、途中で割っちゃったんだっけ」

 義父さんから聞いた所によると、万能溶解液は魂石を溶かす作用があるらしい。

 魂石の原産地である【聖宗救国】はそれを扱う技術もあり、比較的に溶解液が手に入り易かったのだ。

 それで、魂石を採石した帰りに溶解液を購入したところで、警邏中の騎士団に見つかって不法入国がバレて逃亡。

 国境ギリギリまで追いかけてきた時は流石に肝を冷やした思い出だ。

「そうじゃ! 貴重な薬品なのじゃから、取り扱いには気を付けろとあれほど言っておいたのに!」

「まあ、仕方ないでしょ。僕だってまさか、帰り道にあの国の騎士団に襲われるなんて思ってもいなかったんだからさあ」

「ふん、忌々しい国よのう。未だにかの国は荒れておるからな。じゃから、今度は中じゃ。帝都ならば、少々値は張るが手に入るじゃろうて」

「えー高いの?」

 ただでさえ、色々なものを切り詰めて生活していると言うのに、ここに来てそんなに高い物を買いたくはない。

「そういう契約じゃろ? 薬草をちまちまと売るより、儂の作る鋳塊の方が高く売れるんじゃ。それを売れば足りるじゃろうて」

 確かに、義父さんの言う通り、箱に積まれた鋳塊を全て売れば、鉱石の仕入れ値を差し引いてもざっと見積もっても10ジルバぐらいになるだろう。単純に考えて、僕の今日の稼ぎの十倍である。

 10ジルバあれば一月は生活が楽になるんだけどなあと、指を咥えそうになった所で、クロネがぐずるように鳴き始めた。

「ごーはーんー」

「はいはい、分かった分かった。すぐに作るからちょっと待っててね」

 取り敢えずの金勘定は頭の片隅に置いておいて、先ずはクロネの腹事情の解決に当たる事にしよう。

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