第8話 新春の海鮮パニック! 踊るタコ御殿とバズりの代償
元旦の深夜に投稿した動画が世界中でバズり、アリーシャが「世界的インフルエンサー」となってから数日。
正月三が日も過ぎようとしているが、岩手の山奥にある館は、依然としてお祭り騒ぎの余韻の中にあった。
「ケンジ! 見ろ! 我のコメント欄に『Please marry me』という書き込みが殺到してrenoayukiramu@yahoo.co.jp 異世界の求婚とはこれほど情熱的なのか!」
こたつでスマホをいじるアリーシャは、完全にネットの沼にハマっていた。
「はいはい、それはスパムみたいなもんだから無視しろよ。それより……」
ケンジは台所で包丁を研いでいた。
「せっかくの正月だ。昨日のオークの『プラチナポーク』も旨かったが、やっぱり三陸の海の幸も食いてぇだろ? 今日はスーパーで奮発して『豪華刺身盛り』を買ってきたからな」
「ほう! 生魚か! 悪くない!」
シャノンとラパンも目を輝かせる。
「刺身! ラパン、お魚好きだぴょん!」
「ケンジ殿、では私がワサビをすりおろしましょう」
平和な昼下がり。テレビではお笑い特番が流れている。
だが、バルバロの魔の手は、肉の次は魚介となって迫っていた。
ドッカーーーーン!!
突然、館の床下が突き破られ、巨大なヌルヌルした触手が何本も飛び出した。
「な、なんだ!?」
畳が吹き飛び、床下から現れたのは、リビングを埋め尽くすほどの巨大なタコ――否、タコの姿をした魔獣だった。
「おい、アリーシャ結界はどうしたんだ」
「すまぬ、ケンジよ。TikTokに集中し過ぎで、結界の魔力が弱まったようだ」
「ジュルルル……! 我が名は『魔海将軍クランケン』! バルバロ様より、貴様らの始末と、バズった動画の削除を命じられて来た!」
クランケンは長い触手をうねらせ、アリーシャたちを睨みつける。
「ま、また来たのか! しかも今度はタコだと!?」
「貴様らの動画のせいで、バルバロ様が『なぜ逃亡したアリ-シャ一行が異世界で、踊っているのだ?』と困惑しておられる! 即刻削除せよ!」
「断る! あの動画の収益で、我は新しい貴族コスプレ服を買うのだ!」
アリーシャが即答した。
「交渉決裂だ! 死ねい!」
クランケンが8本の触手を鞭のように振るう。
「シャノン、ラパン! 迎撃だ!」
「御意!」
しかし、クランケンの体は軟体動物特有の弾力とヌメリで覆われており、打撃が滑って決まらない。
「効かないぴょん! ヌルヌルするぴょん!」
「剣も弾かれます! なんという弾力……!」
クランケンは高笑いする。
「無駄だ無駄だ! 我が軟体ボディはあらゆる衝撃を吸収する!」
追い詰められる一行。その時、テレビから流れていた音楽番組のリズムが、ケンジの脳裏に閃きを与えた。
「そうだ! お前ら、さっきまで何してた? 『異世界ラバーズ』だろ!?」
「えっ?」
「昨日のリズムネタと、アリーシャの魔法を合わせるんだ! 遠心力と魔法の竜巻で、そのヌメリごと水分を飛ばしちまえ!」
ケンジの指示に、3人が頷く。
「よし、いくぞ! フォーメーションB!」
シャノンとラパンが高速でクランケンの周囲を走り始め、残像で円を作り出す。
「リズムに合わせて……ワン、ツー、ワン、ツー!」
「うおっ? 目が回る……!」
クランケンが目を回し始めた中心で、アリーシャが杖を掲げた。
「闇の力よ、螺旋となりて敵を穿て! 漆黒の・ダンシング・ヴォルテックス!」
アリーシャの放った黒魔法の竜巻に、シャノンとラパンが作り出した空気の渦が合体する。
「「合体奥義! UFO(アルティメット・ファンタスティック・オーシャン)サイクロン!!」」
ヒュゴーォォォォォ!!
黒い竜巻がクランケンを飲み込み、洗濯機の脱水槽のように高速回転させる。
「ア、ア、アレェェェェ~~~目が回るぅぅぅ~!!」
凄まじい遠心力によって、クランケンの体から余分な水分とヌメリが弾き飛ばされ、同時に魔法の摩擦熱が身を焦がす。
「乾燥……完了……ガクッ」
ドサッ!
回転が止まると、そこには程よくボイルされ、「うーむ、これまた立派なタコになったな」
ケンジは茹で上がったクランケンの足を一本切り落とし、味見をする。
「! コリコリしてて、噛めば噛むほど旨味が溢れる! これは極上のタコだ!」
「ケンジ! 腹が減ったぞ!」
「おう、今やる!」
数十分後。
修復魔法で直したこたつの上には、宝石箱のような丼が並べられていた。
スーパーで買ってきたマグロ、サーモン、イクラに加え、先ほど退治したクランケンの新鮮なタコ刺しが山のように盛られた『特製・岩手三陸海鮮丼』だ。
「こ、これが……岩手の海鮮丼、まるで宝石箱ではないか!」
アリーシャが震える手で箸を伸ばす。
タコとイクラを同時に口へ放り込む。
「んん~っ!! 弾ける! 口の中で海が弾けておる! このタコの弾力、そしてイクラの塩気……ひとめぼれの白米という名の海原で全てが調和しておる!」
「おいしいぴょん! 吸盤のコリコリがたまらないぴょん!」
シャノンも無言で丼をかきこみ、おかわりを要求している。
ケンジは、わさび醤油の香りが漂う部屋で、満足げに特番の続きを眺めた。
満腹になり、宴もたけなわの夜。
ケンジの創作意欲が再び爆発した。
「タコと海鮮丼……この『吸いつくような恋』と『色とりどりの具材』……いける!」
ケンジは再びAIアプリ『Suno』を起動。
「キーワードは…、『ミックス』、『ラブリー』、『魔法』……ジャンルは『80年代アイドルポップ・テクノ歌謡』!」
数秒後、キラキラしたシンセサイザーの音が流れる。
ケンジは即座に歌詞を当てはめ、アリーシャに歌わせた。
『秘密のジュモンは♡♡(ラブラブ)ミックス』
作詞・作曲:ケンジ(with Suno)
歌:アリーシャ・フォン・ファンタジア
♪(イントロ:ピコピコ音)
(Intro)
(せーの! マジカル・アイドル・降臨!イェイ!)
(M・A・G・I・C! マジック! フー!)
(M・A・G・I・C! どっちも! フー!)
1番 (Aメロ)
パパとママには ナイショの秘密 (シーッ!)
ほうきを捨てて マイク握れば (ハイ!ハイ!)
魔法の国より 刺激的かも?
スポットライトの 銀河系 (キラキラ〜!)
隣のあの子は ライバルだけど (ライバル!)
ふたり合わせりゃ 最強でしょ?
おてんば? (Non Non!) 清楚? (Yes Yes!)
どっちの私も 愛してね (俺もー!)
(Bメロ)
ガラスの靴より スニーカーで (ダッシュ!)
ハートのペンダント 胸に秘めて
イタズラごころが 暴れだしそう
ウインクひとつで 狙い撃ち (バキューン!)
(サビ)
マハリク・シャランラ! 恋の呪文 (フッフー!)
不思議なチカラで 夢中にさせちゃう
あの子はクール? 私はキュート?
足して2で割ったら パーフェクト! (ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!)
テクマク・ルルルン! 奇跡をおこせ (フッフー!)
ステッキ振るより 投げキッスで (チュッ♡)
「魔法使い」も 「魔女っ子」も
今はあなただけの アイドルよ!
(大好きー!!)




