第7話 大晦日のプラチナ・リズムと、爆誕!アイドルユニット『異世界ラバーズ』
「ええい! ケンジ! 貴様の国の『オオソウジ』とやらは、いつ終わるのだ!?」
アリーシャが三角巾をして、はたきを振り回しながら叫んだ。
館の中は、戦場のような慌ただしさだった。
「文句言ってねぇで手を動かすんだ! 新年神様を迎えるのに、ホコリ被ってちゃ申し訳ねぇだろ!」
ケンジは割烹着姿で、おせち料理の仕込み――黒豆を煮ながら指示を飛ばす。
「ふん! 王女たる我に雑巾がけをさせるとは……。しかし、この『カマボコ』という練り物は美味だな。つまみ食いしてやる」
「あーっ! それは紅白の彩りなんだから食うな!」
一方、廊下ではシャノンと、ラパンが、驚異的な身体能力で掃除をこなしていた。
「ラパン殿! 天井の蜘蛛の巣、2時方向!」
「ラジャーぴょん!」
ラパンが強靭な脚力で跳躍し、空中で回転しながら天井を拭き上げる。
シャノンは残像が見えるほどの速さで床の雑巾がけを行い、摩擦熱でワックスがけ以上の光沢を生み出していた。
「よし、あらかた片付いたな……」
ケンジがお玉を置いて一息ついた、その時だった。
ズズズズズ……。
除夜の鐘にはまだ早い時刻に、地響きが鳴り響いた。
庭の雪山が爆発し、銀色の巨体が姿を現す。
「グオオオオオ!! 我が名は『プラチナ・オーク』! バルバロ様より遣わされし最強の刺客なり!」
体長2メートル。その全身は、白金の名の通り、眩いばかりの金属光沢を放つ皮膚に覆われていた。
夕日に反射して、ものすごく眩しい。
「年末のクソ忙しい時に……!」
ケンジが包丁を構えるが、オークは鼻を鳴らした。
「無駄だ! 我が皮膚はオリハルコンに匹敵する硬度。物理攻撃も魔法もすべて弾き返す! 貴様らの絶望する顔を、おせちの重箱に詰めてやるわ!」
「なんて迷惑な詰め合わせだ! シャノン、ラパン!」
「「御意!!」」
シャノンとラパンが飛び出す。
しかし、剣や蹴りではあの硬い皮膚には通じないかもしれない。
二人は目配せをした。
「ラパン殿、昨夜テレビで見た、あのお笑い番組の『ネタ』……いけますか?」
「呼吸はバッチリだぴょん! リズムに乗せて、衝撃を内部に浸透させる作戦だぴょん!」
「なんだと?」
プラチナ・オークが怪訝な顔をした瞬間、ラパンが足を踏み鳴らした。
ズンズン、チャッ! ズンズン、チャッ!
「ウィー・ウィル・ロック・ユー」的なビートが雪原に響く。
「な、なんだこのリズムは……体が勝手に……!?」
オークが戸惑う中、シャノンとラパンが左右に展開した。
「「ここだ、ここだ、ここだ、イェーイ!」」
二人は軽快なリズムに合わせて、オークの脇腹と膝裏を交互に手刀で叩く。
それは攻撃というより、完全に『リズムネタ』の動きだった。
「右脇腹~♪」パンッ!(シャノンの手刀)
「左膝裏~♪」パンッ!(ラパンの蹴り)
「交互に見て~♪」パパンッ!(ダブル攻撃)
「ぐっ、うおっ!? なんだ、ダメージはないはずなのに、強烈な振動が……!」
プラチナ・オークの金属皮膚が、特定周波数の連続打撃によって共振を起こし始めた。
「とどめだぴょん!」
「合わせます!」
「「必殺! 3・3・7拍子・リズムネイションインパルス!!」」
ピッ、ピッ、ピッ!
ピッ、ピッ、ピッ!
ピピピ、ピピピ、ピピピッ、ドーン!!
最後の一撃が鳩尾に決まった瞬間、キィィィィン! という高周波音が鳴り響き、プラチナ・オークの全身に亀裂が走った。
「ば、バカな……。硬度ばかり気にして、柔軟性を捨てた我が肉体が、振動に敗れるとはぁぁぁ……!!」
パリーン!!
プラチナ・オークは美しい音色と共に砕け散り、その場には、とてつもなく上質な肉塊だけが残された。
「……勝った。けど、絵面がひどいな」
ケンジが呆然と呟いた。
「おお、こりゃあ見事な『白金豚』じゃねえか!」
騒ぎを聞きつけてやってきたのは、近所の炭焼き小屋に住むドワーフにそっくり似てる源さんだ。
背中に背負った巨大な出刃包丁が鈍く光る。
「源さん! わかるのか!?」
「当たり前だべ。この輝き、脂のサシ、間違いねぇ。花巻が誇るブランド豚の最高級変異種だ。俺がさばいてやるから、ケンジは火をおこせ!」
源さんの手際は神業だった。
硬い外皮の下にある極上の肉は、瞬く間に美しいステーキ肉へと解体された。
その夜。
アリーシャの館の食卓には、分厚いステーキが山のように積まれた。
「これが……敵の肉か?」
アリーシャが恐る恐るナイフを入れると、肉汁が噴水のように溢れ出した。
口に運ぶ。
「……!! 甘い! 脂が果物のように甘いぞ! そしてとろける!」
「うまいぴょん! ほっぺた落ちるぴょん!」
「白飯が進みます! おかわり!」
ケンジ特製のガーリック醤油ソースが絡んだ白金豚ステーキは、悪魔的な美味さだった。
こたつを囲み、紅白歌合戦を見ながらの宴会は、最高潮に達した。
酒が回り、気分が良くなったケンジがスマホを取り出した。
「みんな、こんなにうめぇ肉を食って、最高の気分だ。一曲作るべ!」
ケンジが起動したのは、流行りのAI作曲アプリ『Suno』。
「キーワードは……『UFO』、『岩手』、『ファンタスティック』、『オンリーワン』……ジャンルは『昭和歌謡ディスコ』っと」
数秒後、とんでもなくキャッチーで中毒性のあるイントロが流れた。
♪~~(スペーシーな電子音)
「おお! 良い曲ではないか!」
アリーシャが立ち上がる。
「我らで歌うぞ! シャノン、ラパン、フォーメーションだ!」
酔っ払った3人は、AIが生成した曲に合わせて、即興で踊りだした。
ケンジはその様子を動画で撮影し、適当なDISCOエフェクトをかけてTikTokにアップロードした。
ユニット名:『異世界ラバーズ』
曲名:『UFOウルトラファンタスティックオンリーワン』
概要欄:『AIで作った動画です。岩手から愛をこめて。』
アリーシャの美貌、シャノンのキレのある動き、ラパンの愛くるしさ。
そして背景の生活感あふれる古民家と、無駄にクオリティの高い楽曲。
「よし、投稿っと。……さて、年越しそばの準備すっか」
ケンジはスマホを放置して、厨房へ向かった。
***
翌朝。元旦。
「ケ、ケンジぃぃぃぃぃ!! 大変だぁぁぁ!!」
アリーシャの絶叫でケンジは飛び起きた。
「なんだ!? 新手か!?」
アリーシャは震える手でスマホを突きつけた。
「見ろ! 再生数が……Mとかになっておる!!」
TikTokの通知は止まらず、再生数は一晩で数百万回を超えていた。
コメント欄は世界中の言語で埋め尽くされている。
『AI生成動画のクオリティ高すぎ!』
『このセンターの金髪の子、実在しないの? リアルすぎる!』
『岩手ってどこ? サイバーパンクな都市なの?』
『曲が頭から離れないwww UFO!!』
「やったなアリーシャ! これでお前、世界的インフルエンサーだべ!」
「う、うむ……。この世界での打倒バルバロの第一歩としては悪くないが……まさか歌って踊って達成するとは……」
アリーシャは複雑な顔をしながらも、満更でもなさそうにスマホを抱きしめた。
岩手の雪原に、世界中からの「いいね」が降り注ぐ。
波乱の年は去り、さらに波乱に満ちた新年が、幕を開けたのだった。
(つづく)




