第6話 聖夜の無茶ぶりと、獣たちのリズム・コンバット
岩手の冬は寒く厳しいが、今夜のケンジの家は熱気に包まれていた。
クリスマスイブ。それは異世界から来た王女アリーシャにとっても、特別な「宴」の日であるらしい。
リビングのコタツの上には、ケンジが奮発した**『プラチナかしわ』**のローストチキンと、地元の老舗フルールキクヤのケーキ屋で予約したクリスマスケーキが鎮座している。
「うむ、この『チキン』という鳥、なかなか良い筋肉をしておるな。皮はパリパリで中はジューシー……。ケンジ、褒めて遣わすぞ」
アリーシャはチキンを片手に上機嫌だ。
その横で、正座をして居住まいを正しているのは、猫耳と尻尾を生やした近衛隊長シャノン。そして、もふもふとした白い毛並みのうさぎ、ラパンである。
「はっ! ありがたき幸せ!」
シャノンは軍人のような口調で答えつつ、目の前のチキンを野生的な速さで骨ごと噛み砕いている。
ケンジはベアレンビール(地ビール黒)のシュバルツを飲みながら、やれやれと息をついた。
「ほれ、食うのはいいけど骨は残せよ。シャノンちゃん、あんた半分黒豹なんだから」
宴もたけなわ、腹が満たされたアリーシャが、不敵な笑みを浮かべてグラスを置いた。
「さて……食後の余興が欲しいところだな」
アリーシャの瞳が、ラパンとシャロンを射抜く。
「ラパン、シャロン。貴様ら、我を楽しませる『ショートコント』をやってみせよ」
部屋の空気が凍りついた。
「しょ、ショートコント……でありますか?」
シャロンが猫耳をピクリと震わせる。
「うむ。昨夜このイハトブ国のテレビM1グランプリで見たぞ。『リズムネタ』というやつだ。音楽に合わせ、滑稽な舞と言葉遊びで笑いを取る高等魔術だ」
「ええっ!?」ケンジが声を上げた。「アリーシャ、それお笑い番組の見すぎだべ! 無茶ぶりにも程があるぞ!」
しかし、王女の命令は絶対である。
アリーシャは夜桜の扇子(なぜか岩手の観光土産)をバシッと鳴らした。
「ネタはそうだな……貴様らは『うさぎ』と『猫』だ。種族の垣根を超えた、魂のダンスを見せてみよ! 面白くなければ、明日の朝食は抜きとする!」
ラパンとシャロンは顔を見合わせた。
ラパンはつぶらな涙目の瞳で(マジかよ……)と訴え、シャロンは戦場に向かう兵士の顔つきで頷いた。
「ラパン殿……やるしかありません。王女殿下のご命令とあらば、死地をも恐れぬのが近衛対の務め!」
「キュッ、キュウゥ……(やるしかないキュウ……)」
二匹(一人と一匹)はコタツの前のスペースに立った。
シャロンが低い声でカウントをとる。
「ワン、ツー、スリー……ミュージック、スタート!」
どこからともなく、ラパンが持っていたタンバリンがリズムを刻み始めた。
シャン、シャン、シャン、シャン!
「「我ら、アニマル・ダンサーズ!!」」
意外にも息の合ったタイトルコール。
シャノンがキレのある動きでステップを踏み、ラパンがその周りをぴょんぴょんと跳ねる。
♪(リズム)ズン、ズン、ズンドコ、ラパン
シャノン「右足出して、猫パンチ!」
シュッシュッ!(鋭い爪が空を切る音)
ラパン「左足出して、うさキック!」
ピョンピョン!(愛くるしいジャンプ)
♪ズン、ズン、ズン、ズンドコ、シャノン
シャノン「獲物を見たら~?」
ラパン「ニゲロ、ニゲロ!」(裏声のような奇妙な鳴き声)
シャノン「逃がしはしない、喉笛ガブリ!」
「ぎゃあー! 怖い怖い! 歌詞が物騒だべ!」
ケンジがツッコミを入れるが、二人の目は真剣そのものだ。リズムが加速する。
♪ズン、ズン、ズンズン、ズンドコ
シャロン「うさぎ、猫、うさぎ、猫!
でも、そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ
はい、オッパッピー アバンギャルデイ
安心しつ下さい うさぎは、穿いてません
オナラ ぷう
ラパン「ピョン、ニャー、ピョン、ニャー!
何の意味もない、何の意味もない
変なおばさん、変なおばさん、アイ-ン
シャノン「猫、猫、猫、猫!」
ラパン「ニャ、ニャ、ニャ、ニャー
シャノン「ここらで一発、本気モード!」
シャノンの目がカッと光り、ボンッという音と共に、半獣人の姿から完全な**『黒豹』**へと変身した。
その巨体が、狭いリビングでしなやかに舞う。
「ガアアァァッ!!(フィニッシュ・ポーズ!!)
はい、ジャンガジャンガじゃぁん」
黒豹の咆哮がビリビリと窓ガラスを震わせ、その鋭い牙がラパンの鼻先数センチで止まった。
ラパンはあまりの恐怖に白目をむき、直立不動のまま気絶して後ろへ倒れた。
ドサッ。
静寂が訪れる。
アリーシャはポカンと口を開けていたが、やがてプルプルと肩を震わせ、爆笑した。
「あっはははは! なんだそれは! ラパンの気絶芸、見事である! 恐怖とリズムの融合、これぞアバンギャルドな芸術だな!」
元の姿に戻ったシャロンは、汗を拭いながら片膝をついた。
「はぁ、はぁ……。ありがたきお言葉。ラパン殿の命がけのリアクションあってこその芸であります」
「いや、あれガチで気絶してるから! ラパンの魂、抜けかけてるから!」
ケンジは慌てて気絶したラパンを抱き上げ、頬をペチペチと叩いた。
「まったく、クリスマスイブになにやってんだか……。うちはサーカス小屋じゃねえんだぞ」
「よいではないかケンジ。これぞイハトブのクリスマスの奇跡だ」
「どこが奇跡だ。ただの笑えないショートコントだべ」
ため息をつきつつも、ケンジはラパンの口元に小さく切ったイチゴを近づけた。鼻をヒクつかせ、ラパンが意識を取り戻す。
騒がしくも愉快な同居人たちに囲まれ、岩手の農家の夜は更けていく。外では雪が、静かに降り積もっていた。
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