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第4話 うさぎの騎士と王女の秋の夜長のディスコ・フィーバー


岩手ののどかな農村に、異世界の王女と農家のおっさんの奇妙な共同生活が定着しつつあった。季節は11月になっていた。

納屋(DX居住ユニット)には、異世界から来た王女アリーシャと元近衛騎士で現在は「うさ耳雪女」という属性過多な美少女、ラパンが居候することになったのだ。


 ドワーフは、人形から魔法で召喚したため、元の人形に戻って、アリーシャのリビングに仲良く飾られている。

「ケンジ様、今朝の気温は異常気象の為に平年よりかなり高いようです。快適な農作業のために、周囲の気温を私が調整いたします」

麦わら帽子をかぶったラパンが、青い隊服のエプロン姿で敬礼する。彼女のうさ耳がピコンと動くと、周囲の空気がキーンと冷え込んだ。

「ハックション!……いや、ラパンちゃん、ありがてえけど、今は秋だから! ほうれん草と白菜の苗が霜でやられちまうべ!」

ケンジはくわを振り回しながら抗議した。

一方、アリーシャは畑のうねをスキャンしていた。

「フム。土壌の窒素レベルが低下しているな。ケンジ、我がマナクリスタル推進剤を希釈して散布すれば、収穫量が500%アップする計算だが?」

「やめてけれ! 魔法使って白菜がマンドレイクみたいに鳴き始めたら怖いわ。普通に堆肥まくから!」

そんなツッコミが追いつかない平和な日常が続いていたある日の夕暮れ。

突如として、畑の上空に赤黒い時空の歪みが発生した。


「警告。空間湾曲エネルギーを探知。このパターンは……魔導帝国バルバロの刺客反応」

アリーシャが腕輪のディスプレイを睨む。

「なんだと!? また紫ゴブリンとかかい!」

ケンジが身構える。

歪みから、畑の中にドサリと何かが落ちてきた。

現れたのは、身長1メートルほどの、緑色の肌をした小鬼――グリーンゴブリンだ。手には奇妙な鞭を持っている。

そして、そのゴブリンが鞭を一振りすると、歪みの向こうから、巨大な影が這い出してきた。

「グルルルルゥゥゥ……!」

体長3メートルはあろうかという、凶暴なグリズリー(北アメリカハイイログマ)だ。岩手のツキノワグマとはスケールが違う。

「ケケケ! 我は魔獣使いのゴブ・グリン! この最強のグリズリーで、貴様らを肉片に変えてくれるわ!」

ゴブリンが甲高い声で叫ぶ。

アリーシャは冷静に分析し、金色の結界を納屋の回りに展開した。

「なるほど。バルバロめ、こちらの座標を特定しきれていないな。時空ゲートの共振帯域幅(バンド幅)が狭すぎて、これ以上大きな戦力や、多数の兵士を一度に送り込めないようだ。だから小柄なゴブリンと、現地調達した野獣を送り込んだか。セコい真似を」

「感心してる場合か! あのデカい熊、結界を破りそうだぞ。軽トラでも勝てそうにないべや!」

ケンジが後ずさりする。

グリズリーが咆哮を上げ、結界を破りケンジたちに向かって突進を開始した。地面が揺れる。


「アリーシャ様、ケンジ様、お下がりください!」

その前に、凛とした声とともにラパンが立ちはだかった。

うさ耳がピンと立ち、彼女の赤い瞳が冷たく輝く。

「近衛隊副長ラパン、推して参る! この岩手の地を、貴様らのような蛮族に踏み荒らせはしない!」

ラパンが両手を広げると、氷の結晶が冷気の流れとなって、ゴブリンとグリズリーに向かって、地吹雪のように流れ出す。

「な、なんだこの冷気は!? グリズリーよ、やれ! 踏み潰せ!」

ゴブリンが慌てて鞭を振るうが、グリズリーの足取りが鈍る。足元から急速に氷が這い上がっているのだ。

「我が身に宿りし雪女の力よ、今こそ氷結の刃となれ! ――『絶対零度氷牙アブソリュート・ゼロ・ファング』ッ!!」

ラパンが腕を振り下ろすと、巨大な氷の牙が狼の姿に変わり地面から突き出し、グリズリーとゴブリンを直撃した。

カキンッ!

一瞬の出来事だった。

そこには、驚愕の表情を浮かべたゴブリンと、突進姿勢のまま固まったグリズリーの、見事な氷像が出来上がっていた。

「す、すげえ……。瞬殺だべ……」

ケンジが口をあんぐりと開ける。

アリーシャは満足げに頷いた。

「素晴らしいエネルギー効率だ、ラパン。雪女の特性と騎士の魔力が見事に融合している。これなら来年の夏、酷暑の冷房対策は完全に解決だな」

「はっ! 恐縮であります!」

ラパンは氷像の前でビシッと敬礼した。うさ耳も誇らしげに揺れている。


その日の夜、ケンジは、戦いの勝利とラパンの歓迎会を兼ねて、宴が催された。

野菜の天ぷら、エビの天ぷらのツマミと、日本酒とビールが用意され、ラパンはアリーシャに、お酌をするが、間違えて、瓶ごと凍らせてしまう。アリーシャはほろ酔いになり、「この天ぷらと言う調理法は興味深い、衣のサクサク感がエンドルフィン分泌を促進する」と、最初は

真面目にしていたが、ケンジがカラオケを持ち出して

「すらかばあ、こぶしさく、きたくにのおはる、すばれるねえ」と、千昌夫のモノマネをみて、ケラケラ笑って、

「ケンジよ、わが国の同期者より面白いではないか」と褒めた。

アリーシャはやがてテンションが上がり、真っ赤な顔で、ラパンに歌を歌えと、むちゃぶりをする。

ラパンは仕方なく、近衛歌の歌を歌うが、真面目すぎて、どっちらけになった。

「我が魔法で、王国の舞踏会を再現して見せようぞ」

と、魔法をかけると、きらびやかなDIDCOが出現した。


「な、なんだ!? 畳がディスコになっただ!?」

ケンジが目を回す中、アリーシャは中央で踊り始めた。

それは、スペインの踊り子のような、キレッキレのラテンダンスだった。高速回転、残像を残すステップ、そして決めポーズ。

「アリーシャ様……お懐かしや、なんと優雅な舞踏!」

ラパンが目を輝かせ、見よう見まねで踊りだす。うさ耳がリズムに合わせて激しく揺れる。

ドワーフのゲンさんも、髭を振り乱して謎のステップを踏み始めた。

カオスなディスコ空間と化した岩手の農家。

ケンジは、踊り狂う異世界の王女と、うさ耳雪女騎士と、ドワーフ(仮)を眺めながら、冷えたビールを呷った。

「……まあ、退屈はしねえな、この暮らしも」

氷漬けのグリズリーが庭で月光を浴びてキラキラと輝く、騒がしくも平和な夜は更けていった。

(続く)

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