第18話 ひな祭りの変身魔法! 爆誕、異世界Angel 5(エンジェル・ファイブ)
三月三日、ひな祭り
春の足音はまだ遠く、冷え込みの厳しい夕暮れ時。農家・ケンジの家の居間には、不釣り合いなほど賑やかな光景が広がっていた。
「ケンジ! この『ひなあられ』という五色の弾丸、止まらんぞ! 噛むたびに魔力が回復する気がする!」
青ジャージ姿でコタツに沈むケンジの隣で、アリーシャがポリポリと景気よく菓子を頬張っている。その横では、次女マリーシャが岩手の地ビール「ベアレン」の瓶を片手に、お好み焼きのコテを振るっていた。
(……異世界の王女の姉妹、騎士、おまけに獣人。居候が四人に増えて、俺の胃に穴が空くのも時間の問題だな)
ケンジは、飾られたひな人形の無機質な微笑みを見つめ、そっと溜息をついた。だが、平和な時間は長くは続かない。
「ドォォォーン!」という凄まじい爆発音と共に、部屋の中央に巨大な魔法陣が展開した。
「アリーシャお姉様、心配で来ちゃっただっちゃ!」
光り輝くピンクのフリルドレス、あま色の長い黒髪、まばゆい貴族衣装を身にまとった美少女――三女のサリーシャが、空間を切り裂いて現れた。
「サリーシャ!? お前、隣国の魔法皇国へ嫁に行ったはずでは……」
アリーシャがカルピスを吹き出し、マリーシャがたこ焼きのコテを落とす。
「空間転移魔法だっちゃ! お姉様たちが岩手でTiktokアイドルをやってるって聞いて、黙ってられなかったんだっちゃ!」
サリーシャは有無を言わさぬ勢いでケンジに詰め寄った。その瞳は期待にキラキラと輝き、鼻先が触れそうなほどの距離まで顔を近づける。
「ケンジ! うちも『ビーナス4』に入リたいだっちゃ! うちの『サリーフラッシュ』魔法があれば、どんな衣装にも一瞬で変身できるんだっちゃよ!」
「いや、もう定員オーバーっていうか……キャラが渋滞しすぎだろ……」
ケンジの抵抗は虚しく、もはやこの流れを止める術はない。彼は諦めて愛用のノートPCを開き、生成AI「Suno」のエンターキーを叩いた。
「分かったよ! 5人になったからユニット名は**『世界Angel 5』**だ。今度は……究極に甘ったるい『ゆるかわポップ』で行くぞ!」
『電撃!ハニー・インベイジョン♡』
(Intro)
(ワン・ツー・スリー・フォー!)
U.F.O! (ハイ!ハイ!)
I・L・O・V・E! (フー!)
狙い撃ちだよ 覚悟して?
ビリビリ・ハニーフラッシュ!♡
(1A)
夜空の隙間から 舞い降りたの
あの子を見てるなら お仕置きだっちゃ!
チョーカー外したら 秘密の合図
あなたのハートまで 侵略警報 (ウーウー!)
(1B)
普通の女の子だと 思わないで
怒らせたら 100万ボルト (バチバチ!)
「ある時は アイドル…」
「またある時は 宇宙人…」
「しかしてその実態は…!?」
(教えてあーげる♡)
(サビ)
変わるわよ! ダーリン! 瞬き禁止!
甘い蜜のワナで 捕まえるの (ガオー!)
逃がさない 電撃 ラブ・ショック!
お願い そばにいて 溶けちゃうくらい
あなたが あなたが 好きなのよ
(愛の戦士は) 誰だっけ?
(あ、そーれ!)
ハニー・インベイジョン!♡
新曲 のイントロが流れ出す。マカロンやキャンディの幻影が部屋中を舞い、サリーシャの変身魔法によって、5人はパステルカラーのアイドルフリル衣装へと着替えさせられた。
場所を納屋へと移し、即席のダンスレッスンが始まった。しかし、即席ユニットの足並みはバラバラだ。
「ああっ! あの動くレーザーポインターが気になる……ッ!」
猫耳のシャノンが本能に抗えず、演出用の光を追いかけて壁をガリガリと削る。
「シャノンさん、真面目にやってください!」
ウサ耳のラパンが必死に嗜めるが、今度はセンター争いが勃発した。
「うちが一番可愛いに決まってるだっちゃ! センターはうちだっちゃ!」
「控えよ! 長女である私こそが絶対的センターに決まっておろう!」
「何言うてんねん! 笑いのセンスとパンチ力ならうちがセンターや!」
三姉妹の火花が散り、納屋のボルテージが急上昇する。ケンジが隅っこで頭を抱えていたその時――。
ズガガガーン!
納屋の壁が派手に爆破され、黒い煙の中から5人の影が現れた。全員が猫耳をつけ、オーバーサイズのストリート系ファッションに身を包んでいる。
「軟弱な甘い歌はそこまでだ。我らは魔王軍のゲストラッパー刺客……『Cat クロー 5(ファイブ)』!」
「剣や魔法は古い。これからは『言葉リリックの刃』で勝負だ。
……Yo, Yo, 岩手の田舎でアイドルごっこ? おままごとなら他所でやってな!」
リーダー格の猫耳少女が重低音のビートを刻みながら、鋭いライムを放つ。
「(白目)……今度はラップバトルかよ!!」
ケンジの絶叫をよそに、アリーシャとサリーシャの目に闘志の火が灯った。
「面白い……。その挑戦、受けて立つ!」
「うちのライムで黙らせてやるだっちゃ!」
岩手の静かな農家の納屋は今、銀河系最大のラップバトルの聖地へと変貌しようとしていた。




