第17話 地獄のレッドカーペット! 蠍座の魔女と宅配ピザの聖母
「デス・サブちゃん」をバター餅の粘りで浄化してから数時間後。ケンジの納屋の周囲には、不気味な**「青白いスポットライト」**が幾筋も降り注いでいた。
「な、なんだべ? まだ電気代払ってねぇのに、この派手な演出は……」
ケンジがヨレヨレの青いジャージの襟を正すと、霧の向こうから豪華絢爛なドレスを纏った男がゆっくりと歩いてくる。背中には巨大なクジャクの羽根、全身には夜空の星をすべて奪い取ったかのようなスパンコール。
「あんた……。いい度胸してるわね。演歌の花道の端っこを歩きなさいよ」
バルバロ四天王、最後の刺客。その名も、ハイエルフの魔界歌手**「デラフレシアン」**。
長い耳、青い肌、短い黒い髪に、女装のような派手はメイク。衣装は、昭和の歌謡曲歌手のような、紫のスパンコールのジャケットを着た見た目は完全に、紅白の大トリを務める時の美山憲三そのものであった。
「四天王を次々と、よくもアイドルソングみたいな小賢しいメロディで葬ってくれたわね。でも、私の『蠍座の魔女』からは逃げられないわよ……」
デラフレシアンが指先を鳴らすと、重厚な昭和歌謡のイントロが鳴り響く。
(台詞)
「……あら、また逃げるの?
いいのよ、追いかけたりしないわ。
だって、あなたの心にはもう、私の毒が回っているもの……」
私は 真夜中の曼珠沙華
赤く燃えて 地獄の淵で咲く
触れれば 痺れる この指先で
あんたの運命を 狂わせてあげる
そうよ 私は…… サソリの女
その妖艶かつ毒々しい魔力と歌唱力に、異世界ビーナス4の面々は圧倒された。
「くっ……! この者の歌、毒気が強すぎるぞ!」
アリーシャがよろめき、近衛隊長のシャノンが「シャーッ!」と威嚇するが、デラフレシアンの放つ「おだまり!」ビームに言葉を封じられ、子猫のようにキュウンとへたり込む。
「アリーシャ、しっかりしろ! ……クソ、こうなったら岩手の美味いモンのパワーだけじゃ足りねえ。国際コラボだべ!」
ケンジはスマホを取り出し、迅速にアプリを操作した。
「……もしもし! **『ナポリの窯』**さん!? 納屋まで大至急だべ! トッピングは全部乗せだ!」
「ケンジ! この土壇場で何を……む、何か香ばしい予感が?」
アリーシャの鼻がピクリと動く。
魔界歌手**「デラフレシアン」**の圧倒的な、ステージをただただ聞かされた10分後、粉雪を切り裂き、爆速の原付バイクが納屋の前に滑り込んできた。
「お待たせしました! ナポリピッツァと、ミラノクリスピー10枚になります!」「あっ、支払いは、D払いでお願いしますだ」
「よし、アリーシャ! これを食って魔力をブーストしろ!」
ケンジが差し出したのは、焼きたて熱々のピザ。アリーシャはそれをひったくるように口へ運ぶ。
「おお……! このナポリのモチモチ感、そしてミラノのサクサクしたクリスピーな食感! 脳が、脳がイタリアの太陽に焼かれるようだわ!」
他の3人も、しゃぶりつくように、ピザに食らいつく。
アリーシャの背後に、巨大なピザ窯の幻影が出現する。魔力が臨界点を突破し、彼女の衣装がジュディ・オングのような巨大な白い羽根付きドレスへと変貌を遂げた!
「……いくわよ。Wind blowing from 岩手
王女の気品、見せてあげるわ」
いつの間にか、異世界ビ-ナス4の、シャノン、ラパン、マリ-シャは、宝塚のダンサーのように、背中に
派手派手な羽根を付けた、水着風編みタイツ衣装に着替えていた。
【楽曲:裏窓ブルース(地中海Hyper-Mix)】
「な、何!? そのATP(アデノシン三リン酸)魔力全開のこぶしは……っ!?」
デラフレシアンがたじろぐ。アリーシャの歌声に合わせて、シャノン、ラパン、マリーシャの3人が羽扇子を持ち、宝塚のような足を高く蹴り上げるラインダンスを開始する。
潮風は港へ
泣いて吹く
女は情
愛しいあの人の 腕の中でも
S2
忘れられない 影を追う
あぁ… あぁ…
一夜の夢だと
抱きしめて
Ss
潮風は港へ 泣いて吹く
女は罪
「ぎゃああああ! 懐かしい……しかも、宝塚ミュージカル。完敗だわねー。私にも、ピザをくれるなんて、優しいのね。バルバロ様は、ロクに美味い物をくれないから、私の魔力妖気が……ナポリのトマトソースで浄化されていく……!」
デラフレシアンは、あまりの神々しさとピザの芳醇な香りに打たれ、スパンコールをまき散らしながら星になって、異世界へ帰って行った。
「あんた……いいピザ……焼くじゃないの……(昇天)」
その夜:イタリアン祭り
「ふぅ……。四天王もこれで全滅か。強敵だったべ……」
ケンジは空になったピザ箱を片付けながら、深い溜息をついた。
隣では、ラインダンスで疲れ果てたシャノンが半分黒豹の姿になって丸まり、ラパンはうさ耳をぴょこぴょこさせながら、残ったミラノクリスピーの端っこをかじっている。
「ケンジ! あの『ピザ』というパン生地円盤、余の魂に響いたぞ。特にチーズの伸び……まさにシャンドリア王国権威の象徴のようではないか!」
アリーシャがティアラを光らせながら自画自賛する。
「せやな。アリーシャ様は美しさと存在自体が罪やからな。……食費という意味で。知らんけど」
マリーシャが虎柄ワンピースの裾を直し、関西弁で毒を吐く。
「なんでやねん! うち、龍騎士姿でバックダンサーさせられて、火吹きすぎて喉カラカラやわ!」
「まあまあ。とりあえず、四天王は倒した。これで世界に平和が……」
ケンジが言いかけたその時
「えっ、あ、d払い決済……あ! もう残高が1000円以下だべ!?明日から、どうしようだべ。お前ら、毎日、おにぎりだがらなあ」
「ふん、ケンジのクレジットカードは、魔法で余が完全に把握したからな。毎日、ナポリの窯の、ピザ食べてやる」
「アリ-シャ様、役安ピザにしてくださいませだべ。
オラの老後の楽しみのへそくり貯金が、無くなるべ」
「ケンジ殿、我々3人のピザもよろしくなのだ。笑笑、もう、粗食には戻れないのだ」
「せやせや、たこ焼きより、美味いもん、知った今ではなあ。知らんけど」「ラパンも ピザ食べたいぴょん」
「うわあああ、またネットショップやるしかないべえ」
平和への道のりは、まだ遠いようだった。




