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第14話 百獣の咆哮と龍王騎士(ドラゴンキングナイト)

岩手の冬の夜は、星が痛いほどに輝く。

ケンジの納屋「異世界駐日大使館」の周辺に、突如として地響きのような足音が響き渡った。

「……何者だべ?」

ケンジが軽トラの鍵を握りしめたその時、結界がバリンと弾け飛んだ。

「我が名はバルバロ帝国、四天王が一人、百獣軍団を束ねる将、百獣将軍ライガード! 著作権法務官のギルティが敗れたと聞き、実力行使に参った!」

現れたのは、ライオンの頭部、巨象の腕、そして大蛇の尻尾を持つ、筋肉の塊のような魔人だった。

「ひぃっ! 今度は武闘派かよ!」

「シャノン、行け! 近衛隊長の意地を見せろ!」

アリーシャの命令に、シャノンの目が野生の金色に光る。

「御意……。アリーシャ様、お下がりを! シャノン、『黒豹モード』、リミッター解除!」

シャノンの体がしなやかに跳躍し、漆黒の毛並みに覆われた黒豹へと変貌する。電光石火の爪がライガードの喉元を襲うが――。

「フン、小猫ごとき、百獣の王である私に、獣の力が通じると思うたか!」

ライガードが咆哮すると、その衝撃波だけでシャノンは壁まで吹き飛ばされた。

「くっ……。私の爪が、筋肉に食い込まない……。この圧倒的な野生の格、格の違いが……!」

「シャノン!?」


震えるアリーシャが、隣で「おそ松さん」の再放送を見ていたケンジの胸ぐらを掴んだ。


「マリーシャがドラゴンになって戦えばいいんじゃねえべが?」

「あかん、うちのドラゴンの力は、姉ちゃんの解呪魔法で弱くなっておるんや。何か、強力な力が欲しいんやで」


「ケンジ! 貴様、ボーッとしているな! あの化け物を倒すための『魔法の食べ物』を今すぐ出せ! 岩手の、いや、イハトブ国の英知を絞るのだ!」


「魔法の食べ物って……そんなドラえもんの秘密道具みたいなこと言われてもよぉ……」

ケンジは冷蔵庫を漁る。三陸産のワカメ、賞味期限切れの納豆……その時、奥に隠していた一本の瓶が目に留まった。

「……これだ。秋田の酒だが、今は背に腹は代えられん。北秋田・にごり酒!」


「にごり酒? なんだその、牛乳を失敗させたような液体は!」

アリーシャが不審がる中、ケンジはマリーシャを呼んだ。

「マリーシャ! これを飲め! これはな、ただの酒じゃねえ。米の旨味、アミノ酸、そして**レジスタントプロテイン(難消化性タンパク質)**が豊富に含まれた、飲むプロテインだべじゃ!」

「酒ぇ? ええな、景気づけに一杯いただくわ! 知らんけど!」


マリーシャが黄金のカップに注がれたドロリと濃厚な「北秋田」を一気に煽る。

「……ぷはぁー! なんやこれ! 濃厚や……。米の粒々が細胞を活性化させる……。うちの中に眠るドラゴンの血が、米の栄養価と共鳴しとるでぇ!」


マリーシャの体が白銀の光に包まれる。虎柄ジャージ(黄色)が、にごり酒のような白と金を基調とした重厚な鎧へと変化していく。

「変身! 龍王騎士ドラゴンキングナイト・マリーシャや!」

頭には王冠、背中には龍の翼、手には龍の形をした三又の長槍。


「ライガード、あんた、うちの晩酌の邪魔した罪は重いで。……なんでやねん!」

マリーシャが槍を突き出す。にごり酒の濃厚な魔力が螺旋状の波動となり、ライガードの巨体を貫いた。

「な、なにぃ!? この重厚なコク……米本来の圧倒的なエネルギーだとぉぉぉ! ぐわぁぁぁ!」

百獣将軍は、米の旨味の濁流に呑み込まれ、夜の彼方へと退散していった。


その日の深夜:祝勝宴(いわて地酒まつり)

「勝ったべー! 今夜は岩手の酒で乾杯だべ!」

ケンジの号令で、テーブルには**『南部美人』や『あさ開』、『赤武』**といった岩手の吟醸酒がズラリと並ぶ。

「ふむ、この『南部美人』、フルーティーで気品があるな。余に相応しい」


アリーシャはご機嫌でティアラを斜めにしながらグラスを傾ける。

「マリーシャ、ラパン。戦いの後の余興だ。余を笑わせてみよ。漫才を命令する!」

「ええっ、漫才ですかぁ!? 私はアイドルですよぅ」

ラパンが泣き言を言うが、酔っ払ったマリーシャが彼女の首根っこを掴んで中央へ引きずり出した。

「しゃあないな。ラパン、うちがボケるから、あんたは『ナイツ』風にツッコむんや。ええな?」


【漫才:岩手をネタにした『ヤホー』ネタ風】

マリーシャ:「いやー、最近ネットの『ヤホー』で岩手のことについて調べてきたんやねんよ」

ラパン:「『Yahoo!』ね。発音がおじいちゃんみたいですよ」

マリーシャ:「岩手といえばね、やっぱり名物の『ワンコ・そば』やね。可愛い子犬が、お椀に入って出てくるっていう、知らんけど」

ラパン:「いや、蕎麦ですからね! 犬が出てきたら保健所案件ですよ」

マリーシャ:「あと、有名な山として『岩手マン』がありますねん。変身ヒーローみたいな名前の山が」

ラパン:「『岩手山』ね。マンは余計です」

マリーシャ:「最近では『大谷翔平』はんも岩手出身ですね。彼は『二刀流』ですけど、実は大好物は『三陸のウニ』と『前沢牛』の二刀流だったらしいですやん、知らんけど」

ラパン:「野球の話をしてくださいよ。しかも、高級食材の二刀流はただの食いしん坊ですから」

マリーシャ:「最後に、岩手の大使といえば『のん』さんですね。あまりに岩手が好きすぎて、最近は『はい』か『いいえ』で答えられる質問にも、全部『のん』って答えるらしいやん、知らんのかい」

ラパン:「それはただのフランス人か否定的な人ですよ。……もう、いい加減にしろ!」

「「ありがとうございましたー!」」

「………………」


アリーシャは無言で南部美人を飲み干した。

「……ケンジ、この漫才、面白いのか?」

「いや、こっちの世界では大人気なんだべ……」

ケンジは、酔いつぶれて虎柄ジャージに戻ったマリーシャと、耳を垂らして項垂れるラパンを見ながら、静かに通帳を開いた。


「……にごり酒代、2,500円。漫才の指導料、プライスレス。……俺のNISA、今月も赤字だべなぁ……」

岩手の冬空に、酔っ払いたちの笑い声と、遠くで聞こえる猫の鳴きシャノンのいびきが響いていた。


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