第13話 納屋のダンスフロア響き渡る『WANTED!』
マリーシャが仲間に加わり、ケンジの納屋……もとい「異世界駐日大使館(自称)」は、ついに4人の異世界美女で溢れかえることとなった。
「ええか、ケンジ。お好み焼きの基本は、生地の寝かせとキャベツの切り方にあるんや。岩手のキャベツは甘みが強くてええな! でもこの『ブルドックソース』、パンチが足りんわ。もっとこう、ドロッとしたオリバーソースはないんか?」
虎柄のドレスを脱ぎ捨て、なぜかケンジの予備の「黄色のジャージ」を勝手に着こなすマリーシャが、フライパンを手に熱弁を振るう。
「マリーシャ、お前、異世界のお姫様様なのに、なんで関西弁で、タコ焼きくわしいんだべ?それに贅沢を言うな。ここは岩手の山奥だぞ。」
「実はな、バルバロが館を襲った時に、ウチは大阪に空間転移したんや。そこで、タコ焼きと関西弁を覚えたんやけど、オモロい街やったで。宝石を監禁したら、この国の鐘をたくさんもらったんで、ネットカフェに寝泊まりして、うまいもんたくさん食べたで。
もちろん、ドラゴンやなくて、可愛い女の子の姿でディスコとか遊んだんや。遊んでたらゲオグマに見つかって、呪術でドラゴンにされて、岩手まで空間転移したっちゅう訳やねん」
『それよりケンジ、例の『新しい新曲はどうなった?」
アリーシャが、ベアレンビ-ルのクラシックのグラスを片手にケンジを促す。彼女たちの存在は、異世界の刺客「バルバロ」に完全に捕捉されている。次の襲撃に備え、ケンジはAI音楽生成ツール「Suno」を駆使し、彼女たちの魔力を増幅させる「応援歌」を新調していた。
「できたぞ……。マリーシャの加入で4人編成になったからな。今度の曲は、かつての日本で一世を風靡した伝説のガールズデュオP Girls風、ミステリアス&ディスコだ」
新曲:指名手配の女神 (WANTED!)
ケンジがノートPCのエンターキーを叩くと、納屋に激しいシンセのリフが鳴り響いた。
All: (Shout) WANTED!
(Synth Riff) Teren-telen-ten-ten!
(Verse 1)
真夜中のダンスフロア 裂くようなサイレン
ミラーボールの影に 潜むシルエット
誰もが振り返る 危険な視線 (Eye to Eye)
一度見つめ合えば もう動けない (Paralyzed)
(Pre-Chorus)
Together:
あなたのハートを 狙い撃ちする
罪な女神だと 噂してるわ
Burning desire!
燃え上がる Fire!
手錠を外して 踊らせて
(Chorus)
I’m your Venus! 捕まえてごらん
銀河の果てまで Chase you, Chase you!
指名手配の 愛の逃亡者(Fugitive)
私のとりこに なるはずよ
Shout) Yeah, Baby, She’s got it!
「……ええやん。これ、うちのハートに刺さるわ。リズムがタコ焼き焼く時のテンポにそっくりや!」
マリーシャが黄色のジャージの裾を翻してステップを踏む。
「フン、悪くない。指名手配か。確かに我らはバルバロから追われる身。それを逆手に取り、敵を魅了して滅ぼす……。ケンジ、貴様にしては高尚な戦略だ」
アリーシャが満足げに頷く。
ケンジの納屋に響き渡る『WANTED!』の重低音。
新メンバーのマリーシャを加えた4人は、昭和のレジェンド歌謡ユニットを彷彿とさせるキレキレのダンスを披露していた。
「ええわぁ、このCandy Toneみたいなゆるかわな振り付け! うち、これ好きやわ!」
虎柄ドレスを翻し、タコ焼きのピックをマイク代わりに踊るマリーシャ。
「ふむ、この『指名手配』という響き。追われる身である我らに相応しい。ケンジよ、この4人のユニット名が必要だな」
アリーシャがティアラを光らせて決めポーズをとる。
「ユニット名だべか? ……そうだな、『異世界ビーナス4(フォー)』でどうだ?」
ケンジが適当に思いついた名前を口にすると、ラパンが手帳に素早くメモした。
「『異世界ビーナス4』。……響きがマーベル映画みたいで素敵です、ケンジ殿」
「猫耳、うさ耳、角、そして高慢ちき(アリーシャ)……。まさに、シンエバの使徒襲来的なカオスだべ……」
ケンジが東北労働金庫の通帳を眺めながら溜息をついたその時、納屋の温度が急激に下がった。
ラパンの冷気ではない。もっと、こう……「法的に冷え冷えする」ような殺気だ。
「……そこまでです。無許可の公衆送信、および類似性の高い楽曲使用。これらは『バルバロ帝国著作権管理法』第108条に抵触します」
納屋の屋根に、黒い法服を着て、モノクル(片眼鏡)をかけたゴブリンが立っていた。
背中には巨大な「判子」の形をしたハンマーを背負っている。
「出たな! バルバロの刺客、魔法法務官のゴブリンギルティ!」
シャノンが毛を逆立て、黒豹の構えをとる。
「ギルティ? 知らん顔やなぁ。あんた、うちのタコ焼きの特許でも買いに来たんか?」
マリーシャが首を傾げる。
「いいえ。私はバルバロ大臣より、あなた方の『パロディ魔法』を差し押さえに参りました。その新曲、どこかで聞いたようなメロディ……これはバルバロ帝国著作権侵害の疑いがあります。即刻、活動を停止し、ケンジ氏のNISA口座を凍結しなさい」
「な、NISAを凍結だとぉ!? 俺の老後の楽しみを奪う気か!SUNOは、ちゃんと著作権申請をしてあるわい」
ケンジが激昂する。50歳、白髪のおっさんにとって、投資信託の運用益は命の次に大事なのだ。
「問答無用! 必殺・法的一斉捜査!!」
ゴブリンギルティが巨大な判子ハンマーを振り下ろす。床に「検閲済」という文字が魔法陣となって広がり、アリーシャたちの動きを封じようとする。
「くっ……体が重い! これが魔法法務の力か!」
「アリーシャ様、このままでは魔法著作権使用料の請求で破産します!」
ラパンが氷の壁を作るが、ゴブリンギルティのハンマーは「却下!」の一言でそれを粉砕した。
「ケンジ! 早く例の『Suno』で新曲の出力を上げろ! 著作権の壁を突き破るほどの、オリジナルな熱狂を我らに!」
アリーシャの叫びに、ケンジはキーボードを叩く。「わかった! 著作権なんて関係ねえ、これは岩手の魂と異世界の魔力の融合だべじゃ!」
「マリーシャ、やるで! うちらのたソウル(たこ焼き魂)を見せたるわ!」
「おうよ! 隠し味は、岩手名物『のだ塩』と、うちのドラゴンブレス火炎放射や!」
マリーシャがドラゴンの一部を覚醒させ、手から放たれる炎で巨大な鉄板を熱する。そこにラパンが氷結魔法で冷やした生地を流し込み、シャノンが超高速の猫パンチでキャベツを刻む。
「食らえ! 『秘技・爆炎たこ焼き・岩手パーク(三陸産ワカメ入り)』!!」
アリーシャが魔法でそのたこ焼きを弾丸のようにギルティへ飛ばす。
「な、なに!? 攻撃に食べ物を使うなど、魔法食品衛生法違反では……はぐっ!!」
ギルティの口に、三陸の磯の香りがする激アツのたこ焼きが放り込まれた。
「あ、熱い! しかし……美味い! なんだこの、外はカリッと中はトロッとした食感は……! 著作権を超越した、圧倒的なオリジナル・テイスト……!」
「今だ! ビーナス4、ファイナルポーズ!!」
4人が『WANTED!』のサビを歌いながら、完璧なシンクロでポーズを決める。
背後でケンジが、Amazonで購入した「家庭用ド派手スモークマシン(七色」を最大出力で噴射した。
「ぐわぁぁぁ! 素晴らしい演出……異議なし!!」
ギルティは判子ハンマーを落とし、光の中に消えていった。
嵐が去った後、納屋にはソースの香りと静寂が戻ってきた。
「ふぅ……なんとかなったべ。でも、次からはもっとオリジナリティ出さないと、本当にJASRACとかバルバロ法務局が怖いな……」
ケンジが額の汗を拭う。
「何を言う。我らの存在こそがオリジナル。マリーシャ、次のたこ焼きは岩手の『南部せんべい』を砕いて入れてみよ」
「それええな! クランチ感が出て、さらに新機軸や! 知らんけど!」
マリーシャは黄色のジャージをまくり上げ、鼻歌混じりにタコ焼きを焼き続ける。
岩手の2月はまだ寒いが、ケンジの納屋だけは、異世界美女たちの熱気と、ニンニク、ソースの香りで年中夏のようであった。
「……ところでケンジ、さっきのNISAというのは、我のティアラより価値があるのか?」
アリーシャの問いに、ケンジは遠い目をして答えた。
「……それはな、お前たちの食費という名の魔力から、俺の生活を守るための最後の盾なんだべよ……」
岩手の空に、今日も不思議なメロディが溶けていく。




