6回目の訪問
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現実世界では、4月になり卒業式やら入学式と新しい生活を始める人々が多い季節。
しかし、社会人は、ほとんど影響を受けない。新入社員が来る程度だ。一般社員が入社式などに参加しないので突然やってくるといった感じになる。
うちの会社は、従業員が50人未満の宝石を扱う会社だ。今年はかろうじて1名新入社員を雇用したようだが、何カ月耐えられることやら。
ブラック企業ではないが、給料は安いし仕事も多い。残業はほとんどない。
新入社員のほとんどは、「もっと楽なところへ」と言って辞めてしまう者が多い。
そんな甘い考えでは、どこに行っても「もっと楽なところへ」行きたくなるんではないだろうか。
自分で気づくしか、どこの会社に行っても続かないだろう。
会社の少し良いところは、宝石の欠片が手に入ることぐらいだろうか。加工した際に砕けた商品価値がない小さな欠片を貰ったりできる。(加工部門に友達がいて貰えるといった感じだ)
俺は、宝石が好きでこの会社に入った。といっても、全ての指に指輪をはめ、ネックレスやブレスレットで宝石で身を固めるのは趣味は無い。
宝石には、色んな力が宿ると言われており、仕事運や金運、恋愛運など向上させてくれたりする。そんな不思議な力にロマンを感じ好きなのだ。
現実世界では、色んな事が起こり時間が過ぎていく。
1カ月が過ぎた頃だろうか、再び異世界にやってこれた。
カケルは、なんだかピエロさんを懐かしく思う。
「よ!久しぶり。この間は聞かなくてごめんな。」
ばっ!
「おめでとうございます。異世界へようこそ。あなたは、100万人の中の1人に選ばれたラッキーな方です。
この異世界で1時間、自由にお過ごしください。この間であれば何をしても自由、どこに行っても自由でございます。
ただし!!1時間を過ぎないように気を付けてください。この場所に必ず戻ってきてください。では、お楽しみタイムスタート!!」
ばっ!!
「相変わらず、変わんねーな。ははは」
本当に機械のように対応したので、大爆笑した。
「1時間か、何するかな。えっと、そうだった。冒険者登録だった。
この間は、ユキトに捕まってできなかったんだった。」
カケルは、急いでギルドに向かう。
ギルドに入ると美人エルフさんの言う通り、ガラの悪そうな目付きの男が数人こちらを睨んできた。
「(下手に絡まれたら、殺されかねない。エルフさんでも瀕死の重傷になったしな)・・・」
カケルは、他の人となるべく目を合わさないように、絡まれないように、気配を消しかつ素早く受付がいるであろう奥へ進む。
奥には、受付カウンターを思わせるテーブルがあり、そこには人のような外見の女性が立っていた。
「本日は、どのようなご用件ですか?」
受付嬢と目が合うと笑顔で話しかけてきた。
少し緊張して
「は、はい。ぼ、冒険者登録をしたくて来ました。」
カケルは、おどおどしながら辺りを気にしながら、受付嬢に答える。
「新規登録ですね。大丈夫ですよ。そんなにおどおどしなくても、ここでは問題は起こりません。」
受付嬢の目が光る。
何やら殺気を感じたのか、さっきまでこちらを伺っていた冒険者の視線が、カケルから外れる感じがした。
「ほら、もう見られていませんよ。大丈夫ですよ。
早速、こちらの用紙に書いてくださいね。書きたくない部分は、空白でも構いません。
名前ぐらいはちゃんと書いてくださいね。」
受付嬢の目が謎に光り、カケルを見る。
「は、はい。ナマエ、名前」
用紙には、名前、性別、種族、得意魔法、スキル、武器の欄があったが、名前、性別、種族は書けたが、スキルは持っていないし、武器も大層なものは持っていない。
得意魔法にいたっては、全てとは書けないので、空欄にした。
「はい。書けました。これで、読めますか?」
カケルは、この世界の文字を知らない。書いた事は無いので普通に日本語で記載した。
「はい。ある程度汚い文字でも読めますよ。大丈夫ですよ。」
笑顔で受付嬢は対応する。動作するたびに、なぜか目は光る。
「(しかし、なぜ日本語が読めるのだろうか。・・・目も光るしロボットかな何かなのか)大丈夫ならよかったです。」
カケルは不思議に思いながら、平常心を装う。
「少しお待ちくださいね。」
と受付嬢が言うと、何を思ったのか突然提出した用紙を食べ始める。
「ちょ!まって、折角書いたのに食べちゃった?」
カケルは、受付嬢の対応にかなり焦った。驚いた。
やっと人族と思われる人にあったのに、行動がかなりおかしい(目は光るしね)
しまいには、紙を食べる始末。
「もぐもぐ。あ!驚きましたよね。大丈夫ですよ。」
「いや、俺が全然大丈夫じゃないです。紙食べて平気なんですか?」
「もぐもぐ。はい。私はメカ族の機械人間です。応対する種族に合わせて瞬時に変化して対応します。
その方が、相手も安心できると思いまして、種族が違うってだけで、警戒したりしちゃいますよね。だから大丈夫ですよ。」
「(異世界ってこんなものなのだろうか)なるほど、そういうことなんですね。急に紙を食べたからお腹が空いているのかと思いましたよ。ははは。
良かったら、飴でどうぞ。」
「お腹は、空いていませんので大丈夫ですよ。冒険者になびくこともありません。気持ちだけ受け取っておきます。」
「・・・」
見事にフラれた感じになるカケル。飴も受け取ってもらえず。
ただ待つことにした。と言っても1分程度で終わったようだった。
「はい。登録が完了しました。」
受付嬢は、手のひらをカケルに向けて、冒険者の印を作り出した。
何を見ても驚くカケル。
「え!!どこから出したんですか?」
「どこからと言いましても、体内には冒険者の印を作る材料が格納されております。
手から出すと同時に必要な情報を印字し加工したにすぎません。何もすごい事はしておりません。
一応、カケル様のステータスは確認済みです。秘匿義務もありますので、不要なことは、印字しておりませんので、大丈夫ですよ。」
受付嬢は、笑顔で対応してくれた。そいて、冒険者の印を手渡してくれた。
そこには、名前ぐらいでその他にはなにも記載されていなかった。
しかし、受付嬢の話では、他の町にも同じメカ族の受付嬢がいるらしく、その人に渡すとちゃんとメカ族同士のネットワークが構築されており、情報は連携されるとのこと。
現代でいう個人情報をサーバで管理しているようなイメージでカケルは理解して聞いていた。
「これで、登録は完了になります。引き続き依頼を受けてください。」
受付嬢は、笑顔で三枚の依頼書を持ってカケルに見せてきた。
「この依頼のうち、どれか一つでも達成できれば、正式な冒険者になります。
1つ目は、定番の薬草採取。2つ目は、村の手伝い、3つ目は、魔物の討伐になります。
どれを選びますか?」
受付嬢は、カケルに依頼書を渡して確認してもらう。
「この依頼って期限はいつまでなのですか?」
「期限は、特に決まっておりません。この依頼が完了するまで正式な冒険者として認められません。どこのギルドに行っても同じ依頼しか受ける事ができません。」
「なるほど、なるほど、無難に2番と行きたいが折角冒険者になったんだ。魔物討伐だよな。ここは、」
1つ目にいたっては、不毛の荒野に薬草が取れるわけがないと思い、選択肢としては、必然的に2つ目か3つ目になるわけだが、
何を思ったのか、魔物を討伐する自信がどこから湧いてきたのか分からないが、カケルは答えた。
「3番でお願いします。」
「承知しました。では、頑張ってきてください。」
カケルはこれだけ?と思い尋ねる。
「魔物討伐は、どんな魔物を倒せばいいんですか?」
カケルは、魔物の種類、強さも聞かずに受ける。受けてからの質問とはおかしな話だ。
受付嬢は、驚いた様子で答えた。
「これは、大変失礼しました。今回の依頼対象の魔物は、ゴブリンになります。
ここから、2km離れたあたりに祠がございます。その中に生息しているという情報がこの冒険者ギルドに入っております。
なので、その魔物を討伐してきてください。討伐したら、ゴブリンの耳を持ってきてくださいね。
魔石は、冒険者の報酬になりますので、好きにして大丈夫ですよ。」
「わかりました。ありがとうございます。頑張ります。」
そして、ギルドを離れる。
「ここから、2km先か、15分ぐらいで行って帰ってこれるかな」
カエルは、手の甲を確認するとまだ、30分もここに滞在可能であったのを確認した。
「善は急げだ。迷っていたら時間が過ぎてしまう。サバイバルナイフもあるし何とかなるだろう。」
早速、受付嬢に教えられた場所へ向かって走る。
「はぁはぁ。最近の運動不足がたたったな。もう既に息切れか」
100mぐらい走ってもう既にカケルは疲れていた。
息も切れ汗もかいていた。
早くも歩きながら祠に向かっている。
もう少し先の方から、助けを求める声が聞こえてきた。
「キャー。助けて!!」
カケルは、慌てて声の聞こえる方を見て見た。
広い荒野であるため、少し離れた場所で何か襲われているかのようだった。
物陰と呼べるものは無いが、ぽつりぽつり生えている木の陰に隠れながら、声の方へ近づいていく。
近づくにつれて、様子が分かった。
声の方には、緑色の魔物と小さな女の子?でも、人間ではないようなものが襲われているようだった。
女の子は、後退しつつ攻撃を必死に凌いでいる様子だった。
完全に緑の魔物に遊ばれているようにも見えた。
カケルは、考えなしに急いで駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
近くで見ると、これまた白く小さい子猫を思わせるような女の子だった。
「ダメに決まっているでしょう。助けなさい。」
弱っている割には、強気の猫なんだろうと、カケルは思ってしまった。
でも、目には気高き誇りのようなものが感じられ、一目惚れしてしまう。
異世界には、何度か来ているが未だにカケルは戦ったことはない。
どうしていいのか、分からずあたふたしていると子猫が攻撃をされ必死に耐えていた。
「あわわわ、守れそうなもの。硬そうなもの。なにかあったかな??・・・」
カケルは、がさがさバックから身を守れそうな物を探している。
なかなか手ごろなものが無く。
「あーもう、やけだ。少しは固いだろう。」
手にスマホを持ち、子猫が受けている攻撃を庇う。
「うおぉぉぉぉ!!一応、衝撃吸収素材をカバーにしたスマホだ。」
何を狂ったのか魔物に対して叫んだ。
重い攻撃を受けるがスマホさんは、壊れなかった。
自分の筋力が無さ過ぎて受けるのがきつかったのはあるが、さすが衝撃吸収素材!
ノーダメージで受けきる。
カケルは、必死過ぎてスマホの謎の強さに気づきもしなかった。
緑の魔物は、その物体に驚き一瞬のスキで動きが止まった。
その瞬間を逃さず、子猫は、持っていた短剣で素早く切り裂き魔物を仕留めた。
「よかった。助かった。」
助ける側のカケルが安堵の表情を浮かべ、腰を抜かしている。そして、死ななかったことに喜んでいる。
「一応、助かったニャー。だからと言って懐いたとは思わないことね」
気の強いだけの子猫かと思っていたが、突然の感謝の言葉にカケルは、そのギャップに驚いた。
「十分強いじゃないですか。ははは。失礼。僕は、カケル。カケルって呼んでくれ!」
「ふん。今までは、問題無く倒せていたんだニャー。でも、荒野の砂埃が目に入った時に不意打ちに合い形勢が逆転しただけよ。勝手に助けに来て。」
思い出したかのように少し怒った様子。
「(さっきとは、態度が全然違うな。ツンデレか?)大きな怪我も無くよかった。よかった。」
子猫を見ても大きな怪我もない。所々擦り傷や切り傷があり折角の純白の毛が血で赤くなっている程度。
血もそんなに大量に出ている様子はない。時期に止まるだろうといった感じだ。
「何じろじろ見ている。人間!!」
子猫は、爪を立てて威嚇している。
猫は気まぐれな生き物。そんなことは無視して
「この魔物はなんていう魔物なんですか?」
「この魔物をしらないのかニャー!こいつは、にっくきゴブリンだ。
メスを見ると見境なく暴行を働く悪い魔物だニャー!同胞が何人殺されたことか・・・」
「なるほど、この魔物がゴブリンか!!あ!こいつの耳を貰っていいですか?」
依頼の事を思い出しちゃっかり確認する。
「かまわないニャー。好きにすればいい。共同で倒したようなものだ。お前にも貰う権利はある。」
「では、遠慮なく」
持っていたサバイバルナイフで耳を切り取る。
ちょっとグロイが依頼のためだと割り切り採取する。
「はぁ~依頼達成だ。2kmも先に進まなくてよかった。帰れなかったらどうしようかと思った。急いで村に戻ろう。
あ!その前に、これでも食べて少しでも体力回復して?」
カケルは、バックに入っていたミルク味の飴を渡そうとする。
「人間に施しは受けないニャー」
子猫は、爪を立てて威嚇している。
「そっか。美味しい飴なのにな。残念。」
カケルは、ぽいっと飴を口に頬張る。
少しではあるが、辺りにミルクの匂いが漂う。
子猫は、鼻をひくひく動かし、甘い嗅いだことのない匂いに反応した。
「ずるいぞ。人間。そんな美味しい物を持っているなら早くいえ。
そんなものだったら、食べてあげてもいいんだからニャー!」
カケルは、少し笑いながら再びバックからミルク味の飴を取り出し子猫に手渡す。
子猫は包み紙をカケルが食べた時のように真似して取り、口に頬張る。
「にゃ!にゃ!にゃ!まま。・・・」
ミルク味に母親を思い出したのか、目を細め今にも眠りそうになっている。なんとも幸せそうな顔だ。
どこからかゴロゴロ言っている。すると、みるみるうちに傷が癒え血もピタリと止まったようだった。
急に目を見開き
「なんだ、この飴という食べ物は!安いポーションより傷が回復するニャー!!もはや、魔法以上のなにかだ。
人間褒めてつかわすぞ。もっとあれば貢といい」
「(偉そうに言っているが、欲しいってことね)はい。はい。
この飴でいいなら、元気になるなら買ったばかりだからもっとあげるよ。早く元気になるといいね。」
バックからごそごそ5個ほど取り出し、子猫に手渡した。
「うん。ありがとう。」
子猫は、ニコニコ感謝を伝えてきた。
笑顔が素敵だった。
「では、村に戻りましょう?」
カケルは当たり前のように、自分の来た村に帰ることを促す。
手の甲を見ると残り10分を切っていた。
「村とは、あの荒野村のことか?私とは、反対方向だニャー。またな、人間」
そういうと、異世界猫は疾風のごとく彼方へ消え去った。
「あ。名前を聞き忘れたな。でも、純白の猫だったから、そうだな。ピュアとでも覚えておこう。」
カケルは、勝手に名前を付け、さっき以上に全力疾走で村へと戻る。
一秒も遅刻できない。
ギリギリ駅に到着することができた。手の甲を見たら残り1分だった。
「2kmは、さすがにきつかったか。危なかった。ある意味ピュアに感謝だな。」