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九話 不完全は伸び代

「……つまり、こういうことか? 魔法は蘇生以外は制御できねえし、大剣は扱いきれてない。そんでもって、突っ込みすぎる癖がある」

「うぅ、そうです、その通りです……」


 あっけなく終わった対戦の後。カナタの問題をキーが反芻すると、図星を突かれてカナタが肩を縮こまらせた。

 

 総合された問題に、ふむ、とレイは考え込む。

 この手合わせで浮き彫りになったのは、カナタは思ったよりも魔法のセンスがない、ということ。さっきの僅かな戦いに見た炎は、モノはすごいのに、炎自体は揺れて消えてしまうというぐらいの不完全さだった。

 蘇生の魔法をみるに、誰かしらから教わっているはずだが、逆にいえば蘇生以外はまともに教えてもらってないとも取れる。それでも、蘇生の魔力が使えればある程度はカバーできるハズだが……そこはセンスがないから、という理由以外は思い浮かばない。


 と、なれば。


「うん。カナタちゃんはまず魔法の基礎を知らないとだね。それと、その大剣だけど……それって特別な武器なの? 筆の柄が変形してたけど、魔導具だったりする?」

「あ、これは、ウチの家宝と言うか……代々伝わってきたものらしいよ。この筆柄に認められた持ち主が願う形に変形するんだって。大体みんな筆の形そのままか、お札や杖にするみたいだけど、あたしは大剣に憧れてたからコレにしたんだ!」


 カナタはそう言って、あの大きい剣を難なく振り回した。筋力があるようで、ぱっと見似合っているようにも見える。武器の扱いに詳しくないレイは特に違和感を感じていない。


「…………?」

 

 だが、唯一武の心得を持つミリアには、チグハグに感じた。

 確かに使いようは悪く見えない。構え方や振り方などもおおよそ合っているし、素質もあるように感じる。身体の動かし方や流れも自然で、完璧に理解して使いこなしている。それゆえに、何かが邪魔をしていることに対しての違和感がかなり強い。


「…………」

「……? どうしたの? ミリアちゃん」

 

 レイの呼ぶ声も遮断して、カナタの動きに集中する。間違い探しの最後の答えを探すが如く、真剣にカナタの動きに注視する。


(バランス……? 剣の大きさが合ってないだけ……?)

 

 そうして、カナタの全体像に目を凝らしていると、ようやく邪魔をしてるものの正体に辿り着いた。その明確な違和感を前に、ミリアは無意識に口を開く。


「……その大剣、バランスが取れてません。身体の動きは完璧なのに、大剣に押さえ込まれて全力を出せていない」

「それって、この剣がカナタちゃんに合ってないってこと?」

「今は、そうです。これから慣れていけばまだ違いますけど、現時点では合ってません」


 何も気づいていなかったレイは、ミリアの指摘を込みで改めてカナタを注視する。そうすると、ミリアの言った通り、大剣だけが全体の動きに合っていないような感じがする。言われてみれば、に収まる範疇だが、上手な部類にも入らないレベルだ。


「そういや、手合わせん時も速度と狙いは文句のつけようがなかったが、大剣を振るとこだけミスしてたな」


 ミリアの意見に賛同すると、カナタは俯く。


「あ……やっぱり、そう? ……あたし、大剣やめた方がいいかな……」


 使いこなせないことに薄々気づいていたようで、自信をなくしていく。

 ただ、レイ達は合っていないと言ったが、それは、やめさせるためではない。本人が好きなものを否定するなど、レイ達の信条とは真逆だからだ。


「何言ってんの、カナタちゃん! やめちゃあダメだよ! 憧れて好きになったんでしょ? 諦めたらダメだって!」

「そうだな。ミリアも言ってたが、現時点での話だろ。これから上手くなりゃいい」


 レイが止めて、キーが励ます。できないことを疎まず受け入れてくれる二人に、カナタはおずおずと顔を上げる。


「で、でも、ずっと役に立たないかもしれないし……」

「それはカナタちゃんだけの問題じゃない。みんな一緒だよ。それに、ぼくらだって一人じゃ意味ない能力ばっか持ってるしね」

「……そうなの?」

「うん。まず、ぼくは攻撃できないサポート好き。攻撃ってどうやるの? って感じ。そんで、キーは銃を持ってないと決定打がない機動力全振りの魔法使い。あと、ミリアちゃんは魔法なしだから環境や魔法に弱い必中の弓士……っていう感じで、みんな特化しすぎて何かしらの弱点があるんだ。他人からして役に立たないのは、ぼくらも同じだよ」

「……そっか。あたしだけじゃ、ないんだ」


 ここでは役に立つことなど考えなくてもいいことを教える。追っても追っても届かない期待など存在せず、目の前だけを見ればいいと気づかせた。

 前を向き始めて、それでも、本当に出来るか不安そうなカナタに、ミリアは変わることのできた自分自身の言葉を率直に伝えた。


「……私は魔法が使えないけど、魔法を使いたいって思ってます。そして、その願いをレイ君が叶えようとしてくれて、今ここにいます。そんな不可能に近いことを願っても良いのなら、カナタちゃんも憧れの武器をすぐ使いこなせるようになると思います。……だから、一緒に頑張りませんか? 一人だと難しくても、ここには仲間がいるから……」


 仲間という言葉が、ミリアは少し気恥ずかしかったが、しっかりと言いたかった。ミリアが一番救われたのは、仲間がいて理解してくれる人がいること。

 カナタにもそれに気づいて欲しい。そして、できなくても、下手くそでも、自分の好きなことを貫いて欲しい。

 その心からの言葉が伝わったのか、カナタは勇気づけられたようだ。


「……そっか、そうだよね! 前進したのに諦めてちゃ意味ないしね!」


 ミリアは安心して微笑んだ。素直に人の言葉を受け取れるのも、また才能だといえる。自分と他人どちらも信じなければ、意見を聞き入れることはできないからだ。


「よおおし! こうなったら、役立たずから汚名返上して、超お役立ちのオトリ兼盾になってやる!!」


 目標を意気揚々と掲げるカナタ。

 拳を上げたその姿に、三人は再び揃って同じ突っ込みが浮かんだ。


 ──あ、オトリ兼盾なのは良いんだ。

 

 どうやら、不死身の魔法を存分に活かしていくことに決めたようだ。

 

◇◆◇


 霧に包まれた視界に、ようやく終わりが見えた。

 翠、水、白の水晶と、霧に入った時と変わらない夕陽。白んでいた視界が開け、鮮やかな景色が目に飛び込んでくる。

 

 『水晶の霧』の出口だ。

 

 カナタを立ち直らせてからそれほど経たず、レイ達は『扉』に着いた。夕陽は変わらないが時間はたっており、霧には四時間ほど入っていたため、かなりの開放感がある。

 

「わあ! やっぱり綺麗だねえ、クリスタは!」

「本当に、そうです。何回見ても目を奪われます」


 もう帰ろうとしていたレイだったが、二人のその声と帰りたくなさそうな雰囲気に、街の観光に行くことにした。

 折角クリスタに来たのだし、実験にも付き合ってもらったため、お礼も兼ねて料金もレイが払うことにした。その際、キーに圧をかけられたのは、もう記憶にはない。


 水底まで透き通った川とその先の海や川沿いに連なる水晶の住宅地、細工の見事なオブジェや設備を眺めてみたり、その途中にある雑貨屋や魔導具店に入って買い物をしたり。

 特にミリアとカナタはネイウッドから離れたことがないらしく、まさに満喫中だった。


「え、地面も水晶入ってる! てか、水晶ってなんで少し翠っぽいんだろう? あれ、水色にも見えるような……」

「それ、私も思いました。霧で見たのは透明だったのに、どうしてかな……?」

 

「あれって精霊殿っていうの? 有名みたい……行ってみよう!」

「あ、ちょっと待って、カナタちゃん……!」


 彼女達は同じような境遇だったからか、すぐに打ち解けて仲良くなっていた。クリスタの観光も二人で話し合って、いろんな通りを先導して周っている。


「あいつら元気だな。そんな観光したかったのか?」

「クリスタは有名な観光地だからね。あと、実はクリスタって、五つ星魔法使いが一人いないと入れないんだよね。思いっきり遊んだ方が得だよ」

「あー、そうか。それなら土産ぐらいは買わねえとな。……ところで、次はいつ集合なんだ?俺は戦利品を換金してくるから、一旦別れるぞ」


 戦利品とは、もちろん五倍払った例の水晶である。

 

「はいはい、戦利品、ね! 遅くなるのもアレだし、六時には帰るから噴水に集合でよろしく」

「了解」


 返事と共に、キーは陰に消えていった。先に行ったミリア達にも予定を伝えなければならない。


「ミリアちゃん、カナタちゃん! 次、六時に噴水で集合だよ!」

「はーい!」

「──……」


 ミリアの声が聞こえなかったが、カナタの元気な返事があったため大丈夫だろう。

 


「さて、と」


 

 三人がバラけて一人になったレイは、手元に残っている水晶を取り出した。レイの魔法をかけた、付与状態の虹色の水晶。

 レイは人気の少ない通りに移ると、水晶を並べてそれぞれを調べていく。


「よし、バッチリ魔法はかかってるね。それに、予測ぐらいならできそうだ」


 合わせて百いくかどうかの水晶をざっと確認し、問題がないことを確認した。

 予定から外れてキーが大暴れしたため、水晶集めしかできない実験だが、ひとまずの収穫は三つほど。


 まず、水晶への効率の良い付与ができるようになった。このおかげで、大幅に時間短縮を図れるようになった。

 

 次に、付与した魔法の比率がどのくらいかを知ることができた。比率は、直接レイが魔法をかけた時の六割ほどで、最大までは高められない。

 

 最後に、矢を魔法にするのは不可能ではないということ。この水晶に魔法をストックして変質させれば、矢を魔法にすることも難しくはない。それに、魔法にできれば魔力さえあれば矢を持たなくて良くなる。なので、今後は弓の魔導具を作り、永久的に魔法を使えるようにする方針にしようと思う。


(意外と簡単に実現できそうではあるけど……)

 

 レイは喜ぶのと同時に、少しだけ物足りない気がしていた。ミリアのことを考えたら早く魔法にできることはいいことなのだが、研究好きのレイは難問の方が意欲が湧く。

 それでも実現するには、常に水晶へレイの魔法を仕込まないといけないし、そもそもレイがいなくても魔法が使えなければゴールではない。

 

 だが、ミリアが自力で魔法を使うということは、魔法系を新しく作ってミリアに永続的に付与するということ。

 それは、魔法使いの範疇を超えており、それこそ絵本で見るような神様という存在になるぐらいじゃないと不可能だ。しかし、この世界には意志はあるが、都合のいい神様など存在しない。

 

 世界の意思とは、この世界を創り上げた精霊や魔法使いの基盤だ。つまり、自然や神秘そのもの。そこに明確な意思があるわけでもないが、一つだけ確かなことがある。

 それは、何千年に一度という単位で、意志が選んだかのような魔法使いがいるということ。人が勝手に記録したことだが、そう言われても過言ではない事実があった。

 

 選ばれた者はなんでもできるらしい。

 それに準じた魔法が使えるらしい。

 言い換えれば、稀代の天才。

 

 ──まるで『夢』使い手である、レイ・アルベルティのように。


 (……まあ、厳密には魔法使いより、そのとき起こったことの方を言ってるんだけど)

 

 つまり、ミリアの魔法は、いずれ実現できること。ただ、それは今ではないし、出来もしない。今回の実験は、魔力に乗せた魔法を水晶から引き出す方法で、どんな魔法使いでも簡略化すればできる。


 (今度、論文でも出そっかな)


 今までで一番研究者らしいことを考えながら、レイは水晶を調べていくのだった。


 ◇◆◇


「それじゃ、また明日!」

「うん、またね」


 手をブンブン振って、帰りの挨拶をするカナタ。そのまま駆けていくカナタに、ミリアは小さく手を振る。

 六時に噴水に集合したレイ達は、街中にある『扉』でネイウッドに帰還した。夕飯でも一緒に食べればよかったが、皆一様に疲れていたため解散した。


「ミリアちゃんも、またね」

「あ、はい。また明日……」


 当にキーの姿は見えず、レイとだけ挨拶をして別れる。未だ慣れないそのやり取りに嬉しさを覚えて口元が緩み、小さく振った手を見つめて握った。

 そして、振り返ってみたのは、翡翠の少女が駆けていった方向。


 「カナタちゃん……と、友達だって思っていい、かな……?」

 

 自身と正反対な新たな仲間。

 友達と呟いてみて、頬に熱が上るのを感じた。その熱を冷まそうと、夜風の吹く帰り道の歩を進める。込み上げてくる幸せな気持ちを噛み締めて、ミリアは空を見上げて歩いた。

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