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七話 レイの信条

「ザコ! 邪魔! 死ね! オレの目に入んじゃねえよ! ウザってえ!」

「……あのさあ、もっと静かに倒せない?」

「あ?? 文句つけんのか、このオレに?」

「……。すみませんでしたー」

 

 トリッキーな動きと陰の駆使。敵全てを何かしらの罵倒をつけて倒す、無双の強者、キー。

 レイたちは今、暴言のオンパレードと引き換えに、どんな道よりも安全な道を通っていた。


「ごめんね、ミリアちゃん。うるさい人がいるけど頼もしくはあるから、ちょっとだけ我慢しててね」

「だ、大丈夫、です。……少し驚いたけど」


 ミリアを気遣うと、レイは呆れたようにため息をつく。

 今日は一日中実験できると楽しみにしていたのに、これではまるで試すことができない。キーが全て敵を倒してしまうため、ただ水晶を回収していくだけの時間になったのだ。初めと反対の立ち位置で、わがままが言えなくなった状況に頭を悩ます。


「一応水晶に魔法は込めといたんだけど、試す場所がないよねえ。木だと木っ端微塵になるだけだろうし」

「……どうするの?」

「……別の日にするよ。今日はどうせ何もできないだろうし。……邪魔したら後が怖いし」

「あはは……」


 二人は苦笑いして、守護者を狩り尽くすキーを傍観する。動きが早すぎて見えてはいないのだが。


「……そういえば」

「うん?」


 キーの戦う様子を見て、ミリアは一つ気になったことがあった。

 

「キーさんって魔法は変わってますけど、それ以上に強いですよね? 魔法会で人気だったりしないんですか?」


 あれだけの凄腕の魔法使いなのだ。危険なところや強い魔獣や魔物にも対応できるなら、引っ張りだこになっていてもおかしくはない。

 だが、その質問に対してのレイの反応は、渋いものだった。


「うーんとね。確かに強いんだけどね……」

「……だけど?」

「なぜか、なぜかね? 『何もしてない』とか『逃げただけ』って思われちゃうんだ」

「?? ……どういうこと?」


 意味がわからない、とミリアの目が点になる。そういう反応になるのはレイも予想していた。なんせ、目の前で守護者を砕きまくってる人のことだから。


「そういう反応になるよねえ。けど、みんなの目にはそう映ってるみたい。早すぎたり、陰に潜ったりするのがね」

「……そうですか??」


 そう言われてもミリアはイマイチピンとこない。あれだけ倒していたら、疑いようがないはずだろう。


「たぶんだけど……ミリアちゃんは弓を使ってるから、ある程度キーの姿が見えてるじゃん? けど、他の人だとほとんど何も見えなくて、無意識にキーがやったってことを除外しちゃうのかも。……ほら、人間って認めたくないことがあると、すぐに否定して記憶から消そうとするから、それと一緒だよ」


 レイと同じように、理解されないから受け入れられない。結局はみんな主観で物事を見ていて、いくら本人が主張しても信じられないなら嘘になる。

 そして、それを許容するのも周りからして変わってる自分たちの方。世の中はある意味安定しているのだろう。みんな同じなら、排除する対象だけを注意していればいいから。


「……って言っても、キーはもともと誰に対しても反発してたから、どっちにしろ変わらないけどね。むしろ、みんなと一緒だったら自分から外れていきそう」

「確かに……」


 いまだペースを落とさず暴れるキーの生き生きとした姿を、少し羨ましく思ったミリアだった。


「オラァ! まだまだぁ! くたばりぞこないは何処だ!」


 ……羨ましくはないかもしれない。もう少し常識人でいたい。


「あーあ、ペドロの機能全開にしてるし。あれじゃあ、守護者が絶滅するかもね」

「ペドロって……あの銃のこと……?」

「お、よくわかったね。そうだよ、あれがキーの大好きな愛銃ペドロ。魔生杖っていって、名前の通り生きた銃そのものだよ。ペドロはカラスの魔生杖で、キーの陰とは相性バッチリなんだ」

「魔生杖……」


 魔生杖(ましょうづえ)ペドロ。それは、キーの唯一無二の相棒。

 ペドロはカラスでありながらキーとの意思疎通ができ、魔力も豊富に持つ優れものの杖だ。戦う時やそうでない時もキーが呼べばそばに来て、隅々までサポートしてくれる働き者でもある。

 そして、戦闘時には速度と引き換えに下がるはずの攻撃力が上がり、素早さも更に上がるのだ。

 

 キーがここまで強くなれたのはペドロのおかげだし、ペドロも世話の限りを尽くしてくれるいい主人に出会うことができた。

 お互いにとっていいことずくめな、最高コンビ。それが、キーとペドロである。


「キーはね、面白いよ。だって、ペドロの整備とか環境に気を使いすぎて、自分が無一文になることがほとんどだから。すごいよね、ペドロと自分の天秤が、ペドロに傾きすぎてる」

「どれだけお金を使えばそうなるの……?」

「本当、そうだよね! 稼ぐのは簡単なくせに、全部一瞬で溶かすんだ。だからいつも金欠で、住む場所も常に転々としてるぐらいだよ」


 なんというか、ものすごく自由人。行き当たりばったりなキーの生活に、戸惑うどころか感心を覚えてしまう。

 そんな話をしていると、話の張本人のキーは周りに何もいなくなったのを確認して、ミリアたちのすぐ近くの陰からヌッと現れた。


「あ、お疲れ様、もう終わっちゃった?」

「ああ。張り合いねえやつばっかで物足りねえが、とりあえずは許してやる」

「……ん? それって、守護者を?」

「は? オメエだろ」

「ぼくって、まだ許されてなかったの……?」


 軽口を叩きながら水晶を回収していく。キーはもちろん参加しなかった。

 レイは最後の水晶を拾うと、そのまま拾った水晶のうちの七割をキーに渡した。約束していた報酬だ。


「おぉ、たんまりあるな」

「大人しくしまっといてください。もう何にも出てこないんで、本当に」

「オレは寛大だからな? 全部取るなんて、ひでえことはしねえよ」

「あーそうですか。それはそうと、もうそろそろペドロは疲れるんじゃない? 解放してあげたら?」


 ペドロを気遣うふりをして、キーを元に戻そうと提案する。いつまでもこの『オレ様』を相手していたくない。

 

「ペドロはそんなヤワじゃねえ! ……が、久しぶりに大活躍だったからな。自由にさせてやるか」

「うん、それがいいよ! 本当にそれがいいと思う!!」


 キーはハットをペドロに託して、飛び立たせた。

 すると、キーの表情(かお)から絶対的存在を思わせる覇気が消え、初めの理性的なキーに戻っていった。


「ふぅ、久しぶりに疲れたな!」


 伸びをして、やりきった、と爽やかにキーは笑う。一方、心底安心したレイは、いつもの調子を取り戻した。


「やっと、戻ったあ! よかった、もう戻ってくれて。あのままだったら、ぼくが可哀想なことになってた」

「……って、おい!」

「……なに?」

「お前、絶対わざとだろ! ペドロを呼ばなきゃいけない状況つくって、俺に掃討させれば楽だかんな! しかも、中心部まで行ってねえし、ペドロもギリギリの到着だったんだぞ!」


 戻ってよかった、と口にしているが、キーに全て押しつけたのはレイだ。

 意外とめざとく痛いところをつかれてしまい、レイは筋の通らない言い訳に走った。

 

「た、確かにそうだけど、守護者みんな倒しちゃったから、結局意味なかったんだ! キーも悪いと思う!」

「完全に自業自得だろ!」


 レイの明らかにおかしい言い分に、キーが憤慨する。その元に戻ったキーの様子に、ミリアはこっそり安心して息をついた。

 やっぱり落ち着いている方が接しやすいし、そもそも大声や暴言は苦手なのだ。強いのは尊敬するが、銃を持った時の性格に慣れるのは時間がかかる気がする。


「ミリアには悪かったな。突然で驚いたろ?」

「それは、そうですね……けど、それだけ強いのは尊敬します」

「……案外ストレートに言うんだな。嬉しいけど」


 大人しそうなのに、面と向かってはっきり称賛を伝えてくるため、キーは照れて頭をかく。


「あ、キーさんが照れています! 珍しく赤くなっております!」


 こういうときに、雰囲気を壊していくのがレイのスタンス。銃持ちのときの仕返しも兼ねて、ここぞとばかりにキーを茶化した。


「……は、はは……」


 対するキーは、ほおを引き攣らせて怒りを堪える。ペドロがいるならまだしも、通常は割と許容してしまう方だ。経験上、反論すれば余計に悪化することを知っているため、望まず事なかれ主義のような性格になってしまった。その反動が、銃を握っている時の性格なのだとも言える。


「……後で覚えてろよ。ペドロ呼んでやる」

「ペドロにも休憩が必要だと思うけど?」

「誰も今って言ってないだろ。俺は根に持つタイプだ」

「それ、堂々ということじゃないって」


 変な会話を続けて、入り口に戻っていく。今回はキーが暴れただけだったが、水晶は回収できたため目的の半分は達成した。水晶の霧にはもういる必要がない。

 それに、今日だけでも色々あったため、ミリアも驚き疲れている感じだ。ゆっくりと記憶した帰り道を辿っていく。


 その帰路の途中。

 一つだけ問題に直面した。

 最初に見つけたのは視力のいいミリアで、霧の中で一人が数人に囲まれている影を見つけた。


「あの人たち、どうしたのかな……?」

「どうしたの? ミリアちゃん」

「えっと、一人の子が数人に囲まれてて、大丈夫かなって……」

「……へえ? それは、ちょっと気になるね」


 すっとレイは目を細める。

 一人が数人に囲まれてる。その状況だけでも良いようには聞こえない。

 何か良くないことが起きている気がする。レイたちは人影のすぐそばまで近づいた。

 

 すると、見えてきたのはのは一対四の睨み合いの場面。

 一人の方は明るい黄緑色の目立つ髪と目をした少女で、四人の方は活発な印象の男女二人ずつ。黄緑の少女と四人組のリーダー格の子が、真正面から視線をぶつけている。

 しばらくの静止の後、最初に口火を切ったのは、リーダー格の子だった。


「ねえ、アンタさあ、ホントにやる気あんの? さっきから突っ込んではやられてって、めちゃくちゃ迷惑被ってるんだけど」

「なっ! そんな言いがかりつけられる覚えないし! あんた達が何にもしないから、あたしが前出るしかなくなったんじゃん!」

「はあ?? アンタがでしゃばらなくても、こっちは優秀な魔法使いが四人いるんだよ。アタシらがなんもしてない? そりゃ、自動で前出てくれる等身大の盾がいたら、前に出る意味もないっつーの。しかも、前出るくせにバカみたいにやられるだけだし、役に立たなさすぎだろ」

「……やられるのは悪かったよ。けど、あたしだってみんながやられないようにって思って……」

「アンタ、マジでバカ?? アンタが下手なだけで、アタシらは対処できる問題だったし。……ああ、でもオトリだけなら最高じゃん。絶対に死なないオトリ兼盾! 逆にそれぐらいしか価値がありませんっつって!」


 ──ギャハハ!


 四人組の下品な笑い声が霧の中で響く。こけ下ろされて嘲笑われた少女は、唇を噛み、きつく手を握って必死に耐えている。

 一方的な責任の押し付けと、少女の価値を蔑ろにした発言。そばで聞いていたレイたちからしても、聞くに耐えないものだった。


「……あいつら頭おかしいんじゃねえの? そもそもそんな実力があるんだったら、自分でやりゃあいいのに、なんで一人をわざわざ責めにくるんだよ」

「……キーさんの言う通りです。あの子だって採集の仲間なのに、あんな仕打ちが言いわけありません」


 キーの意見に賛成し、ミリアは厳しい目で四人組を見る。

 誰も止めるものはいないみたいで、全員が少女のことを見下すように笑っている。

 

 あんなことはあってはいけない。

 

 ミリアがそう強く思うのは、ひとえに少女の境遇を自分に重ねたためだった。

 魔法が使えないミリアにとって、あの少女に起こっていることは、自分にも降りかかっていたかもしれないことなのだ。だから、ミリアは少女のことを放っておくことはできない。看過することのできない問題なのだ。


「レイくん、私、あの子のこと、見過ごせません。助けに行こうと思うんですが……って、レイ、くん?」


 レイに相談しようとしたミリアは、レイの方を振り返って固まった。

 いつものように真摯に聞いてくれると思っての行動だったが、予想外に豹変したレイの姿があった。

 

 いつ見ても笑みを湛えている口はきゅっと結ばれ、無邪気な瞳は鋭さを帯びている。いつになく険しい表情(かお)で、四人組をただただ見据えていた。


「……れ、レイくん……?」


 あまりにも違うレイに、怖くなってミリアが呼びかける。

 レイはそれを見とめると、待ってて、と呟き、少女と四人組の方に向かっていった。


「じゃあ、アンタさ、これからもアタシたちの盾役になってくんない? これで超楽できんじゃん。アタシ天才じゃない?」

「……っ」

「ほら、なんも言えなくなってんじゃん。やっぱアタシのが正しいから……」


「きみたちさ、もうやめなよ」


 突如聞こえた第三者の声に、全員の視線がレイに集まった。リーダー格の子は、第三者の姿を確認すると、鬱陶しそうに言葉を返す。


「……アンタ、誰? 関係ない部外者がこっちの話に首突っ込むなよ」

「確かに、ぼくは部外者かもしれないけど、明らかにおかしい言いがかりをつけてるきみらをみて、何もしないわけにはいかないからね」


 勤めて平静を装うが、その瞳は冷たいまま。非常識な四人組に冷やかな声で告げた。

 

「は? 正義感の()っかいお子様がなんか言ってくるんですけど。しかも、アタシがおかしい? 使えないやつが悪いんじゃん。こいつの自業自得だし」

「けど、きみらはこの子と組んで採集に行ってるんだよね? だったら、ミスをしたとしても、フォローするのがきみらの役目じゃないの? それに、きみらがいるのに全責任をこの子に負わせるのは間違ってる。採集の責任は一人で負うものじゃないし、そもそもその子のレベルに見合った場所じゃない時点でおかしい。見たところ、きみら四人は元から一緒みたいだからね」

「……な、なんなの、こいつ……何アタシに説教してくれちゃってんの??」


 言葉は丁寧で口調も至って穏やか。

 だが、端々から追求するようなトゲを含んだ言い方に、相手の方は怒りと混乱で顔を赤くさせた。リーダー格の子は反論しようと口を開きかけたが、後ろにいるレイの仲間のミリアやキーの存在に気がつき、口をつぐんだ。

 そして、興醒めというように、大声でこちらに見せつけるように不満を垂れる。


「あーあ、なんか冷めたわ。別にアイツいない方がいいし、そんなに言うんだったら連れてけば? どうせ邪魔になるだけだろうけど。あっ、同じレベルだから大丈夫か!」


 そのまま四人とも去っていったが、去り際まで品性のかけらもない笑い声が聞こえてきて、レイたちは揃って顔をしかめた。


「あいつら本当、信じられねえ。人を道具としか思ってねえぞ」

「……そうだね。自分たち以外を見ようともしてないんだろうね」


 どこか遠くを見つめて、レイは独り言のように呟いた。

 ミリアの事情についても個性だと言ってくれたレイは、正義感が人一倍強いのだろう。あの四人組に立ち向かっていった時の表情は、悪を許さないという確固たる意志があるのを感じた。ミリアも助けたいとは思ったが、レイのように面と向かって助けることは考えていなかった。

 レイの行動や志に、ミリアは尊敬の念を抱く。


(私もいつか、誰かに手を差し伸べることができるかな)


 目指すべき指針を前に、ミリアは夢を見つけた。

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