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五十七話 劇場の支配人

 部屋のソファに腰掛けて、出された紅茶をいただく。アリスの淹れる紅茶には及ばないものの、茶葉は香り高い高級品が使われていた。

 劇場の支配人シィクレットは、皆が紅茶を飲んで一息ついたのを見計らって話を切り出す。


「それで、『死神』について聞いても?」

「うん。ただ、その前になんで『死神』の事件を調べてるのか聞いてもいいかな? 危険だからってわけじゃなさそうだし」


 純粋な疑問をレイが口にすると、シィクレットは用意していたような回答をした。


「いえ、この頃よく噂になるのでね。野次馬のようなものですよ」

「うん、嘘だ」


 普通なら気づいても指摘しないだろう。だが、やけに隠す気がなさそうなので、つい突っ込んでしまった。

 

「ハハ、そこまではっきりと返されたのは初めてですよ。まあ、今はそういうことにしておいてください」


 軽快に笑いながら、まっすぐにレイの目を見るシィクレット。誠実そうなその瞳に、ひとまず疑問は置いておくことにした。

 それから、レイは『死神』の起こした事件を一通り説明する。最後まで経緯を知ったシィクレットは、ふむ、と顎に手を当てた。


「なるほど。『死神』は魔力の強い悪人だけを標的にしていると……」

「推測では、悪人を狙うのは悪魔だからであって、魔力が強い人の方はは契約主の魔女が命令したからだと思うよ」

「そうですね。それなら集団死を起こす理由にもなり得る……一つ、質問しても?」


 人差し指を立てて伺う。足りない情報があっただろうか、とレイは頷いた。シィクレットは快諾を得ると、気になった箇所を挙げた。

 

「なぜ『死神』が悪魔だと分かったのでしょう?」

「ああ、それは……」


 レイは追加で死の魔法を使う双子の悪魔のことを話す。そして、その双子が『死神』と似た魔法を使い、同じ色合いと容姿であることも伝えた。


「ふむ……そういうことですか。悪魔の使う魔法は人には使いこなせない。それを破ることは不可能というものですし、悪魔だというのは間違いないのでしょう」

「死の魔法を使う悪魔が何人もいるのは謎だけどね」


 魂の契約までしているので、魔女は死の魔法も狙っていたに違いない。

 だが、メアとシアがいる時点で、『死神』が死の魔法を使うはずがないだろう。

 もしメアとシアが半分悪魔だからだとしても、『死神』が二人いるということが不可解。同じ悪魔が何人もいること自体初めてなので、双子に似ている理由も分からないままであった。

 『死神』について話し終えると、シィクレットはスタッフを呼んで伝言をする。それから少し待つと、色とりどりの衣装の人物が登場した。


「あっ、イルジオニスタさん!」

「やあ、さっきぶりだね」


 洒落た風に手を振って笑うのは、マジックショーを披露した奇術師だった。

 彼女は近くのソファに腰掛けると、頬杖をつきながら支配人の方に目をやる。


「それで、どうして私は呼ばれたのか。説明をよろしく頼むよ」

「ええ。君をここに呼んだのは、『死神』の追跡に協力してもらうためです。依頼料はこれほどでどうでしょう」

「ほうほう……それぐらいなら受けてもいい。けど、ボランティアなんて殊勝な心がけは、いつ持ち始めたんで?」

「そんな大層なものじゃありませんよ。ただ、このまま事件が続けば、いずれ来客が減ってしまいますから」


 また嘘くささを隠しもせず、シィクレットは建前を口にした。

 もしや、支配人というていだけで嘘をついているのだろうか。

 自ら謎を作り続けているので、嘘が下手過ぎるという説すら浮かんでくる。

 

「ふむ、本心は別にあると見える。……まあ、興味はないけど」


 キリッと言って見せてから、気のない顔になるイルジオニスタ。片手では手品を始めており、カナタがわっと歓声を上げた。


「今の通り、五つ星魔法使いのイルジオニスタを同行させます。その上で頼みたいことなのですが、次の事件が表沙汰になる前に未然に防いでもらいたいのです」

「それは、もともとそのつもりだけど……」

「ええ。ですが、今度の襲撃は一筋縄ではいきませんよ」


 含んだように、シィクレットは前置きをする。ついさっき事件が起きたばかりだというのに、次の襲撃について何か知っているようだ。

 シィクレットは魔法で一枚の紙を出し、レイたちに見やすいようにテーブルに置く。そこには、箇条書きで人の名前と場所が記されていた。

 

「こちらは、『死神』が過去に起こした事件をまとめたものです。まだ『死神』という名で呼ばれていない頃ですが、この時も悪人を標的にしていますね。そして、先ほどまでの襲撃と比較すると、傾向がよく似通っています。おそらく『死神』は徐々に派手な手段をとってくるでしょう」


 増えた被害数をなぞる。一から十へ、十から百へ、徐々に右肩上がりになる数字。

 シィクレットの言いたいことが分かった。つまり、手が足らなくなるほどに死は広まるということだ。

 今度は広場全体で事件を起こし、その次は商店街も視野に入れる。そうやって規模を拡大していくのだろう。


「広場全体か……いつこっちに来るかな?」


 まだこちらには来ていない。もし隠れていたら、とっくにキーが近くで暴れているはずだ。


「今は魔法時ですからね。いつとは厳密に言い難いでしょう。まずは広場に結界を張り、様子を見ることにします。その間、貴方方に『死神』の行方を追ってもらおうと思います。もし、襲撃場所が広場でなかった場合は、この子を飛ばしてください」


 シィクレットが呼んだのは、魔法でできた伝書鳩。クルッポー、と可愛らしく鳴いている。


「了解、預からせてもらうよ。……結界は死の魔法が防げるくらいのものなの?」

「そうですね。物理的な攻撃をされると少々弱いのですが、現象的なものなら問題ありませんよ」


 広場の安全が保障されるのなら、幾分か安心して調査できる。

 さらに、一度『死神』を追い返したイルジオニスタが協力してくれるため、被害を未然に防ぐことも難しくはないだろう。


「あまり悠長にしてるといけないし、そろそろ商店街の方に向かうよ」

「そうですね。私も準備に取り掛かるとします」


 「そちらはよろしくお願いします」と締めくくって、シィクレットは姿を消した。

 残ったレイたちは商店街の方へ戻る。広場を中心にメインストリートは二つある。どちらも対策するとなると、手分けして調査するのが最善だ。


「なら、ぼくとミリちゃんは一緒の方がいいから、反対側はカナちゃんと……シリマにお願いしよう」

「シリマ? って、だれ?」

「カイヤの弟の魔導人形だよ。ちょっと待ってて、今呼ぶから」


 夢の魔法から繋がりを辿って、シリマにこちらに来るように言う。


《レイ様……! あ、す、少し待っててください……!》

「……? うん、別にゆっくりでいいよ?」


 何故だか慌てているシリマに、ハテナを浮かべるレイ。そのまま連絡が途絶えたので、待ち時間に夢の魔法を開いておく。

 やがて、こちらに現れたシリマ。挙動不審で目を泳がせており、明らかに顔色が悪かった。


「えっと……どしたの?」

「い、いえ、えっと、その…………」

「……うん、わかった。カイヤだね?」

「あ、あはは……」


 乾いた笑い声で肯定した。今カイヤはキーを追っているはずなので、厳密にはカイヤのお気に入りの方だろう。

 そういえば、カイヤは書類を押し付けるとか口走っていた。

 つまり、シリマは被害にあったお気に入りの子を置いてきてしまったわけだ。それで、こんなに顔色がよろしくないのだろう。まるで、可哀想な立場の中位研究員のようだ。


「なんか、ごめんね……」

「そんな……! レイ様の謝ることじゃないです……! 僕が兄さんを止めれないせいだから……いつも振り回されてばかりだし……兄さんがいたら僕のやれることなんて…………」


 自分で言って落ち込んでしまった。シリマは心優しい少年なのだが、いかんせん、臆病過ぎなところがある。すぐに消極的な思考に陥り、カイヤに振り回されてしまうのだ。


「いつも言ってるけど、カイヤの方がおかしいんだからね。シリマはよく頑張ってるし、むしろ、カイヤを止めてくれるだけでもの貢献してるから。カイヤと同じ土台で考えないようにね」

「うん……ありがとう、レイ様……」


 ようやく落ち着きを取り戻したようだ。表情を和らげ、縮こまるのをやめた。


「それで、今回は何をするんですか……?」


 カイヤも呼んだため、とんでもないことでも起きたのかとシリマは不安そうにする。


「いや、そんな構えなくていいよ。事件の調査をするだけだから」

「事件……?」

「『死神』って呼ばれる人が、集団死の事件を起こしてるんだ。それを阻止したいから、犯人の行方を一緒に追って欲しいんだけど……」

「……し、『死神』って、聞くからに怖そう……」

「ありゃ、名前が悪かったかも」


 またまたシリマの表情が青くなった。『死』なんてつくので怖がらせてしまったようだ。

 またまた宥めてから詳細へ。死の魔法について説明し、二手に分かれることを伝えた。


「シリマが一緒に行動するのは炎使いのカナちゃんだよ。蘇生の魔法があるから、シリマも気兼ねなく行動できるんじゃない?」

「蘇生……?! す、すごいね?」


 シリマを説得することができたので、ミリア達と顔合わせである。


「えっと……はじめまして。僕はシリマ。レイ様の従者で、カイヤ兄さんの弟、です。これからよろしくね……?」


 こちらを伺いながらの控えめな自己紹介。アシンメトリーな髪を揺らす姿は、兄のカイヤと似ても似つかない振る舞いだった。


「あたし、カナタ! 蘇生使えます!」

「ミリアです。よろしくお願いします」


 名前を口にしながら、ミリアはシリマの服を見て思う。もしかして、これはお揃いコーデというものだろうか、と。

 深緑の衣装やミニハット、ネクタイと靴のデザイン。ロングコートではないもののカイヤの服とよく似ている。色は暗めの色だが、何故だか地味に見えない。

 その理由は、レモンイエローの瞳と、枯葉色の髪に差すレモンイエローのメッシュだろう。アクセサリーなどにも同じ色が使われており、良いアクセントとなっている。


「じゃあ、ぼくらは北側に行くから、二人は南側をお願いね」

「はーい!」

「が、頑張ります……!」


 カナタが元気に飛び出し、それをシリマがあたふたと追いかけていった。


「で、私はどうしようか? 君たちについていこうか?」


 カナタとシリマを見送っていたら、奇術師が逆さまに見上げてきた。登場の仕方に驚いたレイは、軽く目を見張った。

 

「イルジオニスタさんは……その前に、イルジオニスタさんの得意な魔法は?」

「ああ、それを言ってなかったね。私は基礎の魔法系を複合する魔法を得意としてるよ。さっきも見ただろう? ああいう風なヤツと、奇術や手品を合わせて仕掛けるのが十八番というものさ」


 どこからともなく四枚のカードを広げ、四種の魔法を発現する。奇術師らしくトリッキーなタイプなので、空からの巡回と遊撃を任せるのがいい。そうすれば、片方で事件が起きた時にピンチになりにくいだろう。

 

「あいわかった。私は自由にしておくよ」

 

 イルジオニスタは風を使って飛ぶと、屋根を伝って巡回を始めた。彼女は箒で飛ぶこともできるので、いち早く異変に気づいてくれるはずだ。


「よし、ぼくらも行こっか。まずは一番人気の服屋が集まるエリアから」


 先ほど反対のメインストリートを追って、レイたちは『死神』の襲撃に備えていった。


 ◇◆◇


 パルティータで皆が『死神』を警戒する、その傍ら。

 閉鎖的な暗闇の中で、『死神』は魔女に事件の報告をしていた。


「強い魔法使いに二回とも防がれたの。次は死者達も使ったほうがいいわ」

「そう。今度は商店街がいいだろう。……成功できるかい?」

「次はカースもいるから大丈夫よ」


 妖しげな魔女は、『死神』の答えに満足する。自身の魔力を分け与え、死の魔法を昇華させた。


「魔女様……?」

「次の失敗は許されない。必ず魂を連れてきなさい」

「うん、わかったわ」


 『死神』はもう一人の『死神』を呼んで、再び商店街を目指す。


「僕の助けが必要なんだ? クリア」

「だって、思ったより強い魔法使いが多いんだもの。それに、次の失敗は許されないって魔女様が言ってた」

「それは大変だねえ? とっても頑張らないと」


 まず最初は街中から。その後、だんだんと死者を一人二人と増やしていく。

 魔女を失望させないために、『死神』はよくよく注意して『悪い子』を間引くのだ。


「あっ! あの子にしよう。『悪い子』みーつけた」


 商店街で盗みをした男の子。お父さんとお母さんが目を離したうちに、お客さんから魔導具を奪って握りしめていた。

 飴細工の大鎌を持って、『悪い子』のところへ。


「ねえ、そこのあなた。とっても美味しいキャンディはいかが?」


 差し出された、大きな大きなペロペロキャンディ。

 魔導具を手に持つ少年は、考えることもせず、甘い誘惑にその手を伸ばした。

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